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赤司れこの神津観測日記  作者: tempp
バレンタインと金回り(身売り系ホスト自称内倉遼平・特殊能力系ホスト須賀井公晴)

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39/53

1.雑な営業

 翌日早朝。

 内倉はユカの家を追い出された。体中が酷く痛むが肉体労働とはそのようなものだと諦めている。

 鞄には生で50万。若いうちしかできないから、今のうちに稼げるだけ稼ぐ。札束で頬を叩かれるのは何物にも代えがたいが、夜の仕事に響くようになったらやめようとは考えていた。


 冬の太陽は夏ほどではないにしても、その光は内倉のほぼ徹夜明けの目にじわり沁みた。心持ち平衡感覚を失いながら、動き始めた通勤の波に従いフラフラと家に向かう様は大抵のすれ違う者に妙な目で見られる結果となるが、内倉は気にしない。

 ユカの家は辻切区北側の高級住宅地にあり、黒やせいぜい茶髪のスーツの波に紛れてピンク頭の内倉が歩けばそれなりに目立つ。内倉はあまりポストに見えないシンプルな姿を心がけてはいるのだけれど、それにしたってこの流れにはカラーリングがそぐわないし、ビジネススーツと比べると浮いてしまうのだ。


 自宅についてしぱしぱする目でユカから提供された写真の女の顔を拡大し、ケイヤに『このこ茉莉花かな』というLIMEを写真付きで飛ばした後は、重だるく眠い体をそのまま布団に倒れ込ませた。

 お手軽感以外の内倉の強みは情報だ。その顔は夜の世界では極めて広い。

 他店のホストやキャスト、スカウトと幅広く良好な関係を築いている。辻切区で営業する内倉と顧客層が被らない神津区界隈のホストとの付き合いは特に良好に保たれている。共通客なら資産状況や金払いがわかる方が効率的に長く金が稼げるのだ。それからヤバそうな客は必要に応じて友人の探偵、時には警察の生活安全課といろんなルートで情報を手に入れる。ヤバい客がその地域に居られなくなって他の区に移ることはままあるからだ。

 内倉はその情報ルートから、茉莉花は最近神津6区の店に入った子で、資金繰りが悪く最近いくつかの店でツケをつくっていて、そのうち飛ぶ、つまり飛ぶ前にカケを回収しなければ取りっぱぐれそうだという噂を入手していた。


 そして茉莉花が入れ上げてるケイヤは内倉の知り合いだった。

 ケイヤは神津で1番上のランクのクラヴァ・カイザーというホストクラブに所属する売上ナンバーワンのホストで、つまりこの神津で一番のホストだ。そして人を人とも思わない内倉が珍しく尊敬するホストの1人だった。

 内倉の本名は誰も知らないが、ケイヤの本名も誰も知らない。ケイヤは内倉に比べても格段に派手に稼いでいるのに、その素性を完全に隠している。その手法は検討もつかない。


 そのケイヤは内倉から見ても奇妙な営業をしていた。

 妖精王かと思うほどの考え難いレベルのイケメンで、キングオブキングを地でいくのにある意味孤立しているのだ。それはおそらく内倉と異なり、人間関係を極端に絞っているからだ。

 孤高過ぎるために還って内倉のような他店のホストの持ち込む情報をそれなりに重宝している。先日もどこかの店で痛客に包丁を持って追い回されたホストが居たが、そんなことになれば悪評が立つのだ。悪名が既に蔓延っていたり目に見える痛客であれば店が警戒して近寄らせたりはしないが、豹変するタイプは警戒が難しい。一方の内倉は痛客扱いが得意だし最悪顔以外刺されてもいいと思ってるから、ケイヤは同じ店内のホストにも回せないような金回りの良いヤバい客を内倉に回す、まさにwin-winの関係にある。

 内倉は今の時点で他にやることは無いなと頭の中で確認し、重だるい体にまかせて寝てしまおうかと思いはしたが、肌ケアだけはしようと洗面台に立ち、鏡で自分の姿をみて思わず呟く。


「ユカちゃんマジハード」


 そういえばユカもケイヤから紹介してもらったヤバい客だったと思い出す。それからユカにまた遊んでねと営業メールを飛ばし、意識も飛ばした。

 泥のような眠りから覚めると、ケイヤからLIMEが入っていた。


「写真の女は茉莉花だ。毎週木曜に高確率で友人と、そして月曜か水曜にたまに来る」

「じゃぁ今日お邪魔します」


 今日は丁度木曜。

 内倉は店に休みの連絡を入れ、身支度を整えてケイヤのヘルプに神津区のカイザーに数度目の体験入店に向かう。ライバル店潜入は本来敬遠されるが、内倉は辻切区の客を紹介したり痛客情報を流すからゆるく好意的に扱われている。


 内倉はカイザーに足を踏み入れ、改めてカラーリングの違いに思いを馳せた。内倉の勤めるアルマニアータはゴールドを多用したゴージャスなタイプのクラブだが、カイザーのは黒を基調に少しの紫と金があしらわれたシックでどこか硬質的なクラブだ。見るからに高級感がある。

 そしてそこに君臨するケイヤは淡い銀髪を後ろにたなびかせた、やはりこの世のものとは思えないレベルのイケメンだった。


「茉莉花が来たら付ければ良いのか?」

「そうそう。ごめんね、面倒なこと頼んじゃって。それまでは適当にこき使ってもらっていいからさ」

「構わない。こちらこそいつも世話になっている」


 24時を超えたあたりで確かに写真の女、茉莉花が女連れでやってきた。

 ヘルプで着くとマリカと名乗った。内倉の分析では年は24くらい。少し小柄でやせ細り、蜂蜜色の長い髪に日本人的な顔。少しだらしなさそう、というより隙が多そうな素人受けが良さそうな感じでどこか安っぽく、この店では少し浮く。

 そしてホストに貢ぐタイプだと見抜く。内倉は客を金としか思っていないから、似たような輩には鼻が利く。ケイヤに貢ぐためにキャバ(キャバクラ)で金持ちのスポンサーを探しているのだろう。茉莉花にとってはユカの息子はただの鴨で、特に好きなわけでもないのだろうと当たりをつける。水商売は所詮商売だ。

 内倉も既に誰につくのが1番金が引っ張れるかしか考えていない。


「うっちー?」

「そうそう、初めまして。本当は内倉遼平(うちくら りょうへい)っていうんだけど、ホラ、『りょう』とか『りょうへい』って多いじゃない? だからどうせならって思って名字の方にしてるの」

「うっそ。じゃあ本名なの?」

「始めた時はあんまり考えてなくってぇ。もっときらきらな方がよかったなぁ、とか」

「今から変えたりしないの?」

「うん、うっちーで覚えてくれたお客様もいるので申し訳ないしー?」


 本名は全然違うけれども嘘はない。

 内倉は茉莉花に水割りを作りながら茉莉花の様子を伺っていた。

 ケイヤは内倉の目的を知って茉莉花にそれとなく塩対応だ。そして茉莉花の連れのナミは1本数十万する高い酒を大量注文して茉莉花を霞ませている。内倉にとってナミは初見だったが、よほどの金持ちか荒稼ぎしてるんだろうと当たりをつける。そしてナミもわかりやすくケイヤ狙いだ。やはり顔のヴィジュアルの威力は凄まじく、それに加えてケイヤは接客も並外れているものだから、内倉はいつも通り舌を巻いていた。


「マリカちゃんももっと盛り上がって? LIME 交換してもらってもいい?」

「いいよ」


 ナミの散財に茉莉花は次第に諦めの気配をにじませ、表情が不満を帯びてきた。太客を連れていけばホストに喜ばれるが、太客が金を使えば使うほど連れてきた本人が霞むというジレンマはどうしても生じうる。


「ナミとは交換しなくてもいいの?」

「ナミちゃんはケイヤ狙いでしょう? 俺が入っていけそうにない」

「へぇ? そういうのもダメ元で営業するもんだよ。でもケイヤ狙いは私もなんだけど」

「マリカちゃん酷い。でも俺は新米なので?」

「そういえば始めて見る顔ね」


 ホストクラブの正義は高い酒で、結果的に注目されるのは札束を降らせるナミであることも茉莉花は十分に知っている。夜の世界の明暗はとても明確だ。けれども内倉はあえて何も知らない信心を装い、ナミを無視して茉莉花を持ち上げて特別感を演出する。内倉にとってはコスパがいい。


「ねぇ、バレンタインにチョコを送るのってどう思う?」

「えっ俺に?」

「まさか。どうしても落としたい人がいてさ」


 キャバ嬢が客にチョコを送るのはよくある営業だが、内倉は茉莉花の営業の稚拙さに若干混乱をきたしていた。けれどもその相手が目的のユカの息子らしい。だから耳を傾ける。

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