第37話
よろしくお願いします。
俺がリオンを寝かせてくると、ミレーユとキアラが笑って話をしていた。
俺が戻ってきたことに気付くと、ミレーユが嬉しそうに俺に言った。
「キッドさん。今日から二人も家族が増えました。」
二人?一人はミラだ。でも、もう一人は?俺が悩んでいるとキアラが笑いながら、
「あたしも今日からここで一緒に住むことにしたから。」
そう、宣言した。
「キアラ、帰らないのか?」
「!あんたはあたしが嫌いか!」
「いや、俺とミラを連れて帰るために来たのかと、思っていたが、違うのか?」
「そう、だね。今日ここに来たのも、お別れを言いに来たつもりだった。」
「そうか。」
「あたしさ、分かったんだ。一族にあたしだけ居場所があって、二人に居場所がない、って、だから、あんたとミラを連れていくと、きっと、また、我慢、させる、て思った。」
キアラが涙交じりの声で言った。
「さっき、みんなでご飯食べてた時、ミラを見てたら、美味しそうに食べてた。確かに美味しかったよ。でも、幸せそうに食べてた。ミラが小さい子に戸惑いながら、笑って食べてた。あんな風に柔らかく笑って食べてたの、初めて見たよ。来て、まだ、一日だよ。それでここはミラに笑顔をくれた。あたしじゃできなかった笑顔をくれた。悔しいな、て思った。でも、キッドがここに来て、変わった。ミラも変わった。悪いふうにじゃない、良いふうに、だ。だから、一緒に帰ることはあきらめた。いや、あたしの自己満足で二人を苦しめるのはやめたんだ。」
「キアラ。」
「ここに来たのは、二人をここにおいて欲しいってお願いに来たんだ。でも、ミレーユは・・・ここにあたしもおいてくれたんだ。」
俺はミレーユを見ると、笑って答えた。
「家族が離れて暮らすのはつらいですよ。」
俺とキアラは彼女の優しさに救われたんだな。
「そうか、ミレーユ、キアラ共々姉弟揃って世話になる。」
「ミレーユ、弟共々お世話になります。」
俺とキアラはミレーユに頭を下げ、お願いした。
「はい。これからよろしくお願いします。」
ミレーユは俺達姉弟を受け入れてくれた。
・・・
キアラがミラと同じ部屋になるようだ。だけど、まだ部屋の準備が出来ていないので、今日は俺の部屋にキアラが来た。ミラはカイルとリアに引っ張られていった。戸惑ったような顔をしながら、頼られて嬉しそうな顔をしていた。
「ミラ、いい顔している。ほんとに良かった。」
「キアラ、ミラはもう大丈夫だ。もう心配してやるな。」
「馬鹿だね、キッドは。いつまで経っても、弟妹は気になっちまうんだよ、姉って生き物は、さ。」
キアラは嬉しそうに笑った。
そろそろ寝ようと思い、床に就いた。キアラも眠いのか、俺に続いて部屋に続いた。
「キアラ、俺はもう寝る。」
「そうかい。あたしも寝るとしようかね。」
・・・
「キッド、もう寝た。」
「まだ、起きてる。」
「久しぶりだね。同じ部屋で寝るのは。」
「そうだな。」
「あんたが10歳くらいの頃までだったよね。」
「そうだな。一族の稼業に出始めた頃からだな。」
「・・・その頃のあんたは荒れだしてたよね。」
「そうだな。一族の稼業に疑問をもっていた。」
「それから5年、あんたはどうしていた。」
「ずっと、悩んでいた。」
「なにに。」
「このままでいいのか、そう思った。」
「そうか。」
「だから出ていった。」
「一人で。」
「一人で。」
「あたし達に何も言わずに。」
「・・・すまん。」
「もう・・・いいよ。」
「ありがとう。姉さん。」
「弟を許すのは姉の役目さ。」
・・・
久しぶりに昔の夢を見た。まだ、一族の稼業に疑問を持つ前のキアラ、姉さんよりも弱かったころの俺の夢、ミラと姉さんがいるだけの世界。そんな昔の夢を見た。でも、途中から夢が変わっていった。ミレーユがリオンがキールがルーナがカイルがリアがいる孤児院の夢に変わり、ミラとキアラが加わった、幸せな夢だった。
・・・
俺は久しぶりに寝坊をした。でも体は万全だ。全く、疲れがない。
キアラはいない。もう起きていたのか。
俺は朝食を貰おうと、部屋を出た。
「ほら、カイル、ちゃんと噛みな。あ、こら、リア、手で食べない。」
キアラがカイルとリアに振り回されている。ミラは落ち着いて食べている。キアラに世話を任せたから、ゆっくり食べられるのだろう。
俺が入ってきたことに気づいて、ミレーユが俺の朝食を持ってきた。
「おはようございます。キッドさん。はい、キッドさんの分ですよ。」
「ああ。ありがとう。ミレーユ。」
俺はキアラが振り回されているのを見ながら、朝食を頂くことにした。
・・・
「ああ、やっと食べれる。」
「お疲れ様です。キアラさん。」
キアラが朝食を食べている。今度はミラが振り回されている。でも楽しそうだ。
「俺はギルドに行く。ミラを連れてな。また、カイルとリアのことを頼む。」
俺はキアラにそう告げると、キアラを食べていたパンを口から落とした。
「あんた、姉を労わろうという気はないの!」
「ミラを冒険者にする。そのためにも、ミラは行かねばならない。何を犠牲にしても、だ」
「あんた、今、犠牲って言った、犠牲って!」
俺とキアラの掛け合いを楽しそうに見ていた。
「さぁ、行こうか。ミラ。」
「はい。キッド様。」
ミラはカイルとリアをキアラに預け、用意をした。
・・・
俺はリオンとキール、そしてミラを連れてギルドに訪れた。
「エリー、今いいか。」
「おはようございます。キッドさん。あれ、その女の子は初めてですね。」
「エリー、この子はミラだ。冒険者登録をお願いしたい。」
「え!この子・・・ですか?」
「そうだ。安心しろ。ミラは俺よりも強い。」
「ええええええええ!」
「だから、冒険者登録を頼む。」
「は、はい。分かりました。」
エリーの冒険者登録が終わり、早速クエストを受けることにした。
「いつも通り、討伐クエストを頼む。」
「はい、分かりました。こちらが対象になります。」
ウルフ、ボア、いつもの相手だな。まあいい。
「いくぞ。」
「「「はい。」」」
俺が促すと、三人が続いてきた。
・・・
いつもの草原に着いた。
まずはミラの力を二人に見せることが目的だった。これから一緒に戦うので、どれほど戦えるのか、知っておく必要がある。
「まずはミラの力を見てもらう。ミラ、あのウルフを倒してこい。」
「はい。キッド様。」
「よく見ていろ。リオン、キール。・・・見えればな。」
「え?」
リオンはクビを傾げて俺を見てきた。
ミラが腰から、ナイフを取り出ながら、ゆっくりとウルフに向かっていく。
ウルフは気付いていない。ミラがどんどん距離を詰めていく。ゆっくりと、ゆっくりと歩いて近づいていく。ミラは特に警戒する様子もなく、淡々と歩いていく。
「あれ?」
「なんで?」
「気づいたか。」
どうやら二人は気づいたようだ。ウルフがミラに気づかないことに。
ウルフは警戒心が強く、鼻と耳がいい。近づくと、匂いで、音で気づく。でも、ウルフが気づかない。
「ミラの動きに音はしない。」
「音が・・・しない?」
「足を見てみろ。」
「足?」
「分かるか?」
「なんだか、俺達と違う歩き方ですね。」
「あの歩き方の注目すべき点は二つ。一つ目は、ぬかるみから足を抜くようにそっと持ち上げる抜き足。二つ目は、爪先で床を差すようにそっと下ろす差し足、この二つで足音を消している。」
「いくら音がしなくても、ウルフは匂いで気づくんじゃないですか?」
「見ていろ。」
キールとリオンがミラを見ているが、ウルフが気づいた様子がない。ミラはそのまま、背後から、ナイフで一振りする。すると、ウルフは裂けた。
「え!なんで、ナイフじゃあ、あんな斬り方、刃が届かないはず・・・」
「見てこい。」
俺が促すと、キールとリオンはウルフの死骸に近づいた。
「やっぱり!切り口は刃物だけど、ミラさんのは小型のナイフのはず・・・こんな斬り口になるはずが・・・」
「キール、この斬り口、まるで、キッドさんの『カタナ』みたいに鋭利だ。」
二人は傷口から、想像しているが、きっと答えは出ないだろう。仕方がない。
「ミラ、教えてやれ。」
「はい。キッド様。」
ミラは二人にウルフを捌いた、ナイフを見せた。
「リオン、キール、これが最初。」
「最初?」
キールが聞き返すと、ミラが頷き、
「そして、これが最後。」
ミラのナイフから風が出ている。風がナイフを一回り大きくしたような形で纏われている。
「すごい!なんですか、これ!」
リオンが驚きながら、質問している。興味津々のようだ。
「これは私の魔法です。私は風属性を使うことができます。戦いで使うときは、体に纏って、気配の察知や匂いが風下に行くように気流を操ることができます。そして、武器に風を纏って、刃を長くしたり、鋭くしたりします。だから、私はナイフに風を纏って、長く、鋭くしました。」
「す、すごい!お、俺もできますか!」
「練習すれば、出来る、かも?」
「おおおおおお、よっしゃー!俺もやってみるぞ!ミラさん!どうすれば出来ますか?」
「風を武器に纏わせるだけです。」
「・・・風はどうやって使えば・・・」
「魔法を使えばいいです。」
「・・・・・・魔法は・・・どうやって・・・」
「魔力を使えばできます。」
「・・・・・・・・・風魔法・・・できません・・・・・」
「じゃ、無理です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・」
リオンが落ち込んでいた。それにしてもミラの教え下手の相変わらずだ。
「キッドさんが言っていた、ミラさんの方が強い、って言ってた理由は風魔法・・・ですか」
「ああ、戦えば、気づく前に風で斬られて死ぬと思っていたからだ。」
ああ、風の刃と無音無臭からの奇襲、これは俺ではどうにもならない。もうそれを気にする必要はないけどな。
ありがとうございました。




