真実の訴え
ギルド長のなかでも、ランドという人間に関しては優秀のようだ。
まさかすぐに気づかれるとは。
「もし鬼だとすると、一緒にいる私たちに影響がない。ということが不思議だがね。魔力に関するあれは、噂ではなく確定情報だったはずだが」
「っ!! わたしはただ……」
「ランドさん。そのことについても説明するが、まずはその物騒なものを仕舞ってくれ。話はそれからだ」
誤魔化すのはやめだ。
ランドの行動は、ギルト長としての判断としては間違っていないだろう。
しかし、一人の人間に対する対応としては過剰すぎる警戒だ。
こちらを人間と思っていないようなら、まずは対立するよりも納得してもらえるか試す。
メフィはともかく、俺とシキは人間としてこの街にいるのだから。
それに、今にも泣き出しそうなシキを見ていられない。
「シキ、ここは俺から説明するから任せてくれないか?」
「でも……」
「ここはマスターに任せて、シキはそこのギルド長の様子でも見てるといいさ。それとも、ボクと遊ぶかい?」
「……いえ、遠慮しておきます。ヨーヘイさん、お願いします」
「大丈夫だ、安心しろ」
さっきのやり取りから見ても、ランドという人物は悪いヤツ……ではないはずだ。
俺を新たなEランクとした点に不満はあるが、ギルド長にも何か考えがあってのことだろう。というか、そうだと思いたい。
俺自身のことはあまり触れずに、暗殺獣を従えるトミーのことや、その戦闘中に身代わりとされたシキについて話す。
そして、鬼だと聞いたこと。俺には何も影響がないこと。鬼の大量発生した村の生き残りがシキであることを伝える。
もしかしたら事件が仕組まれたモノだったということや、人が鬼にされた可能性があると伝えると、さすがのギルド長も驚きを隠せなかったらしい。
「……ということは、あの事件の鬼は人間だったと?」
「はい……目の前で見ましたので、間違いありません」
「なんということだ……なら、人為的に鬼へと変異できるということか? いや、ただの人間が鬼になるということは、力に溺れるというリスクもあるが、それ以前にもし、恨みを持つ者などがいれば、災害級の脅威が続々と襲ってくることに……」
思案し始めたランドは放置して、改めて事件のことを考えてみる。
事件があったのは数十年前……シキいわく数年前。
しかし、ランドの反応からもそれ以降は同じ事件は起こっていないとわかる。
なら、首謀者はこの数年というか、準備期間に何を行っているのだろう。
実験結果は出たはずだ。それを元に何か企んでいる気がしてならない。
……そういや、魔王とかいうやつも準備するとか言っていたな。
準備されても俺は会にいく予定はないが。
まあ、リョータが歓迎されにいくだろうから、無駄にはならないだろう。
「……で、本題だが、ギルド長というからにはその事件に関わった人物のことを知っているのか?」
「ハッハッハ、唯でさえ少ないSランク冒険者のことは、私でなくともただの住民でも知っているさ」
言い方がいちいちむかつく奴だな。
しかし、知っているなら話が早そうだ。
「そいつはいま何処にいる?」
「フッ、個人情報を私が教えるとでも?」
「てめぇ!」
「あの! その人に詳しいお話を聞いてみたいんです! お願いします!」
「いくらギルド長だからといって、個人の動きまでは把握していないよ。すまないねお嬢ちゃん」
「……マスター、ボクの膝に来るかい?」
どうしようか。
いくら金を請求されようが、今だけはメフィに甘えたい気分だ。
身の上を聞いた後からか、ランドの当たりが俺にだけ強い気がする。
シキと敵対されるよりはいいが、何か複雑な気分だ。
しかし、聞くことはまだ他にもある。
「じゃあ、当時の事件の資料とかは残っているのか?」
「ここの資料室に保管してあるが、部外者に見せるわけにはいかないね」
「……どうしてもダメ、でしょうか?」
でた! シキさんの上目づかいおねだりだ。
思わず守ってあげたくなるような子にこんなことをされた日には、さすがのギルド長もイチコロ……あれ、動じてない?
「関係者となると、特別に許可することもできる。しかし、こちらも交換条件がある」
「交換条件? 悪いがうちのシキはやらんぞ」
「マスター、空気」
「……別にヨーヘイさんのモノでもないですが、少し嬉しいです」
俺はあれにやられたが、ギルド長には常時能力でチャーム耐性でも付いているのだろうか。
悪魔に呆れたような反応をされたが、シキが喜んでいるみたいなのでオッケーだろ。少しは元気が出たみたいだな。
「なあに、別に難しいことでもない。ただ、この建物にいる間にやってもらいたいことがあるだけだよ」
「それが怪しいんだよ。内容によっては許可しないからな」
例え求めていた情報を目の前にチラつかされていても、その条件とやらがこちらに害のあるものだったら却下だ。
そんなことなら、こいつに頼らなくても自分で情報を見つけてやる。
「まず、この建物から一人で出るのを禁止する。出るときと来る時は……そうだね、そこのEランクに送り迎えをしてもらうといい」
「その呼び名が気に入らないが、こちらとしてもそのつもりだ」
多分、魔力を抑えていると言っても危険だからということだろう。
また俺が傍に入ればということは、ストッパーとしての役割も期待されているのかもしれない。
「ヨーヘイさんに送り迎え……でも、すぐに終わりそうですよね?」
「そういやそうだな。資料だけなら、いますぐ渡してくれたらすぐ読み終わると思うぞ?」
「ちなみに、資料は膨大に存在する。ここ最近の事件なら纏めてあるが、何せ何年も前にどこかで起きた事件ともなれば、何日かかるだろうね」
「資料整理くらいやっておけよ」
まるで用意していたような返答だが、ギルドの管理がなっていないだけだ。
別に誇ることでもないだろうに。
「それと、君にはここにいる間、これに魔力を補充してほしい」
そういってランドが取り出したのは、手のひらに握れるような大きさの小さな石だった。
水晶のように透明っぽいことを除けば、そこら辺に転がっている石ころと大差ない形をしている。
「これは……魔石、ですか?」
「知っているのかシキ!」
「え、そんなことも知らないのですか?」
「グッ……」
「マスターは本当に無知なんだね。でもそこがマスターの魅力でもあるか」
「ハッハッハ、どうやら君は本当にEランクで間違いないらしいな」
三者三様に責められるが、この世界の住民じゃないから仕方ないだろ!
「別にいいだろ! じゃあ、お前らは炊飯器とか知っているのか、おおん!」
「いえ、でも魔石も知らない人がいるとは……」
「まあまあ、マスターも落ち着きなよ。ほら、シキも煽らない」
あれだ、シキは天然で人を貶す天才かもしれないな。
いや、言葉にトゲが見えるのは鬼になった影響なのかもしれない。
これはますます事件の首謀者とやらに文句を言いたくなってきたぞ。
「君には、これに魔力を込めてもらいたい。見ての通りすっからかんでね。効率も悪いので、やってくれる人がいないのだよ」
魔石というのは、魔力を込めて保管できる道具らしい。
なんでも、魔道具には大抵使われているそうだが、大体は小粒サイズでここまで大きいのは戦闘用らしい。
悪魔の囁きからの情報だが、この状況で嘘をつくほどメフィも意地悪はしないだろう。もし嘘なら泣くぞ。
「これさえ大量にあれば魔法を使い放題だろうが、魔力を込めて保管できる効率だっけ? それってそんなに悪いのか」
「君には関係ない話だろうが、常人なら三人で一日魔力を込め続け、ようやく満タンになるくらいさ。もっとも、保管出来る代わりに込めた魔力総量の十分の一程度にしかならないが」
「でも、色々と使い道があるので、重宝するんですよね。ところで、これ一つのみで良いのですか?」
「いや、このギルドにある在庫分を頼みたい」
そういってランドが指をパチッ! と鳴らすと、扉の外からカートを押した女性が入ってきた。
え、まさかずっと待機していたのか?
キザな演出のために、周りも苦労しているんだな。
「……どうかしたのかね?」
「いや、なんでもない」
「マスター、顔に出ているよ」
悪魔はちょっと黙ろうか。
ストックが10話を切ると焦りますね。
別作品を執筆中のため、正月更新は2回ほどにします。




