慟哭
流れの商人だと言う男は名を名乗らなかった。
全身包帯のシスター姿の私を見て得る物がないと判断したのだろう。
でも好奇心は旺盛なようで下手に聞いてくる。
【その包帯の下はどうなっているんだ】と。
いつものことだ、初見の人たちは必ず聞いてくることだし慣れた、そう慣れてしまったのだ。だから淡々と話すしかない話せば好奇心も満たされ哀れみを抱いて一言『そうだったのか』と言って去ってしまうに違いない。いつものことだ。
だが自称商人は違った
普段ならこのまま別れの挨拶をして終わるし何も言わず去る人たちだっていた。だが男はそこに立ち止まっているようだった。
動けば必ず音が出る。目が見えないから余計に物音には敏感だし良くないモノの気配も感じやすくなった。
だから父は田舎の教会に私を幽閉したんだ。城だと給仕たちが私のことをヒソヒソとあることないこと言って愉しんでいてとてもじゃないが耐えられなかった。
(どうして母様は私も連れて行ってくれなかったのか?助からないと分かっていたならせめていっしょに逝きたかった)
私は決して祈ったりしない。
私は決して神を信じていない。
私は決してヒトを信用しない。
思考が坩堝に嵌ってしまう、止められない
『娘よ、前の姿に戻りたいか?』
周囲の空気が一気に下がり、全身に寒気が走る。
思考は一気に醒めたが別のことに支配された。
(戻りたいか?戻りたいかだって?この肌が良いと思うの?目が見えないで良いと思ってるの?伴侶も持てず、こんな世の中で一生涯惨めに暮らすのが良いと思ってるの?!)
『娘よ、前の姿に戻れるならば対価は如何とする?』
(そんなの決まってる)
『娘よ、元の姿に戻りたくば我が手を掴み対価を言え。さすれば』
「私の全存在をアナタに捧げましょう!足のつま先から頭の天辺まで!心も!体も!魂でさえ惜しくない!!!」
高らかに叫んだ。
慟哭と言っても差し障りないほどの叫び。
直後意識が暗転した。
暗転する間際
『承った』
そう聞こえた気がした。




