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揺れる金天秤:帝国領 第四幕 「教会」の思惑、「聖女候補」の感謝

其々の正義、それぞれの思惑が状況を変化させていきます。


全ては、「良かれと」と、云う思いから。 

「教会」の最高権威である教皇 

 名を 『ルーブラン=エイダズ=アルトマー』 と言う。


 四枢機卿を前に、システナ大聖堂の奥の間で会合を持っていた。目下の課題は、”北の大陸オブリビオン”失陥についてだった。


「魔王を討ったのに何故、奴らは地に帰らんのだ?魔王を討ったと云うのは虚偽か?」

「帝国軍はあの地を叩き出されたというが、なぜだ? 魔王はまだ生きていると云うのか?」

「せっかく、勇者、聖女を「神」力で召喚したのにな。 もう、あのような大規模な召喚を行う事はそうそう出来ぬ」

「そうだな、現状だと無理だ。「神」に頼り、魂の召喚をお願いするにしても、時が必要だ」

「・・・依代が必要だ」

「・・・セルシオの様にか?」

「そうだ。 しかし、勇者はもういい。 聖女が必要だ」

「聖女候補は、どうなのだ?」

「”あれ”は使い物にならん」


 枢機卿たちの言葉に、ルーブランは耳を傾けていた。 確かに此処にいる上級大司教の枢機卿四人と、上級司教で枢機卿の八人、大司教十六人がすべて揃い、教皇含めて二十九名の上級聖職者が祈りを一つにする、大規模な召喚術を行う事は、なかなか出来ない。 異世界からの召喚はそれ程の「マジカ」を要求する。 大司教十六名の内、八名が名簿から削除されてしまった。 膨大ともいえるマジカ保留量を使い果たし、意識が戻らない為だった。 


 ただ、魔物達がこのまま大人しくしているとは思っていない。 「神」が全てを治めなければ、この世に平穏は訪れないと、教義にある。 次の大規模な召喚が出来るまでの”繋ぎ”が、早急に必要だった。 しかし、召喚術を使用するには、此処にいる者達だけでは「マジカ」不足は目に見えている。 各人のマジカ蓄積に、あと二年、いや、一年半は必要だった。


「・・・皆、よく頑張って呉れて余は嬉しく思います。 次の召喚は卿が言った通り、依代を使うやり方となるでしょう。 依代に心当たりになる者がいます。 大丈夫です。 其処は余が準備します」


 口を開いたルーブランに、四枢機卿は頭を下げ、謝意を示した。 教皇が会議の終了を告げる仕草をした。 枢機卿たちが席を立ち、背後の扉から退出した。一人、その場に残ったルーブラン。 彼女の心に浮かぶ「次の”依代”」は、一人の娘。 「神」に心酔する貴族の娘を使い、貴族社会から切り離したあの娘。 何としても我が手の中に入れ、「神」の御業を持って、聖女としなくてはならない。


 ”マニューエ=ドゥ=ルーチェ、貴女は聖女になるのです”


 *************


 全く、この子は何者なんでしょうか? そう、自問する。 エルフィンの居室のある建物は、昔から聖女候補達が住んでいた、それなりに大きな建物だった。 広めの会堂のテーブルについた二人。 マニューエがいそいそと、肩から下げていた運搬袋の中からお茶の道具を出した。ポットに水差しから水を入れ、温め始める。 


「貴方はいつもそうやってるの?」

「えっ? あっはい。 そうですよ。 茶葉はラベンダー茶です。気分が落ち着きますよ」


 手慣れた様子で、急須にに茶葉を入れ、お湯を注ぐ。 辺りに良い香りが漂い始めた。 カップを二つ取り出し、其処にも湯を注ぐ。 時間を見計らい、カップから湯を捨てる。 温まっているカップに急須から琥珀色の液体を注ぎ入れる。 ゴールデンドロップまでしっかりと。


「はい、どうぞ。 御口に逢えばよいのですが」


 そう言って、マニューエはカップを差し出す。 和らいだ香りがエルフィンの鼻孔をくすぐる。 カップを手に取り、一口啜る。体に何か染み渡る様な気がした。


「美味しい・・・」

「それは、良かった」


 マニューエの微笑んだ顔に安心感を覚えた。マニューエはそれまでのエルフィンに其れまでの薬草園の世話について聞いた。 エルフィンは、いつもしている作業を出来るだけ細かに話し始めた。すべての作業の前に「神」への祈りを行い、聖句を口にしながら、畑を耕し薬草を植える。 潅水にも同様の手順。 水は聖堂の中の貯水槽から、「神」に祝福された水が送られてくる。


 此れだけの祈りをしても、十分に育たない薬草。 自分に力が無いと、エルフィンはずっと思っていた。


「エルフィン様・・・エルフィン様はどうして精霊に祈りを捧げないのですか?」

「精霊様? 「神」様の御使いでしょ。 「神」様に祈ると云う事は精霊様に祈るのと同じと、習いませんでしたか?」

「・・・もしかして、全ての精霊を司るのが「神」様とか・・・」

「教義ではそうなっています。 私の生活の大部分は「神」様への祈りに費やされています」

「・・・そうですか。 薬草園の惨状が理解できました」

「は?」

「直接的に恩寵を戴かなければ、再生は無理です。 貴女が今のままでは、私がいくらお手伝いしても、薬草園は再生しませんよ?」


 衝撃がエルフィンを襲った。 この娘は教義を排せと言っているのと同じだった。 ”報告すべきか・・・”エルフィンの脳裏に蔑んだ神官たちの目が甦る。出来損ない聖女候補者へ向けられるあの目が、彼女の中に何かに対抗する反抗心の様な物を目覚めさせた。


「どうすれば、いいのかしら?」

「最初にして、一番大切な事を言いますので、良くお聞きください」

「何かしら?」

「大地の精霊と、水の精霊に助力をお願いします」

「・・・精霊魔法は私は使えないのですが・・・」


 判っていないと、云う顔をでマニューエはエルフィンを見た。マニューエの耳元で鈴の音が聞こえる。 彼女を導くことは、光の精霊神様の御意思に叶うと云う事か。 じっとエルフィンの瞳を覗き込むマニューエ。彼女の瞳に何かしらの意思の揺らめきが見える。 マニューエは光の精霊神様の御意思を実現するための行動に移った。


「一度、全てを破棄します。 畑を再生しましょう。 ご一緒に」

「???」

「貴女は、貴女の内包する力を御存じない。 貴女は聖女候補なのです。 自信を持ってください」

「???」


 きょとんとするエルフィンを誘って、薬草園に戻る。 荒れ果てた惨状に、目を覆いたくなる。運搬袋の中から、大鎌サイズと取り出すマニューエ。 何をするのかと目を見開くエルフィン。 


 ザシュ!


 大きく振られる大鎌サイズ。 一振りごとに、其処に植わっていた薬草が根こそぎ取り払われ、園の一角に吹き飛ぶ。 あっと言う間に広い園内が更地になった。


「な、なんてことを・・・」


 呟くようにエルフィンが言う。 マニューエはそんな彼女を、お構いなしにうず高く積まれた、薬草の山の前に行く。 口の中で呪印を唱える。 薬草の山がみるみる小さくなる。 マニューエは運搬袋の中からガラスの容器を取り出し、目の前に掲げた。 容器の中に薄緑色をした液体が溜まっていく。


 やがて刈り取られた薬草が全て無くなった。 容器には半分ほどの液体があった。


「エルフィン様・・・薬草のポーションです。 広い畑で茂った薬草全部から絞り出しました。 濃度は高濃度ですが、これだけです。 色々な効能は混じっていますが、これだけなんです。 これは、とてもよくありません」


「・・・」


 彼女が使ったのは、ポーションを錬金鍋無しで作る「呪印」 そんなものを見たことがないエルフィンはガラスの容器に入っている薄緑色の液体を見て驚きに満ちていた。言葉が出なかった。容器をエルフィンに渡し、マニューエは畑に向かう。 呪印を紡ぎ出す。 「清浄」の呪印 畑にある黒々とした得体のしれないマジカの塊が、光に溶ける。 更にもう一つ。 土の大精霊に助力を乞う呪印だった。 大きな円形の魔方陣がマニューエの目の前に現れる。 指先に緑色の輝点が灯る。 撫でる様に方陣を触る。一部が書き換えられた。 大きく手を振りかぶると、そのまま手を下ろす。 魔方陣が更地になった薬草園の地面に落ちた。 ぼんやりと光りながら、地面に溶け込む。


「貴方の名前、エルフィン=サザーラントの名を刻み込みました。 貴女は土の精霊の加護持ちです。この呪印に貴女の力は乗ります。 手を差し出して、呪印に接触して下さい」


 マニューエの一連の動きに何も言えなかったエルフィン。 考えるまでも無く体が動いた。 手に持つ容器を置き、大地に手をつく。 両手から精霊の祝福を感じた。 心が震える。 マジカが魔方陣に注ぎ込まれ土の大精霊の祝福が完成していくのが判った。 それまで希薄だった地味が急速に高まっている事が判る。豊かな地となる事を約束された。


「こ、これは?」

「貴女の本来の力です。 土の精霊神様の加護を受けし貴女なら、どんなやせ細った土地ですら豊かな土地に出来ます。 加護と祝福とはそう云うものです」


 言葉が出ない代わりに、エルフィンの両目から大粒の涙が零れ落ちた。 自分が成した出来事に、信じられないという思いが強かった。しかし、事実は目の前にある。 この学園から送られてきた娘が何者かは知らない。しかし、今の彼女には途轍もなく大きな存在になった。 傍らに置かれた容器の中にある少量のポーション。寂し気に其れを見る。 エルフィンはどこかで道を間違えてしまった事を自覚した。


 地面から手を放し、マニューエの両手を握る。


「何も分からないの・・・教えてくれるかしら?」

「その為にお手伝いに来ました。 一歩一歩共に歩みましょうね。エルフィン様」


 マニューエの耳に鈴の音がより大きく聞こえた。 精霊神様もお喜びになっている。金天秤の均衡に、少しは役立つと思っていた。


多面的なお話を書こうとしたら、風呂敷がどんどん大きくなりました。 どこまで、大きくなるのでしょう、ちょっと楽しみで、たたむのに苦労しそうです。

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