表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/96

揺れる金天秤:帝国領 第四幕 聖女の館

加速装置!! ガリッ あっ、舌噛んじゃった・・・

 マニューエは帝国学園の教授たちが示したように、学園の授業には出ず、聖堂の薬草園に通った。 日、一日と様変わりする聖堂の薬草園。 顕著だったのは、秋から冬にかけて生育するはずのない植物たちが生え揃ってきた事だった。 土の大精霊の祝福を受けた土地にはそれだけの育成能力があった。さらに、マニューエはエルフィンの力を引き出すために、水の大精霊に助力を乞い、聖堂から流れ来る水に水の精霊の祝福を付加した。 


 主体はもちろんエルフィンの加護ではあるが、その加護から受けられる祝福を最も効率的に引き出すために、聖堂からの引かれる水を一度「清浄」の呪印で清める。 聖堂の水にはあの黒々としたマジカの塊が内包されていたからだった。 偉大な祝福を受けた土地と水はそこに育まれる植物を活性化させ、薬草ならば効能を、野菜や果物ならば栄養のを大きく高められる。 また、少々時季外れともいえる植物まで育ってしまう事になった。


 マニューエの手伝いが功を奏し、聖堂薬草園は再生の道を歩き出した。それまで、エルフィンを蔑んだ瞳で見ていた神官達は、急に甦った薬草園に驚きの目を向けたが、エルフィンに対する態度を改めようとはしなかった。 神官達は、冷たい目をしながら、彼女に新たな課題を渡しただけだった。 


 *************


 神官がエルフィンに課題を冷たい目で渡し、そそくさと「薬草園」を後にした。神官達の後姿を悲しそうに見つめていたエルフィンの横に、マニューエが歩み寄った。 マニューエは彼女の悲しそうな顔を見ると、その理由を聞いた。 エルフィンは口籠りながら、マニューエに自分の実情を伝えた。


「マニューエさん・・・「教会」の方々からポーションを、作れってお命じになったの・・・」

「あら? エルフィンさん、ポーションを作った事、無いのですか? 確か、貴女は学院の卒業生だとお伺いしていましたが?」

「・・・あるけれど、・・・得意じゃないの。  ・・・ご存知の通り、私は、此処を抜け出してセルシオ第五王子と一緒に旅をして、魔王の館まで行ったわ。その間、ポーションは”買うもの”で”作る物”では無かったの。だから、本当は知らなくてはならない、高品質のハイポーション作り方を知らないの。 もちろん初級のポーションなら学園で習ったのだけど・・・」

「大丈夫ですよ。なにも難しい事はありません。 数を作って、良い所を伸ばし、悪い所を潰しさえすれば自然と高度なポーションは出来ますよ。 問題ありません」

「・・・そうかしら?」

「もうすぐ冬です。 薬草園の世話も一段落付きますね。 冬の間はポーション作りに専念しましょうよ」

「・・・有難う」


 年下のマニューエに頼る事になりそうだった。 エルフィンが使える魔法は「治癒の魔法」ポーション作りには別の才能が必要だった。 「教会」から命じられたのは、中級から上級のポーションの作成。それも「マジカ回復薬」。 手順も材料も何もかも、忘却の彼方に消えている。マニューエに教えを乞う事に、もはや、戸惑いは無かった。


 *************


 帝都の冬の足音は、海からの風ではじまる。 強い南東風が吹き始めると、季節は秋から冬へと一足飛びに移り変わる。 赤く染まった木々のから、葉が風に吹かれ、街路を茜色に染上げていく。 街の人々の装いも、徐々に冬の装いに代わっていく。 学園の冬も同じように冬の装いをまとう。社交シーズンも終わり、各貴族の活動も落ち着いてる。


 学園舞踏会から始まり、帝国舞踏会で固まった、自分たちの地位に、ストナ達「アナトリーの取巻き達」は、権勢を誇っていた。 


 南東の風が強いある日、アナトリー達が課外授業として、「教会」のミサに参列した日の事だった。アナトリーはバヌアン=フラール大司教に呼び止められ聖堂に残り、彼女達だけが先に、学園に戻るように伝えられた。 日も傾き、聖堂から学園へ戻る道すがら、ストナは、学園の方から歩いてくる見知った人を道の端に確認した。


「・・・もう、私達だけ先に帰れって・・・あら、マニューエではないですか。 「教会」にご用事?」

「・・・ストナ=アーベンフェルト=ビージェル侯爵令嬢様ですか。 「聖堂薬草園」でのお手伝いですので、直接「教会」へは、行きませんが?」

「そうですの、貴女みたいな庶民が、聖堂に入れるわけ御座いませんものね。ほほほ、泥臭い薬草園の方がお似合いね」

「左様でございますね。煌びやかな聖堂よりも、薬草園の方が落ち着きますね」


 ストナは、なぜか「イラッ」として、マニューエの髪留めを見咎めた。


「ハンネ殿下のお優しい慈悲に縋って、まだ、それを着けてらっしゃるの? 非常識な! ハンネ殿下には正式なご婚約者がおありになるというのに!」


 ストナの後ろから、「そうですわ!」と、同調の声がかかる。 マニューエはもう溜息も出なかった。礼をし、その場を去ろうとしたその時、ストナの手が空を切る。 乾いた音が街路にこだました。ストナの指先が、踵を返したマニューエの後ろ髪に触れ、髪を纏めて留めていた髪留めに当たったからだった。


 街路には落ちて壊れてしまった髪留めが転がっている。 沈黙が辺りを包む。 先に口を開いたのはストナだった。


「これに懲りて、もうお付けにならない方がよろしくてよ!」


 まるで、マニューエの不注意で壊したかの様に言い切った。言葉もなく、壊れた髪留めを拾うマニューエ。それを、肩から下げた運搬袋にしまう。 ストナの方に向き直り、一言だけいった。


「ごきげんよう」


 なんの感情もなく、平坦な声ではあったが、悪意に対し何の恐怖も持たない鋼鉄のような声だった。再度、踵を返し、足早にその場を去るマニューエ。勝ち誇るストナ以外の取り巻き。 しかし、ストナは恐怖を感じていた。マニューエが去り際に見せた、彼女の暗く冷たい視線。 その中にあった、侮蔑の意志。 今までいろいろな意味で、彼女を追い詰めていたストナだったが、相手の底のしれない視線に背筋に冷たい物が流れ落ちた。


 ******


「マニューエさん、その・・・髪どうなされたの?」


 いつもはきっちりと留めている髪がばらけている。 エルフィンがそんな彼女を見たのは彼女が「聖堂薬草園」に通い始めてから、初めてだった。彼女の疑問に微笑みながらマニューエは答える。


「ここに来るときに壊れてしまったんです。形あるものいずれ壊れるので、仕方ありません。お見苦しい髪形で、申し訳ございません」

「い、いいのよ。 ・・・あっそうだ! 私、髪留めなら持っているわ。どうかしら、使ってくださる?」

「いいのですか?」

「もちろんよ。 ほら、いろいろ教えてもらっているし、お礼、受け取ってもらってないし・・・使ってくださる?」

「・・・よろこんで」

「ちょっと待ってて!」


 エルフィンは自室に戻り、彼女が唯一慰めにしていた、髪留めのコレクションから、一番気に入っている物を手に取った。彼女が聖女候補として、ここに来た時にしていた髪留め。彼女と旅を共にしてきた髪留め。苦楽を共にしてきた、いわば相棒と呼べるものだった。 感謝の思いは、思い出の一杯詰まった此れを使って貰う事で、表したいと思った。マニューエの下に戻り、その髪留めを差し出す。


「これ・・・なんだけど」


 その髪留めを見て、マニューエは口をつぐむ。 彼女が持つ精霊達の加護が色濃く恩寵を与えている。”これは貰えない”と、マニューエは思った。 この髪留めは、エルフィンの為だけに、捧げられたものだった。彼女を取り巻く精霊たちも困惑している。


「だめ・・・かな?」


 「それ」が持ち主の意志として、マニューエに手渡されるという事は、マニューエに対して彼女の恩恵を分け与えるという事に他ならない。 マニューエは迷った。 鈴の音が彼女の耳に聞こえる。 「光の精霊神」の意志が「それ」を受け取る事を是とし、周囲の精霊たちが頭を垂れる。 ”この世界に平穏の有らんことを” 髪留めを取り巻く精霊たちが口々にそう祈りをささげる。 マニューエの心は決まった。


「これは、エルフィンさんの大切なものでしょ。 この世に二つとない大切な物・・・それを私に下さるなんて・・・ありがとうございます。大切に、大切に使います。精霊神様のご加護がエルフィン様の下にあらんことを祈ります」


 最大限の礼節をもって、マニューエはエルフィンにそう答えた。周囲に金色の光の粒が浮かび上がり、二人を包む。驚きに目を丸くしているエルフィンにマニューエが言った。


「貴女のご厚意に、「精霊神様」がお喜びになっているのですよ。 本当にありがとうございます」


 にっこりと微笑む、マニューエ。 なんだかわからないが、満ち足りた心に驚きながらも嬉しく思うエルフィン。二人の間に特別な何かが繋がった。




次は、異世界の神に関してですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ