PK戦
すいません、しばらく空いてしまいました。
「おい、起きろエデン」
「……ん?ああ、わかった」
翌朝、おそらく五時くらいに、直に起こされた。
テントから出ると、ヒルドが一人で立っていた。
「おはようございます、すいません、こんな朝早くに」
「まったくだ。いったい何の用だ?」
「……『重要な話』があるので」
どうやら俺が起こされたのは、その『重要な話』をするためだったらしい。
周りのみんなはまだ寝ているところを見ると、直と俺とヒルドの三人での話し合いってことになるんだろうけど、一体何事だろうか。
朝日に目がくらみながらも外に出た俺は、直がキャンプファイヤーの後のように炭が散らばっているところのそばに座っているのを見て、その隣に腰を落とした。
「エデン、あなたに聞きたいことがあるんです」
「なんだ?」
「いくつかあるんですけど、まずは一つ目。というかこれの答えが出ないことには話は前には進みません。」
ヒルドは少し間を空けて、俺の目を見ながら言った。
「あなたはこの世界でどうして【始まりの町】という『安全地帯』に留まろうとしなかったのですか?」
それなら簡単なことだ。
「俺はワールドクエストをクリアしたい。別に負ける必要はないだろう?それだけだが。まあ、他には…」
「他には?」
「大図書館というところに行ってみたい。」
「なるほど。いかにもコイツらしいな」
「コイツとはなんだコイツとは」
「まあまあ直さん、落ち着いてください。それとエデンさん、あなたは私たちと一緒に行動するつもりですか?」
「まあ、そうなるだろうな」
「よかった。あなたはかなりの戦力ですからね」
「言いすぎだ。そこまで俺は強くないぞ」
「あなたは謙虚すぎます。
他には、あなたは魔法を使うときに、空中に『式』をかいたことはありますか?」
「『式』ってのが魔方陣のことを指すんだとしたら、昨日の【ブラッティーベアー】戦で使ったな」
「そうですか。だとしたら、あなたは『式』の可能性については考えたことがありますか?」
「ああ。新しい魔法を作れる可能性がある。だろ」
「!! 流石ですね。もうそこまで考えているとは」
「相も変わらずってところだな」
「で、これがなんかと関係あるのか?」
「あります。つまりは、あなたのだけの魔法が作れるということです」
「それは分かってるんだが『どれだけ規格外なんですか…』それはいいとして、何であいつらに教えない」
他のみんなが寝ている女性用テントを親指で指す。
「一応みんなには、昨日の夜に教えてあるんです。これはもしかしたらかなり重要なことなのかもしれないので、あなたが私達と行動をともにしないのなら教えないつもりでした。もっとも、ベータの時から使えたようなので、何人かは知っているかもしれないのですが。」
「なるほど。まあ安心しろ。この世界にはあまり知り合いはいないんだ。当分はお前らと一緒に動くさ」
「ありがとうござ――」
そこまで言いかけたヒルドの目の前に手をかざし、セリフをさえぎる。
「おい!出てこい!」
気配スキルに四つの反応があった。それはモンスターのものではない。プレイヤーの反応だ。
【始まりの町】を出てここまでこれるのなら、間違いなくβテスターだろう。
それに、俺の『気配』スキルに反応があったのが今さっきだったことも、推測を強化している。
「へえ。そこのお譲ちゃん、索敵スキルでも持ってるのかなぁ」
「誰だお前ら。」
左側の茂みから、なんか人相の悪い奴らが出てきた。
片手剣使いが一人、双剣が一人魔法使いが二人の構成だ。盾持ちがいないということはもしかして……
「PKプレイヤーか?」
「俺たちを見て誰だか分からないってこたァβの人間じゃあなさそうだなあ。なのに俺たちを見つけるとはかなりの腕だなァ」
「まさかこいつら、【イーター】!?」
「【イーター】?」
「お前は知らないだろうが、ベータの時にPKギルトができてな、多分それのメンバーだろう。」
「要するには、こいつらは俺たちを狙ってんのか」
「そういうことのようですね。」
やっぱりか。楯持ちがいないとモンスターの攻撃を攻撃役が直接浴びることになるが、プレイヤー戦では楯持ちはあまり意味がない。
普通に無視して素通りできるからだ。
「【スターダンサー】がたった二人しか連れていないんだ。これを見逃すのはさすがに無理だよなぁ」
「なら、PKプレイヤーに対しては容赦しないでいいんだよな?『サンダーソード』!!」
「アーそうだな。じゃあ始めようっかァ!!」
俺がイメージ魔法で出した『サンダーソード』をかわし、さっきから一人でしゃべっていた片手剣使いが俺に向かって剣を振り下ろしてくる。
Lv二十を超えているのかなかなか早いが、それでもエイベルクには及ばない。
まっすぐに振り下ろされた剣を右に動いてかわし、そのままスキルを叩き込もうとして後ろに一歩下がる。
一瞬後、俺がいた空間を双剣使いのスキルらしき攻撃が切り刻む。そこにスキルなしの一撃を入れてから、『ランスラスト』で二人を巻き込んで四メートル弱を進んで、イメージ魔法で出した貫通効果つき魔法『サンダーランス』で貫いてジャンプで下がる。
そこに敵の魔術使いが叩き込まれる。どうやら直がスキルで吹き飛ばしたらしい。
その直後、俺の後ろで人が死亡したとき特有のガラスを割ったような鋭い音が響いた。
慌ててヒルドのいた方を見てみると、そこには敵側の魔法使いが一人、ヒルドの片手剣スキルで倒れていた。
さらにその後ろでは、寝ていたはずのほかの仲間たちが出てきていた。
それに気づいたのか、イメージ魔法を使う時の少し集中した表情をしている生き残った魔法使いにとどめの剣を叩き込もうとした瞬間、俺に向かって赤い光が突っ込んできた。
「ひゃあはっはアァ!!」
「くっ!!」
飛び込んできた片手剣使いの『スラスト』を完全にはかわせず、一気に吹き飛ばされる。
後ろに下がりながらHPを確認すると、残り四割になっていた。いくら紙装甲とはいえ、初級スキル一撃でこれだけダメージを食らうのはおかしい。
「まさかコイツ、STR特化型か!!」
「よく分かりましたァ。そんなアナタにご褒美でェーす」
いやな予感がした、と思った瞬間、片手剣使いが俺の知らないスキルの初動の型を取る。
「まさか、ユニークスキル!?」
回避しようとした瞬間、俺にミルシェの叫び声が聞こえた。
「お兄ちゃんも使って!!」
主語がなかったが、俺には『雷剣』のスキルの事を指しているのはわかった。
このままかわしきれる保証もない。このまま食らうよりは、一矢報いてやろう。
「『サンダースクエア』!!」
四連撃斬撃系雷剣スキルの、今俺が使える中では最高のスキルを発動。
ほとんど発動時のタメがないスキルは、さらにAGIによって加速され一瞬で発動し、俺の体を片手剣使いの突きが貫くよりも早く、片手剣使いを切り刻む。
「んなぁあ!!?何でこんなにはや――」
最後まで言わせず、四連撃の最後の一撃が片手剣使いに届いた。
と思った瞬間、片手間使いの体が力を失い、倒れた。
Lvの低い俺の攻撃で倒れたということはどうやらVITはまったく上げていなかったらしい。
周りを見回すと、ちょうど双剣使いが直に倒され、魔法使いがアルヴィトの魔法で吹き飛ばされて死亡したところだった。
「ふう、こいつらなんだったんだ」
「ベータの時の唯一のPKギルトです。【イーター】は一度GMによって大々的な制限を受けたので人数がかなり減っていたのですが、こんなことになってしまったからGMも役には立たないとでも考えたのでしょう」
「まあ、案外そうでもないんだがな、これが」
「ん?直、なにやってんだ?」
「GMコールだよ。PKを撃退したその場で通報を受けたら、死んでいる状態のプレイヤーは【始まりの町】の地下監獄に転送されるみたい。一ヶ月は出てこれないらしいよ」
「へー。いろいろ考えてるんだな」
「…ベータの時からPKプレイはハイリスクハイリターン」
「そうなのか。大体わかった」
「そうですか。それじゃあ、みんな今日もがんばりましょう!!」
「「「「「「「「おーーー!!!」」」」」」」
大賢者編はいま構想を練ってます。
VRMMOではなくなり、異世界ファンタジーになりますが、エデンそのほか数名はたぶん出ます。
ちょっと待っててください。




