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そぉーっと、教室を覗く。
窓際に梶瀬が立っていて、陽依は自分の席に座ってる。
呑気すぎるわよ。陽依!
あんた今から告白されるのよ!
まぁ、陽依のことだから「好き」って言われても、即フるだろうけど。
陽依は全然好きとか嫌いとかわかってないぽややんとした子だからね。
そんなことを考えてると、梶瀬がゆっくりと陽依に近づいた。
「あっあの……橋宮」
その声に反応し、立ち上がる陽依。
「なぁに?梶瀬くん」
世の男すべてを虜にする悩殺スマイルで梶瀬を見る。
無自覚な子!ほんと、自分の魅力に気づいてない陽依かわいすぎる!
こら!陽依!
そんな笑顔向けたら梶瀬が期待しちゃうじゃない!
真っ赤な顔だった梶瀬の顔がさらに赤くなり、大きく息を吸って、そして吐いた。
「どうしたの?梶瀬くん」
きょとんと梶瀬を見つめる陽依。
「付き合ってくれ!橋宮!」
「いいよ」
あ………れ?
いま、陽依なんて…
“いいよ”って言った?
今、“いいよ”って言ったの?陽依!
どぉーして!どぉーしてぇー!私の陽依!!
「本当に?」
梶瀬が確かめるように聞いた。
「うん!」
どうしてかしら、前が霞んで何も見えないわ。
私の陽依がぁ~。人のものになるなんて。
その日を境に陽依は私と遊ばなくなった。
というのはウソで、彼氏ができたというのに、私が「今日あいてる?」と聞くと、決まって陽依は「空いてるよ~」と答えてくれた。
なぜかクリスマスも、私と陽依は夜が明けるまでカラオケで歌いまくり、お菓子を食べまくった。
「どうして、梶瀬と遊ばないの?」
と聞くと、「え?なんで梶瀬くん?…誘われたけど、ユカとの約束の方が先だったし!」と陽依は答える。
つくづくいい友達、否、良き親友をもったなぁと思うよ。
恋人よりも友情を優先する陽依だいすき!!
梶瀬も、私にクリスマスを譲ってくれるなんて、いいところあるじゃん!
これが彼氏の余裕というものかな。
そんなこんなで、卒業式。
私と陽依は県立の高校に進学が決まり、梶瀬はスポーツ推薦で私立の高校に進学がきまっていた。
卒業式後の誰もいない教室、私と陽依、そして梶瀬が残っていた。
梶瀬が告白したとき、廊下でこっそり聞かせてもらったし、クリスマスも陽依独占権を譲ってもらったし、しかたない、今日は梶瀬に陽依一日独占権を譲ってやろう。
「あたし、用事があるから先に帰るね」
「分かった!ばいばーい」
手を振りながら教室をでて、そのまま廊下の陰に隠れます。
だって、2人が気になるんだもーん!
「卒業したんだな、俺達」
「うん」
「さびしい?」
「さびしいけど、高校に行く楽しみの方が大きいかな!」
陽依は相変わらずの、陽だまりのような笑顔を梶瀬に向けた。
「俺はさびしい」
梶瀬はすねるように、机の上に座る。
「もう4月から別々の高校…俺、絶対浮気しない。放課後とか頑張って会いに行くし!」
真剣な顔を陽依に向けると、「うん、梶瀬くんて浮気とかしなさそうだよね」と、なんとなく違和感のある答えが陽依の口からでた。
陽依って国語得意じゃなかったっけ?
「俺、離れてても陽依に会いに行くよ!」
「うん!私たちずっと友達だよ!私だけじゃなく、ユカにも会いに来てね!」
あれ?今また変な単語が。
窓からばれないように、中を覗き込むと、茫然と立っている梶瀬が見えた。
「と……ともだちなんだ。俺ら?」
真っ白になっている梶瀬から、絞り出すように声が聞こえた。
「友達だよ!卒業してもずーっとクラスメイトだよ!なに言ってんの!」
無邪気にキャハハと笑う陽依。
ちょっと、これには私も梶瀬がわいそうに思えた。
なんで私は忘れていたんだろう。
陽依の超鈍感ぶりを。
「俺、付き合ってって言ったよね?冬休み前」
「うん、言ってたね」
「俺、橋宮は『いいよ』って言ってくれた記憶があるんだけど」
「言ったよ?でも結局あの日は、家に送ってもらっただけで、梶瀬くんのご用事に付き合えなかったよね。ごめんね?」
付き合うって…つきあうって、そっちぃ!?