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チュンチュン……
今日は昨日と打って変わって快晴。
雲一つない青空。
昨日は、あのあと傘を買ってベルまで行ったけど、お店が臨時休業で結局目的のケーキは食べられなかった。
今度は絶対食べる!
あのいちごショートは絶対食べなきゃ。
そんなことを考えながら、学校までの道を歩く。
遠くに藤井先輩らしき後ろ姿を発見した。
遠くからでも、先輩の綺麗な茶髪が目立つからすぐに分かった。
身長も高いしね。
抜き足、差し足、忍び足で近づいて、先輩に声をかけた。
「先輩!おはようございます!」
「あぎゃあっ」
案の定、先輩は奇声をあげて飛び退いた。
本当藤井先輩って面白い。
「ななななんやねん!陽依かいな!めっちゃ驚いた」
先輩の顔が真っ青だったのが、徐々に赤くなり、リンゴ色になった。
先輩の顔ってよく変わるから面白い。
綺麗な顔立ちをしてるのに、顔をくしゃくしゃにして笑ったり、時には寂しい顔になったり。
ほかにはどんな先輩がいるんだろう…。
「先輩朝早いですね」
ただいま、7時10分。
普通の登校時間が8時半だ。
「俺はいつもこの時間に登校してる」
「そうなんですか」
「朝のなんや涼しい空気が好きでなぁ。夏はこの時間に登校してんねん」
なんか先輩らしい。
私は、涼しく朝の澄みきった空気をゆっくり吸った。
何も話さずに、私と先輩は校舎を目指す。
でもその沈黙は、嫌な静さじゃなくて、どこか温かい静けさだった。
「俺さ!!」
先輩は突然私の前に回ってこっちをじっと見た。
「なんですか?」
「おれ…陽依のこと!す…」
「陽依、日直はいいの?」
背後からユカの声がして、私は振り返った。
そこにはユカがしてやったり顔でたっている。
「ユカ?」
「陽依今日、日直だから朝早く来たんじゃないの?」
あっそうだった!
だから私早く学校行こうとしてたんだ!
「先輩失礼しますっ」
私は先輩に挨拶すると、遠くに見える学校を目指して走った。
「藤井先輩、言っときますが、あの子相当鈍いですよ」
風になびく赤茶色の髪をかきあげてユカは言った。
「………知ってる」
いじけたように、藤井は答える。
「あー、先輩。告白流されたんですもんね」
先に言っておくが、この涼しげな顔をしているユカと、拗ねた顔で突っ立っている藤井は、今日が初対面である。
「なにをっ!」
「好きなら好きって言わないと、一生あの子には伝わらないですよ」
「はっきり言おうとしたら、お前が邪魔したんやろ」
「あ~ら、ごめんなさーい」
全然悪びれてない声で藤井を嘲笑うユカ。
ユカは、完全に藤井をなめている。
「おちょくんな」
藤井のテンションは下がる一方である。
「先輩、陽依の親友の、私しかしらない陽依のこと教えてあげましょうか」
「………」
タタタタッ。
早歩きでユカから離れる藤井。
タタタタッ。
早歩きで追いかけるユカ。
「聞きたくないんですか?」
「聞きたない!」
どうやら、今までの会話でユカの悪魔のような性格を理解したようで、藤井はユカから逃げようとした。
「陽依の元彼の話~」
小さな声で、でも藤井の耳には届く声で囁いた。
すると藤井はピトっと止まる。
本当に単純なやつである。