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「せんぱーい、大丈夫ですか?」
とりあえず、外の園芸コーナーの売り物の屋根付きベンチの方へ移動し、先輩を座るようにさとした。
全然しゃべってくれない。
顔もさっきから同じだし。
もしかして、先輩気分悪いのかな。
「あの、先輩?」
もう一度、名前を呼ぶと、
「ほんまに、キミなんか?」
「はい。わたしは私ですけど」
藤井先輩は天然な人なのかもしれない。
ユカがいたら、お前が言うなって怒られそう。
それから少しじっとしていると、先輩はやっと普通に接してくれるようになった。
「驚いたわ、いきなりぶつかってくるし」
「私も驚きましたよ」
「なんで、ホームセンターに?一人で買いもんか?」
「いえ、私は雨宿りに」
空を見上げると、まだ曇り空で雨がやむ気配はない。
もう少し、ここで雨宿りしなくちゃ。
「運命としか思えへん…」
「え?なんか言いました?先輩」
「い、いや、キミに偶然会うなんて今日はいい日やな思てな」
先輩は雨雲を見つめて言った。
先輩、私の名前知らないのかな?
初めて会ったときも「キミ」って言ってたし、藤井先輩は一応先輩だから自己紹介ぐらいしといたほうがいいよね。
私だけ名前知ってるのも変だし、キミって呼ばれるのはなんだか違和感がある。
「あの、藤井先輩。申し遅れましたが、橋宮陽依って名前です」
「なっなんやいきなり。知ってるで」
え?
「でも先輩、私のこと『キミ』っていつも呼んでるからてっきり知らないのかと」
そう言うと、「なんて呼んでええか分からへんもん」となんだか照れていた。
先輩なんだから、好きに呼んでくれて構わないのに。
「陽依って…」
「はい?」
「陽依って呼んでええか?」
先輩謙虚すぎますって。
「いいですよ。もちろん」
「やったぁ、ありがとう陽依!」
先輩は、ガッツポーズをして大袈裟に喜んだ。
そんなにうれしいことなのかな。
下の名前で私のことを呼ぶのは、ユカぐらいだから、声の低い先輩に名前を呼ばれて少し胸のあたりがむずがゆくなった。
ちょっと恥ずかしいような、なんだかドキドキ胸が高鳴る。
どうしてだろう。
「ところで、先輩はどうしてホームセンターなんかに?」
先輩の足元には、ふたつの大きな木材と、さまざまな色のペンキの入った買い物袋おいてある。
一体何を作るのかな?
それとも何かの修理?
「あー本棚作ろう思ってな」
本棚!?
「妹が作れ作れゆうてうるさくて」
先輩って大工さん目指してるのかな。
「先輩って将来大工さんとかになるんですか?」
そう聞くと先輩はハハッと爽やかに笑って、「違う違う、俺の夢はインテリアデザイナーや。似あわへんやろ?」と言う。
「似あわないなんて!すっごく似あってます!」
インテリアデザイナーか、とっても先輩に似合ってる。
美容師とかも似合いそうだけど、インテリアデザイナーの方がなんかしっくりきた。かっこいいお仕事だと思う。
「あ、そうや、校舎裏の白いベンチわかるか?」
「はい」
「あのベンチ、俺が作ったんやで」
「せっ先輩が作ったんですか!?」
すっごく驚いた。
あの、ふあふあ~で、とろろろ~んなほんわかした気分にさせてくれるあのベンチは、藤井先輩が作ったものだったんだ。
あのベンチは私だけのものって一人占めしようとしてた自分が恥ずかしい。
「先輩ってすごいです!」
「え?」
「あのベンチ最高に座り心地いいし、青空あるし、いい感じの木陰にあるし、空気があったかいし、私好きです!」
先輩に感謝しなくては。
あのベンチは、安らぎの場所。
別に、何かに疲れてるわけじゃないけど、あそこはこころのオアシスって感じがする。
「アカン…恥ずかしい」
先輩は両手で顔を覆ってる。
「そんな照れないでください!あんないいベンチを作る才能は堂々と誇ってください!!」
そう言うと、先輩はゆっくり顔をあげて少しさびしそうな顔をした。
「あのベンチは捨てたもんや…」
「えっ?」
すてたもん?
捨てたもの?
「それってどういう…」
「あ、雨あがったみたいや。俺これ作らなあかんから、帰るわ。今日はありがとうな陽依。じゃ」
と大荷物をさらっと抱えて去って行った。
なんで先輩あんな悲しそうな顔したんだろう。
小さくなっていく藤井先輩の後ろ姿を私は、ぼーっとただ見つめていた。




