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「……来ない…」
白いベンチに腰掛けて、数分。
たった数分しか経ってないのに、その数分が恐ろしく長く感じる。
夕陽がそらを赤くそめて、白いベンチもオレンジ色になってみえる。
「…メールの返事もこなかったし、やっぱり私先輩に避けられて…」
ガサササッ
後ろから草のざわつく音がした。
振り返ると
「…せ、先輩」
慌ててきたのか少し額に汗をうかべた先輩が立っていた。
「ひ…橋宮さん」
陽依と言いかけて、橋宮と言い変える先輩。
私がこの前言ったこと気にしてるんだ。
先に謝らなきゃ。
「ごめんなさい!!」
深く頭をさげた。
頭を下げたまま、先輩の反応を待つ。
許してくれるかな。
「そっか…うん。やっぱりな…なんやユカ気づいてるやんか俺の気持ち」
聞こえた声は、意味のわからない返事だった。
許してくれたの?
私は頭をあげて先輩の顔をじっと見た。
先輩はなぜかすごく悲しそうな顔をしている。
どうして?
「あのっ、だから私の名前を普通に呼ん「ちょっと待って」
私の言葉を、先輩は遮った。
「俺からはっきり言うから、直接伝えるから、もう一度断ってくれ」
先輩は一体何を言ってるんだろう。
私の理解力が乏しいのかな。
なにかをはっきり言うって…まさか、先輩私の気持ちに気づいてそれでその答えを言おうとしてる?
気付かない訳ないよね。
だって先輩、いままで告白とかされ慣れてるし、校舎裏とか体育館裏とか屋上とかに呼び出された経験ありそうだし。
このシチュエーションに、気付かないわけない。
ついに私…フラれるんだ。
でもでも私、なにもしてない。
まだ何にもしてない。
このまま先輩にフラれても、教室に帰ってユカ達の前で堂々と泣けない。
このままじゃ、ただの負け犬だよ。気持ちをちゃんと言わなくちゃ。
たとえ今フられたとしても、私まだ先輩に直接気持ちを伝えてない。
「好き」って言わなくちゃ。
自分の口から。
「俺、陽依のこと好きやねん」
オレヒヨリノコトスキヤネン?
いや、聞き間違いかもしれない。
都合よく私の耳がそう聞こえたって判断したのかもしれない。
絶対そう、だって先輩がそんなこと言うわけ…ないもん。
「あの…先輩…今なんて…」
のどの奥から絞り出した声は、すこしかすれて震えてる。
頭の中は真っ白で、思考回路はショート寸前。
「陽依、今だけ『陽依』って呼ばせてくれ。陽依が俺のことを好きじゃなくてもいい、ただ俺気持ちを伝えたくて」
先輩の口から私の名前が呼ばれるたびに、心がはねる。
「先輩は…私のこと嫌いじゃないんですか?…最近ずっと避けてたのに」
「避けてなんかない!ただ少し気まづくて、フられるのが怖くて逃げてた」
フられる?フるのではなく?
「誰が誰をフるんですか?」
「そりゃ、陽依が俺をに決まってるやろ」
なにかが、私の中でつながった。
おそるおそる、私は慎重に先輩に質問する。
「先輩って…私のことが好きなんですか?」
「そうや、でも陽依は俺のこと好きちゃうだから、気持ちだけでも伝えとこうって」
先輩が私のことを。
考えても、ないないって諦めてたことが本当になるなんて。
好きな人が私のことを好きだなんて、そんなキセキありえないよ。
先輩が私のことを好きだなんて、信じられない。
けど、でも、今、好きだって言ってたし、ホントなんだ。
現実なんだ。
嬉しい。どうしよう、すっごくすっごく嬉しい。
「好き」
気づいたら、言葉にしていた。
なんて伝えようか悩んでいたのがバカみたい。
「先輩がすき…です」
視界が涙でぼやけて、先輩の顔がよく見えない。
今どんな顔してるの?
だれか教えて?
「好きです、好きです、好きです」
この心からあふれるこの想いは、全部言葉になる。
「ほん…まか?」
「はい、先輩がずっと好きです」
「夢や…これは…都合のいいように俺が夢みてるんや、はやく起きろ!俺」
ペチペチと自分のほっぺたを叩く先輩。
私は涙を袖で拭って、先輩に駆け寄った。
「先輩、これが夢なら…きっと私の夢です。先輩が私のこと好きなんて、それこそ私に都合がいい夢ですもん」
「俺、てっきりフラれるとばかり…なんや…腰抜けた…」
先輩はすとんっと、白いベンチに座る。
「私だって嫌われてるとばかり思ってましたから。この前のことで」
私も先輩の隣に座った。
「そうや、なんで名前呼ぶなって言ったん?」
「さっきそのことを謝ったんですけど…」
「えっ?さっきの『ごめんなさい』ってそれのことか?」
さっきの私たちの会話って、全然噛みあってなかったんだなぁ。
「は、はい。あの時…私、すごく先輩を…その…意識してしまっていて、名前呼ばれるたびにドキドキしちゃって苦しかったんです」
先輩の目を見て話せない。
隣に座ってこんなに近くにいるのに。
恥ずかしくてドキドキして顔が見れないよ。
気持ちを伝えたら、この胸のドキドキも前よりおとなしくなってくれるって期待してたのに、倍になってる…。
きっと私今、顔真っ赤だ。
「でも…大丈夫です。先輩に苗字呼ばれるのってなんかさびしかったし…」
「陽依」
先輩が突然私の名前を呼ぶから、体がビクっとなる。
先輩から名前を呼ばれるとこんなにドキドキしちゃうなんて。
「陽依…どうしよ、俺心臓がヤバい」
先輩は、胸に手をあてる。
どうしよ!病気?なにかの発作?
「せ、先輩!?保健室に!!」
救急車を呼ぼうとカバンに手を伸ばした。
「俺ドキドキしすぎて…死んでしまう」
ハッとなって、私はカバンに伸ばす手を止め、先輩の顔を見る。
「先輩…」
「陽依、俺ほんとに今死んでもええ。幸せすぎてヤバい」
「死んだらだめです。寂しいこと言わないでください」
「うっ…ほんま、陽依かわいいな」
先輩の顔は、夕焼けの光のせいか、妙に赤く見えた。
なんだか、先輩と初めて会ったときを思い出す。
そうだ。
先輩あのとき変なこと言ってた。
「先輩、初めて会ったときのこと覚えてますか?」
「え?」
「先輩あのとき…『嫌いじゃない』って私に言いましたよね。初対面だったんで、私最初変な人だなって思ってたんです」
そこまでいって私は口を抑えた。
変な人って言っちゃった。
失言だぁ!!
「くくくっぷハハハハハハッ」
先輩は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「変な人って思われてもしゃーないな…。あのときはあれが精一杯やったし」
え?どういうこと?
「一応、アレは俺のあの時の精いっぱいの気持ちの伝え方やったんや。つまり告白」
こっ告白!?
「あのときから私のことを…?」
私、あの日まで先輩の名前も顔すら知らなかったのに。
「俺はあのときが初対面ちゃうよ。…あれは4月の終わりごろ、俺が陽依に初めて会ったのはここや」
先輩はそう言って、私たちが座っている白いベンチを指差した。
「ここ?ですか?」
「あぁ、1年のときにこの白いベンチをここに置いてて…昼休みに居眠りするのが習慣やった」
そうだ。
私も4月下旬ごろだったこの場所見つけたの。
座り心地があんまりいいもんだから、いつも昼休みが終わるまで寝てたなぁ…。
「それである日、いつものように寝に来たら…先客がおった」
「それが私ですか?」
「そうや。それで起こしてどかそう思て、近づいたら…気持ち良さそうに寝てて、それがあんまり可愛くて…惚れた」
先輩、私の寝顔見たんですか!!
は、恥ずかしい!
変な寝言とかいってなかったかなぁ。
「それから俺がベンチに寝に行くたび、陽依が寝てるから、毎回声かけようって思ったんやけど…なかなかできんくてそれであの日、教室に残ってた陽依に遠まわしに伝えたんや気持ちを」
そうだったんだ。
先輩ずっと私のことを想っててくれてたなんて、本当に夢みたい。
「先輩…」
先輩は、私をみつめた。
「陽依、俺と付き合ってくれるか?」
「…っはい!」
そしてオレンジ色の夕陽の中、私と先輩の影は一つになった




