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「おはよう!」
「おはよう、陽依。なんかスッキリした顔してるわね」
自分の気持ちに気付いた昨日。
それからなぜだか胸の中のモヤモヤが消えて、気分がスッキリした。
そうだ!このことユカに報告しなきゃ。
ユカが梶瀬君にお願いしてくれたおかげで、私やっと藤井先輩への気持ちに気付くことができたんだし。
「あ、うん!あのね!!」
「ヒヨリおはよでーす」
どよどよとした空気と共に、やつれたお顔のジュディが教室に入ってきた。
会話を中断してしまったけれど、私の報告よりも、なんだかジュディの方が心配だ。
「どうしたの?ジュディ」
「……追いかけてきたデス…」
「へ?」
うつむいたまま小さな声でそう言ったジュディは、私とユカの間を通り抜けて席に着いた。
「どうしたのかしら?いつもなら朝からテンションMAXでうざいくらいなのに」
うざいってひどい…けど本当に元気がないみたい。
“追いかけてきた”ってどういう意味だろう。
そう考えていると、キーンコーン…と朝のHRを知らせるチャイムが響き、教室に担任が入ってきた。
「おーい、お前ら席つけー」
教室中でおしゃべりしていたクラスメイトが次々と席に着く。
みんなが席に着いたのを確認した委員長は、「起立…してください」と語尾を小さめに言う。
「礼」
「「おはようございます」」
委員長がイメチェンしてから、クラスのみんなは委員長の言う事にしたがうようになった。
すごい進歩。
担任が出席を確認し終えると、今日は連絡事項があるようで、出席簿を持ったまま教卓の前に立っている。
「今日は一つ連絡事項があるぞー。隣のクラスにも留学生が来たらしいー。お前ら絶対に隣のクラスに見に行くんじゃねぇぞ」
「なんでですか?先生」
クラスの男子が手を挙げて聞く。
「あー、男子は問題ねぇ。女子はいくなよ。うっさいから」
クラスの女子が騒ぎ始める。
「えー!もしかして留学生って男!?」
「留学生って事は外国人のイケメン!!?」
「ほいじゃ、委員長号令」
委員長の号令は、女子のキャピキャピ声でかき消されて聞こえなくて、いつのまにか担任は教室を出ていた。
心なしか、ジュディを取り巻く空気がより一層ドヨドヨしてる気がする。
朝のHR終わりのチャイムが鳴ると、女子の一部は隣のクラスに走って行った。
数秒後に、キャーという黄色い声が響いていたから、やっぱりイケメンだったらしい。
「陽依、あんたは見に行かなくていいの?」
「私、あんまり興味ないし、ユカは?」
ユカは委員長を指差し、「貴光いるから間に合ってる」と笑った。
「あはは、そうだね」
「でもジュディといい、今日来た留学生といい、妙な時期に留学してくるもんね。留学生ってこういうもんなのかしら」
それもそうだ。
来るなら、4月とかじゃないかな。
まぁ、いままで留学生が来たこと無いからわかんないけどね。
「よし、気になるから、ジュディ本人に聞くわよ」
「え?いまから?」
「おバカね。昼休みよ。今からじゃもう授業始まるでしょ」
「あ、そうだね」
ユカは授業の準備があるからと、自分の席についた。
「あ、ユカに言いそびれちゃった」
昼休みもいえそうにないなぁ。
まぁいっか。
それからあっという間に、午前の授業が終わり、お昼休みになった。
あれからジュディのテンションは上がる事はなく、終始自分の席でじっとしてた。
いつもはジュディの周りに集まる男子たちも、今日は近づきにくいみたい。
私とユカは、お弁当と水筒と自分の椅子を持ってジュディの席へ向かった。
「ジューディ。一緒にランチ食べよ」
「机一つに3人って狭いけどいいよね!?」
できるだけテンションを上げて声をかけてみたけれど、ジュディは弱々しげな笑顔をむけただけだった。
黙々と弁当のおかずを食べる3人。
ジュディはサンドイッチを一口食べるごとに、深いため息を吐く。
先に食べ終わった私とユカは、目を見合わせる。
“あんた聞きなさいよ”
“いやだよ。ユカきいてよ”
アイコンタクト。
“いいだしっぺはユカでしょ!!”
私がそうおもって見つめ返すと、ユカは「……わかったわ」と小さく呟いて、ジュディの方に向き直った。
「ねぇ、ジュディ?」
「なんデスか?」
「なんか悩んでるら、相談にのるわよ」
ユカは優しく笑うと、ジュディは目に大粒の涙を溜めた。
「どっどうしたの!?ジュディ!」
「ふたりとも、とても優しいネ、感動して泣いているのデス」
ジュディは鞄から、ネズミのキャラクターが書かれたタオルを取り出すと、ごしごしと顔を拭いた。
「そんなに強く拭くと赤くなっちゃうよ」
「わたし、敏感肌じゃないからダイジョブデス」
そういう問題だろうか。
そして涙がおさまると、ジュディはため息を吐いて「私の話聞いてくだサイ」と頭を下げた。
「あの…隣に来た留学の男…あれ知り合いデス」
留学の男…留学生か。
えっ知り合い!?
「アメリカで同じ学校だったの?」
「同じところ行ってまシタ」
「へぇ、その人と何かあったわけね」
ユカが探るようにそう言うと、ジュディは頷き、ゆっくりと口を開いた。
「……あいつ、わたしのボーイフレンド……デス」
ぼーいふれんど?
「男友達?」
一応聞いてみる。
「NO、コイビトデス」
「ジュディ彼氏いるの!?」
いつも冷静なユカも動揺してる。
私の頭も混乱中。
「ハイ。付き合って…3年ネ」
さっ3年も!?
意外に長いし、恋人って…こいびと…って。
「なんで彼氏いるのに藤井に好意よせてんのよ」
やっぱり、海外とこっちじゃ、恋愛観もちがうのかな。
ジュディは、首を横に振った。
「わたし…ユータ好きになろうと思ったデス。理想の人そのもので、おもしろくて、おもしろくて」
おもしろい2回言ってる。
「…でも…好きになる努力いっぱいしたけど…胸ドキドキしなかったノヨ」
胸に手を当ててジュディは目を閉じた。
それじゃあ、ジュディは藤井先輩の事…最初から好きじゃなかったんだ。
…ホッ。って、何で安心してんだろう私。
「話しを戻すけど、そのなんで留学生が来た事でそんなに落ち込んでるわけ?普通恋人が来たら喜ぶんじゃない?」
そりゃそうだ。
「わたし、本当にニッポンが好きで、お笑いが好きで、ずっと小さいころから留学したいって思ってタ。そして、今年の春に両親から許しが出て留学きめた。そしたら…」
「彼氏に反対されたわけだ」
「ハイ。そのとおりヨ」
ジュディって本当に日本が好きなんだ。
でも、彼女が突然日本に留学するってなったら、彼氏さんが反対するのも分かるかも。
「留学の話したら、反対されて、どうしてもって言うならレオが俺も着いて行くって言ったデス。それからケンカになって…」
レオってのが彼氏さんのお名前でしょうか。
「彼氏の名前ってレオっていうんだ。かっこいいじゃない」
私が思ってた疑問を、ユカがさらっと口にする。
やっぱり私達以心伝心!
…うーん。私恋愛話に疎いのかな。
いまいち発言できない。
「レオはニックネーム。名前はレオナルド」
「ダヴィンチ!?」
「陽依のおバカ」
あっ、つい「レオナルド」ってくると「ダヴィンチ」か「ディカプリオ」って思っちゃう。
頭悪いのがばれちゃう。
「もうバレてるから」
また私の声漏れてた!?
慌てて口を押さえた。
「わたし、友達や両親にこの留学のことを口止めしてから、逃げるように留学してきたネ」
ということは、レオさんにだけ隠していきなり留学しちゃったってこと!?
「昨日、休んだデショ?わたし」
「うん」
「昨日の朝…学校行く前に、わたしが住んでるアパートに彼が訪ねてきたから家から出れなかったデス」
「家でれなかったって?」
「ドア越しに押し問答してたでス」
押し問答ってすごい単語しってるなぁ…っと感心してる場合じゃない。
「朝からずっと!?」
「そう。追っ払うのたいへんデシタ」
話を聞いていると、レオさんが少し可哀相に思えてきた。
彼女が突然消えて、追いかけたら邪魔だと追い払われ……。
「今日もいつもより早く家を出てきたのに…まさかあいつも留学してくるなんて…」
そしてジュディは頭を抱えた。
私とユカも考えるポーズをとって良い解決策がないか考える。




