3 ~side 藤井悠太~
走っていく陽依の後ろ姿を俺は茫然とみつめていた。
なにがおこったんか。
頭の中がごちゃごちゃ…いや、まっ白で何も考えられへん。
今この状況が、理解不能。
よし、まずは頭の中整理せな。
『藤井先輩っ』
陽依が俺の名前を呼んで、俺は振り向いた。
夕焼けに照らされた陽依の姿。
一歩二歩と近づくと、陽依が目を閉じてこちらを向いている。
夕陽のせいかも知らんけど、頬が赤くて、いつも以上に陽依が可愛く見えた。
そんでなんで…目ぇ閉じてんねん!
ってまさか、これってアレか?アレなんか?
もしかして陽依も俺のこと…その…えっと…す…す…。
いや、言えへん。本人の口からそういうこと聞いてへんし。
だけど、この体勢は絶対アレやんな。
き…き…きすっちゅーやつか…。
これは、これは俺に、キ…キスをしてくださいっていうポーズなんか?
いや、何考えてんねん!陽依は純粋でかわいくてかわいくてかわいいんや、そんな俺の妄想が現実になるわけ………なってる。
どないしよどないしよ!!据え膳食わぬは男の恥って誰か漫画で言うてたしな、男藤井悠太、決めます。決めさせてもらいます!
俺でいいんか?陽依?
俺はそっと、陽依の顔に近づく。
綺麗にとおった鼻筋、ほんのりピンクに色づいたほっぺ。つぶらな瞳は、閉じられて見えへんけど、何もかもが可愛い。
おでことおでこがくっついて、陽依の目が薄っすらと開いたけれど、俺の顔をみてまた目を閉じた。
それって俺のことが好きっていうことか?
キスしてもええってこと?
艶やかな唇に誘われるように、俺は優しく触れるだけのキスを落とした。
柔らかな唇の感触は、想像以上に心地よくて、たまらんやった。
何度も啄むようにキスをする。陽依は俺の胸に縋りつくように、シャツを握ってキスに応えてくれた。
そ、そや。
それで、いきなり陽依が俺の胸を突き飛ばして、走って帰ってしもたんやった。
どうして逃げたんやろ。
もしかして、あの目を閉じたのは、キスじゃなくて…別の意味があったんか!?
そしたら、俺とんだ勘違いヤローの変態男やないか!
うわぁ…ほんまにへこむわ。
陽依とのキス、ほんまは嬉しいはずなのに、嬉しくもなんともない。
あんな泣きそうで悲しい顔をした陽依の顔をみたからや。
俺がキスなんてせーへんかったら、陽依は泣かずに済んだ。
胸がこうチクチクと痛む。
「俺、やらかしてしもたー」
謝るべきなんかな。
それとも…。それともって謝る以外の選択肢思いつかへん。
あーもー、ぐちぐち悩んで俺ってどこまでもヘタレやな。
頭を抱えてしゃがみ込む。
次、陽依に会った時どうすればいいんやろ。
ていうか、次会えるかどうかさえも危ういな。
…帰ろう。
帰って、頭冷やして、もう少し考えよう。
俺は、よたよたと帰路についた。
後悔先に立たず、このことわざが今日の俺にぴったりや。




