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夏も終わりとはいえ、空はまだ明るかった。
図書館を出た私達。
「先輩は駅方向だから、あっちですよね」
図書館から私の家と、駅までの方向は真逆。
「では、今日はありがとうございました!助かりました」
私はぺこりと頭を下げて、宿題たちがはいった重たい鞄を持ち直すと、自分の家に向かって歩き始めた。
「俺もこっちから帰る」
先輩は私の隣に立ち歩いている。
駅向こうなのにどうして?遠回りになっちゃうよ。
「最近運動不足でなぁ、こっちから帰ろうって思ってたんや」
「あ、そうなんですか。私も運動不足なんですー」
「陽依ともっと一緒にいたいしな」
「えっ?先輩今何か言いました?」
ちょうどトラックが鳴らしたクラクションの音で先輩の声が聞き取れなかった。
「いや、なんでもないねん」
なんて言ったんだろう。すごく気になる。
先輩は頭をかいて、私のまえをスタスタ進んだ。
先輩はかなり早歩きでいつのまにか追いつけない距離まで遠くにいた。
「先輩っ!待って」
先輩は私の声が聞こえていないらしくて、ずんずん前に進んでいく。
閑静な住宅街。
高そうな家々が立ち並ぶ。
きっとすごいセレブが住んでるに違いない。
ジュディみたいに、金髪で美人で、宝石とかいっぱい身につけてて。
あ、ジュディは宝石身につけてなかったか。
そしてふと、わたしはユカに言われたことを思い出した。
“ヒントは教えるわ”
夏祭りの時に、ユカが教えてくれたヒント。
確か…、
“今度藤井先輩の前で目を閉じてごらんなさい”
“二人きりになった時に、先輩の前で目を閉じるの。そしたら答えがわかるわ”
って言ってた。
周りを見渡すと、人気なしで、絶好のお試し日和。
先輩と二人きりだし。
いまなら、できるかも。
大きく息を吸って、私は先輩の名前を呼んだ。
「藤井先輩!」
頭をかきながらフラフラ進んでいた先輩がピタっと立ち止まる。
やっと、止まってくれた。
私は遅い足で走って先輩に追い付くと、こちらを振り返ってきょとんとした顔でこっちをみている先輩の前に立つ。
「どうしたん?陽依」
私は先輩と一度目を合わせると、ゆっくりと目を閉じた。
目を閉じたらこの気持ち、藤井先輩に対する私のこのモヤモヤの答えが分かるって、ユカ言ってたけど…どんな風に分かるのかな。
目を閉じて何秒後?何分後?
それとも結構時間かかっちゃうのかな。
早くこの気持ちの答え知りたいのに。
目、ずっと閉じてなきゃいけないんだっけ?
あーもう少し、詳しくユカに聞いておけばよかったよぉ。
薄目だったら、大丈夫かな?
セーフ?アウト?
私は、少しだけ目をあけようと、瞼をゆっくり持ち上げていく。
真っ暗だった視界が、光を取り戻していく。
ふわっと、額に何かが当たってる。
なに?
この感じ前にもあったような。
薄く開けた目ではやっぱり何も見えない。
思い切って目を開けてみた。
っええええええええ?!
藤井先輩!?
私の視線の先。
先輩の端正なお顔が視界いっぱいに広がっている。
額に当たっていたのは、先輩のおでこ。
目を閉じた先輩のお顔が、何故私の目の前に!?
やっぱりまつ毛長いし、お肌綺麗だしってそんなことじゃなく!!
私の顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。
ぜったい鏡で見たら私の顔真っ赤だよ。
心臓の音がドクンドクンと、急速に鼓動を加速して、ずっとこのままこの状態だったら心臓止まっちゃう。
それになにより、どうして先輩の顔がこんなに近くに。
私が目を閉じたとき先輩はもっと遠くにいたような気がしたけど。
だんだんとかすかにだけど…先輩の顔がどんどん近付いてきている気がする。
このままだと、口と口がくっついて…私先輩とキス…しちゃうかも。
先輩とキス…先輩とキス…先輩と…
私は再び、瞼を閉じた。
ふわりと、甘い香りがして、私と先輩の唇が柔らかく触れ合う。
優しくうかがうような慎重なキス。
触れ合った唇から先輩の優しさが伝わってくる。
何度も角度を変えて啄まれるようなキスが降ってくる。
初めてのキス。
恥ずかしくってでも、うれしくって、なんだか心がぽーっとする。
“なにしてるデスカ…ヒヨリ”
“協力してくれる…あれウソデスカ?”
!!!!?
私は勢いよく先輩の胸を押して突き放した。
「陽…依…?」
先輩は驚いた顔でこっちを見てる。
「わ…私…わたし……ごめんなさい!」
私は、無我夢中で家まで走った。
走って、走って、走って…。
頬に伝う涙に気付かないまま走った。




