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「えー、明日から夏休みだが、はめをはずさないように、ちゃんと宿題するんだぞ」
帰りのHRで、あまりしゃべらない担任が言ったこのセリフに私は心底驚いた。
HRが終わった瞬間に、ユカの元に走る。
「ユカユカ!!!」
「何よ」
「あっ…明日から夏休みなの!?」
外じゃ、セミがうるさく鳴いているし、最近暑くなってきたし、雲も入道雲が目立つけど…まさかもう夏休み!?
「あんた、カレンダーぐらいみなさいよね」
「じゃあ、各教科ごとに出された大量の宿題って」
「夏休みの課題に決まってるでしょ」
下敷きで優雅に自分を仰いでいるユカが気だるそうに答えた。
「もう夏休みなんだ…」
明日から一カ月と少しの長期休暇。
もっと早く気づいていれば、スィーツ巡りの予定表とか作ってたのに。
あ、いまからでも間に合うか。
ずっと、行けなかった洋菓子屋「ベル」。
今度こそ行かなくちゃ。
「陽依!」
ぼーっと夏休みのことを考えていると、そばにいたユカが私の袖を引っ張った。
「何?」
ユカは「アレ」と指をさす。
その先には、きらびやかな笑顔を浮かべた、楠木さんが高貴なオーラを放ちながらこちらを見てる。
私と目が合うと、楠木さんは私に頭を下げておいでおいでをしてる。
「陽依、呼んでるみたいよ。行ってきたら?」
「えっ…でも」
「私、貴光と図書館だから、もう帰るし!じゃ、暇だったらメールするわ」
と、戸惑う私をよそに、ユカは委員長を連れて消えてしまった。
「友のピンチより愛を選ぶのね、ユカ様」
ユカの薄情もの!まぁいいけどさぁ。
とりあえず、私は楠木さんのもとへ歩き始める。
一体何の用なんだろう。
今日楠木さんに会うのは2度目。
一度目は今日の朝。
HRが始まる前に楠木さんをさがして、昨日の結果を伝えに行ったとき。
楠木さんのクラスに行くと、すぐに楠木さんは私に気付いて屋上へ行った。
「それで…一体どうでしたの?」
震える声で聞いてくる楠木さん。
「一緒にいた女性は、藤井先輩の妹さんでした」
私がそう答えると、「……へ?」と楠木さんらしくない間の抜けた声が返ってきた。
そりゃそうだよね。私だって驚いたもん。
でも妹の存在ぐらいファンクラブなら知っててもいい気がするけど。
あ、でも大阪にずっと住んでるって言ってたし、調べようにも調べられないか。
「本当に妹さんですの?」
「はい!直接聞いたので本当です」
何度も聴き直してくる楠木さんに、正直に何度も同じことを言う私。
「ハッ…もしかしたら…、えぇ…絶対そうに違いないわ…」
楠木さんは突然何かを思い立ったように、屋上の欄干に持たれてしゃがみこんだ。
え?
妹じゃないって分かって喜ぶべきなのでは?
なぜさらに落ち込んでるんだろう。
「ど…どうしたんですか?」
おずおずとそう聞くと、
「これは…これはあくまで仮説…なのだけれど…」
と前置きを置いて、深刻な表情になり口をつぐんだ。
「なんですか?」
「き、禁断の愛というものじゃないかしら…あぁ…言ってしまったわ…」
禁断の愛ぃ!?
「それって?」
「実は藤井先輩には血のつながらない妹がいたのですわ。…幼いころからずっと一緒にいた2人。血の繋がらない2人だけれど、お互いに兄妹と認め想い合っていた。いつしかその思いは『家族愛』から『恋愛』へと変わっていく。その気持ちを抑えるべく藤井先輩は、妹のいる大阪を離れて、ここへ。それを妹が追って来たんですわ!そうに違いありませんわ!…まぁどうしましょ…」
「ちょっとストーップ」
禁断の愛って!んなわけない!
「考えすぎですよ!楠木さん」
ちゃんと2人とも顔似てるし、藤井先輩だって妹って言ってたもん。
「……よかったですわ」
しゃがんでいた楠木さんは、ほっとしたため息を吐きながら立ち上がった。
「これでお姉さまが残してくださったファンクラブを続けることができる…」
「お姉さま?」
私がそう聞き返すと、楠木さんは「いえ、なんでもありませんわ」と、言うと去っていった。
そんな会話を朝したばかりだと言うのに、それなのに楠木さんはまた私に会いに来た。
もう報告は終わったんだけどなぁ。
何の話だろう?
あの笑顔、怖すぎる。




