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はい?
「妹だったんですか!?」
え?だって、え?じゃあ彼女って?プチパニックを起してる私。
「俺妹いるって前言ったことあったやろ?」
たしかにそう言えば、ホームセンターで先輩とばったり会った時に、先輩そんなこと言ってたかも。
じゃあ彼女は?
「先輩今日風邪って…」
風邪って嘘ついて休んでまでデートした彼女はいずこ?
「こいつが一緒に遊んで遊んでって聞かんくてな。わざわざ大阪から会いにきてるもんを無下にはできんくてな」
じゃぁ…先輩に彼女って。
「先輩には彼女いないんですか?」
「ないないない!かっ彼女なんかおらへん!」
「何言ってんねん!悠太!あたしが彼女ちゃうの!?」
杏奈ちゃんが藤井先輩に飛びついた。
アクロバット。猿回しの猿のような軽やかなステップ。
さ、猿回しはたとえが悪かったかもしれない。
「お前が彼女なわけないやろ!妹やぞ!そろそろ兄離れせぇ!」
「あたしが小さいとき、悠太に『大きくなったら結婚しようね?』って言ったら、悠太『いいよ』って言ったもん!」
私も、小さいころは、お父さんと本気で結婚するんだって思ってた。
今の我が家は逆な感じだけど。
私だって小さいころは、お父さんと結婚するって思ってたけど、成長するとやっぱり変わってくる。
それが杏奈ちゃんの場合、変わってない。
それって。
「もしかして…ブラコンなの?杏奈ちゃん」
私がそう言うと、杏奈ちゃんは顔を真っ赤にして
「ちがう!あたしは正真正銘悠太のか・の・じょ!」
と言い張った。
「陽依、杏奈は正真正銘のブラコンや」
「ちがうもん!悠太」
「杏奈!お兄ちゃんと呼べ。もしくはお兄様と呼べ」
「いや!」
ツインテールを左右にふわふわと揺らして拒絶する杏奈ちゃんは、やっぱり可愛かった。
こうやって杏奈ちゃんと藤井先輩2人をちゃんと見てみると、目元や鼻の形とかそっくりな部分がいっぱいあって、兄妹なんだなって思える。
勘違いした私が恥ずかしくなった。
「あ、陽依のど渇いたやろ?茶でええか?」
「えっ?お構いなく!もう帰りますから」
「そーや、帰れ帰れー」
「こら!杏奈!」
「ブー」
窓の外は、もう薄暗くて、夜になる一歩手前まで来ていた。
「じゃあ、送るわ」
「え?良いですよ。歩いて帰れます」
「でも一人歩きは危険や」
「大丈夫です」
ここから駅が近いし、電車で帰れば家はすぐ近くですからと付け加えると、藤井先輩は「じゃあ、駅までなら送ってもええか?」と提案した。
「いいんですか?」
「ダメ!」
「杏奈はもう寝る時間だ」
「まだ6時半や!こんな時間に寝る人なんているわけないやろ。悠太が駅行くんやったらあたしも」
「それはダメ」
藤井先輩は、暴れる杏奈ちゃんを軽々と抱っこすると、杏奈ちゃんが使っているらしき部屋に連れて行った。
数秒後、「ほな、行くで」と藤井先輩が戻ってきて、私と先輩はマンションを出たのだった。
「いいんですか?杏奈ちゃんおいてきて」
「ええのええの。あいつおったら陽依とゆっくり話もでけへんしな」
「杏奈ちゃんて可愛いですね」
「生意気なガキやで?どこが可愛いねん。可愛いゆうたら陽…」
「ひ?」
先輩はそれ以上何も言わずに、ただうつむいた。
「なんでもない」
そして小さな声でこうつぶやくと、先輩は、はぁ~っとため息を吐く。
「先輩どうしたんですか?気分でも悪いんですか?」
「ちゃうちゃう!バリバリ元気や俺は!」
「そうですか。良かった!」
それから、先輩と並んで歩き、他愛もない話をしていると、いつのまにか駅についていた。
「今日はありがとうございました!じゃあ、私はこれで」
「お、そうや、今日なんで俺んとこ来たん?なんか用事でもあったんか?」
「あ、いえたまたま通りかかっただけです!」
「そぉか?でも」
「気にしないでください。じゃ、また」
改札口のところで、藤井先輩に一礼する。
「気をつけてな!」
そして私は2番ホームに急いだ。




