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藤井先輩と私。  作者: 寿音
Ⅸ:妹とパパさん。
32/83

はい?


「妹だったんですか!?」

え?だって、え?じゃあ彼女って?プチパニックを起してる私。

「俺妹いるって前言ったことあったやろ?」

たしかにそう言えば、ホームセンターで先輩とばったり会った時に、先輩そんなこと言ってたかも。

じゃあ彼女は?

「先輩今日風邪って…」

風邪って嘘ついて休んでまでデートした彼女はいずこ?

「こいつが一緒に遊んで遊んでって聞かんくてな。わざわざ大阪から会いにきてるもんを無下にはできんくてな」

じゃぁ…先輩に彼女って。

「先輩には彼女いないんですか?」

「ないないない!かっ彼女なんかおらへん!」

「何言ってんねん!悠太!あたしが彼女ちゃうの!?」

杏奈ちゃんが藤井先輩に飛びついた。

アクロバット。猿回しの猿のような軽やかなステップ。

さ、猿回しはたとえが悪かったかもしれない。


「お前が彼女なわけないやろ!妹やぞ!そろそろ兄離れせぇ!」

「あたしが小さいとき、悠太に『大きくなったら結婚しようね?』って言ったら、悠太『いいよ』って言ったもん!」

私も、小さいころは、お父さんと本気で結婚するんだって思ってた。

今の我が家は逆な感じだけど。

私だって小さいころは、お父さんと結婚するって思ってたけど、成長するとやっぱり変わってくる。

それが杏奈ちゃんの場合、変わってない。

それって。

「もしかして…ブラコンなの?杏奈ちゃん」

私がそう言うと、杏奈ちゃんは顔を真っ赤にして

「ちがう!あたしは正真正銘悠太のか・の・じょ!」

と言い張った。

「陽依、杏奈は正真正銘のブラコンや」

「ちがうもん!悠太」

「杏奈!お兄ちゃんと呼べ。もしくはお兄様と呼べ」

「いや!」

ツインテールを左右にふわふわと揺らして拒絶する杏奈ちゃんは、やっぱり可愛かった。

こうやって杏奈ちゃんと藤井先輩2人をちゃんと見てみると、目元や鼻の形とかそっくりな部分がいっぱいあって、兄妹なんだなって思える。

勘違いした私が恥ずかしくなった。

「あ、陽依のど渇いたやろ?茶でええか?」

「えっ?お構いなく!もう帰りますから」

「そーや、帰れ帰れー」

「こら!杏奈!」

「ブー」

窓の外は、もう薄暗くて、夜になる一歩手前まで来ていた。

「じゃあ、送るわ」

「え?良いですよ。歩いて帰れます」

「でも一人歩きは危険や」

「大丈夫です」

ここから駅が近いし、電車で帰れば家はすぐ近くですからと付け加えると、藤井先輩は「じゃあ、駅までなら送ってもええか?」と提案した。

「いいんですか?」

「ダメ!」

「杏奈はもう寝る時間だ」

「まだ6時半や!こんな時間に寝る人なんているわけないやろ。悠太が駅行くんやったらあたしも」

「それはダメ」

藤井先輩は、暴れる杏奈ちゃんを軽々と抱っこすると、杏奈ちゃんが使っているらしき部屋に連れて行った。

数秒後、「ほな、行くで」と藤井先輩が戻ってきて、私と先輩はマンションを出たのだった。


「いいんですか?杏奈ちゃんおいてきて」

「ええのええの。あいつおったら陽依とゆっくり話もでけへんしな」

「杏奈ちゃんて可愛いですね」

「生意気なガキやで?どこが可愛いねん。可愛いゆうたら陽…」

「ひ?」

先輩はそれ以上何も言わずに、ただうつむいた。

「なんでもない」

そして小さな声でこうつぶやくと、先輩は、はぁ~っとため息を吐く。

「先輩どうしたんですか?気分でも悪いんですか?」

「ちゃうちゃう!バリバリ元気や俺は!」

「そうですか。良かった!」

それから、先輩と並んで歩き、他愛もない話をしていると、いつのまにか駅についていた。

「今日はありがとうございました!じゃあ、私はこれで」

「お、そうや、今日なんで俺んとこ来たん?なんか用事でもあったんか?」

「あ、いえたまたま通りかかっただけです!」

「そぉか?でも」

「気にしないでください。じゃ、また」

改札口のところで、藤井先輩に一礼する。

「気をつけてな!」

そして私は2番ホームに急いだ。


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