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「陽依~帰るよ」
あっ、ユカが呼んでる!
急がなきゃ。
藤井先輩と朝バッタリ会った日の午後。
授業が終わり、私はユカと帰ろうとしていた。
「ちょっと、文房具屋寄っていい?陽依」
「うん、私もシャープペンの芯切れてたんだった」
文房具屋は、小学校、中学校、高校や大学からほとんど等距離にあって、学生はみんなそこで道具を揃えてる。
ファンシーなものからビジネス的なものまで揃ってるし、なぜかお菓子やジュースも売っているので、小さい子から大人までさまざまな層のお客さんがいる。
夕暮れが近かったので、私達は急いで向かった。
ウィーン。
「いらっしゃいませー」
若いギャル店員の声が店内に響く。
「ノートとペンとファイルとか色々ささっと選んでくるから、陽依もささっと買って、買ったらここ集合ね」
入り口でユカは早口でそういうと、ビュ~ンと走っていった。
私はシャープペンの芯買わなきゃならないんだった。
シャープペンコーナーって確か左の奥だったような。
えっと…あった!
芯を手に取ると、隣に並んでいる可愛いシャープペンが目に映った。
上のほうにクマが赤いハートを抱えたキャラクターがついていて、グリップのほうは赤いドット柄にピンクのハート模様。
それを手に取って、カチカチっとノックしていると、となりにあるシャープペンも可愛いことに気付いた。
イチゴ柄で上にはショートケーキのモチーフがくっついている。
おいしそぉ~。違った。かわいい!
私はそのシャープペンに手を伸ばした。
ごちん!
「あっ」
私の手はシャープペンではなく、
「は…し……宮?」
「梶瀬くん…」
手を握っていた。
慌てて梶瀬くんの手の甲から手を退ける。
なんでなんでなんで!?
私、まだ梶瀬くんに会いたくない!
心の準備がまだ。まだあれから半年も経ってないのに。
私は急いで店から出ようと、出口に走った。
「待ってくれ!橋宮!」
入り口辺りで梶瀬くんに追いつかれて、手を掴まれた。
「やだっ!」
離して!怖い!
「陽依?どした?」
真横からユカの声がした。
地獄に仏とはこのこと。
ユカは、大きなビニール袋を抱えて、私を凝視する。
「かっ梶瀬ぇ!?」
素っ頓狂な声をあげたかと思うと、涙目になっている私と、必死に腕を掴む梶瀬くんを交互に見つめて、ユカは梶瀬くんの方に一歩足を踏み出した。
ユカの顔がみるみるうちに、怖くなっていった。
「どけ!カス」
ユカの冗談じゃないぐらい痛い平手打ちが、梶瀬くんの左頬にクリティカルヒットした。
「あたし、言ったよね。引き際が肝心だってさ」
「俺はただ…」
やっと、梶瀬くんは、私の手を離してくれた。
お店の迷惑になるかもしれないので、私達は外にでた。
「もう陽依を混乱させないで」
ユカはもう一度、梶瀬くんに念を押した。
梶瀬くんは、ぐっと拳を握りしめ、私の手を今度は優しく握った。
ユカがその手を振り払おうと、手を伸ばすけど、梶瀬くんはユカの手を片手で抑えて、私の方をじっと見つめてくる。
「今日、ここで偶然橋宮に出会って…俺、神様がもう一度チャンスくれたんじゃないかって思う」
静かに語り始めた、梶瀬くんの目はずっと私を見ていて、私はその目から…その目から目をそらすことができなかった。
「好きだ」
梶瀬くん、それは、『告白』ですか?




