第1話 情けないざまあな末路だな……。
珍しく王道のラブコメを執筆してみましたが、これが思った以上に反響があり、今までにない人気となった作品でもあります。
個人的にはやらかした失敗作と感じていただけに、小説というものはどう化けるか分からないという、そんな起爆剤にもなったラブコメでもあります。
後、いかにタイトルも大事ということも知りましたね。
「ざまあ」だけで、ここまでヒットするとは思いませんでした⋯⋯。
それでは笑いと感動の物語の始まりです。
両親が離婚した。
まだ僕が小学生の頃だ。
お互いの価値観が合わない理由をよそに、本当は大人の関係に疲れてしまったのだろう。
しばらくして二人は別れ、一人っ子の僕は父親の手によって引き取られた。
両親が不仲になる原因に気付いたのは、中学の思春期の頃だったが、僕は何も知らないふりを装っていた。
その離婚が発端で女性恐怖症になり、高校に入っても女の子との出会いを避けていたんだ。
──後に父親の転勤で住み慣れた都会を離れ、僕は高校三年という時期にも関わらず、山と田園に囲まれた田舎の中高校、桐生院筑紫ヶ丘学園に編入することになった。
この高校でなら、辛い過去は忘れて、何もかもうまくいき、難しい勉強もやっていけるかな。
初夏の暑さでパンクした脳みそを冷やすため、学ランの第一ボタンを外し、涼しいそよ風を手でおくる。
すると、紺のセーラー服(好みでブレザーも選べる)で、胸元に緑のリボンをつけた女の子から声をかけられた。
「──志貴野くん、どうしたの? めっちゃしんどそうな顔して?」
「あっ……秋星か。いや、ちょっと昨日暑くてさ、あまり寝付けなかったって言うか……ここも暑いし……ブツブツ」
「あー、言えてる。もうエアコン入れて欲しいよねー」
三年C組、樹節志貴野というフルネームな僕は、クラスメイトの秋星から突っ込まれて、大きく体を縮めた。
ヤベエ、女子に免疫がないから、些細なことで心も体も動揺してしまう。
黒い髪で目元まで伸ばしてるさまから、こちらの気持ちを悟られないよう、最新の注意を払わないと。
それにしても、向こうが意識してなくても、近くに寄られるといい香りだな。
顔も美少女だし、なで肩に緩いカーブと、女の子らしさを強調したセーラー服も色っぽいし、色々とヤベエ……。
「……何のシャンプー使っているの?」
「えっ、今なんて?」
「あががばー!?」
しまった!?
つい、いつもの心の声が漏れてしまった。
もし聞かれていたら、僕は明日から変態の烙印を押され、学校中のみんなから後ろ指を指されるんだ。
こんな狭い田舎での噂なんて、明後日には学校どころか、町全体に広まってる。
やーねー、樹節家のお子さん、女の子のシャンプーの香りくらいで参っちゃうくらいのウブさんなんですってー。
高校生にもなって、それなんてキモッ‼
「……はい、ご指名ですとか言われて、変態道中まっしぐらで」
「まっしぐらって、あの時代劇ネタ? 確かに面白いよねーw」
「のがあああー!? 僕ってヤツはー‼」
今度は正真正銘、マイクテストのように声を拾われてしまった。
僕は昔から思っていることを、思わず口に出してしまうタイプだ。
えっと、その時代劇も知らないし、お笑いかアニメしか観ないし、どう共感していいのやら。
とりあえず、いいねを押せばいいのかな?
(めっちゃ動揺)
「──ねえ、秋星。もうHR終わったんでしょ? いい加減帰ろうよ?」
「あっ、美冬ごめんね。ちょっと待たせちゃったね」
「何、またそんな陰キャオタクの相手してるの? 同じオタク病に感染しちゃうよ?」
「夏希はそれでもいいけどなー!」
僕の机の周囲に、可愛い女の子が三人も!?
ヤベエ、変に意識していたら、煩悩がわき出て、止まりそうにない!!
「ぼんのうって何のことかなー? おバカな夏希にも分かりやすく説明してー!」
「止めなさい、夏希。男の子にも色々と事情があるのよ」
「本当、資源の無駄遣いよね」
この三人は学年やクラスはバラバラだけど、れっきとした三重咲という名字の姉妹だ。
茶髪の腰まであるロングヘアの秋星が長女、銀色のサイドテールな美冬が次女、ショートカットで青い空のような髪の夏希が三女。
おまけに名前も顔も知らないが、中学の四女もいるらしく、可愛い美少女姉妹として、町中でも、学校内でも注目の的だ。
「じゃあね、志貴野くん」
「あー、だからアイツ、ガチでキモいから話しかけんな!」
陽気で気さくに接してくる秋星とは違い、美冬は僕に対して非常に冷たい。
まあ、それが普通の感覚なんだけどな。
学校では友達いないし、ゲームが友達だし。
あー、こんな根暗だから、誰も話しかけて来ないんだよな。
小学生の頃は誰でも気にせず、会話に馴染めたし、友達もいっぱいいた。
いつからだろう、人と距離を置いて、友達の輪から外れ、陰キャの道に進んだのは……。
考えるほどに頭痛が激しくなる……。
「いいじゃん、誰と会話しようと私の勝手じゃん」
「バカ、それで勘違いされてストーカーされてみ。困るのは秋星自身だからね?」
「そん時は夏希が守ってあげるー‼」
夏希が秋星の前に飛び出して、絆創膏だらけの拳を前に構える。
夏希め、強くなりたい一心で、身体に消えない刻みを入れたのか。
武道家の話では、よくあるある。
この心理は格闘ゲームの影響からだけどね……。
「あー、夏希、その指! またコソコソと料理してたのね」
「いえいえ、秋星お嬢。これは卵焼きというモンスターに向け、包丁という伝説の刀で焼きをいれた名誉の負傷であり!」
「何で卵焼きを焼くのに包丁いるのよ‼ それで焦げた食器が大量にあったのね。洗い物をする身にもなってよ?」
「ウケる。自分で暴露してるしw」
何だ、 ただの料理の怪我か。
格闘派の夏希のイメージ、一瞬でフライパンを持った家庭的になった。
ヤベエ、制服の上にアニマルエプロンなんて、何かこみ上げてくるもんがあるな。
ちなみに胃液じゃないよ。
「──おーい、志貴野。俺たちも帰ろうぜ」
僕の後ろ側から、ゴツい男の声がした。
数少ない親友の勝竜賢司だ。
名前からして、あのゲームの必殺技を思い浮かべるが、親はゲームが好きなわけではなく、母のお腹が大きな時に、たまたま知り合いの子供が、その技を口に出してはしゃいだ姿からピンときて、この名前を付けたとか。
本人は毎度ゲーマーから弄られて、いい迷惑だと白い歯を見せながら笑っていたけど……。
「まあ、相手が女の子なら弄られてもいいけどな。お近づきになるチャンスだしな」
「賢司は相変わらずだね」
「そうか? 現役の高校生は遊んでなんぼの世界だぜ?」
金髪のロン毛を指で靡かせながら、涼しげな顔して、自慢のイケメンスマイルを披露すると、教室の出入り口から賢司を見つめていた女の子たちが『キャー!』と言いながら、うっとりしている。
賢司のファンらしいけど、何でそこで奇声を上げるのか(僕にはそう聞こえた)が、よく理解できない。
イケメンなら何を言っても、それで済むのかな?
「お前も行ってみるか?」
賢司の耳元からの囁きに、僕の全身が鋼に変わる。
いいのか、僕らはまだ未成年だよ?
「……何だ、ゲーセンの割引券かよ」
その券を見せられ、床にひざをついて大きく落ち込んだ。
だって色っぽい女性のポールダンサーを想像してたのに、全然違ったから。
「何だとは何だ?」
賢司がニヤニヤしながら、僕の顔色を伺ってくる。
僕は女じゃないし、男同士で見つめ合いとかキモいよ。
「ははーん、またもや変な想像に胸を踊らせていたか?」
「し、してないよ!?」
「そっか? いつものように口に出てたぜ?」
「マジかよ!?」
また声に出してたのか。
迂闊に変なことは思えないな。
幸い、例の三人の姉妹は下校した後だった。
ふー、聞かれなくて良かったぁぁぁー‼
「あははっ、冗談だぜ。本気にするなって!」
「もう、僕帰る」
「ちょっ、お前!?」
僕は賢司のデリカシーのなさにキレて、黒い皮の学生鞄を腕に抱え、一人で教室を抜けた。
後ろから賢司の呼び止める声が聞こえたけど、腹が立ったんでスルーだ。
「おい、だから待てって‼」
「知るか、ボケナス!」
この際、オタンコナスでも、棒に刺した焼きナスビでも何でもいい。
昨日の友は今日から敵だ。
「だから、前見ねえと危ねえってー‼」
「何だって?」
『ガツン!!』
「ふぐっ!?」
賢司の声がする中、僕の顔に柔らかいものが当たる。
クッションのわりには弾力があるような、ないような?
「きゃっ!?」
「おあぁぁあー!?」
誰かの悲鳴を耳にしたが、その柔らかい衝撃をまともに受けた僕は反動で、廊下の床に後頭部をぶつけ、廊下のど真ん中で気を失った……。
情けないざまあな末路だな……。
──オタクとして、人間としての負け組な人生を歩んできた、この時の僕は何も理解できていなかった。
いかに女の子との出会いがないオタクでも、どんな所にきっかけが転がってるか分からないと……。




