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第9話 罠と一角亭

【薬の基本知識EX】

【薬の基本知識】の特殊上位スキル。特殊上級薬師NPCから薬について基本的な知識を幾度となく学んだものが習得できる。

 識別できる薬草の種類に大幅な補正が掛かり、薬の調合時に成功率が中アップする。



 おお、これは薬屋のおばさんに話を聞いたからという事だよな。薬屋になるなら有用なスキルだな。ってか、スキルってこんな簡単に習得できるものなのか? 今までの苦労は何だったんだ。


 スキル確認が終わり、今後の事を考えながら歩いていると、あっという間に武器屋の前に戻ってきた。



「おお、届けてくれたか。思ったより遅かったが道にでも迷ってたのか?」


 武器屋の前ではあの強面のオヤジ、マークスさんが不安気に待っていたので、急いで薬屋のおばさんからの受領書を渡す。


「すみません、遅くなって。言われた通りの看板は簡単に見つけることができたんで、すぐにお届けできたんですけど、その後におばさんから薬の話をいろいろ聞かせてもらってて。そしたら遅くなってしまって」


 あれこれ説明しながらマークスさんの後に続いて店内に入る。



「そっかそっか、それならいいんだ。兄ちゃんあんまり強そうじゃないからな、途中で物取りにでも遭ったかと思って心配になっただけだ。まあ、無事で何よりだ。で、それよりあの薬屋のばあさんから話が聞けたって本当か?」


「あ、はい、ポーションの話を聞いただけですけど」


「そ、そうか、いきなりポーションの話を…。おい、兄ちゃん、言っておくがこれはかなり珍しいことだぞ。俺でも普通に口きいてもらうのにどれだけ無理難題…難しい依頼をこなしたことか。それを初訪問で話聞くとか、いきなり薬の話聞けたとか、これが当たり前と思うなよ。超超ラッキーだったってことだぞ。わかったな?」

「あ、はい…」


「じゃ、これでこの依頼は完了だ。で、これが報酬。ご苦労さん」


 マークスさんはそう言うと、俺に500Gを渡してくれた。



ピンポーン

『クエスト<武器屋マークスの依頼>が完了しました』



ピンポーン

『特定行動により【配達Lv1】のスキルを習得しました』



 お、またスキル? マジで?


 マークスさんの目の前だが、失礼してステータス画面をチョイチョイ。こういう時、住人のマークスさんは待っててくれる。



【配達Lv1】

 ギルドを通さない個人配達依頼を一定回数こなすことで習得できるスキル。

 スキルLvに応じて配達時の敏捷値が上昇し、報酬が上乗せされ、配達依頼を受けやすくなる。



 おお、これはいいのでは? 配達の時限定でも敏捷値が上がるんなら効率上がるし、おまけに報酬もアップ。それに依頼を受けやすくなるとか、俺にはめっちゃありがたい。


「どうしたんだ、ニヤついて。500Gがそんなに嬉しいのか?」

「あ、いえ、そうです。500Gも頂いてしまって。ありがとうございます」


 やばい、配達楽しくなってきた。


「そうか、500Gでそんなに喜んで…。だったら、もう一件届けて欲しい場所があるんだが、お願いできるか?」

「あ、はい、もちろんです。配達大歓迎です。是非やらせてください」


 こんなの、俺にとったら受けられるだけ受けるしかないだろ。ガンガンいっとこう。


「じゃあ、この包丁を宿屋の女将をやっているマーサに渡してほしいんだ。今朝になって切れ味が落ちたから研いでくれって言われててな。仕込み前には届けたいんだ。頼む。ところで、兄ちゃん名前はなんて言うんだ? 俺はマークスっていうんだ。自分で言うのも何だが、この街随一の鍛冶師兼武器屋だ」

「あ、俺はスプラって言います」


 この街随一? そうか、マークスさんってそんな凄い鍛冶師だったのか。

 マークスさんといい、薬屋のおばさんといい、もしかして凄さと見た目と比例するのかもな。


「そうか、じゃあスプラ、よろしくな。夜用の仕込み開始は午後3時だ。と言っても、まだ30分あるから大丈夫だろう。宿屋は『一角亭』と言ってな、広場のすぐ北側だ。一階が食堂になっているからすぐわかると思うぜ」

「はい、わかりました。すぐに向かいます」



ピンポーン

『クエスト<武器屋マークスの依頼2>を受けました』



 マークスさんから包丁を受け取って、そのまま武器屋を出発する。目的地の宿屋『一角亭』は広場の北側。さっきの薬屋が広場の南側で20分ほどだったはず。北側と南側だからここ西地区の大通り沿いからだとどちらも変わらない距離だろう。十分に間に合いそうだ。


 さて、じゃあ、早速習得したばかりの【配達Lv1】の効果を確認しながら行くとするか? いざ、スピードアップ!


 ……??


 シュパーンシュパーン


 ……??


 おい、全く変わってないのだが?【配達Lv1】さん?


 期待した敏捷値の上昇は全く実感できなかった。簡単に習得したスキルだからこんなものなのかもしれないが、俺としては結構期待してただけに残念感が強い。


「……スキルのレベルアップに期待するか」


 期待外れの結果に通常テンションに戻って広場に出る。すると広場の周囲にさっきは見かけなかったタープのようなものが設置してあるのが見える。しかもその下からはモクモクと煙が立ち上っている。


 気になって近づくと、肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。


「いらっしゃい、ボア肉の串焼きだよ」


 ん? 


 ボア肉……の串焼きとな?


 ってことはなにか。ファンタジー感あふれる漫画肉が串に刺さってこんがり香ばしく焼かれ、肉汁が滴って炭の上に落ちたところから香るちょっと焦げた匂いか鼻孔を擽り俺の食欲を猛烈に掻き立てる肉があるということか?


 そんなもの…食べるに決まってるだろ!


 あ、いや、ダメだ。耐えろ、俺。ここで負けてはダメな人間だぞ。今は仕事中だ。



 ……

 ……



「すみません、1本いくらですか?」


 聞くだけ、そう、聞くだけだ。仕事中でも聞くだけなら情報収集。これがいつどんな仕事で役立つかもわからん。ま、そういう事だ。


「500Gだよ。2本なら900Gでお得だ。どうだい?」

「え、1本で500G?」


「おうこれでも今だけの特別価格。普段なら1本800Gだ」

「マジっすか。…あ、でも今全財産が500Gなんすよ。これ買ったら一文無し…」


「なに?…そうか。よし、全財産をカミングアウトした兄ちゃんの勇気には応えねえとな。俺も男だ。よし!2本で500G!持ってけ泥棒!」


 おおおっ、マジですか、おじさん! いや、ボア肉のおじさま!!


「マジっすか。そんじゃあお言葉に甘えて…あ、いや、やっぱ止めときます。今まだ仕事中なんで。仕事終わったら来ます」


 ボア肉買おうとしたら、上司の顔を思い出してしまった。仕事中に何度も買いに行かされたよな。で、さらに上の人にバレそうになったら俺のせいにされて。


 せっかく食べるならクエスト終えて、上司の顔を忘れてからにしとこう。せっかくの肉汁滴るボア肉なんだし。


「おう、そうかい。兄ちゃん真面目だな。いいこった。いいぜ、仕事終わったらまた来てくれよな。うちのボア肉は鮮度抜群だ。串焼きにした時ににじみ出てくる肉汁がまた爆発力のある味でな。肉汁がこぼれるから食べ歩きは厳禁。食べ終わるまで必ずそこで座って食べるのが規則だぜ!」


 ……いや、食う場所限定だったのかよ!そういうことは早く言ってくれ。食べるきるまで動けないとか思いっきり罠じゃん。そんなデカい串焼き2本も買ってたら確実に一角亭に遅れてたわ。


 心に残る猛烈に後ろ髪が惹かれる思いを振り切り、ボア肉を後にする。そしてそのまま最短距離で広場を突っ切り宿屋『一角亭』を見つける。


 串焼きを食べなかったので、午後3時までにまだ10分もある。まあかなり余裕をもって着くことができたのはよかったとしよう。


「でも、こんな時間が余るならボア肉1本くらいなら……いやいや、もう少し我慢我慢」


 一角亭は木造3階建ての旅館風の建物で、2階と3階が宿屋、マークスさんが言っていたように1階部分は食堂になっていた。入り口には「準備中」の札が掛かっているが、その奥から聞こえてくる気忙しい声が開店後の繁盛さを連想させる。かなりの人気店なんだろう。


 忙しそうな気配に気圧されながらも、仕込み中の札がかかったの引き戸をそっと引き開ける。



「お忙しいところすみません、ごめんください」

「あー、ごめんねぇ、まだ準備中なんだよ。札見えなかったかい?」


 思い切って声を掛けると、おおらかながらも叫ぶような女性の声が聞こえてきた。


「あ、いえ、武器屋のマークスさんから包丁のお届け物なんですが」

「ああ、できたんだね。よかったよ、今ちょうど使いたいと思っていたところなんだ。今行くから、ちょっと待っとくれ」


 そう言って、出てきたのは割烹着を着た恰幅のいいおばさんだった。俺よりもだいぶ背が高い。俺は自然とおばさんを見上げる形になる。母と子だなこりゃ。


「やあ、待たせたね。どれ見せとくれ」

「あ、はい、どうぞ」


 おばさんの威勢のいい声に、カバンから包丁を取り出すと包みを開けて手渡す。刃物なので持ち手を相手側に。


 おばさんは渡した包丁を手に取ると指を刃に当てては真剣な眼差しで見つめる。包丁が光りを放つ。キラーンって。いや、こういうの好きだなFSG。


「…うん、さすがマークスだね。あれだけボロボロだったのが、半日で新品みたいだよ。いや、マークスが研いだんだから新品以上か、アッハッハッハ」


 準備で賑やかな店内におばさんの快活な声が響く。


「じゃあ、俺はこれで」

「ほら、待ちな。これを持っていかないと証明できないだろ」


 そう言っておばさんは薬屋さんがしてくれたように紙にすらすらと受領証を書いてくれた。


「あ、そうでした。ありがとうござます」


「アハハ、なんであんたがお礼を言うのさ。お礼を言うのはこっちだろう。10分も早く持ってきてくれて。マークスには『午後3時に』って頼んでたんだよ。マークスの納品はいつも時間にぴったりでね。今日はあんたが早く届けてくれたんだろ? 最近は予約が多くて1分でも惜しくてね。助かったよ。わたしはこの一角亭の女将をやってるマーサだ。あんた名前はなんて言うんだい?」


「あ、スプラです」

「スプラ君かい。覚えとくよ。よかったら今度食べにおいで。サービスしてあげるから」

 

 女将のマーサさんが少し屈んで俺の目線になって笑顔を向ける。そして小走りで店内に戻っていった。


 なんか母親感がすごかったな。


 なんとなくほんわかした気持ちで入り口の戸を閉めると、そのまま一角亭を後にして武器屋へと向かう。



「おう、スプラか。渡してきてくれたか?」


 マークスさんが奥から出てくるなり聞いてきくる。


「はい、3時よりも10分早く着いたんですが、忙しかったみたいで丁度よかったらしいです」

「おお、そうか。それはよかった。マーサは俺が忙しいってこと知ってるからな。本当は早く欲しかったんだろうが、俺が3時なら大丈夫って言っちまったから、気を遣って我慢してくれてたんだろう」


 へえ、ただのクエストにそんな細かな設定とかあるんだな、現実世界みたい…ああ、そういうことか。


 確かマスコミが叩いたよな。独立型のAIなんて危険すぎるって。信用できないって大騒ぎしてた。


 そうか、独立AI、つまりはプログラム通りじゃなくて、人と同じように自分で考えて行動してるAIの世界……え、それって現実世界と何が違うんだ? うーん、分からんな。


「あ、これ受領書です」

「おう、ありがとな。じゃ、これが報酬だ」


 マークスさんはそう言って、525Gをカウンターに置いた。ちょっと報酬が増えてるな。これが【配達Lv1】効果、5%upってところかな。


「それからこれはマーサの必要を満たしてくれた10分の追加報酬だ」


 さらに追加で置かれる100G。俺にとってこの100Gはあのボア肉を我慢した結果だ。この後にアレが俺を待っていると思うと、なんだか泣けてくる。


 ただ、これで理解した。クエストも達成の仕方で結果も変わってくるんだってことを。



ピンポーン

『特定行動により【勤勉】のスキルを習得しました』



ピンポーン

『クエスト<武器屋マークスの依頼2>が完了しました。クエスト内の行動により【配達Lv1】のレベルが上がりました』



 ……はい?



❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


 おいおいマジかよ、初日からボア肉イベだと?

 そんな罠イベ三フィールド先のはずだろ。

 だれだそんなもんぶっこんできやがった奴は。


 てか、快楽効果を法的上限まで上げまくったボア肉に抵抗するって、あの野郎どんな神経してんだ。相当に鈍いのか?


 はあああああ!!! 【勤勉】だとーーー!!

 だーー、この罠イベにはこれの可能性があるんだったーー!!


 マジかよ……【正直】に【勤勉】って。

 俺の傑作ユニーク【マジ本気】の天敵スキルのオンパレードじゃねえかよ!

 誰だこのレイス様に喧嘩売ってんのは!



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・【薬の基本知識EX】の確認

・一角亭の女将マーサに感謝される

・クエスト<武器屋マークスの依頼2>を完了

・習得【勤勉】【配達Lv2】



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 装備:なし

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv2】new!【勤勉】new!

 所持金:1150G



20251115 改稿

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