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第359話 復活の炎

第三部の最終話となります。

「えっと……お前はなに?」

『ガウ』


「従魔じゃないの?」

『ガウ』


「名前も要らないと?」

『ガウ』


「どっか行っていいよ」

『ガウ』


 ……やっぱ行かんか。ダメだ、全く分からん。


「スプラ、やっぱりダメか?」

「はい、ダメみたいです」


 地獄の首輪を探しに紐を辿って探しに行ったら、なんと膝くらいの高さにまで小さくなった冥哭鵺がジッとしていたのだ。


 元々の製作者のムガンさんに聞いても、「自分で作ったけど自分の意思じゃない」とかよくわからん事を繰り返すだけで何もわからず。


 で、もしかして従魔になるのかなと思って『ワニ坊』『ニョロ坊』『ティラ坊』『ハリ坊』と色々呼んでみたが従魔にはならず。もし従魔なら相手の言いたいことなんとなくが伝わってきたりするものなのだが、こいつからは何を考えてるのかさっぱり伝わってこない。もちろんステータス画面を見ても何の表示もない。


「スプラよ、そろそろ行かんか。ほれ、ワンコロ、お前のご主人はもう疲れて家に帰りたいんじゃ。お前も家に帰れ」


『ガウガウガウガウ!』


 今まで何を言っても『ガウ』だけだった冥哭鵺がここに来て初めての反応を示す。


「スプラ、急に鳴き出しおったぞ」

「あ、そうですね……家に帰りたいのか?」


『ガウガウガウガウ!』


 なるほど、もしかして帰る家が分からないとかか?


「お前の家はどこだ?」


『ガウガウガウガウガウ』


「おおおっ、なんだ?!」

「おおっ、この様子はどこかに引っ張って行く気じゃな。よしスプラ、こやつが行きたいように行かせてやったらどうじゃ」

「あ、はい」


『ガウガウガウガウガウガウ……』



「ここは……行政府ですね」

「そう……じゃな」


 冥哭鵺が俺を引っ張ってきたのは行政府の前だった。しかも、なぜか大通りに戦闘に参加したプレイやーとNPCが全員集合しているんだが? 交差点の中心に大きな焚火があってキャンプファイヤーみたいなエモい状況になっている。


「スプラよ、何をしておったのだ。皆で待っておったのだぞ」

「スプラ…様……」


 ティソノさんとスソノさんは火が嫌なのか樹バリアの木に登っている。


「スプラさん、全員が称号ゲットしましたよ!」

「スプラさん、ありがとー!!」

「これがあのピエロ君の見ていた景色だったんですねー!」

「ヤバいっすよ、従魔に称号とか!!」


 マドレアルたち岩魔軍団も全員称号ゲットしてすごい盛り上がりだ。


 ……そういや称号貰ったんだっけ。



【地底への架け橋】

 ドワーフ王族及び四公家への貢献度が規定に達した者へ送られる称号。

 ドワーフ族からの信頼度が一段階アップ。

 ドワーフ貴族からの信頼度がさらに一段階アップ。

 地底関連の従魔モンスターと関係を築きやすくなる。



 ……地底関連の従魔か。モグラしか思い浮かばん。


「うちは既にハリモグラとオッキイのモグラさんたちがいるからな~」



「兄ちゃん、すげえな。あんなのやっつけちまって」

「すっげーー!」


「え、デッカイとオッキイなんでいんの? え、チッチャーネさんも?」


 なぜかこの深夜時間にもかかわらず、チッチャーネさんとデッカイ&オッキイがいる。なんだ? イベント仕様か?


「スプラさん、あの化け物をやっつけたなんて……あれえ? なんかちっさくなった化け物が見える。俺、寝ぼけてるのかあ?」

「寝ぼけてねえよ! これはあの化け物だぞ」

「あの化け物がちっさくなってるね~。かわいいね~」


「あ、オッキイ危ない! こいつ噛むぞ!」


 オッキイがトコトコと近づいてきたと思ったらいきなり冥哭鵺を撫で始めた。オッキイが噛まれると思って焦った俺だが、冥哭鵺は目を細めて気持ちよさそうにしている。ワニ頭もティラノもキングコブラも目が垂れている。……なんだコイツ。


「スプラ君、すごかったよ、最後まで諦めずに戦って。かっこよかった!」

「いいよねー、クレオは。ナガちゃん経由で見れたもんねー。わたしは極凰洞から出してもらえなかったし、スクショも撮れなかったし…」


 ナガちゃんを肩に乗せたクレオとゴマッキさんも極凰洞から出てきていた。ってか、クレオにはひとつ聞かないといけないことがある。


「クレオ、“ごっくん”って、アレなに?」


 クレオがなぜか布団サイズに小さくなった極凰の事を“ごっくん”と呼んでいたのだ。


「ああ、あれはごっくんがわたしのこの肩の巣が気になっちゃったみたいで。でもここは契約した星獣か従魔しかとまれないってことがわかって。それで頼まれて少しだけ契約してたんだ。その時に名前つけたの。そしたらごっくん小さくなって」

「……?」


 え、じゃあなにか? 巣にとまりたくて一時的に契約したってこと? え、そんな自由なの? あ、いや、そういやリオンもかなり自由だったか……


「で、ナガちゃんと空飛んでたらスプラ君の姿が見えて。ごっくんが『依頼してあることがあるから助けたい』って言ってくれたの」

「依頼……ああ、シークレットクエストか」


 そうか、シークレットクエストって、そんなお助け効果あるんだな。あ、じゃあ、マジョリカさんからも何か助けてもらえんのか?


 って、今はそれよりもこっちを先に片付けておこう。


「で、ダガンさんとガガンさんは地底に帰ったんじゃなかったんですか?」


 髭ドワーフたちと一緒に地底に帰って行ったはずのダガンさんガガンさんのドワーフ兄弟がなぜか普通に戻ってきているのだ。


「だっはっは、ワシらはムガン王の孫の見張りじゃ」

「ドワーフ公国に仇なすかもしれんからの。見張りを申し出たんじゃ」


 そうか、そうだよな。追放したとしても元王であれだけのことをした人だもん、監視くらいは付けるか。うーん、でもなあ……


「そうですか、監視ですかあ。それは残念だなあ。監視だと五祥霊砲酒が飲めないですよね。監視しないとですもんねえ」

「だ、そ、それは違うぞ、スプラ!」

「それでは監視を申し出た意味がないではないか!」


 ガガンさんがあっさり吐いたな。そういう事だと思った。


「名目上は監視でいいですけど、本当の監視はなしでお願いできますか?」

「な、そ、それではわしらが長老たちに偽りを言ったことに……」

「そうじゃ、我らは『危険なことがないか監視したい』と言ってきたんじゃ」


 うーん、そうだよな。あの髭ドワーフたちって抜けてるようでいて意外と鋭そうだもんな。なんか怒ると怖そうだし。


「わかりました。じゃあ、しっかり監視してください。でも監視するのは“ムガンさんに危険なことがないか”ってことでお願いします」

「ムガン王の孫に危険がないか監視する?」

「それではわしらがムガン王の孫の護衛のようではないか?!」


「これなら嘘ではないですよ。それにムガンさんがドワーフ公国に仇なすようなことは俺がさせません。監視は俺に任せて、お二人はムガンさんを守ってください。ってことで、今日は飲みましょう! はい、どうぞ」

「そ、そう言う事なら…な? ガガン」

「そ、そうじゃな。我らの目的はドワーフ公国を守る事じゃし、スプラがそう言うなら問題はないの、ダガン」


 二人がムガンさんの護衛任務報酬である五祥霊砲酒をしっかりと受け取る。前払いを受け取ったという事は……そういう事だ。


 俺としてはこの二人に監視なんてつまらんことさせたくない。ドワーフたちにはいつものびのびと鍛冶や物作りをしていてもらいたいのだ。



 「さあ、皆さん、今日はお疲れさまでした! こんな外じゃなんですから、行政府に入って、お酒やジュースでも飲みましょう!! おつまみの野菜もありますんで!」


「「おおおおおっ」」

「やったー」

「酒? 酒があんの?」

「マジかー、よっしゃーー、宴会じゃー!」


 みんながワイワイと行政府に入っていく。で、そこで俺は気づく。


「……しまった。そういやテーブルとか全くなかったんだった」

「樹魔術【樹具良具じゅぐらぐ】」


 俺の隣でティソノさんが床に手を当てると、床板からニョキニョキと枝が生え伸びてテーブルと椅子に変化していく。


 なに、この便利魔法。


「……一家に一人樹具良具ティソノ」

「ん? 何か申したか?」

「いえ、何も」


 ふと思い浮かんだキャッチフレーズが口から出てしまった。



「スプラ、皆が待っておるぞ」

「あ、はい」


 ムガンさんに促されてテーブルの上にどんどんドリンクと野菜を出していくと、みんなそれぞれで乾杯し、歓談し、楽しみ始める。一部のプレイヤーたちがスソノさんに殺到しているが、まあ、エルフは人気だよな。スソノさんがこっちを見ているが、人気者の邪魔するのも悪いのでここはスルーで。


「なあ、スプラよ。もしかして、この行政府…未完成ではないか?」

「え?」


 ひとけを避けて中央階段に座って極楽発砲水をチビチビ飲んでたら、上から降りてきたムガンさんが変なことを言ってくる。


「いや、完成したと思いますけど……え、完成してない?」

「ムガンよ、それはどういうことじゃ?」


 ムガンさんの言葉が聞こえたのかダガンさんが怪訝そうな顔で近寄って来る。


「ワシの仕事にケチをつける気か?」

「ケチなどと。ここまで見事な作りのものにケチなどつけられんわい」


「じゃ、どういうことじゃ」

「ふむ…やはりこれじゃな」


 そう言ってムガンさんが中央に立てられた300年白樹をペチペチと叩く。


「ほう、それに気づくとはやはり元は王家に連なる者ということか」


 そこへ樹具良具ティソノさんもやって来る。


「その300年白樹はエルフ王家にしか伐採を許さぬ気高き大樹。加工するのも王家と四公家にしか許されん。この白樹は“人”を見るのだ。ムガンよ、その白樹の声を聞くがよい」


「声かの…」


 ムガンさんが300年白樹に手を当てて目を瞑る。すると、それに応えるように300年白樹が薄っすらと光を放った。


「なるほどの。ではやってみるか。だがそれには、この行政府に使われとる黒樹とそれに見合う黒鉄、これらで作った槌が必要になるが……」


 ムガンさんがダガンさんとガガンさんを見る。


「100年黒樹はあるが、これに見合う黒鉄となると……ふむ」


 ガガンさんが腕を組む。黒鉄か、始めにガガンさんと出会った地下で採れたっけか。あれじゃ駄目なのか?


「なんですか、スプラさん。黒鉄ならとっておきのを持ってるじゃないですか」


 目が座ったヒツジイが五祥霊砲酒を片手に話に入ってくる。とっておきの黒鉄? なんだそれ?


「え、忘れてます? 自分とスプラさんしか持ってないアレですよ。千年鉄蛇のレアドロップの」

「あ、そうか、思い出した」


 ストレージから【万年黒鉄】を取り出す。


「な、なんじゃその黒鉄は。スプラ、それを見せてくれ!」


 ガガンさんが俺の手からひったくるようにして万年黒鉄を持っていくと、ダガンさんも目をまん丸にしてそれを凝視する。


「なんという輝き、そして凄まじいエネルギーを感じるぞい」

「これは相当掘らねば出てこんじゃろうな。それこそ100年に一度出るか出んかといったところか」


 100年……そんなすごいものだったのか。じゃあ、武器とかにした方がいいかもな。


「あ、黒鉄なら他にもあると思うん……」

「よし、ダガン、この黒鉄で作るぞ。この100年黒樹と万年黒鉄にすべてを注ぐんじゃ」

「おう」

「あ、えっと、黒鉄なら他にも……」


 ……行ってしまった。ものすごい鼻息荒かったな。アレは流石に止められない。



「ほほ、これでこの【万年黒鉄】を持っているのは自分だけってことですね」


 そんなことを呟きながら口元を歪めたヒツジイが去っていく。


「……まあ、仕方ないか」


 そのうち地下の炭鉱の先でも探検してみよう。もしかしたら石炭意外に鉄とか見つかるかもしれんし。


 



「……」


 ……うん、俺、やっぱりこういう場は苦手だ。


 五祥霊砲酒や極楽発砲水を飲み、皆が盛り上がっている。だが俺としてはこういう場が超苦手だ。理由は良く知らない人がたくさんいるから。クレオ、ゴマッキさん、マドレアルたち4人以外の30名のプレイヤー。俺は彼らの事をほとんど知らない。そしてマドレアルたちは玄武岩ゴーレムの活躍でヒーロー扱いされ、クレオとゴマッキさんは女性プレイヤーと言うことで囲まれている。スソノさんも同じく囲まれ、ティソノさんはスソノさんとプレイヤーたちの距離を保とうとしきりに体を入れている。


 ってことで、俺は一人ポツンとしている。


「なあ、兄ちゃん、俺たちもう帰りたいんだけど」


 そんな俺に話しかけてくる天使の声。


「あ、帰るの? じゃあ送るわ」

「え、別に自分たちで帰るから……」

「いいって。ほら、畑は衛兵とかも来るみたいだしさ。危ないから送ってくって」


 怪訝そうなデッカイ達を無理やり農屋まで送ることにする。



「じゃあ、また明日な、兄ちゃん」

「またね、お兄ちゃん」


 デッカイ達が満点の星空の下、畑を出て帰っていった。


 流石にこの時間じゃ衛兵もいなかった。ってことでゆっくりと畑を見て回る。星空の下の畑は初めて見る気がする。たまには夜もいいもんだ。


「さ、じゃあそろそろ戻るか……おっ?」


 農屋の入り口横の薬草花壇。そこには昼に植えた【陽光草】(品質8)が花壇一杯に数を増やしていた。しかもやたらとキラキラしている。


「そっか、熟達先生が言ってたのは数を増やすためだったのか」


 熟達先生からも“採取してもオッケー”とのお言葉をいただいたので、採取する。



陽濫草ようらんそう】(品質8)

 日当たりのよい肥沃な場所でのみ自生できる一年草。世界中でも生息地は限られ、市場に出回ることは稀である。あふれる陽光をその身に受け、陽光のエネルギーを土中からの成分と結合させて体内に凝縮蓄積させた【陽光草】上位種。

 葉は最高品質の中級キュアポーション(熟睡)に必須とされ、根は多用途に用いられる。



 なるほど上位種になったのか。


「【陽濫草】かあ。熟睡の中級キュアポーションなら【陽光草】で十分なんだけどなあ。あ、でも【陽光草】には根っこに熟睡耐性上げる効果があるんだよな。 【陽濫草】はどうなんだろ……ま、とりあえず」


 花壇の【陽濫草】を全て採取しておく。


プルプル


「ん? フレコ? あ、クレオか。流石に場を離れすぎたか」


『はい、クレオ。今から戻るから』

『スプラ君、ごめん! 油断した!』


『はい? なにが?』

『……』


 切れた。なんだ? とにかく一旦戻るか。




「……なんじゃこりゃ」


 急いで行政府に戻ってみると、そこには床に倒れる大勢のアバター。クレオもマドレアルも。ヒツジイが口元を歪ませたまま倒れている。ティソノさんたちエルフも倒れている。つまり全員が倒れている。


「……あ、ゴマッキさんがいない」


 急いで外に出る。が、どこにもゴマッキさんの姿がない。


「あちゃー、やっちゃったっか」


 こうなるともうフレコも通じないしどうにもならない。


「ま、仕方ないか」


 とりあえず、全員に熟睡キュアポーションを使って起こしていく。


「なんだったんだ、今の」

「なんか浮いてたんだけど?」


 ゴマッキさんの熟睡攻撃を初めて受けた従魔組がざわつく中、UMA研の4人が騒ぎを収めるために奔走する。



「そっか、スプラさんのそれのせいだったんですか」

「結構危険なんですね」


『ガウ』


 ヒツジイの機転で、今回の件は俺が連れている犬…じゃなくて冥哭鵺のせいだということで事なきを得た。これでさっきの口元歪めてた件はチャラにしておこう。


「スプラよ、完成したぞ!」

「どうじゃ!!」


 そんなことをしているうちにマグマ工房からダガンさんとガガンさんが戻って来る。ガガンさんの肩には艶やかな黒い大槌。



【時代の黒槌】

 新たな時代の幕が開く時、悠久の因果を辿りそれは姿を現すであろう。



「ほほう、見事な仕事じゃ」

「ほう、おぬしその若さでこの違いがわかるか。さすがは王族の血」


 ムガンさんの誉め言葉にガガンさんが満足そうに頷く。


「うむ、この白樹も勢いよく反応しておるようじゃ。では、移動するとしよう。この行政府のてっぺんじゃ」


 ガガンさんから【時代の黒槌】を受け取ったムガンさんがそれを肩に担ぎ階段を上ていく。


 ムガンさん、ダガンさん、ガガンさん、ティソノさんにいつの間にか合流していたスソノさんも一緒に行政府の三階屋根に上る。プレイヤーたちもついてこようとしたがダガンさんから「屋根を壊す気か!」と一喝され一階フロアで待機している。



「では、完成させようかの」


 ティソノさんによって樹バリアが解除され、静まり返る満点の星空の下、ムガンさんが300年白樹のてっぺんを前に【時代の黒槌】を振り上げる。


 すると俄かに大地が振動を始める。


 数秒後、今度はそれに呼応するように300年白樹から不思議な共鳴音が聞こえてくる。


 ──何かが起きようとしている。


 否応なしにそんな気配が場を支配していく。


 すると、ムガンさんの目に赤い炎が発現する。そしてその炎は頭へと移りそのまま一気に全身を燃え上がらせた。


「ムガンさん!」

「大丈夫じゃ。見ておれ」


 ポーションを使おうとした俺の腕をダガンさんが制す。


「うおおおおおおおおおっ」


 燃える炎に包まれたムガンさんの体中の筋肉が盛り上がると、気迫一声、振り上げている時代の黒槌を300年白樹のてっぺんに叩きつけた。



 ゴーーーーーーーーーーーーーーーーン



 夜のクレーター……第二エリア全土に響き渡る鐘の音。

 それは何かの到来を告げるかのように何度も何度も周囲の崖に反響しながら薄れていく。


 訪れる静寂。そして鼓動を始める大地。


 大地が揺れ始め、どんどんと激しさを増していく。行政府の一階フロアに残っていたプレイヤーたちもワラワラと外に出て来たようだ。そして行政府のてっぺんで燃え上がっているムガンさんを指さして歓声を上げている。



「はああああああああっ」


 ムガンさんの気魄一閃、その体を包む炎が【時代の黒槌】を通して300年白寿に流れ込んでいく。いや、むしろ白樹が炎を吸い込んでいるようにすら見える。ムガンさんを覆う炎が徐々に小さくなり、それに伴って白樹は激しく輝き、その色はついに橙色へと変化した。


「よしっ」


 爆発寸前といった輝きを放つ白樹から距離を取ったムガンさん、俺の横で槌を降ろし、額の汗を拭う。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 地面の揺れがさらに激しくなる。地の底から得体のしれない何かが沸き上がってくる……そんな不気味な音が一帯を支配していくと、地上にいるプレイヤーたちの歓声が徐々に悲鳴へと変わっていく。



 カンカンカンカンカンカンカンカンカン


 大地からの沸きあがる音の次は橙色に輝く300年白樹から金属を打つような連続音、そして次の瞬間…



 300年白樹の橙色に輝くてっぺんから夜空に向けて激しい炎の柱が立ち昇った。



「「おおおおおおおおーーっ」」


 プレイヤーたちの大歓声の中、天高く立ち昇った炎の柱がまるで木の枝が伸びるようにして夜空に燃え広がっていく。だが、これだけの大きな炎にも関わらず熱さは微塵も感じない。


「こ、これは……なんという清らかさだ。このような破壊と対極をなす炎が存在するとは」


 ティソノさんが言葉を失う。スソノさんも茫然としている。


「これほどの炎は180年の生涯で初めて見るの」

「そうじゃな」


 ダガンさんとガガンさんも炎を見上げる。


「皆の者、こんな真下ではよく見えんじゃろ。離れるぞ」


 そう言ってムガンさんは黒槌を担ぐと屋根をヒョイヒョイと降りていき、地上で歓声を上げるプレイヤーたちにも声を掛けて一緒に北へと移動していく。それに続いてドワーフ兄弟とエルフ兄妹も北へと向かう。


 「それじゃあ」と、その後に続いて俺も向かう……はずが、なぜか足元につれている冥哭鵺が屋根の上から動こうとしない。仕方がないので、冥哭鵺を置いて縄を伸ばしながら皆の後を追いかけていった。



§


 クレーターの中央に位置する建設途中の街。


 そこには崩れかけの城壁に登って空を見つめる50人にも満たない人影があった。


 そのすべての瞳には、広い夜空に煌々と燃え盛る、街を覆い尽くすほどの巨大な炎の大樹が映る。



 だが、ただ一人。


 漆黒の大槌を担ぎ空を見上げる一人のドワーフの瞳にだけは、その炎は水面に映るように揺らめいて見えていた。


 そして、その時の俺にはその意味など知る由もなかった。




 第三部 復活の炎 完



第三部も最後までお読みいただき本当にありがとうございます。

皆様に支えられて第三部を完結させることができました。


本作はしばらく休憩となります。

第四部に関しては現在執筆を続けていますが、完結できる道筋が見えてきましたら投稿を開始させていただきます。回収していない要素が多い中ですが、第四部の中で回収されますので、モヤモヤされる方がいらっしゃったらすみません。


皆様にとって、よい年の瀬となりますように。


感謝を込めて 作者より


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