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薗木異世界総合法律事務所Ⅱ  作者: 園木まさ
第1章 薗木異世界総合法律事務所の日常 ~なかなか来ない異世界相談?~

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第2話 なかなか来ない異世界相談者

「……ぃ」

「ぅーん……」

「……せい」

「……??」

「おーい、先生」

「うん?あれ、城石さん」

「はい。おはようございます。と言っても、今、お昼の2時過ぎてますよ?」

「勇者は……?」

「勇者??先生、何言ってるんですか?異世界相談が来ないからって、夢で異世界に飛んでたんですかぁ?」

「え、ああ、夢か……」


 ここは……事務所の執務部屋か。

 どうやらランチが終わって事務所に戻って、自分のデスクの椅子に座っていたら、うとうとしてきて、いつの間にやら眠ってしまい、変な夢を見ていたらしい。今日は金曜日だ。今週の疲れが溜まっていたのだろうか。それにしても、妙にリアルで、現実感がある夢だった。あっちの世界が本当の自分が生きている世界ではないかと錯覚してしまうくらいに。

 そういえば、夢の中で蝶になってひらひら飛んでいて、目が覚めた時にはたして自分は蝶になった夢を見ていたのか、それとも実は夢で見た蝶こそが本来の自分で、自分は蝶が見ている夢なのか、みたいな話があったっけ。確か、荘子の説話だったかな。まさに今、そんな気分だ。


「あ、もう城石さんの勤務時間か。今日もよろしく頼むね」

「はい。大丈夫ですよ。よろしくお願いします」

 城石さんは、うちの事務所の事務員だ。勤務時間は一日4時間くらいにして、月に20日勤務してもらっている。今はパートタイム従業員だ。もちろん本来はちゃんと事務所の開く午前9時から事務所が閉まる午後6時までしっかりフルタイムで勤務してほしいのだが、独立したばかりで少々資金繰りが厳しく、仕事の時間を減らしてもらっている。城石さんの勤務時間は、おれのその日の予定次第で変則的なのだが、午後2時から午後6時までとすることが多い。そういうちょっと変則的な時間に働いてもらっているのには、少々、いや大きな理由がある。

 勤務時間を決めた時のやり取りを振り返る。



「先生、私、今、フルタイムで働いて大丈夫ですか」

「いや、実はそこはちょっと厳しい。経費を考えると……」

「そうですよね……じゃあ、フルタイムの半分。一日4時間くらいでしょうか」

「うん。それくらいかなぁ。ごめんね」

「いえいえ、大丈夫ですよ!私から無理にお願いして働かせてもらうことになったわけですし。この事務所が成長するまでは!」

「一日4時間、どの時間に入るかは、おれと城石さんのスケジュール次第でシフト組む感じかなぁ」

「そうですね。予めわかっている予定に合わせるのと、予め組んだシフトを前提に、先生も予定を入れて下さいね」

「そうだね。そうするしかないね」

 弁護士の予定は、毎週毎日異なる。裁判所に行く予定や、どこかへの出張相談、事務所内での打合せや相談対応、弁護士会の会務と呼ばれる仕事……これらを「手帳の空いているところ」にポンポンと入れ込んでいくので、一日として全く同じスケジュールの日はない。

「そこで、先生にちょっとお願いが……私のシフト、午後2時から午後6時を多めにしてもいいですか?」

「え?どうして?」

 おれとしては、どちらかというと午前中に来てもらった方が嬉しい。

なぜかって?

そりゃあ事務員さんが午前9時からいてくれるなら「ちょっと寝坊しても大丈夫だから」なわけだけれど……そこはちょっとカッコ悪いので伏せておこう。

「だって、今までの『異世界法律相談者』って、夕方くらいにいらっしゃることが多かったじゃないですか」

「あ、そういうこと。確かに、今までのご相談者はだいたい夕方から深夜にかけていらっしゃって、予約もなくいきなりってパターンだったね」

 城石さんは、やっぱり「異世界法律相談」に同席したいらしい。

 なるほど、それでそういうシフトを組みたいわけか。

 それにしても、異世界相談ありきでシフトを組むなんて、よっぽどだな。

「ですよね。なので、私、その時間はなるべく事務所にいたいんです」

「うん。そこは城石さんの都合で構わないよ。でも、そうすると、午前中はどうするの?」

「ゆっくり寝させて頂きます」

「え、ああ、そういうこと」

 むむ……おれも寝たかったのに!

「それに、私、事務所の近くの塾で、先生のアルバイトもしようかと思っているんです。面接が終わったところで、採用してもらえそうです。土日も入れたら週に8~10コマくらいなら受け持てるかなって。平日の授業が夜7時とか8時くらい開始なので、事務所終わってその流れで塾に仕事に行くこともできますから。あと、午前中にまた違うバイトを入れることもできます」

 城石さんは、ダブルワークあるいはトリプルワークを考えているようだ。

 おれがちゃんとフルタイムの給料を出せないばっかりに……

 そんな苦労をかけさせてしまって、何だか大変申し訳ない。

 司法試験をあきらめてまでおれの事務所の事務員を引き受けてくれたんだ。城石さんのためにも、早く事務所を成長させて、しっかり稼げるようにならなくては!

 「おれも寝たかったのに」とか考えている場合じゃない!

「何か、悪いね。」

「いえいえ、私もこの『薗木異世界総合法律事務所』をしっかり支えたいって思っているし、私のやりたいことなので!お構いなく!」



 そういうわけで、うちの事務所は、ちょっと変わったシフトを敷いている。確かに、もし異世界相談者が現れた場合、城石さんがいてくれた方が心強い。そんな理由もあって、このシフト体制に不満はない。ないのだが……

「今日、異世界相談者、いらっしゃいますかねぇ」

「うーん。どうだろう。独立して事務所開設して以来、3か月経つけど、全然来ないからねぇ」

 そう。問題があるとすれば、独立開業以来、全く異世界相談者が訪れて来ない!ということだ。せっかく思い切って、事務所名を「薗木異世界総合法律事務所」なんて変わったものにしたのに。


「先生、今更ですけど、お尋ねしていいですか?」

「うん。どうしたの?」

「以前、廣田総合法律事務所にいらしていたエルフのオーランさんとか、スライムのプニョンさんとか、ドワーフのタンゾウさんとか、どうやって事務所に来られたんでしょう?」

「あ、それ、話したことなかったっけ?」

「え!?私は聴いてないですよ?」

「そっか。ドラゴンの交通事故のご相談のノモイさんの時、城石さんいなかったもんね」

「はい。その相談のときは私、インターン終わってましたもん」

「ノモイさん、異世界から来ていたみたいだけど、やっぱり同じ人間だったから、色々とお互いに尋ねやすくって、『どうやって事務所に来たんですか?』って聞いてみたのよ」

 反対に、おれもノモイさんから色々尋ねられたんだった。あっちの世界にはないと思われる保険の話とか、車、自動車のこととか。

「ノモイさん、何ておっしゃってたんですか?」

「そうだね。異世界の方になぜか『法律事務所』って看板の掛かった建物があって、その中には、誓約書らしきものが置いてあるんだって」

「はい」

「それで、その誓約書には、3つの誓約事項が書いてあった」

「ふむふむ」


「ひとつ目は、法律事務所には弁護士という人がいるから『先生』と呼んで敬意を払うこと」

「ああ、それで皆さん、先生のことを『先生』って呼んでくれるんですね」

「うん。そうみたい」

「ふたつ目は?」

「ふたつ目は、相談の後は、感謝を伝えること、だったかな。感謝は気持ちだけでもいいみたいだけど、プニョンさんが『御礼の品も届けた方がいいぷにゅ』って言ってくれていたらしいよ」

「それで、木箱の贈り物が届くんですね」

「そうそう。そして最後は、これが面白いんだけど、裁判の証人尋問の時と同じなんだよ」

「え、どういうことですか?」

「良心に従い、真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓うんだって。この3つが書かれた誓約書に署名をして、宣誓をすると事務所にたどり着いたんだって」

「そうなんですか!帰りはどうするんですか?」

「帰りは、『自由』って言っていたね」

「え、自由?」

「何かしら自分で帰る方法を決めて、それを実行しながら『帰る』って念じると帰れるらしいよ」

「それで、プニョンさんとか、タンゾウさんとか、不思議な帰り方だったんですね」

「うん。そうみたい」

「ところで先生」

「うん?」

「その、3つの約束を誓約して事務所に来るっていう方法ですけど」

「うん」

「それをすると、『どこ』と繋がっているっていう話だったんです?」

「え……???」


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