到着~
ごきげんよう、アニス・ノア・アイスター 15歳です。
なんていう挨拶も最後になるのかな。
16歳になったらダイナチェイン王国での成人となり、王太子殿下との結婚式が予定されている。
結婚するとアニス・ノア・ダイナチェインになる。
ノアというのはアイストリア皇国での皇族を意味する。
ちなみに母陛下は公爵家の出身でサフィニア・アス・アイスターという。
アスは親が皇族のときにつく。生まれながらの皇族でなければノアはつかない。
結婚かー。結婚して外国に行く可能性を考えなかったわけではないけれどダイナチェイン王国は遠すぎたわー。
馬車での移動も退屈だしお尻も腰も痛くなるし大変だった。
ゆっくりできるように、と馬車の中は1人だったから好きにできたけどさ。
魔物の群れに遭遇したときは、びっくりした。
わたしに恩を感じていたという冒険者が魔物の群れに先に警戒して当たっていてくれたのは、嬉しかった。
ほらね。他者にしたことは自身に還る、じゃん。
気分を良くしたわたしは髪飾りをあげた。
冒険者はケガが絶えない、というし生活に困ったときに売って足しにしてもいい。
そして、また、わたしがピンチのときは是非、助けてもらいたい。
こんな遠方に来たのは生まれて初めてだったけれど移動以外は楽しかった。
安っぽい宿(その街では一番良かったのだろうけど)もおもしろかったし、移動途中のご飯も楽しいし美味しかった。
きっと苦労して準備してくれたのだろう。
2回だけ野営もした。
野営なのに、こんなに贅沢な寝床でいいの?と思うくらい快適だった。
ただ、トイレだけはいただけない。考えたくない。
だから、もう野営はしなくていいや。
ダイナチェイン王国はアイストリア皇国と違って低い建物が多い。
積雪のためらしい。
雪は前世振りだね。ちょっと楽しみ。
王都は素晴らしく発展したところだった。アイストリア皇国以上だった。
ダイナチェイン王国の服装も何だか懐かしい感じがする。
前世のキモノという服装を彷彿させるのだ。
下はスカートなのだが帯と上半身がキモノふう、城下はカーテンの隙間からしか窺えなかったが庶民は、ほとんどが巻スカートに帯だ。が、袖の長さが短くてブラウスみたい。
絵では知っていたが、こうして見ると、なかなか可愛い。
男の人はアイストリア皇国と、あまり大差なかった。なんでだろう。
ちらほらとタイトな短い巻スカートの男の人がいたけれど何が違うのかしら。
あぁ、もっと良く見たい。
そうこうしているに、ついに王城に辿りつく。到着~。いやー、ホント遠かった。
城下では、わたしのことは秘密にされていたけれど、さすがに王城は歓迎モードだった。
門を越えて更に進むと、たくさんの人が待っていた。
大丈夫大丈夫。わたしは皇女。誰も噛みついてこないよ、堂々としなきゃ。
馬車から降りるときはアルセンが手を貸してくれた。
周りがザワザワとしだす。
ん?と思ったが気にしない。
わたしは、ゆっくり降りると中央の人物に丁寧に礼をする。
「国王陛下御自らのお出迎え、恐悦にございます。アイストリア皇国皇女、アニスと申します」
王太子殿下は出迎えてくれるだろう、と思っていたが、国王陛下まで出迎えてくれるとは、びっくりした。
ところで王太子はどこだ?国王陛下の絵姿は見せてもらったが王太子の顔は、未だにわからない。
「遠路、大儀であったな。王太子も首を長くして待っておった。まずはゆっくりされるが良かろう。後ほど王太子も交えて挨拶をしよう」
ん?ここに王太子いないの?
わたしを歓迎してないの?
ちょっと不安になってくるんだけど。ねぇ。
部屋に案内される。貴賓用の部屋みたいだ。
わたし専属の傍仕えだという女性と男性を紹介された。
どちらも5人ずつ。多いな。特に女性。
男性については、まぁいいだろう。こちらの世界のイケメンだとだけ言っておこう。
女の子が可愛い。全員可愛い。10歳くらいの女の子もいる。
彼女たちに手伝ってもらって、着替えて身だしなみを整える。
すぐに挨拶をするためにテラス付きの広い部屋に案内された。
窓が大きく開放的で明るい。
室内にも植物が植えられていて、ここで昼寝とか最高、などと、つい思ってしまう。
既に3人の人物が待っていた。その中の若い男性にびっくりする。
超イケメンがいる。きっと、これが王太子だ。
ちょっとワイルドなイケメンだ。黒髪だ。目はグレイ。すっごい合ってる。色味も素敵。
背が高い。ガッシリして筋肉質だとわかる。
そりゃ影と光なんて言われて、その強さとむごさで恐れられてる人だ。鍛えられた体であることはわかってたはずだ。
きっと素晴らしい腹筋をお持ちなんだろう。
マッチョ好きではなかったはずだが腹筋を見てみたい。
もっと見ていたかったが、既にガン見している、と言ってもいいくらい見てしまっている。
何とか国王陛下に視線を向ける。
陛下は美人だった。わたしの感覚でいうところの。
つまり、こちらではおブスってことだな。非常に残念だ。
「噂以上の美少女だな。きっと、こちらの衣装も似合うであろ。既に何着か用意しておる。慣れるためにも、こちらの衣装も着てくれると嬉しい」
「ありがとうございます。ダイナチェイン王国の衣装に大変興味がございます。是非、着させていただきます」
陛下は、微笑んで頷くと、自分の隣にいる男性を紹介してくれた。
「これは、わたしの夫だ。クライヴという」
「クライヴです。本当に綺麗な方で、びっくりしたよ。よろしくね」
うん、気さくなフツメン。
「そして、王太子のジェイクだ」
「.....」
「ジェイク」
「.....」
「ジェイク!」
「...あなたの夫になる。王太子のジェイクだ。よろしく頼む」
「アニスです。こちらこそ、よろしくお願いします」
なになに、わたしに見惚れてた?
なんて自惚れるな、て?でも多分、本当に見惚れてたんじゃないかな。
わたしもガン見してたけど、王太子は、もっと見てたよ。ちょっと怖い。瞬きして。
でも、そこからは和やかな雰囲気でお菓子を食べ、お茶を飲み、お話をした。
話は、陛下、男性陛下、わたし、の3人で王太子は聞かれたことにYES、NOと答えるだけだった。
寡黙なタイプ?
うーん、マズい。苦手かも。わたし、お喋りできない人よりお喋りできる人の方がいいんだよなぁ。
「お互いを知るために、今夜から食事を共にする、というのはどうだろうか。予定を合わせられないときは仕方ないが、できるだけ...」
「はい。わたしは是非そのようにしたいと思います」
「「え!?」」
「え?」
びっくり。男性陛下と王太子がハモって驚いている。
いや、今日、初めて会ったんだよ?でも、結婚することは決定なわけで。
仲良くなる努力はした方が良かろ?
陛下が2人をジロリと睨んでいる。
「...あなたは、わたしと食事を共にする、と?」
「はい。王太子殿下は、食事は、いつもどうされているのですか?」
「...大抵、1人だな。仕事があるし」
「お忙しいのですね。それなら合わせられるときだけでも構いません。一緒に食事できればと思います」
「本当に?」
「?はい」
なんだよ。食事が嫌だとでも?
「わかった。できるだけ合わせよう」
「ありがとうございます」
「合わせるんだぞ?その機会は多いだろう」
「.....はい?」
意味わからん。イケメンだけど、やっていけるかな。




