今度は孤児院
今日は病院へ出勤の日だ。
わたしは少し浮かれている。今日のガードはクリスとユーリなのだ♪
そして病院へ行くため外出なのだ。
馬車の窓から左を見る。馬上のユーリが見える。
じっと見ているとユーリと目が合う。手を振ってみる。
照れたように会釈するユーリ。
はぁん、カッコイイ。すっごいカッコイイ。そして可愛い。
病院には、あっという間に着いたが、院内を見回っているときに新たな問題に気づく。
普通の病棟は特に問題はない。女性が我儘なことは問題ではない。
気に入らないなら出て行ってもらうからだ。
病院には病院のルールがあるのだから。
問題は女性ではなく、5歳熱専門病棟だ。
治療費がかからないため、どんな貧しい子も治療を受けることができる。
そして、神殿からも5歳熱に罹った子が連れられてくる。
神殿から来る子は、ほとんどが孤児だ。その子たちは2つに分けられる。
身なりが清潔な子と、そうでない子。
それは大まかに醜い子供とそれ以外。
つまり、神殿でも容姿で差をつけられているのだ。
はぁ、おじいちゃんの言う通りだ。
「次に困った子供が現れたら、どうしますか?」(18話のときのこと)
どうしよう。
国立の孤児院を作る?ちゃんと教育も受けさせて...。
またお金がかかるよぅ。
でも子供は国の宝で未来だ。これは国として何とかしないといけないことだよ。
なんで放置されてんの。
帰りは来るときとは反対に沈んだ、というか考えこむことになってしまったため馬車の中は大変静かであった。
でも、時々、馬車の中からユーリを眺めるのは忘れない。
だって癒しなんだもの、サプリなんだもの、格好いいんだもん。
ユーリが、どうしたの?というふうに首を傾げているのを見てふるふるしていたのは内緒だ。
そんなある日、わたしの執務室にライム兄様とジルリアン兄様が連れ立ってきた。
ライム兄様はイケメンな次男、ジルリアン兄様はちょいイケな三男だ。イケメンというのは、こちら基準。つまり、わたし基準で言うと、うーん、なわけだが、でも2人とも容姿で人を差別しないし、わたしに甘い大好きな兄たちだ。
「アニス、また何か新しいことを考えているだろう?それに僕たちも参加させてほしいんだけどいいかな?」
「どういうことです?」
「僕とジルでやってる仕事の中に新しい交易路開拓、というのがある。その1つにエアテスク港からの海路もあるんだけど、ここに孤児たちが住み着いて問題になっていることがわかったんだ」
兄様たちの話によるとエアテスク港に孤児がグループを作って住み着いて事故にあったり盗みを働くことがあるらしい。
海に糸を垂らせば魚が釣れる。
盗まなくてもお金がなくても食料を調達できる、というわけで港に孤児が集まったらしい。
だが、そのために治安は良くないし子供が海に転落する事故、船に勝手に乗り込んだり、船から物を盗んだり、つり針(漁師が使う針は大きいものもある)でケガをしたり、と問題が絶えないようだ。
一番近い神殿は、全員を預かることができるほどの規模ではなく、他の神殿も考えたが遠い。
さて、どうしようかと思っていたところ、傍仕え経由で、わたしが孤児院を作ろうとしている話を聞いたらしい。
...情報漏洩ではなかろうか。
だが、レスター兄様程ではないが、この2人も優秀だ。
巻き込まれてくれるというなら、是非、巻き込まれてもらおうではないか。
ライム兄様とジルリアン兄様は前もって考えていたようで、大まかなところは、わたし達の考えていた内容だが前提を変えることになった。
わたしは国立で考えていたのだが、ライム兄様とジルリアン兄様、そして、わたし、の3人の私設孤児院にすることにした。
3人のポケットから孤児院を運営しようというのだ。
確かに、それならかなり融通が利いた施設になる。
場所は病院の隣だ。
病院なんて大きなものを作るため城下内でも少し外れたところに建設するしかなかったのだが、これが功を奏した。
建設許可は、すぐに下りた。
レスター兄様が、疎外感を感じたのか少し拗ねたようにしていたがライム兄様とジルリアン兄様に今まで独占していたんだから今回は引け、と言われてしょんぼりしていて可愛か、可哀相だった。後で慰めてあげよう。
とりあえず住居部分だけ早く仕上げてもらうことにした。孤児院としては、ちょっと豪華な3階建て。
エアテスク港から、ここまで馬車で1か月近くかかる。
子供たちには兄様たちが直接、城下に来るように説得したらしい。素晴らしい行動力。
皇子から直接聞けば不安も薄まるに違いない。
到着のときは、わたしも出迎えることにした。
私設の名前は『アイスター学院』
この世界は、この国に限らず平民の教育水準は、それほど高くない。
この施設は孤児院だが全員教育を受けさせる。優秀な子には更に高等、専門教育も受けさせるつもりだ。
ここの出身=ちゃんとした教育を受けている子、という認識を世間に持ってもらうために名前にも学院、と入れることにした。
ここを出た後、自立していけるように。更には少しでも就職に有利なように。
兄様たちのアニスの名前を入れよう、という提案は断固お断りした。
それが恥ずかしい、と何故わからないのか、あんたたちの頭をカパッと開いて見てみたいわっ!
そして、シモンも教室ができたら、ここへ通ってもらうことにした。
(みなさん、覚えてる?自分の顔を水差しの破片で傷つけた子だよ)
エイダンに預けたものの何だか心配で、ちょくちょく様子を聞いたり、連れてきてもらって「嫌なことがあったら、すぐにわたしに言うように。わたしが直接保護するから」と何度も言っておいた。
シモンは、あまり笑わない子だったが少しずつ、わたしには心を開いてくれているようで嬉しい。能面顔だが、にこっと笑うと可愛いのだ。顔の傷は、くっきり残っていて痛々しいけれど。
今は宮城で働くために必要な礼儀作法を学んでいるようだ。
『アイスター学院』でも初歩的な礼儀作法を教えることにしよう。
そして、ついにエアテスク港から子供たちがアイスター学院に着く日だ。
わたしはライム兄様と一緒にアイスター学院へ行き、出迎える準備を始めた。
既にアイスター学院には12人の子供たちが住み始めている。
イケメン率の高さに目が嬉しい。
出迎えるときも12人の子供たちと一緒に出迎えた。
エアテスク港から来た子供たちは総勢23人。
下は3歳から上は11歳。
23人は、わたしにびっくりしていた。皇都に着いたところに迎えにいっていたジルリアン兄様は、子供たちの顔に笑っている。
「女の子?」
「本物?」
「皇女様って何?」
ふふ。この23人もイケメン率が高い。そして小さい子の可愛らしいことったら!
いや、ショタではないよ?
その後、荷物整理等をしたが、子供たちは終始、誰かが、わたしの傍にいた。
「ここ、俺の部屋なんだって」と部屋を教えてくれたり、
「これ、俺と兄ちゃんの宝物なんだ」と綺麗な貝殻や石を見せてくれたり、
「皇女様は俺が好きなんだって」と先にいた子供が嫉妬してくれたり...
楽園...、楽園か、ここは!
未来のイケメンがこんなにいます。
ここに入り浸りたい。いくら払えばいいですか。
コホン、とにもかくにも、アイスター学院の運営は順調な滑り出しだ。
あぁ良かった。もう大きな問題はないよね。少しゆっくりしたいよ。9歳(あ、もうすぐ10歳だけど)の発言じゃないけどさ。




