閑話3 勇者デイズ
二章最初の話がまさかの閑話。
「はぁっ!」
ズバン! と凄まじい音がして、巨大なオークが腹のところで両断された。オークは地響きを立てながら地面に倒れ込む。
場所は森林のようだった。
周囲には同様に両断されたオークの死体がいくつも転がっている。
「これで終わりか?」
オークを両断した青年が、仲間の方を振りかえる。黒髪に茶色の目。この世界に自然発生する色ではない。勇者だ。
「うん、雄平君。流石ね……ほとんど援護する隙がなかったわ。回復は?」
話しかけられた茶髪で長身の女性がため息をつきながらかざしていた杖を下ろした。
「いらん。オークぐらいじゃもう相手にならん」
青年は巨大な直剣を鞘にしまうと、さっさと歩き出した。茶髪の女性も遅れてついていき、そのあとを慌てて鎧の騎士たちも追いかけた。
「さ、さすがです、勇者樣方!」
「いいから、次だ。次は何を潰せば良い?」
「え、えぇと……次は特に問題は起きていないと言うか、他の勇者様のレベル上げのために依頼を回さないといけないのでして……」
騎士がしどろもどろになりながら答えると、ぎろり、と勇者、高槻雄平は騎士を睨んだ。
「他の勇者? あんなアホどものレベルを上げるぐらいなら俺を強くしろ。優先的に依頼を回せって前にも言っただろうが」
「は、はい! すぐ連絡致します!」
騎士の一人が全力で走り去っていく。駐屯地に戻って通信魔法を使うのだろう。
「はあ……雄平君、焦りすぎよ。前の鑑定ではもうレベル200を超えてたんでしょ? 勇者で一番強いどころか、騎士の誰よりももう強いわ。これ以上……」
「まだだ。生き残るにはまだ足りねえんだよ。忘れたのか、哀川」
「……忘れて、ないわよ」
勇者はもう7人死んでいる。
彼らの同期がたった3ヶ月で7人。そして、そのうちの2人はこの2人と同じパーティだった。
「俺たちが元の世界に戻るには魔王を倒さなきゃならない。それも、何体倒せば良いかも分からない。そのためにはまだこんなんじゃ駄目なんだよ」
「そうね……もっと早く、気付けば良かったわね」
「……あぁ、そうだな」
彼らは油断したのだ。
元の世界のぬるま湯につかっている感覚で迷宮に挑み、仲間を失った。
彼にとって大切な人を、失った。
「ねえ……まだ理沙の事……」
「黙れ。……本当に……白井が死んだ時にちゃんと考えておくべきだった」
「白井? あー……ええと、あのオタクの、最初に神殿で転移させられた奴だっけ」
「お前、忘れたのか……?」
高槻は呆れたような目を哀川に向けた。
「しょ、しょうがないでしょ。あんな奴の事覚えてられないわよ」
「……まあ、召喚されたばかりだったしそれもそうか。とにかく、あの時点でこの世界はゲームなんかじゃないと気付くべきだったんだ」
「白井みたいなオタクじゃなくて、普通の奴だったらもっと真摯に受け止めたでしょうけどね。ほんと、死んでも役に立たない奴!」
「おい、やめろ。死んだ奴にそういうことを言うな」
ふん、と哀川は肩をすくめた。
「あなた、案外真面目よね。なんでうちの大学にいたのよ」
「家が近所だったからだ」
「あっそ……」
そこで、走り去っていった騎士が戻ってきた。
「はあ、はあ……依頼、とってきました! Bランクの魔獣がメルバナ州の森に住み着いて牧場を荒らしているそうです」
「Bか……まあいい。経験値の足しにはなる。行くか」
「ええ」
高槻雄平と哀川花梨。
現状、たった2人にして最強の勇者パーティである。
そのパーティランクは、Sランクを裕に超えていた。
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「はぁ〜、暇だなあ、おい」
「暇じゃねえよ。手伝え!」
「俺は指揮する立場なんだっつの。はよ運べ」
「こんな作業に指揮もクソもあるか! 樹! お前も言ってやれよ!」
「斗真はっべぇーから、言っても意味ないぜ、大貴」
一方、こちらは3人の勇者が巨大な荷車を引っ張っていた。
正確には引っ張っているのは2人。一人は荷車に腰掛けて空を見上げていた。
戦術師、峰村斗真。
勇者の一人ではあるが、適当に理由を付けて立花、鏑木とともに神殿を抜け出した男である。
適当に二週間に一回ほど教会に顔を出しては、すぐに姿をくらまして行方不明になり、神殿の巫女の頭を抱えさせている。
「そもそも、俺戦術師だし。体力無いから無理」
「チクショー!」
「ベヒモス狩れたのは斗真の指示がなかったら狩れてないからなあ」
巨大な魔獣が乗った荷車を引っ張っている鏑木がははは、と笑いながら言った。
「これを狩人組合に売っぱらえばあと一ヶ月は持つだろ。そしたらまた神殿から遠ざかれるぜ」
彼らはとにかく神殿から遠ざかる事を目的にしていた。
魔王を倒せば元の世界に帰れるなんて眉唾な話を信じるほど彼らはバカではない。それまで利用されるのはまっぴらゴメン。自由に生きるためにはその影響下から抜けなければならないのだ。
だが、今のところどの街にも教会が存在し、神殿の手の者が常駐していた。
「つーか最近、騎士をよく見る気がするんだけど」
「あー、そりゃアレだろ。ちょっと前にこの近くにあるマルドゥーク大迷宮に餓狼が出たんだってよ。だからだろ」
「餓狼ゥ!? 餓狼ってアレだろ!? 人間虐殺しまくってるヤバい奴だろ!?」
「大貴、お前の語彙力もっべえーな」
「お前に言われたくないわ!」
とにかく、と峰村は手を叩く。
「餓狼討伐なんてのに駆り出されたら面倒だ。次の街に急ぎたいところだな」
「つーか、この町にずっといたのはお前だろ。なんでここにだけ10日も滞在したわけ?」
「そりゃ……まあ、アレだよ。マルドゥーク大迷宮の地下に断片たちの墓場はあるんだろ」
「?」
「……なるほどな、斗真」
鏑木がうんうん、と頷いた。そういうことさ、と峰村も頷く。
納得しないのはバカの立花である。
「お前、お前ほんとしっかり説明しろよ! 『なるほどな』で終わらすんじゃねーよ!」
「お前マジで察しが悪いな。バカって言われない?」
「言われてるよ! お前にな!」
ぎゃあぎゃあと喚く姿はどっちかというと、小柄なこともあいまってお猿さんである。
「マルドゥーク大迷宮は白井が落とされた場所だろ。脱出とかができんなら、一番近いこの町に情報があるはずだと思って調べてたんだよ……だけど餓狼のせいで騎士が増えすぎてる。下手に調べ周ると怪しまれそうだ。だからもう潮時ってこと。明日あの街は出るぞ」
「はぁーん、そういうことか! で、白井が脱出しててもし見つけたらどうすんだよ?」
「あ? あー……考えてなかったな……なんとなく探してただけだし」
「飯でもおごってやれば良いんじゃね? 迷宮の中に旨いもんなさそう!」
ぴーん! と指を立てて立花が提案するが、残り2人は呆れ顔で彼を見るだけだった。
「発想がっべぇーな、大貴」
「うるせえよ! ボキャ貧!」
「やるかコラァ! っべぇーぞ俺は!」
「お前の剣なんて当たりませーん! 忍者舐めんなよ!」
わあわあと2人が殴り合いを始めたせいで荷車は停止する。
はあ、とため息をついてもう一度峰村は空を見上げた。
「ま、結局山田は見つけられなかったしな。アイツぐらいは助けてやるさ」
作者的には峰村組気に入ってたりします。




