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最後の召喚  作者:
番外編(蛇足) ファル・アルフェの決断
24/24

3

一部焦土化した食堂を見回して大臣たちは深い深いため息をついた。

少し離れた場所で国王が『食堂を爆破させたバカはどこのどいつだ!』と怒りまくっている。

ロウ師匠はふぉふぉふぉと笑いながら犯人の名前を次々と上げていった。

名前を呼ばれた者たちは王を前に顔を真っ青にして正座している。


事の起こりはルフェ・ファルアが本当はファル・アルフェであると皆の前で告げたことだった。


朝は穏やかだった。

今日も一日何事もなく平穏無事に過ごせるだろうと誰もが思っていた。

だが、ルフェは研究所にいる全員(食事のために全員が食堂に集まっていた)を前に告白したのだ。

自分はルフェ・ファルアという名前ではなく、ファル・アルフェであると。

誰もそんな話信じなかった。

北国のファル・アルフェは上級魔導士だし、姿形が全く違う。

誰かがそう言うと、ルフェはポケットに入れておいたのだろう小さな小瓶を取り出し一気に煽った。

すると、たちまち姿が変わった。

金髪だった髪は緑色になり、鋭かった青い瞳も温かみのある琥珀色に変っていた。

同じなのは髪の長さと身長のみ。

顔立ちも全然違っていた。

誰もが知っている北国のファル・アルフェの姿がそこにあったのだ。


最初はルフェが研究成果を発表する為にこんなことをしたのだろうと皆が思っていた。

だが、ルフェは魔導士見習い。

『姿変え』の薬は中級レベル。ルフェには到底無理だった。

徐々にざわつく食堂内でルフェ…いや、ファル・アルフェは自らの罪を告白した。

ファルの告白を聞き終えた上級魔導士の一人がファルの胸ぐらを掴み頬を殴った。

ファルは大人しくその上級魔導士の気が済むまで殴られていた。

その上級魔導士はジュリ自らがスカウトしてきた者で、ジュリを神のごとく崇拝していた。

その上級魔導士だけじゃない西国の魔導士のほとんどがジュリによってその実力を見出した者たちだ。

この国でジュリを知らない魔導士はいない。

誰もがジュリに憧れていた。

誰もがジュリのようになりたいと日々鍛錬・研究している。

ジュリと過ごした時間は他の国の魔導士たちよりも短い。

それでも、この西国の魔導士はジュリを崇めていた。

最初は『神子の名代』という肩書だったが次第に一部の者以外は彼女こそが『神子』だと思うようになっていた。

それは平民や地位の低い貴族の間では当たり前のことのように浸透していた。

西国の『神子』と言えば『マリ・イシヅカ』ではなく、『ジュリ・ドウモト』だと囁かれるようになるのに時間はかからなかった。

西国にとって『ジュリ・ドウモト』はかけがえのない人だった。

本人は『私はそんなすごい人じゃない。だたのなんの力も持たない子供だよ』と笑っていたが……



「……で、ルフェが自分が北国の(真の)神子暗殺者の一人ファル・アルフェであると告白したからブチ切れたと?」

王の執務室に場所を移した爆破犯達とファル。

「だって陛下!ファル・アルフェは私たちの女神を裏切ったのに……」

一人の上級魔導士が悔しそうにファルを睨みつけた。

「まあ、お前らが言いたい事は十分に分かっているつもりだ。だが、ファルをこの国に呼び寄せ『特級魔導士』に育てて欲しいと依頼したのはジュリだ」

「え?」

「詳しいことは話せないが、ジュリはファル・アルフェが自分の後継者になりうる人物だと北国の魔導士協会会長に話していたそうだ。もっともルカ王妃に骨抜きにされていた7年間で状況は変わっている可能性はあるがな」

「ジュリ様が認めた後継者……」

王の言葉に上級魔導士たちは口を閉じた。

「で、ファルは今まで姿も名前も変えて平穏に暮らしていたのに、馬鹿正直に自分がルカ王妃たちの言葉に乗せられジュリを逆恨みしていたファル・アルフェだと告白したと……それがなぜ爆発に繋がるんだ?」

「ふぉふぉふぉ、簡単なことじゃよ。ファル殿がジュリ殿に行った行為は全世界の人間が知っていることだ。我が国の魔導士はジュリ殿崇拝がかなり強い。ジュリ殿はものすごーく嫌がっていたがな。ジュリ殿の命を狙っていたファル殿のことが許せずに魔力が暴走した結果だろう。そういえば、トール殿の時は騎士の鍛錬場が半壊しましたな」

ロウ師匠の言葉に苦笑するのは王の護衛騎士たち。

「あの時の修理代はしっかり破壊した者たちから徴収したから今回もこやつらから徴収するとしますか」

ロウ師匠の言葉に顔色をなくしたのは上級魔導士達。

「おお、ファル殿からもしっかり徴収しますぞ」

「はい」

ファルは反論もせずにロウ師匠の言葉に頷いた。


「で、ファルはなぜ本来の姿に戻った?あのまま偽りの姿でいればうちの国の者たちからこのような仕打ちを受けることもなかったのに」

椅子に深く座り、正直に話せと目で訴える(解毒剤を渡したことは棚に上げた)王にファルは小さく頷いた。

「昨夜、夢に神様が現れました」

「神様?あの中央国の神殿で会った?」

「はい」

しっかりと頷くファルに王と護衛騎士の二人は顔を見合わせた。

「神様に『お前がどのような道を歩もうが勝手だ。だが、彼女を裏切ったままでいるな』と叱られました」

視線を落とし、俯くファル。

「裏切ったまま?どういう意味だ」

「僕は……僕は好きで神子……ルカ王妃の言いなりになっていたわけではないのです」

「は?」

突然のファルの告白に王を始め執務室にいた全員がファルを凝視する。

「僕の両親の死はジュリ姉さまのせいじゃないことは幼かった僕でも理解しています。あの時、ジュリ姉さまはずっと『ごめんね、ごめんね。ファルのお父さんとお母さんを助けてあげられなくてごめんね』と謝り続けました。しかし、彼らが父であり母であったことは一度もなかったので僕には何の感情もありませんでした。それをジュリ姉さまは両親を失ったことによるショックによるものだと誤解し、僕から距離をとるようになりました。それを知ったルカ王妃の取り巻き達が僕を取り込もうと画策したのです。僕の存在そのものがジュリ姉さまの弱点だという事は皆、気づいていましたから。僕はジュリ姉さまを裏切ったふりをして彼らからジュリ姉さまを護ろうと思ったのです」

淡々と語るファルに驚きを隠せずにいる西国の者たち。

「……なるほどな。我々もそなたに騙されていたという事か。そなたの演技力はすごいな」

「僕がジュリ姉さまを裏切ったふりをしてルカ王妃に近づいた頃からルカ王妃が無意識に放っていた術に囚われていきジュリ姉さまを憎むという感情を植え付けられました。その術に気づいたのは上級魔導士から魔導士見習いに落ち、ルカジオ様に西国に赴くように勅命を受けた時です。術が消えた時、僕は僕でいることに嫌気がした。ジュリ姉さまを護るためと言いつつ大好きだったジュリ姉さまを苦しめた自分自身が許せなかった。そんな時『姿変え』の薬を差し出されそれに縋ってしまったのです。しかしそれも気休め程度にしかなりませんでした……名前を変え姿を変えても僕は僕でしかないと改めて思い知る結果だけが残りました」

深々と頭を下げるファルに王は顔を上げるように言うと椅子から立ち上がりファルの肩を叩いた。

「ならば、ルカ王妃の呪縛が解けた今、お前は新しい自分を築けばいい」

「新しい自分……ですか?」

「ああ、お前はここで生まれ変わればいい。北国の者たちが知っているファル・アルフェはもういない。今ここにいるのは特級魔導士を目指し、ジュリの残した魔術研究を究めようとしている一人の魔導士見習いファル・アルフェ。なあ、そうだろう?ロウ」

王の後ろに控えていたロウ師匠は満面の笑みを浮かべ頷く。

その近くに控えている上級魔導士達は複雑な表情を浮かべながらも頷く。

「……ありがとうございます」

瞳に涙を浮かべながら礼を言うファルに王は小さく笑う。

「ファル・アルフェ魔導士見習いはこれより10年以内に特級魔導士の資格を取得するよう西国の王ヴィート・ウェス・クローチェが命じる。10年たっても特級魔導士の資格を有することができない場合は……その時に考えよう。10年後ならば私も退位できるからな」

王の言葉に護衛騎士二人とロウ師匠は呆れたように王を睨みつけていた。

「10年後ならば王太子も成人を迎え、私は堂々と退位できる。それは私が即位した時に決めた決まり事だろ?今から楽しみだな。10年後、この国は今よりももっと魔術に強い国になるだろう。私が退位した後、私は魔術研究に戻る。その時、ファルにはこの国の魔導士達を束ねる存在になっていてほしい。もちろん、特級魔導士の資格を有した時、北国に帰ることも許可しよう。だが、そなたはもう北国には戻るつもりはないのだろう?」

意地の悪い笑みを浮かべる王にファルは苦笑しながら頷く。

「はい、僕は生涯この地に留まります。ジュリ姉さまが残してくれた術をすべて取得し、後世に残すのが僕がジュリ姉さまから受け継いだ使命だと思うので……ただ、僕一人では全てを全うすることはできません。こんなことを頼むのは図々しいですが、先輩方どうか僕に力を貸してください」

上級魔導士達に向かって深々と頭を下げるファルに彼らは顔を見合わせた後、手加減は一切せず研究をともに行うと告げた。

まず、その第一歩として1年以内にファルを上級魔導士まで鍛え上げると王に宣言したのだった。

「ふぉふぉふぉ、ジュリ殿以上のスパルタ教育が始まりそうだのう~」

ロウ師匠と王はファルと上級魔導士達を眩しそう(王は羨ましそう)に見つめていたのだった。





~十数年後~

「……『北国・上級編』『西国・上級編』は以上になります。『東国・上級編』と『南国・上級編』はもうしばらく掛かりそうです。術式の中に地方の言葉が組み込まれているため解読に時間がかかっています」

一日の終わりにロウ師匠に報告するファル上級(・・)魔導士。

ロウ師匠は研究ノートを受け取り満足そうに頷き中身を確認する。

「ファル、ジュリオ。1年後、王が退位なさる」

研究ノートをぱらぱらと見ながら告げられた言葉にファルとジュリオの表情が引き締まった。

「先日、王太子殿下が成人の儀を迎えられた」

「はい、国中が喜びにあふれております」

「1年掛けて殿下は陛下から玉座を譲り受ける準備をする」

淡々と語るロウ師匠。

「王の退位に伴い、ワシも協会長の座を退く」

「「ロウ師匠!?」」

驚く弟子たちにロウ師匠は優しい笑みを浮かべる。

「わしの跡はジュリオ、お前に任せる」

「え?俺!?」

自分を指さし確認するジュリオにロウ師匠は頷く。

「陛下も了承されておる」

「ちょっと待ってください。俺は中級ですよ?上級の……」

慌てるジュリオにロウ師匠は首を横に振った。

「上級どもは皆、拒否した。もちろん、ファルも」

「ふぁ~る~?」

「僕は『特級』の資格をあと1年で取得しないと……陛下から……何かとてつもなく嫌な予感がする事をやらされそうだから必死にやらないと……それはジュリオが一番よくわかっているでしょ?」

にっこりとほほ笑みながらも拒絶の意思を曲げないファルにジュリは深いため息を吐いた。

「ほかの者たちが……」

「それなら心配いらないよ。協会所属魔導士全員の総意だから」

「は!?」

「ふぉふぉふぉ。ジュリオは長年ワシの片腕として働いていたからな。陛下も了承されておる」

「え?なに?それってすでに決定事項ってことじゃない?」

ムスッとするジュリオにロウ師匠は満足げに笑みを浮かべた。

「大丈夫じゃ、今と大して変わらん。強いて言うなれば陛下が研究所に籠ることが増えるだけだろう」

「えー、それって面倒事が増えるだけでは……」

「ふぉふぉふぉ」

面倒くさいと言い放つジュリオにロウ師匠は声を上げて笑うだけだった。

「腹をくくるしかないのか……ファルも頑張れよ」

「あはは、最後まで足掻いてみるよ。あと、僕はやりたい事を見つけた」

「やりたい事?」

「うん、陛下の許可が下りるようそっちにも力を注がなきゃいけないから……協会のことはジュリオに任せた!」

「ヲイ!」

ジュリオとファルは互いに顔を見合わせるとどちらからともなく笑みを浮かべ互いの肩を叩いたのだった。






~さらに五年後~

西国に『王立魔術学園』が誕生した。

魔導士育成と銘打っているが『魔導士育成』はもとより『魔石発掘士育成』『魔石加工士育成』『魔石装飾士育成』『人工魔石製造士育成』『魔術騎士育成』など魔術に関する多くのコースを備えている。

貴賤または国籍は問わず門戸は広く開かれ、数多くの優秀な魔導士達を排出することとなる。


「僕は僕に魔術の恐怖、辛さ、残酷さ、そして何より楽しさを教えてくれたあの方のように、多くの人にいろんな魔術に関する事を学んでほしいと思いこの学校の設立に尽力を注ぎました。皆さんには魔術がもたらす楽しさ、辛さ、恐怖、残酷さなど様々な事をこの学校で経験し学んでください。この学校で学んだことはきっと皆さんの将来に役立つでしょう」

初代校長が入学式で述べた言葉は西国の新しい王に支持され、次第に初代校長の名は大陸全土にその知名度を広めたという。


初代校長には幻と呼ばれている『特級魔導士』を取得したファル・アルフェが就いたと西国の歴史書は記している。




実はいい子だったんですよというご都合主義\(^_^)/ばんざーいの結末です。

本当はもっと違うエンディングでしたが、暴走した結果がこれです(笑)

え?どこが『決断!?』という突込みが届きそう(笑)

まあ、簡単に言えばファルは北国を捨て、西国で魔導士のトップに駆け上がったというだけのお話。

その間にファルの言い訳を織り交ぜて…というわかりにく話になってしまった。

文才が欲しい…文才が欲しい…文才が欲しい…(Endless)


おかしい・・・

当初は北国追放

西国にヴィートにネチネチと扱き使われる

ジュリの日記を発見

過ちを悔いる


となるはずだったのにな~どうしてこうなった。(;-_-) =3 フゥ

ファルがジュリを護るために~というのは完全な後付設定です(`・ω・´)

本編を書き上げた頃は可愛い顔してえぐいことを考えている男の子というイメージだったんだけどな(そんな描写書いてないけど裏設定ね裏設定)(^▽^;)

完全な悪役な男の子が書けないだけです(女の子なら書けると思う)


さて、これにて番外編も終わりです。


お読みいただきありがとうございました<(_ _)>

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