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9.最初の罪



 始まりの神から許可が下りるは思っていなかった。愛の女神でさえ慈しむ心をただ一人の為に注ぐことなどなかったし、兄弟達も自ら作った生き物と"家族"になろうとは思いもしなかった筈。


 敬い祀られるのが当然で、側に置くのが当然の神の使いでさえ神と対等な関係では無い。対等であってはならない。それは自らの存在を地に落とす行為だから。


 蛇の精霊を治める事。その他は、してはならない事ややらなければならない事は元々定められていなくて、新たな兄弟の誕生の宴でさえ参加は自由。


 だったら初めから許可の確認なんてしなければいい。


 共に生きてくれと言った彼は静かに私の返事を待ってくれている。


 今の彼の心は複雑で、私と共に過ごしたいのは本心だけれど森から連れ出す事には躊躇いがあり、アドレンス王国に関わらせる事に罪悪感を覚えている。

 以前のようにこの森で二人で暮らしたいのが本音だが、王として無責任に国を放り出せない葛藤。

 森を出て共に過ごすか、離れて暮らすのかの決断は私託すつもりのよう。


 私も本音は同じで、共に過ごしたいけれど出来ればこの森を出たくはない。でも…………。



「えぇ。喜んで」


 返事は肯定。彼に着いていく。

 長年暮らしたこの森をでようと決めた。


 悪い事だと理解はしていたの。

 ただ、久しく会ったダリスが思いの外老いていたから……。


 いずれ居なくなってしまうのだと思うと怖ろしくて。


 彼が居なくなってしまうまで。その間だけ……。ほんの僅かな時を。


 側に居たいと望んだ。

 それが私の最初の罪。


「ありがとう。リザ」


 私の返事を聞いて綻んだ彼の顔は、共に過ごしていた頃の彼のもので。懐かしくて、ただ愛おしくて、そっと優しく抱き寄せた。


 この温もりが消えるまで。

 それまで。その間だけ……。


 自分に言い聞かせる。


 蛇達にも少しの間森を離れると伝える。彼らの管理はこの森から離れても出来るから問題はない筈。


 むしろ蛇達の多くは私についてくるだろう。



 身支度を整えてダリスと共に森を出ると、目の前には見渡す限りの草原。初めて見る景色。森と同じ緑なのに、とても鮮やかに感じた。


 そこに用意されていたのは馬に箱状の何かが取り付けられているもので……。


「コレが馬車。人を乗せて馬に引いてもらうんだ」

「コレが馬車……」


 話には聞いていたけれど目にするのは初めて。人の作り出した文明というもの……。


「随分とかかったな。すぐにフラれて戻ってくると思ってたんだが、美しいお嬢さんを連れて戻ってくるなんていきてねぇぞ」



 声をかけてきたのは馬車の物陰から現れたダリスと同じくらいの年に見える男。



「ごめん、ごめん。待たせて悪かったよ。ウォル」

「王が家臣に気安く謝るな。そのヘナヘナした態度はやめろと言っているだろう」

「僕に王様なんて不相応なんだから仕方ないだろう」

「お前以外に相応な奴がどこに居ると言うんだ」

「……ウォルやナディの方が向いてるよ」

「はぁ……。ともかく、コレからが大変なんだしっかりしてくれ」



 呆れたようにして真っ赤な髪を掻き上げる仕草をするウォルと呼ばれた男は、口ではダリスを責めるけど内心はダリスの優しさを好んでいるみたい。


 ウォルもナディも、ダリスの甘さ優しさにつけ込む人物を排除し、ダリスを支えてくれていた人物のよう。


「ところでお嬢さん、お名前は?」

「私はリザ」

「凛とした姿によく似合う素敵な名ですね。私はウォルター。ダリスとはアドレンス王国を作る前からの友人で、今は家臣として働いております。以後お見知り置きを」


 ウォルターは丁寧に頭を垂れて挨拶をする。私をただの人と思っているわりに謙っているのは、私がいずれアドレンスの王妃になると思っているから……ね。


「ウォルターは火の女神の祝福を受けたのね。貴方の子もその子孫もきっと火の精霊に慕われるわ」


 ニコリと微笑む。

 この子は私達の味方。


 きっと、ずっと、この先の未来も。

 なんとなく……そう思った。

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