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動物好きの侯爵令嬢、結婚相手を探しに行く  作者: 霞合 りの
第九章 親しき仲にも礼儀あり
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9-6.それはきっと困惑の申し出

「まぁね。でももう、忙しくなるし、しばらくは会えないだろう。君もね」

「忙しくなるんですか?」

「君たちが。だって、結婚するんだろう? 身分差もあるから、ダリウスに認めてもらわないとならないし、作法も覚えなきゃならないし、ジャンはやることが多くなるだろう。そんな中、君と僕が会うなんて論外だよ」

「え? どうしてです?」

「伴侶以外と二人でなんて会わないだろうが。ジャンはきっと嫌だと思うよ。僕だったら嫌だから。遠くの空から君の健闘を祈るよ。つまり、こんな風には……二度と会えないわけだ」

「まぁ……そんな……ランディがいないと、私、どうしていいかわかりませんわ」

「どうして? 僕なんて、必要ないだろう?」


ランディの言い分に、私は目を剥いた。


「必要です! 誰にジャンの小説を一緒に読んでいただけると思います? それに、私が王都に出そうと思っているペットショップの二号店だって、一番に相談にのっていただきたいし、他の本のお話だってしたいですわ。何より、私のことを誰より理解してくださってるのはランディじゃありませんか」


私がドアに手をかけたランディの手を、上からぎゅっと握ると、ランディは反対の手で頭を押さえた。


「君は……自分が何を言っているのか、わかってるのかい?」

「ええ、完璧に! ランディはダリウスお兄様より頼りになるお兄様、わかってくださるお兄様ですわ。だって、ランディは私に誰でもいいから結婚しろなんて言わないでしょう?」

「そりゃぁ……言わないけど、ね」


期待を込めてランディを見る私を、彼は困惑したように見つめ返した。ほら、瞳の色が輝いて、とても素敵だわ。


そうよ、私は妹なんだから。二人きりで会えなくても、少しでも会えるなら。同じように話せるなら。大丈夫、今までと同じでいさせて。


きっとジャンはわかってくれる……だって私とジャンには、友情がある。


ジャンは私に優しいけれど、それ以上の好意があるとは思えないもの。そんなこと、わかってるんだから。


「もちろん、ダリウス兄様の事は大好きですわ。時々嫌になることもありますけど、なんだかんだ言って、ダリウスお兄様の事は尊敬しておりますし……お兄様だって私を愛してくださってるし、私だって同じです」

「うんうん」

「でも、王都ではダリウス兄様は不在で頼りになりません。その点、ランディは、出会いこそ困ったものでしたけど、その後はいつも気にかけてくださって、兄以上に信頼できる方です。お会いできて本当に嬉しく思っておりますわ。ですから、どちらが結婚しても、この兄妹としての友情は変わらないと信じております。大好きなランディの結婚式にはダリウス兄様と共に駆けつけますわ!」


ランディの結婚式なんて、それは素敵だろう。


うっとりするほどお似合いな誰かを想像して、私はランディから離れて、祈るように手を胸の前で組んだ。


絶対そのほうがいい。一瞬でもランディの隣に自分がいるとか、考えた自分を殴りたい。


ランディとの友情を得るためには、何がなんでも、妹の地位を確保しなくては。それ以上など望んでいないと、はっきり示さないと。


「それは……ありがとう……?」


ランディが微笑んだ。


「残念……アデリンがなりたいとは言ってくれないの?」

「何に?」

「花嫁」

「は……花嫁って?」

「知らないの? 僕の結婚式で隣にいてくれる人のことだよ?」


ランディの言葉に、私は頬を膨らませた。


「それくらいは知っています。そうではなくて……」

「あぁ、でも、君は、ジャンと結婚するんだったな」

「まだ決まってませんわ。提案してみるだけです」

「でもきっと、ジャンはオッケーするよ」


ランディのきっぱりとした言葉は、私を安心させてくれていいはずなのに、ひどく不安に思えた。


「どうしてそんなこと、わかりますの?」


すると、ランディは私の頬を指ですっとなぞった。


「君が魅力的だからさ、アデリン」

「またご冗談を」


私の言葉に、ランディは笑った。


からかってきたり、おちょくってきたり、いつもわけがわからない。それなのに、そんなくだらない社交辞令一言で、私は嬉しくなってしまうんだ。


「手強いね。最初からわかってたよ。でも、僕が変えてみせると思ってた。それだけの気持ちがあると自惚れていたんだ。僕には何が足りないのかな?」

「ランディに足りないものなんて……ひとつもありませんわ」

「なら、いよいよ、僕の負けだ」

「どういうことです?」

「さよならだ、アデリン。君たちはお似合いだよ。お幸せに」


ランディは微笑むと、私の部屋から出て行った。


去っていく足音が、廊下に響いていた。


そして私は気がついた。


ランディが最初に申し出てくれそうだった時に、受けておけばよかった。他にお願いできる人なんていないじゃない。


公爵夫人の舞踏会へエスコートしてくれる人は、もう誰もいないのだ。



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