9-5.条件付きの結婚
「どうしてです?」
「だって君は忘れてる。ダリウスは言ったんだろう、君を愛してくれる人だと。君を愛しているなら、君を尊重するし、大切にできる」
ちょっと待って。
どうしてランディが兄と私の喧嘩の内容を知っているの?
人前で喧嘩しあったのならともかく、あの時は、二人しかいなかったはずだ。ランディが使用人に話を聞くはずもない。
もしかして、兄様が伝えたの? いつ? 何で?
私は腹立ち紛れに壁を軽く叩いた。
もしそうなら、親友だからって、ダリウスは何でもランディに言い過ぎだわ。まるで私のことを信用していないじゃないの。
「愛情は後からでもいいのではないかと」
「愛せなかったらどうするんだ?」
「そんな夫婦、どこにでもいるじゃありませんか」
「いるかもしれない。でも君にそんな生活をして欲しくない。たとえ君が愛せなくても、君を愛してくれる人でないとダメだ」
必死で言い募るランディに、私は驚き閉口した。
「まぁ、本当にダリウス兄様みたいなことをおっしゃるのね。それは最近の流行りなのですか?」
「だってまさか……思ってもみなかった。本気でお金のために結婚するつもりだなんて? そんなことをしなくてもいい身分だって、知っているのかい?」
「ランディ、地位やお金ではありませんわ。売られた喧嘩は買う主義なのです。ダリウス兄様の鼻を明かしてやるのですわ。そうなんです、”舞踏会にろくに出たことのない私”にも”男の何を理解し、容認できる”か、良くわかってるって言ってやるのです!」
私が手に拳を作って言うと、ランディは呆れたように目を閉じた。
「……君は相変わらず信じられない子だよ」
「何がですの?」
「愛が必要だと言ったくせに、友情で結婚するなんて」
言いながら、不機嫌そうに頬を膨らませる。
可愛い。可愛すぎてその頬を指で突っつきたいくらい。まるでテリアみたい。ううん、ロシアンブルーでもいいわ。犬でも猫でも、抱きしめて頭を撫で回したい。
妄想がだだ漏れしそうで、私はツンとそっぽを向いた。
「モテるランディにはわかりませんのよ、モテない側の気持ちが」
「そんなはずはない。君はそう思い込んでるだけだ。どれだけの人が舞踏会で君を目で追ってると思う?」
「いやだわ、ランディ。私のこと、かいかぶってらっしゃるのよ。そんな人、いるわけありませんでしょう?」
私が呆れて言うと、ランディは恨みがましく続けた。
「だいたい、君は出会った後だって、僕のことはそっちのけで、ダリウスに頼まれた男たちと舞踏会へ行き、ジャンと条件付きの結婚を提案しようとしている……僕の地位は著しく低い……つまり君にとって、僕はそういう男なんだろう?」
どういう男だって? そんなの決まってる、友情より多くを求めてはいけない人だ。そして、少しでも気持ちを寄せてしまってはならない人だ。それくらいわかってる。
「よくわかったよ。君はジャンに結婚を提案する。きっと受けられるだろう。ジャンはいいやつだ。君は故郷に帰り、お相手探しはようやく終わる」
初耳だった。私は思わず聞き返していた。
「ジャンを……よく知ってるの?」
私のふとした疑問は、かろうじてランディに届き、ランディは私をじっと見つめた。
「あぁ、あの後、謝りに行ったし……時々……話すこともあった」
「まぁ……そうでしたの……どうして教えて下さらなかったの?」
ジャンだって何も教えてくれなかった。どうして、この人たちは私に何も言わないの。私、友達じゃなかったの?
「そうしたら、君は、ジャンに自分を売り込めと言うんじゃないかと思って。そういうのは抜きにして、知り合いたかったから」
「私だって、そこまで友情に無頓着じゃありませんわ。でもお二人とも本が好きなら、きっと仲良くなれたのでしょうね」
羨ましい。私がしょんぼりすると、ランディはため息をつき、ドアに手をかけた。




