第五話【シールドはかく語りき】入国
翌日の朝7時。
俺が集合場所についた時にはもう3人とも揃っていた。
「お待ちしておりましたわ、紅さん」
「時間ぴったりだな!」
今回の裁判に同行してもらう封印能力者3名、倉谷瑞、シルフィード・N・ブレイヴァー、マリー・アルカード。色々過去がありそうな名前だ。
ここに我らのリリー・シエル、時破田心裏と、
俺が全く見たことのない女子1人(影が薄いらしい)とハリネズミ(前に少しだけ登場した以来触れていなかったので補足説明をしたいのだが、ハリネズミであること以外は全く知らない。封印クラスには何度も訪れる機会があったが、未だハリネズミがハリネズミ以外の姿でいるのを見たことがないし、封印能力者である理由もわからないが、とにかくハリネズミだ)を加えた7人こそが、1年5組封印クラスのメンバーである。
当然ながら他のクラスに比べて人が少ない。
「この後は理事長にテレポートしてもらうが、目的の国に直接行くわけにはいかない。異能協会がうるさいらしくてな」
「そうなのか…じゃあ何処かを経由して?」
失礼だからとても口には出さないが、封印能力者といってもピンからキリまで、リリーが最近開発したという能力【絶対零砕】のようにぶっ壊れた性能を持つのもいれば、そのリリーに一生かかっても勝てないであろう人達が大半だ。
だが忘れてはいけない。彼ら彼女らが封印能力者と呼ばれるのは、世界一つ分の質量を消すことができるからである。
俺なんか鈴木のおっさんからの借金すら消せないのに、彼ら彼女らはその異能であらゆる物質を無に帰すことができる。
彼ら彼女らの機嫌を損ねれば、もしかしたら次の瞬間には『生きていた事実』さえ消されているかもしれない……
そんなことは多分しないだろうけど、できてしまう。そういうところが末恐ろしい人達だ。
「ああ。阻害地区のアイルランド版、格子地区から目的の国のある離島にまで掘られた地下通路を通って、目的の国の端の方に出る。そこからは馬車が用意されてるから、それに乗って国の中心都市まで向かう」
「……」
「わかった?」
「…わかった!じゃあ行こう!」
「どこに?」
「え⁉︎……えっと……まずは理事長室だな!」
「おお正解」
でも、そんな怖い人たちでも、封印されていればただの人間、陪審員になればただの一票なのだ。
そして最後に判定を下すのは俺だ。
いつも通り、いつも以上に気を引き締めて行こう。
〈4-6〉
地下通路を歩く俺と3人の怪物たち。
ただただ真っ白なトンネルが続いていて頭がおかしくなりそうだ。目も疲れる。
「アイルランドとは言ったが、アイルランドの離島というわけではない…近くにある、地図には載っていない国だ」
「名前は?」
「『ティラバス神王国』といいますわ」
「かっけえだろ?」
「ああ……でも、しんおうって何?」
「神に王様の王だ…まあ早い話が独裁国家だ」
「独裁か…俺も高校入ってからは海外あんまり行ってないからな…もう一年は見てないかもしれない」
「逆に一年前なら見たというのが凄えよ…でも、独裁国家が減ってきてるっていうのは実感してくれてるんだな?」
「ああ…まあ俺は詳しくはないけど、先進国が民主主義や社会主義をよく採用してるから、つられてるのかと…」
「その通りだ。そして、ティラバスが地図に載っていない理由もその辺にある」
「え?どういうことだ?」
「国政の実験をしてるんだよ、先進国が。ティラバスだけじゃない、先進国が『取っていない主義を試す』実験だ」
世界の闇を知ってしまった気がした。
ひええ。
「それ…いいのか?俺に言って…」
「話はまだ続く。何も悪いことばかりじゃないんだよ、実験場にされるのも。だってある意味で、先進国の加護を受けられるんだから」
「詭弁ですわね」
「加護って…どんな?」
「国が滅びにくくなることだよ。ティラバスがどこの国の実験場になってるかは知らないが、少なくとも『先進国をより良くするための実験』だからな、基本の国の体制は先進国に追いつくことになる」
「……まあ確かに、国が経営できないよりは、実験場にされる方がまだマシか…」
「はずだったんだがな」
案の定出てきた不穏な言葉。この先の展開は誰にだってわかる……大失敗したのだろう。
「ティラバスでの第1回の独裁は途中まで上手くいっていたらしいんだが、まあわかりやすく所得の格差が出来たんだよ。実験は即中止、独裁はやめて社会主義の国になったらしいんだが、国民はまさに革命しようとしていたらしく、怒りの矛先を失っていらつき、しかも社会主義にしたことによってさらに経済が回らなくなって、富裕層まで同じようにいらつき始めた。治安が悪くなって、最終的に国による国民への束縛がキツくなってまた独裁国家に戻り、富裕層の機嫌はある程度取り戻したものの、貧民層は爆発寸前ってわけだ」
「……」
俺はふと、マリー・アントワネットを思い出した。
そんな国が、こんな時代にまだあったのか。
「そして、理事長に…というか日本政府に依頼が来た。もうあんな国は滅してくれってな」
「…なかなかのドロドロだな」
「そうだ。だが理事長は今忙しい…現地に行くどころか、紙の情報を見る余裕すらない」
「……それで俺たちか」
「ああ。だから、判断してほしいとのことだ」
「なるほど」
「裁判の内容は────独裁国家ティラバスは国家としての活動を停止するべきか否か。これから国の現状を見てそれを判断し、俺たちの三票とお前の裁量でそれを決める。」
〈4-6〉
地下通路を出ると、森の中に出た。そして、なんだか暗いと思ったら、空が曇っていた。
え?『長い長いトンネルを出ると雪国だった』に似てるって?これはね、偶然だよ。
俺たちは用意されていた馬車(馬はお利口さんに待っていてくれた。最近の馬は凄いなぁ)に乗り、都市部と呼ばれる街に向かう。
「ティラバスの都市ね。なんて名前なんだ?」
「ティラミスだ」
「…………」
会話は続くのだった。
「細かい予定は特に設定されていない。宿には四つ、つまり人数分部屋が取ってあるから、この後着いたらエントランスで鍵が渡される。その後、日曜日の朝7時までは自由行動だ。日曜日はまず多数決を行い…その後決断してもらう。理事長からの指示によれば、この国を破壊して帰るかもしれない」
「…嫌な想定だな」
「現実にするかどうかは、実質お前の自由だよ紅君。日曜日までに、この国をよく観察することだ」
………………。
その後。説明は一通り終わったらしく、馬車に静寂が訪れた。シルフィード君は寝ていて、アルカードさんは携帯をパチパチならし、倉谷君は外の風景を見ていた。森しかないから、おそらく暇だということだろう…。
これは、チャンス……?
「ジロジロ見て、何の用だよ」
「え!いや、あのその…」
まさかの、向こうから話しかけてきた。
「言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだ…まどろっこしいのは嫌いだ」
「あ、いや、その…じゃあ聞かせてもらう」
国についてからは時間が取れないだろうし、任務が終われば縁を切られる可能性もある。俺とまどろっこしいのは嫌いだ。
単刀直入に聞いてしまおう。
「家族とか、親戚とかに、『唯』って名前の人……いる?」
「さあ、知らないな、そんなのは」
ここで、「さあ知らないなそんな女は」と答えてくれれば話は早かったが、そう上手くはいかないか。
「そうか…ありがとう。知らないならいいんだ。いや実は、ちょっと恩があってさ。謝りたいこともあるんだ。能力者の瑞君と血が繋がってるなら…ああいや何でもない。まあとにかく名字が同じっていうから聞いてみただけだ。ごめんな」
「フン…事情は分からないが、血の話をするなら、親戚がどうとかは関係ないだろ」
「え…?」
「人類はそもそも皆、血が繋がってるだろ…アダムとイヴから始まって、血の繋がっていない人間なんて1人としていない」
「ああ……まあそうか」
たしかに言われてみればそうだ。
人類皆兄弟とはよく言ったものだ。
「じゃあまあ、良かったら、記憶の片隅に残しておいてくれよ。刃渡唯っていう人がいたら、俺がなんか言ってたなーって」
「……今、なんて言った」
「え?」
急に、彼は凄い表情でこちらを見てきた。
……しまった、刃渡って言っちゃったのがいけなかったのか。
「今!刃渡唯って言ったよな!」
「い、今の忘れて!違う違う、俺が詮索したんじゃないんだ、理事長がうっかり本名を話しちゃって知っちゃったんだ!」
「待て!怒ってるんじゃない、話を聞け!刃渡家の人間をどこで知ったか聞きたいだけだ!」
〈6-5〉洗いざらい話した。
「…………」
「その…いや、本当に、彼女との関係はそれだけで…もし瑞君と同じように能力者になってたら、謝れるかなと思っただけで」
「……刃渡家にはもう関わるな」
「ごめんなさい!」
「実際に逃げた俺の言葉だ、信用しろ」
「……え?」
俺はこれから、それまでには考えてもいなかった会話をすることになる。
「本当はこんな事すら話したくはないんだが……刃渡家には関わっちゃならない。あれは世界の闇だ」
「…ごめん、どういうことなんだ?さすがにもうちょっと説明がないと…」
「クリムゾン」
「!」
何故その名を…とはならない。
中学時代の裏世界での通り名だ。
「事件現場に巻き込まれて、解決して去っていく男…知ってるぞ。そして実績があるから今回の任務に呼ばれたことも知ってる…だからこそ絶対に刃渡家については教えられない」
「だから、なんで…」
「巻き込まれたら終わりだからだ。それ以上は言えない…だが、俺のように名前を捨てた者はともかく、刃渡唯という奴が刃渡を名乗っているのなら、絶対に近づくな。あの家の闇は、誰にも晴らすことはできない」
「…………闇に触れたら、何が終わるって?自分で言うのもなんだが、俺は絶級能力者を封印したこともあるし、最強の防御力を持つ友達を殴ったこともあるんだぜ…何より達成使いだ。少なくとも命は終わらせられねえよ」
「命…じゃない。命以外の全てが終わる」
「………」
本当にそうだろうか。刃渡唯に出会って、話しかけられて俺は救われたんだぞ…?
「…3年間話しかけられて、会話しなかった…自分でおかしいと思ったことはないのかよ」
「‼︎」
駄目だ。言うな。それだけは!
「ハッキリ言うぞ。お前は中学時代を何とかして美談にしたいみたいだが、そんなことはありえない、刃渡唯も、ついでに仮宮のぐるという人も、異常だっただけだ」
「や、やめてくれ…」
「俺なら無理だよ、話しかけられてるのに何年間もコミュニケーションを取らないなんて。逆に、無視するのに話しかけるなんてこともできない。つまりこれが指し示すのは……」
「やめてくれ!」
その後に続く言葉は、他人から聞けば辛くなってしまうだろうから、聞きたくなかった。
だが、現実逃避をしたい訳でもない。
わかっているのだ。
刃渡家の闇とやらを刃渡唯はきちんと理解していて、俺が達成使いであることも恐らく知っていたのだ。つまり、絶対に死なない確証のある俺にのみ、彼女と話せる可能性があったのだ。
だから俺にだけ話しかけた。
何故途中で諦めなかったのかはわからないが…(こんな時、『向こうが俺を好いていてくれていたから』だなんて考えるところが、俺の子供な部分だ)
逆に、俺が3年間も彼女を無視できたのは、多分、達成が俺を守ってくれていたのだ。話せば命以外の全てを失うから…俺は望んで自殺するだろうから。
でも刃渡唯に殺意はない。
なら、誰の殺意から俺を守って、刃渡唯と会話をさせなかったのか…それは多分俺自身だ。
俺は彼女に恋していたから、悪いところが見えなくなっていた…解ってはいても、無視していた。見えているのに、フィルターがかかっていた。恋愛じゃよくあることだ。
よくある思考異常だ。
異常性が見えていながらコミュニケーションを取ろうとする…普通なら自殺と判断されるところだったが、俺には見えていただけで、理解はしていなかった。だからギリギリ、『マゼンタ・エモーション』が発動した。
仮宮は刃渡唯を監視していたのかもしれないな…と、それはわからないが。ここまで、思い出が汚されているのに、割と平気だ。
いや、思い出なんて無いも同じか。
それに脳の奥底では理解していたこと…覚悟していたことだからかもしれない。
猫がネズミの死骸を持ってやってきた…猫だって狩りをするのは知っていても、その光景を見てしまったらショックだろう。だが、猫が自分の親を食べてしまったようなショックではない。まあ、ひょっとしたら今後、そんなこともあり得るのかもなぁ。
保健の城之内先生にもこの間エステで裏切られたし…ちょっと訳ありっぽかったけど。
「……話をやめたいのは僕も一緒だ。じゃあ話題を変えようか」
「……」
「『篠方』」
「…!」
「理事長から聞いている。興味あるんだってな…しかも身体が退化してて、適性もあるんだって?ちょうどいい。俺も使えるわけじゃないが、コツは知っている…奥義『篠方』という技について教えよう。」
〈4-4〉切り替えていこう。
「篠方…そうだ、元はその話をしていたんだよ。理事長が倉谷と刃渡を言い間違えて…」
「酷い人だ。帰ったらぶん殴れ」
「そうするよ」
なんか、シリアスを通じて何故か少しだけ距離が縮まったような気がした。
「これを渡しておく」
「…?」
すると彼が突然、手を前に出した。
飴玉でもくれるように。俺は手を出した。
彼が手を開くと鞘に入った日本刀が出てきた。
「うわぁあああああああ!」
片手だけだったので落としかけた。
「危ねぇ…」
「篠方を言葉で説明するのは難しい…のが本来だが、その必要はないようだ」
「…どういうことだ?」
そうそう、俺にぴったりだと巫も言っていた。
理事長は適性があると言っていたらしい。
「体の退化。ここではそれが役に立つ。というか最適化と言いたいところだ。お前の今までの人生は全て篠方に対する修行期間だったと言っていい。」
「……なんて都合のいい奥義なんだ…」
「教えてくれた人に感謝しろよ…篠方には絶対に、戦闘に対する身体の最適化が必要なんだ。同じ動きを極めて極めて、他のことができなくなるぐらい完璧に会得する…それが出来て初めて篠方のスタートライン、もしくはゴールテープだ」
なんて素晴らしい。
だが、彼は嬉しそうに語っているけど、デメリットを考えれば当然の素晴らしさではある。
それしか出来なくなるって。
どんなデメリットだよ?
「他の武道ができなくなるぐらい、例えば空手の型に最適化した体になれば、空手の篠方を身につけることができる。お前の場合は武道ではないから『薙紫紅の篠方』ということになる」
「…でもそれって、例えばリハビリをしたりして、手先が器用に動かせるようになったら、篠方は消失してしまうってことか?」
「いいや。獲得してからなら大丈夫だ。できることが増えるだけだからな。それに、身体が最適化するだけの期間繰り返したことなら、もう一生離れることはないよ。ある種の呪縛だ」
「……一生の呪縛…か…」
一生、悪の味方として戦う人生か。
悪くない…今のように、友達がいるのなら。
やはり人間にはコミュニティが必要なのだ。
家族が、友達が、年上が、年下がいれば、人間は生きていける。逆に、よく言われるように、人間は1人では生きられない。
刃渡唯はどうなのだろうか。
中学時代でも天涯孤独らしかった彼女…刃渡家というからには他にも家族がいたということか?
もしくは普通の家族ではなく、他人…?
いや、人類は皆血の繋がった兄弟なのだ、他人なんて居ない。彼女は今、生きているのだろうか。
…今後、会うか会わないか。
そういうことも決めていかなくてはならない。
〈5-7〉
そうしているうちに、馬車は宿に着いた。
でもそれらしい建物は見えない。
……?
「ここじゃないぞ。ここから少し歩く。めちゃくちゃ豪華だからびっくりするだろうけど、大きな声を出さないようにな」
「……」
貧富の格差も問題の一つなんだよな。
なんだか宿にはあまり頼りたくなくなった。
「ああ、で、なんで刀を…?」
歩きながら、俺たちの会話はまだ続く。
「それは実は刀じゃない」
「え?」
「見てみな」
俺は言われた通り、鞘から刀身を出してみた…一見普通の刀のようだったが、よく見ると…
「…これ、刃物ではないのか?もしかして」
「ああ。そのままじゃ切れない刀だよ」
「これでどうやって…」
俺がそういうと、彼は説明を始めた。
「刀とは凶器だ。そして凶器は、敵意…殺意…そういう、人間の攻撃意思に応える。だがこの刀には切れ味がない。つまり攻撃意思を叶えられない。だから良いんだ。篠方にはそれが必要なんだよ。
一つ考えてみろ。篠方は会得しようと努力してきても、最後の最後ちょっとした勘違いで全て無駄になることがある…何故だかわかるか?」
「……わからない」
「篠方を攻撃技だと思ってしまうんだよ」
「……えっ、違うの?」
さっき空手がどうとか言ってたじゃん。
紛らわしい。
「篠方は全ての武術に、もしくは武術じゃなくても動作があればそれに織り交ぜることができる奥義だ。つまり具体的にはどこにも分類されないということになる。流派によっては『装』類だなんて呼ぶ所もあるが、それでも最も難しいとされる二つの技…その片方だ。」
「……」
つまり、攻撃の動作に織り交ぜることは出来るけど、攻撃の技ではないということか。
「二つ目、これも考えてみろ。じゃあ何故、篠方を攻撃技だと思ってしまうのか?」
「そりゃあ、先入観だろ」
「そうだ。まあ、篠方っていうのは割と禁術に近くてな」
「何それ⁉︎」
聞いてなかったぞ!巫!どういうことだ!
「何故かというと、篠方に挑戦して会得まで出来るのは大概、復讐を望む者なんだ」
「……あぁ…」
なるほど、そんで、復讐者に訪ねてくる人が篠方について聞けば、復讐した時のことをまず語るから、攻撃技だと思うのか。
「まあ長々と話してきたが、つまり俺が言いたいのは、使い方を間違えるなということだよ」
「……」
「『篠方』ほど直々に手を下す奥義は他にない。その身に染み付いた動作が強力になるということは、自分自身をぶつけるようなものだ。一度でも篠方で人を殺めたりしたら、日常から殺人行為の光景が離れなくなる。逆に、良いことをしても同じだ。良いことをしたっていう思い出を忘れることが出来ないっていうのは、それはそれで結構辛いもんだ。俺は何が正しくて何が悪いとかそんなことを語るつもりはないが、若い頃に決めた思想や流儀、信条を、下手したら一生引きずることになる。チャイムの音を聞けば学校を思い出すようにな」
「……はっ」
俺はそんな危険な技を手に入れようとしているのか…足が竦んできた…だなんて。
なるわけがない。え?
さっきまでの彼の説明、まるで悲劇のように語っているけど…舐めているわけではないが、俺は何もしなくても自然と戦ってしまう身、今回のことからわかるように、負荷能力が無くてもそれは変わらない。
つまり既に負っているデメリットだ、それは。
「大丈夫だよ。呪われた人生なんて、もう慣れてるさ」
「そうか。なら、その刀を使え。篠方のコツは心の持ちようだ。『手を下すのは自分』という自覚をちゃんと持てば、自ずと身につく。
切れ味の無い刀で何かを切った時、篠方は既にお前の体に宿っている。」
「……切る?これで?本気で言ってる?」
「勿論だ。日本に帰るまでには出来るはずだ」
「え、いやでも、普通に考えてこれは…」
割る、というのならわかる。
でも切る?こいつで、普通の刀と同じように何かを斬る?そんなこと、可能なのか?
『篠方』の正体は…切れ味?
「そう、切れ味。それだけじゃないがな。『斬撃の篠方』は全ての動作に切れ味を付与する…まあ心配するな。今は信じられないだろうが、そのうち色んなことが出来るようになる」
「そんなもん…なのか?」
「勿論普通じゃない。まるで異能のような力だ…だが事実として、奥義篠方を見た全ての人間は皆、ある一つのことを認めている」
「……それは…?」
「自分こそが最強ってな」
「…………」
なるほどそれは、頼りになるレビューだ。
「ふざけてなんかないぞ。篠方による完全なる軌道は物理学を超越する─────1週間後には、お前は今の10倍強くなる。」
〈1-2〉
「着きましたわよ」
アルカードさんが指を指していた、その先に、今まで見たこともないような豪邸があった。
「────⁉︎」
高級感溢れる…というその言葉を具現化したようなホテルだった。三階建てで、何というか、厳かで、されども派手でなく、何というか、そう、高級感が、噴水のように溢れ出していた。
前に時破田が「高級感が溢れるって言葉あるよね、でも溢れるぐらいならちょっと分けて欲しいよね」と言っていたが…
…溢れるのも計算のような…
これは凄い、でもお金も凄そう…
「こ、これって宿泊費はどうなってんの…?」
「あら?薙紫さんには言っておりませんでしたっけ。私から全額出させて貰っていますよ。」
「ぎゃー!」
「な、何ですの急に大声を出して!」
俺は土下座した。
なんだか当たり前のように…申し訳ない。
「構いませんわ。お金なんて、持っている人が出せばいいのです。」
「凄い…失礼だけどもしかして、どこかのお嬢様だったりするとか?」
「ああいえ、お嬢様というよりは、私の事業で儲けさせてもらってますわ」
「……!」
この時俺は、お金持ちは世襲制の他に誕生するものだということを知った。
凄い、今ってそんな高校生いるんだ。
しかしそれでも容赦なく理事長は封印するんだ……
「おおお!」
ホテルの中はもう描写しない。ただこれだけ言っておく。あなたが想像する高級ホテルの、多分、倍ぐらいは凄いホテルだ。
「じゃあ、みんな鍵は持ったな?そこに書かれた番号の部屋に、土曜日の夜には絶対に帰って来てくれ。それまでの日は強制しない。」
そして、じゃあ解散、と、俺たちは個室へ向かう流れになった…移動はちょっと時間がかかったが、まだ朝なので元気だ、俺は部屋に荷物を置いたら、市場を探しに出かけるとしよう。
なんだか単独行動が基本のようだから。
俺は、質素かつまた高級感のある個室に荷物を置き、冷蔵庫にオレンジジュースが入っていることに気づきちょっと良い気分になったら、すぐに部屋を出た。
ではここで、もし言葉の通じない国に降り立ってしまった時の生き抜き方について伝授しよう。100パーセントとは言えないが、俺が今まで使ってきて一番良い方法だ。
まず、何か人前で行動に出る。
例えば…階段から転んで怪我をする。
そうすれば普通、人は「大丈夫ですか?」「Are you okey?」というようなニュアンスの言葉をかけてくれる。
もしくは日本のものを売りに出してみると、「これはなんですか?」「What’s this?」といったニュアンスの言葉が得られるはずだ。
言葉が分からないからと言って、じゃあ勉強して単語や文法を覚えるまでしなければならないかというとそうではない。
よく使うフレーズが分かれば意外になんとかなる。これは巫の言う所の現地調達という奴だ。
市場に行って、持ってきた日本の製品を売ろう。そうすればここの…
「なあ紅、ちょっといいか?」
とその時だった。俺が市場へ向かおうと再びエントランスに出た時。
先程までとは打って変わって、小声で、シルフィード君が話しかけてきた。
曲がり角を曲がった先で待ち伏せされていた。
「…なんだ、シルフィード君」
「呼び捨てにしてくれ。いや、少し案内したいところがあってな……さっきの馬車の中で、少し変な『臭い』を感じたんだ」
「……臭い?」
「うん。多分大量に人が死んでる」
〈5-9〉
「…………‼︎……遅かったか……」
「こりゃ昨日の夜ってとこか…酷え…」
横たわる戦士たち。だいたい想像はつく。
反乱して殺されたのだ。
ただそれだけで大量に人が死ぬ。ここはそういう国だと…わかっていたはずなんだがな。
死体にはある程度慣れても、人の尊厳が汚されるのはいつでも耐えられない。
「この国は資源は豊富じゃない、貧民層は近代的な武器は持っていなかったはずだ…」
「そりゃ負けるだろうよ…というか今後も勝ち目はないだろ」
「だな。本当に竹槍で戦闘機に挑んだようなもんだ。酷えよ。こんなのが許される訳ねぇ」
「……」
その後、俺たちは2人で死体運びと墓作りを始めた。彼らを生き返らせられないかシルフィードに頼んではみたが、不可能だ、と言われた。
「能力の対象を外部に向けられなくなる封印…そんなことをされていて、それでも人を生き返らせられるのは相当強い奴だけだよ。俺や瑞、マリーには出来ない。それに、誰かに頼むのも後にした方がいいだろ。こんな国に蘇っても、また死ぬだけだよ」
「……まあそれは、確かに」
俺たちの作業は次の日の夕方まで続く───よって、俺のティラバス1日目は、死体にまみれて終了した。




