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Angel Break!【1年生編/最終世代の学園】  作者: 山野佐月
【1年生編/最終世代の学園】
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第五話【シールドはかく語りき】出国

 封印能力者。世界一つ分の質量を消すことができるほどの異能を有する、封印された方がいいと言われる能力者。

 しかしよく言われるのは『封印能力者は能力のわりにやることが小さい』である。

 これは能力が先天的なものが多いことを示す言葉であって、決して彼らを馬鹿にしているわけではない。だって喧嘩しても普通はまず勝てないから。

 どういうことかわかりやすく例えると、銃のようなものだと思ってほしい。たとえ生まれた時から銃を与えられていたって、普通の人間はまずそれを犯罪に使おうとは思わない。

 頭のおかしい奴が銃を使うのであって、銃が頭をおかしくするわけではない。え?銃社会はそもそも頭がおかしいって?うるさい今はそんな話はしていない。

 つまり。

 なんでもかんでもできる夢のような力を持っていようが、生まれつき持っていてそれが当たり前ならなんとも思わないのだ。

 子供は周りを見て育つ。そして真似をする。

 1人だけ特殊な力を持っていても、周りを見て常識を知ってしまえば、それに迎合しようとする。

 え?そうとは限らないだろって?そうだな。限らない。でもよく考えてみろよ、1人だけ武力を持っている状態で周りに損をさせているような奴がいたら…ボクシングを喧嘩に使うボクサーがいたら。捕まらないわけないだろう?

 より大きな武力でねじ伏せられるだけなのだ。どこかの良識ある正義漢がなんとかしてくれる。何故か。

 こうして世界は今日もギリギリ安定している。

 ボクサーは銃に勝てない。


 〈6-5〉

「おーいみんなー?どこだー?」

 それはある日のことだった。授業が終わって、俺は真っ直ぐに所属する部活・人助け部の部室に来た。

 今日も楽しい青春を過ごそうと…だがしかし。

「……ん…?」

 いない。奴らが…愉快な仲間たちがいない。

 部室に誰もいないのだ。電気もついていない。しかし鍵は開いていた。何かがおかしい…。


 〈5-7〉俺はとりあえず30分ほど待ってみたが、一向に誰も来る気配がなかったので、進路指導室に赴くことにした。

 そこにいるのは我らの顧問と副顧問、美樹巴と都賀生命両先生である。人助け部の部室の鍵は何故かあの部屋で管理しているので、あそこに行けば誰が部屋の鍵を開けたのかわかる。

「ということで失礼しまーす!」

「やあ」

 そこにいたのは理事長だった。

「なんで⁉︎」

「いちゃいけないのか」

「いやそういうわけではないですけど…」

 すると。

「薙紫君こんにちは。今日も元気そうで何よりです。でも公共の場であまり大声を出すんじゃないですよ。」

 さらに部屋の奥から声が聞こえてきた…この声は都賀先生。何か資料の整理をしているようだ…そしてよく見ると部屋のさらに奥に美樹先生もいた。

 さらにうちの担任のキャンディ先生もいた。

「うーん、ないなぁ…」

「なんでだよ⁉︎」

「うわぁびっくりした!居たんですか薙紫君」

「いや、こっちのセリフですよ…なんでお二方、進路指導室にめちゃくちゃ馴染んでるんですか」

「…ちょっとあってね」

 理事長はそう答えた。全く、この人は何をするつもりなんだ…きっとこの部屋に来たのも良からぬ計画の為に違いない。

「…まあいいや、えっと、美樹先生都賀先生、うちの部室が開いてたんですけど、誰か鍵取りに来ました?」

「え?いや…ついさっきリリーが取りに来たんだが」

「……⁇」

 そう言って先生は作業に戻った。ちょっと待てよ。

 なら、これは不可解な事件でもなんでもなく、ただ単に部屋開けたけど直後にどこかへ行っただけかもしれない…

 …しかし30分か。結構な間だ。それとも部室を開けて、置き手紙も残さずに帰った?ん…?

 とにかく俺はなんとなく落ち着かなかったので、もう一度部室で誰かを待つことにした。

 俺は進路指導室を後にした。


 〈5-6〉「ああ、薙紫くん、言い忘れていたよ」

「え?」

 すると、背後から声が聞こえた。

 いつのまにか教室から出ていた理事長だった。

「何を……ですか。まさかリリー達に何かしたんじゃ」

「私を疑いすぎだ。いやそうじゃなくてだな、暇なら少し手伝ってほしいんだ。」

 手伝い?手伝いだと?…怪しい。

 どうも、最近の理事長は怪しい…というか理事長は初めから怪しかった。都賀先生も、理事長は俺たちの世代が入学してから人が変わったと言っていたし、そもそもあの超快適な封印クラスを見せずにリリーを捕まえるなんて暴挙はしないとも言っていた……いったいこの人に何があったのか。

 そして今、何があるのか。

 親友のキャサリンが8人殺しをしたって変わらなかったというその性格に変化が出るほどの…何がある?

 ストレス?重圧…責任?

 そんなことを推理したところで無駄だし、どうやっても正解にはたどり着けないだろうが、しかしこの人は、最初に会った時からなんだか『危うさ』があると思っていたのだ。

 怪しい。どころか心配だ。

 シエルの血統に気をつけろ…つまり天涯孤独のリリー・シエルに気をつけろとは何故かよく言われるが、こうして見てみると、今気をつけるべきはこの人なんじゃないか?

 近々何かやらかしそうな感じがする。

「……手伝いって、戦闘は嫌ですよ。今日実は日中の間にもう負荷能力の呪い2回分消費できちゃったラッキーデイなんです。みんなが来ないなら俺も帰って家でごろごろしたいんです」

「今日の話ではない…どころか、今日すぐにというのは不可能なんだ。実は…」

「ちょっと待ってください、今日以外でも戦闘は一応嫌ですからね、話は聞きますけど、するかどうかはそういう観点から判断させてもらいますんで」

「裁判長になってほしいんだよ」

「へ?」

 裁判長?陪審員じゃなくて?

 というか、なんだそのめちゃくちゃなシチュエーションは。司法の勉強なんて雀の涙ほどもしたことがない俺が、槌で静粛にして判決を下すことなんて出来るわけないだろう。

「疑問に思うかもしれないが、まあゆっくり説明するからわかってもらえると思う。まず、日本の話じゃないんだ」

「……」

 今回は呪いに巻き込まれるのではなく、巻き込まれさせようという意思に巻き込まれる戦いということだ。

 断るのもアリだ。

 しかし俺は巻き込まれすぎて、即答で戦いに参加しちゃう癖があるからな…『とりあえず』がどれほど危険かはもうわかっただろう、行動は早すぎてもいけないのだ。

 じっくりちゃんと考えてから答えを出そう。

「ある国についての裁判を執り行ってほしい」

「…外国に飛べってことですか?飛行機代は出ますか?」

「出る」

「その…俺1人で?」

「いや、違う。他に3人同行者がつく」

「わかりました…じゃあ───」

「君がこの仕事を受けるメリットを先に言おう」

 来た。

 理事長はわかってるんだ。報酬を言えば俺が飛びつくことを…ふん。こういうやりとりにも慣れてきたんだ、今度こそは飛びついたりしないぞ。

「同行者の中に…奥義『篠方』に詳しい人物がいる」

「行きます」

 やっちまった。俺の悪い癖だ。

 まあ俺もこうなることはわかっていた。多分もう、呪い無しでも巻き込まれ体質になってるんだ。

「ありがとう。じゃあ、詳しい話はその同行者…もとい『封印しなくていい封印能力者』こと『刃渡瑞』君という男子に聞いてくれ」

「ふ、封印能力者⁉︎」

「ああ。君は慣れているだろうから大丈夫と踏んだが…」

「ま、まあ大丈夫…ですけど…はい。わかりました。5組の人ってことでいいんですか?」

「その通りだ」

「了解です……刃渡くんですね………」

 ん?……刃渡…?刃渡…名字が刃渡?あれ?

 まさか…そんなにある名字ではないよ…な?

「あ、間違えた、倉谷君だ」

「理事長、もう誤魔化せませんよ」


 〈4-9〉

 刃渡唯という人物についてもう一度語らねばなるまい。

 もっと言うならば仮宮のぐるについてもだ。

 以前にも紹介した通り、両名は俺の中学時代の同級生だ。俺だって義務教育ぐらいは受けておきたかったから、周りとの接触を最小限にして思考異常を移さないという条件のもと学校に通っていた(自分ルールだが)。

 そんな中、明らかに異質な俺は恐怖の対象になっていたが、それでも話しかけてきたのが両名である。

 刃渡唯は人形に話しかけるように。

 仮宮のぐるは暗号を使って。

 どちらにも俺は一度も返答できなかったが、2人には感謝している…あのクラスから2人を引けば、俺は3年間も通えていなかっただろう。

 そういえば何故か3年とも同じクラスだった。

 一種の奇跡だだだと言えるだろう。

 

 〈1-3〉

「クレナイじゃん」

「あれ?紅?」

「くれないではないか、どこへ行っておった」

「薙紫さん」

 部室に戻れば全員揃っていた。…⁉︎4人ともいる。どういうことだ…何故このタイミングで?

「……お前らこそどこ行ってたんだよ」

「え?いや、ずっといたけど…」

 …。

 この学校の七不思議って聞かないけど、こういう不可解な事態は普通に起こり得るところだからなここは…

 ────きっと、能力を持たない俺だけが何らかの異能の効果に引っかかったのだ。そうに違いない。

 今はそれ以外に結論はつけられない。

 だがしかし、気は引き締めておこう。

「…まあいいや、ところで俺は明日からちょっと出かけることになったから、一週間経って帰ってこなかったらみんな探してくれよな」

「りょーかーい…だけど話はそれだけじゃないって顔ね」

 またリリーに見透かされた。

 こういうところがこいつの怖いところだ。

 俺はドリンクバーからオレンジジュースを出して、最近部室の中央に置かれた巨大なテーブルに腰掛ける。

「まあ、あれだ。見解を…伺いたい」

 本題に入る。

 偶然の一致について。

「封印クラスに倉谷って奴がいるらしいんだが、本当か?」

「倉谷君?いるよ」

 時破田が答えると、リリーも首を縦に振った。

「いや、その倉谷…倉谷瑞ってやつに、ちょっと興味があってな。実は昔の知り合いに同じ苗字のやつがいるんだ」

「ああ、刃渡さんね」

 リリー、何で知ってるんだよ。

 というか察しが良さすぎだろう…ここまでくると怖い。

「なんで知ってんの…?」

「いやクラスメイトだし、話もするよ。倉谷君の本当の苗字が刃渡ってことぐらい知ってるし、刃渡唯ちゃんが紅の遠距離片思いの相手だってことも知ってる」

「ぶーーーっ!!」

 上記のセリフとともに、オレンジジュースを吹き出したような気分になった。実際には俺は黙って凄い勢いでテーブルに頭をぶつけた。

「きもちわるいよね」

 時破田が辛辣すぎて笑える。そして他の2人がノーコメントなのはいよいよ笑えない。

「違うもんねーー!!!」

 後頭部に集中線が書いてあるイメージだ。

「あー、状況が読めてきたのじゃ」

「薙紫さん…たしかに珍しい名字ではありますけど、ちょっと粘着しすぎじゃないですか…?」

 コメントを出すな!笑いどころまでなくなった!

 俺は顔を上げて公式コメントをもっと残したいところだが、そんなことをしたら余計に黒歴史になりそうだからどうすればいいかわからない。

「…あのね紅、そりゃ私だって別にこんな場所でする話じゃないとは思うし、小学生みたいにはやし立てたりしないけどさ…でも気づかなかった?薙紫とか時破田とか夏枷とか、刃渡よりも珍しい名前はここにいくらでもいるよ?」

「それはたしかに」

 というか俺が一番難読じゃないか…?

「でもよ…ほら。今回の場合、一致してるのが問題なんだよ」

「何が問題なのよ。夫婦かもしれないって?」

「いやそうじゃなくて」

 どうした俺。時破田に可愛い可愛い言ってた頃のワイルドさを取り戻せ!

 とは言っても、暗黒の中学時代を思い出せば、そんなことは不可能だった。

「もし…近しい親族だったとしたら…唯の方だって能力者になってるかもしれないだろ。そしたらそれはつまり思考異常になってるってことで…俺はあいつと話せる可能性があるんだ」

「……」

「中学の時に構ってくれたのに俺は一言も返せなかった。ひどいことをしたんだ…それを謝りたい。お前たちも何か、彼女についての情報があったら」

「呼び捨てしてんの?……気色悪いな…」

「違ああああああああああああああああ!!!」

 ややこしいから区別しやすいように下で言っただけだ!

 さて、仲間からの冷たい視線が俺に刺さる。

 もう殺してくれないかな?


 〈6-6〉章替えって便利だよね。

 明日からの任務、外国での裁判について、3人の同行者をつけ、そのまま陪審員もしてもらうという。

 ならば挨拶をしようと思い、とりあえず俺はそのうちの1人、倉谷瑞君の元へ向かった。

 彼は『封印しなくていい封印能力者』だなんて言われているらしいが、5組にいてリリーや時破田のように能力を抑えられている以上、実際にそんなことはないのだろう。

(そういえば、関係ない話だが、封印能力者の中でも封印される人とされない人の違いは異能史における立場があるかないか、らしい。都賀先生がこっそり教えてくれた。

 リリーは大魔導士の姪にして大犯罪者の間に生まれた子供。時破田についてはわからなかった。桜原棘や林道栄徹は組織だって行動してこそいるものの、個人の殺人鬼に過ぎない。シモンだって1人のクローンというだけだ。

 キャサリンは絶級能力者だというのもあるが、この学園で世間から最も大事だと思われている3組のテクノロジーを外敵から守る役目があるらしく、封印しては意味がないのだ。

 というかその役目は古い事件の償いでもある。

 ということで、これから会う倉谷瑞君も何らかの重要な人物であることは確かだ。少し緊張する。)

 気を引き締めて行こう。

 俺は1-5の扉に手をかけ、開けた。

「……失礼します……」

 まずそこにあるのはロビーだ。もう完全にホテルだ。

 そう、あの設定は今も生きているのだ…封印能力者には基本この教室の中にいてほしい理事長が、教室内をとんでもなく快適な空間にしているのだ。

 しかし以前来た時より凄いことになっている。

 というか初めてきた時はみんな机に座ってたのに、もう教室の面影を残す気すら感じられない。

 なんだこれ、俺、ここになら封印されてもいい。

 なんだかなぁ。

 庵内湖奈々、巫槍の両名を山奥に封印していた俺は酷いことをしていたのだと実感させられると共に、これは封印とは言えないとも思った。

 さあ、ロビーを抜ければさらにショッピングモール、銭湯、巨大図書館etc....果てには江戸時代の城下町まで完備しているが、今日の用事はこのホテルにある。

 ……しかし空間が拡張されている場所に入って、例えばエレベーターで移動している時とかに能力が解除されたらどうなるのだろうか…。

 とか考えているうちに、目的の階(最上階)まで超高性能エレベーターはたどり着くのだった。すげえ。

 夫れ。ようやくわかりやすく話が進むようだ。

 俺は、倉谷君が住むという部屋に来た。

 2回ノックする。すると。

「どうぞ、クレナイ君でしょう?お入りなさい。」

 と。女の声が聞こえてきた。

 …………倉谷『君』だよな?

 じゃあ、女と一緒にすんでるのか?

 俺は少し躊躇しながら、でも部屋に入らなければならないので、ドアを開け、中に入った。

 するとそこにいたのは。

「お、来たか……お前が紅だな?よろしくっ!」

「お待ちしておりましたわ。そこにお掛けになって。」

「……よう。ここまでご苦労さん」

 3人…いや4人いた。まさか…こいつら知ってるぞ…⁉︎

「俺は『シルフィード・N・ブレイヴァー』。カッケェ名前だろ?俺の誇りだ。能力は【相対(The des)回帰(troyer)】。カッケェだろ?全てを破壊する最高にクールで熱い能力なんだぜ!」

「私(わたくし)は『マリー・アルカード』と申します。能力は【吸血】と言いまして、全てを栄養に変える能力ですわ。こちらは執事のスピナー。明日からの任務には同行しません。覚えなくて結構ですわ」

「…俺は倉谷瑞。能力は【戦士の手紙(Key of 2nd)】。全てを遠ざける能力だ。よろしく」

「お、俺は薙紫紅!感情を操る達成使いだ!よろしく!」

 まさか。

 まさかこいつら、3人で、全員…!

「では封印能力者3人に達成使い1人、豪華なメンバーで、明日から裁判、頑張っていきましょう」

「おっしゃあ!盛り上がってきたぜ!!」

「……そだな。頑張ろう」

「…………ひゃあ」

 みんな封印能力者?嘘だろ?

 同行者っていうか……俺はひょっとして保護者を任されたのかもしれない。

 そうだ…まだあの設定は生きていた。

 迂闊だった…忘れていた。

 そもそも俺は、封印能力者の監視係だったじゃないか。

 これじゃあ全く文句が言えない。

 してやられたり。さあ、明日から頑張っていこう。

 変なことを起こさなきゃそれでいいんだ。

 変なことが起きなきゃ。起きなきゃいいけど…。


 〈5-4〉「任務については口頭ではわかりにくいので、当日に詳しくお伝えしますわ。とにかく今日はもう解散しましょう。明日の集合時間は朝の7時、早いですもの。準備は、小旅行に行く程度の気分で用意しておいて下さいな。」

 というわけで急に舞台は変わり、俺はコンビニへ向かっていた。どこの国に行くかわからない以上、1週間分の食料は持っていかなければなるまい…だがしかし。

 俺はそもそも戸籍が消された身、それに親もいないから、国から極秘に配給されるお金しか持っていないのだ。

 だからこれは結構な散財…具体的に言うと諭吉を溶かす覚悟でこの場所に来た。

 じゃあなぜ、単価の高いコンビニなのか。

 実はここ(永代市市まで来ている)には実験をしている店舗が多い。普通の社会での産業に役立てるためだ。

 そう安い。最近オープンした話題の安い店。

 とは言っても2割引だが…しかし2割は大きい。

 いざ、入店!

「うっわ…………」

 明らかに荒らされた店舗の中。もう俺にはわかる、強盗が入ったのだ。こんな酷いことってあるだろうか。

 少し考察してみよう。

 価格が安い店には誰でも行きたくなるものだろうが、普段は行けなかった人達まで来るのだろう。

 そういう人達は大体清潔でなかったり、もしくは怖い見た目をしていたりするだろうから、阻害地区の中でも平和なはずの永代市街なのに、治安が悪いと思われて顧客が減っていく。

 店舗内の客が減れば、強盗が発生する。

 そんなもんだろう。実験しておいて良かったな。

 俺も銀行強盗をした時には、玄関前にシュールストレミングでも置こうかと考えた。売ってないのがわかりきっていたから、作戦になることはなかったけど。

 とにかく酷い有様だ……だが俺は買い物する。

 ここ以外で買う気はない…まだ閉店していなくて良かった。食料たちよ、買い占めてやる!

「あれ、紅?」

 たまたま。本当にたまたまだった。

 まだ日本にいたのか──────────

 ───────────────あの男がいた。

「巫!」

 前章のラスボスが買い物していた。


 〈5-6〉どうしてこうなった⁉︎

「じゃあ普段も、学寮からここまで一々来てるのか?」

「まあな。でも坂道は少ないし、そんなに苦ではないよ。でも来ても高い買い物はできないのが辛いとこだ」

「…学園侵略から退散して、その後はこのへんの産業実験場を調査してるんだよ。まあ広い。あと1ヶ月はかかる」

 俺たちは意気投合していた。

 そうか、これが噂の、『こんな形で出会わなけりゃ俺たちは友達になってたかもな』というやつか。

 なるほど、状況をそのまま表した言葉だ。

 実際、庵内湖奈々の計画がなければ、俺たちは遊園地で出会った時に友達になっていて、今頃俺はダーク・バランスになっていたかもしれない。それも一つのルートとしてありっちゃありだが、考えても仕方ないことだ。

「しかし金欠なら買い物をするなよ、何考えてんだ」

「いやでもさすがに外国となると用意もしたくなるよ」

「説教をするようだが、ダーク・バランスなら事前の用意なんて殆どせずに現地に赴くのが普通だぞ。サバイバル能力ぐらいないとこの先困るんじゃないか?」

「いやお前この前超準備してきてたじゃん」

「珍しい例だったんだよ」

「はいはい……ああ、それで思い出したけどさ」

「ん?」

「『篠方』っていう奥義のこと」

「やり方を教えろってんならお断りだ。僕も原理を知ってるだけで使えるわけじゃない」

「いや、そのやり方の話なんだけど、詳しい人に教えてもらえることになったんだよ」

「……それどんなツテを使ったんだ?」

「部活メイトのクラスメイトから」

「せいぜい気をつけろよ、また巻き込まれてるぞ」

「えっ」

 そんな会話があった。

 すると彼は買うものを決めたようで、レジに並んだ。

 俺はその間に自分で買うものを決めて(熱湯で作れるような物や、冷えていても美味しい物を選んだ。こだわりは捨てない)、自分も並ぼうとレジに向かったら、彼はこちらを見て仁王立ちしていた。

 そして唐揚げ串を食べていた。おい、買ったもんをイートインでもないのに店内で食うな!

「だから現地調達できるようになれって言ってるだろ」

「そんなこと言われても…てか食うのをやめろ」

「わかんないんなら、お手本でも見せてやろうか」

「え?」


 〈5-8〉その時だった。

「オラぁ!全員手ェ挙げろ!」

 自動ドアが開いて、入ってきた覆面の男。

 手には拳銃を持っており、撃鉄は既に引いているようだった。この店舗ということを考えなくても明らかな強盗だった。

「─────!」

 俺の行動は早かった。今日は便利なものが色々入っている通学カバン(リュック)は持っていないが、戦闘用の手袋だけはいつもポケットに入れてあるのだ。

 言われた通り手を挙げたその両手は既に武器と化している…ふん、我ながら完璧だ。そして後は俺に注意を向けて、銃を撃たせる。致命傷により達成で無効化、一気に距離を詰めて殴る!

 完璧な作戦だ。

「この女の命が惜しけりゃさっさと金を出せェ!」

「きゃあああああ!」

「人質だと…?」

 銃を、民間人の女に向けている。

 全く抵抗できないようだ。

 まずい。2回の事件がもう終わったから油断していた…呪いとは関係ない3回目に遭うなんて考えてもいなかった。

「……まあ、こんな小事件、お前ならなんとかするんだろうけどさ、お気に入りの道具が無きゃ全力が出せないっていうのはやっぱり危険だぜ」

「い、今そんな話してる場合じゃないだろ!」

「そこ!何を話してやがる!!」

 強盗は蛍光灯を撃った。今更だがやはり実弾が入っているらしい。つまりあの女性は撃たれたら死ぬということだ。

 破片が飛び散る。

 このコンビニのレジは二つ、入り口に近い左のレジの前に強盗が人質を取っていて、奥にある右のレジに俺たちはいる。

 動けないのにあちらまで行かなくてはならない。

 さあ、どうすればいいか……

「こうするんだよ」

「……⁉︎」

 と、その時、ゆらりと巫が動き出した。

 右手には、飛び散ってレジの上に落ちた蛍光灯の破片を持っており、左手にはシールのついた商品…先程購入したのはそれだったのだ。彼は7色ある『画鋲セット』を購入していた。

 蓋を開け、中身をぶちまける!

「な、何を‼︎」

「ほれ」

 つまりいつもの戦法だ。巫と強盗の間、宙を舞う、色とりどりの画鋲たち。

 そしてそれに動揺しているうちに強盗の首元に破片が迫る。

 時期はまだ秋、強盗の来ていた服は首元がさらけ出されていたので、巫の計画通り首は切り刻まれ、頸動脈から勢いよく血が吹き出───ることはなかったが、血が流れていた。

「がっ…!」

 虹色の画鋲が地面に落ちる頃には巫は強盗の後ろにいた。

 強盗は後ろを向き、銃を構えるが、

 今度目の前にあったのは唐揚げ串である。

「⁉︎」

 強盗は咄嗟に手でガードする。

 巫はその間に地面に落ちていた画鋲を両手で一つずつ拾い、左手の画鋲を人差し指で弾いて打ち出した。

 再び銃を向けられる時には、画鋲は男の目の前に。

 反射的に体を反らせて避けたが、先程から動きすぎて、人質の女性が自力で逃げることができた。

 男が逃げる女性に手を伸ばした時にはもう遅い。

 巫は懐に入り込み、鳩尾に一発、拳を叩き込む。

 画鋲を持った手を思い切り握り締めれば本来手に刺さるはずだが、巫は能力【具現蒼穹】でダメージを無効化している。

 しかし巫は自分ではなく外部の力に頼るタイプ、パンチの威力は一般人と変わらない。強盗はよろめくが、倒れない。

 今度こそ巫に銃を向け、三発撃つ───!

 だが巫が相手なら、銃弾ではダメージにならない。

「⁉︎」

 そして左手で銃を奪い、右手でまた拳を叩き込む。だが今回はもっとえげつなく、画鋲で腹を刺した。

「ぎ、ぎゃあああああああああああああ!」

 強盗はうずくまった。

 俺の出番は無いまま、勝負アリだ。

「ほらな、現地調達でも意外となんとかなるだろ」

「……蛍光灯の破片にさっき買った商品、どれも先進国にしか無いものじゃないのか?」

「後進国にだって武器にできるものはあるさ」

「ふぅん」

「じゃっ!後は頼んだぜマイフレンド!」

「えっ⁉︎」

 そう言って巫は颯爽と走り去っていった。

 結局、このコンビニに強盗が来ないか監視しにきていたということだったのか……タイミングが良かった。

 今回、彼からは良いことを学べた。

 なんならボクサーでも、拳銃に勝てる可能性はあるということだ………比喩を差し替えなければならないな。

 ありがとう巫。現地調達は今度試してみるよ。

 俺はお会計を済ませて学寮に帰っていった。


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