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「これは…」


目の前で起こったその現象を臣下達は驚き感嘆し畏怖を抱き

そして羨望の眼差しを向けていた。

だが一方でそれに動揺を隠せないものがいた。


(これがシャルロッテ家の力か……!!)


アリスィア・シャルロッテ・ソルディックの処刑のなか

彼だけが動揺を隠せずにまた己の身を案じて逃げ出していた。

まるで魅了されたように臣下は己を守ってくれない。

ティフォナス・ホープは自分の人生を今更悔やみながらその場から

逃げるように去っていく。

勿論場所は魔法師団長室だ。

あそこなら各魔法師団員に今の偽りの危機を知らせることができる。


(私の決断は何も間違っていなかった…なのに…なのに!!!)


酷く疲れた様子で自室へと入り通信用の器具をとると

すぐにそれを耳にあてマイクを通じて大きく叫ぶ。


「しっ…侵略者だ!各魔法市団員に告ぐ!

 侵略者となるシャルロッテ家の生き残りを今すぐ掃討しろっ!!!」


だがマイクを通じてもその返事もサイレンも鳴らない。

背の入ってきた扉が勢いよく閉まり部屋中の電気が消える。

ティフォナスはただよらぬ殺意を感じ後ろを振り返ると

今しがた対象にした張本人が牙を向けていた。

牙は殺意の塊だ。


「侵略者はお前だろうが、重罪人がっ」


アリスィアはそうどこからともなく出した剣をティフォナスに向ける。

そして一瞬の間合いですぐに斬りつけた。

一言の返しの言葉も待たずにただ殺すという明確な殺意でアリスィアは

ティフォナスの右腕を切断していた。

叫びの声が部屋中に木霊する中アリスィアは次に左腕を、右足を、左足を

順々に切断していく。その目に光非ず、復讐の光だけが灯ったまま。

そして四肢すべてを切断し終えるとその切断面を


「悪いが俺はあんたのせいで魔法が使えない。

 あんたが両親を、あの森を燃やし魔力の供給を断ったことで

 俺は治癒魔法はおろか魔法に関与できない。

 まあ俺に魔法向けたら【創生】が反応してそれなりのことはするがな。

 ―――っていうことであんたをあの時みたいに焼き殺そうとしたが

 出来ない。【創生】で火を創り出しても面白くない。

 だから俺は……もう手を下さないことにした。」


何を言うと思えば、と驚きまたそれに対しての反論を言おうとした

ティフォナスだったがそれすらもアリスィアにはお見通しだった。

今まで四肢を斬りつけた剣で喉を斬り潰し舌を切断し始めた。

そして何も言えず何もできないその肉をアリスィアは憐みの目で睨みつけ

床に転がしそして頭を踏みつける。


「なあ父さんをこうやって踏んだ時あんたどう思った?」


「……っ」


喋れない。

だって舌がないから喉が無いから。

でも目はしっかりアリスィアを見つめていた。


「俺なら可哀そうだなって思ったが…あんたはやっと自分の位置に

 "魔法師団長"の地位が来るって喜んでたんじゃねぇか?」


「…っ……っ」


「笑ってたよな?母さんを殺した時も同じように。

 今はどう思ってる?自分の妹を殺した感想を聞きたいんだよ。

 なあ心の中でもなんで違うの一点張りなんだ?」


「……っ?!」


「何が違うって言うんだよっ?!!!」


アリスィアは【創生】の力を借りてティフォナスの心を感じ取っていた。

だがその感じ取った答えは自分が求める回答ではなかった。

目の前に転がる肉塊の妹である自分の母親を殺したのも

しょうがなかったと、革命のためには仕方ない犠牲だと心からそう思っていた。

そして同僚であり自分自身の父親を殺したのもそうだと、

あの森に関わっていたからと豪語している。

それはアリスィアを激怒させるのには丁度良かった。

さらに顔を踏みつけたかと思うと今も輝くホープ家の象徴である

金色の髪を掴み上げそして壁に叩きつける。壁には無数の絵画があるが気にせず

それにぶつけるように頭を掴みながら壁にぶつけたまま移動し衝撃を直接体に

教え込んでいく。そして体を片手で執務を行ういっちょ前の机に飛ばし叩きつけると

剣を片手にティフォナスの腹に突き刺していく。


「ふざけるな…ふざけるなぁあああっつ?!!!!」


アリスィアの目は赤くそして鬼のように灯っている。

もう誰も彼を止められない。

止める方法は唯一の目の前の死だった。


「父さんを殺したのも、母さんを殺したのも

 全部…全部正義だっていうのかよ?!!!

 あんたが掲げる理想を、正義を俺らに当てはめるんじゃねぇ!!!!!」


血反吐をたまらず吐くティフォナスの身体からはもう既に

一滴の血が流れなかった。

だがアリスィアはそれに気づいていない。

伝わる心の声も何も聞こえない。

でも止まらなかった。


「ふざけるなふざけるなふざけるな・・・返せ…父さんと母さんを!!!」


そして本当にただの肉塊となったそれをアリスィアは無我夢中で切り裂き、

頭と胴体を手でつかみ"ブチッ"という音と共にもぐ。

そこでアリスィアは完遂した目標に喜んだ。

だがその喜びが一瞬であり同時にそれでも自分の両親が

帰っては来ないことに意気消沈した。


「…」


しばらくの沈黙にアリスィアは

ただただ黙りそして虚空を見つめている。

それでも満たされない思いに逆に安堵した自分がいた。

明音の影響なのかな…とようやく自我を取り戻したところで


「…明音?……そういや明音は処刑されていないのか?

 だとしたらあいつはどこに……?」


自分がここに来たのは自分の記憶が治癒魔法で流出し

ティフォナスにばれたことがきっかけだ。

なら……まずは明音の保身が最優先だろう。

速足でここまで来たがどうも違和を感じる。


「……あんたに聞けば手っ取り早かったんだろうがな―」


その声に木霊するように扉が開かれる。

暗闇を解き放つように光が漏れだす。

だがその光の正体は自分にとってはある意味

目の前の肉塊(ホープ)との決着を意味していた。


「―ティフォナス」


「―父さん?」


ハッと俺はその方角へ扉へ顔を向ける。

驚きと悲哀に満ちた顔の義弟がその光景を見ていた。

顔を合わせ目が合ったところでその顔は変貌の一途を辿っていくのが

目に見えて分かる。

ああ…俺もこんな顔だったんだな。

復讐からは復讐しか生まれないと誰かが言っていたような気がするが

多分そうなのだろう。俺は実の父親を殺したティフォナスを殺した。

そしてティフォナス(とうさん)を殺されたエクリクシィ(むすこ)はきっと


「あ…ああああ…あああああ!!!!!」


エクリクシィが叫ぶ。

それについてきたと思われる二人もそれ以下に驚いている。

糸が切れた。

エクリクシィの自我を保つ強くて芯のある何事においても

千切れることのなかった糸が。

今まで突き放されそしてやっと対話できるかもしれない、

裏切り者という仮称とはいえやっとのことで重荷を下ろした父親と

対等に話しできるかもしれない、そう思っていたのかもしれない。

だが悪いが今の俺は他人に構っていられるほど暇じゃない。

もうそんな夢は通らない、だってもうそれはいないのだから。

「あ」を連呼し構えた鋼の剣が俺をかすめる。

目は見えずただ苦痛に歪んだ顔で唾液は垂れながら

エクリクシィの素早いを超えた神速の斬撃が俺を穿っている。


「お前が…おまえが……父さんを…」


「……」


ああ、殺した。

そう言えばすぐに済むのだが敢えてそれは言えない、言わない。

記憶を失ったとは言え10年以上の付き合いがある。

簡単に言えるほど俺はエク、お前を信じていないことにはなっちゃいけないんだ。

だからここは無言を貫いてそれが肯定だと、そういう意味だと分からせよう。


「…んで……」


「……」


嗚咽が混じる声でも内容はなんとなく知っていた。

【創生】というスキル…俺の力は何もない0から0以上を創り出す

というのが定義だ。つまり何もない空間や何の力もない自分に

新しい力を付け加えたり武器を創り出すことができるのは簡単なことに

なってしまっている。

確かに冷静になった今これを闇に葬りたかった想いも今なら分かるが

だからといって殺すということにはなってしまってはいけないんだ。


(―殺したんだろ?俺の父さんを。

 なら俺にも殺す権利があってもおかしくはないはずだ。)


力があったからこそ父さんはティフォナスに殺され

"ついでに"その場所も消し去った。

記憶がある者しか分からない歴史があるならば関係者をすべて殺せば

無かったことになる。醜い話だが生物はみな異形を取り払って生きている。

それが何であれ力があれば簡単にできてしまうことなんだ。

自分の思うような国を、世界を作れるように。

この場にいる俺だって郁々は闇に葬られるのは知ってる。

だがそれでもこの場にいたという爪痕は残したい。

スキルがあればこの場にないものなど簡単に作れるのだから。

赤く潰れた机にスッと触れそれを作る。

わざわざ回線を切って連絡不能にしていたというのに、

どうしてこうも自分が直す羽目になるのやら。


「…エクリクシィ・ホープ」


「っ!!」


俺は創り上げたものを傍に置きつつそして

喋り出す。今出している分身がダミーだということは

これを訊けばすぐに分かるだろう。

でも俺はそんなことよりもすぐに話したい気分にあった。

この国の行く末を見る目の前の次期魔法師団長、天界の長に。


「お前に"真実"を話す。」




最終話までもう片手で数えれるくらいです(^◇^)

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