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そのうちタイトルはつけますが…妖怪少女本編後の番外編としてつけるので
しばらくは話数のみです。
天界審問会は明日行われる。
夜更けになりつつある薄暗い空を窓から見上げる。
今、自分はエクの護衛を外れ自身の部屋へと戻っていた。
エクは父さんのところへ行くとスキロスもまた護衛から外し
そしてその当の本人であるスキロスは明日に
備えてともうすでに寝に行っている。
基本的に自分たち処刑人の朝は早い。
処刑時間は規定通りに行うのだがそれでも護衛の任務もあるため
寝るときに寝る。これをしなければ体が持たない…らしい。
自分はそんな疲れは感じないのだが慣れているからなのだろうか。
自分は物心ついたときからこの職務についている。
最も処刑人を選択したのはもっと後なのだが。
スキロスは同じ部屋に入るが同期ではない。
同じ年だとは思うがスキロスは自分が何十年か魔法師団にいて経過したときに
入ってきた者だった。友達と…エクは言うがそれと呼べるのはエクくらいしか
いなかったため同じ部屋にいることとなったスキロスとの溝は当初であれば
埋めるのに苦労しただろう。だが今は良き友人であることに変わりはない。
これからの人生がいつまでもこのようなものであるとは限らないだろう。
何かが変化することはある。
その変化に自分は対処できると良いのだが…と普段は頭の念頭にもいれない
考えをめぐりながら自分はぼんやりと空を眺める。
とその時コンコンというノック音。
『アリスィアはいるか』
この声は…クロヌ…さん?
はい、と答えるとちょっと付き合え、とだけ言い中に入りもせず
自分は身支度だけをすませ出ると
「よし。…スキロスは?」
「寝ています。起こしましょうか?」
「いや、良い。
ちょっと私と軽く一杯付き合ってくれないか?」
と右拳をくいっと何かを飲むように動かすと
自分の回答をクロヌは待った。
勿論文句はない。OKだ。
「ええ、良いですよ」
クロヌさんはありがとうと呟き、では行こうと微笑を浮かべ
足を早める。それに自分も従った。
魔法師団の恰好のまま城下町を歩きクロヌさんの横にはいかないが
その後ろを歩いているとクロヌさんは今日は申し訳なかったと話し始めた。
「私ももう少しお前やスキロスについて何か話し合えばよかったのだが…
暴力が過ぎようとしていたな。すまない。ここで詫びよう」
「いいえ、クロヌ様にとってはあの一瞬一瞬の光景が信じられないものに
見えるのは当たり前です。
疑っても自分としては当然のことだと思っていますよ。」
「そうか?不快な思いが無ければ構わないのだが…」
「あればどうします?」
そう、笑いながらからかうとクロヌさんは苦笑しながら
それでは謝るだろうな…と話した。
そのままちょうど事件のあった場所付近の酒場に二人は入る。
灰色の大理石が目にうるさくない程度に光ったとても穏やかな場所だ。
意外にも人が多いがそのほとんどは住人だった。
その盛り上がりは外にも聞こえるほどで
今までの生活とまさに対照的で明るく見えた。
「結構盛り上がってるな…」
「変えますか?」
いや、と座るとカウンターに近い席に座ると注文する。
それに自分は目でその返事をして同じく座る。
「お金は私が持つ。謝罪の意味も込めてな」
「先ほどのは冗談だったのですが…良いんですか?クロヌ様?」
様付けはやめてくれと杯を持つと自分もその返事にチンっと
自分の杯を鳴らし合うとくいっとその中身を飲み干す…と
クロヌさんは疲れをやっと取ったという表情で笑った。
自分もそれに合わせて笑うとクロヌさんは喋り始めた。
「君は本当、人の顔をよく見ているな。
…なあに悪いことじゃないさ良いことだと思うよ。
羨ましい能力だよそれは。」
「そう言うならあまり良いことではないと感じ取れますが…
まあそうしておけば自分が余計なリスクを負ったりしない。
酷い言いようですがもう既に身体に染みてる癖なのですみません。」
気にしないよとクロヌさんは呟く。
氷がカラッと鳴りながらクロヌさんは話し始めた。
「知っての通り私は魔法師団の財政政策担当であり
エクの…次期魔法師団長の婚約相手であり魔法師団二番隊隊長だ。
なのだが今日、魔法師団長に急遽解雇されたのだよ。
二番隊はやらなくて良い、護るのであればそれは息子だけで良いってね。
私がいらなくなった…というのではないだろう。」
「解雇…ですか。
確かにクロヌさんは魔法師団の中での最高戦力ですからね。
エクの…確か《魔力:継続》並みに近い魔力を持っておられるんでしたっけ?」
魔力ではない、実力だ。
そうクロヌさんは提言する。
クロヌさんは自分と同じ気持ちであることを再認識すると
その話題について考え始めた。まずその同じ気持ち…
つまりは明日行う天界審問会についてのことだった。
本来であれば天界審問会は魔法師団長自ら行うものではない。
例外はあるにせよいつもならば天界審問官が行い自分である処刑人が刑を処す。
だが今回は極めて異例が重なりすぎている。
魔法師団長自らが行うときは次期魔法師団長や
それに近い親族も顔を揃えることになっている。
またそれに警備も頑丈と強固となり二番隊どころかすべての軍を出す必要がある。
だが今回はまずその顔を揃えるということをしない。
魔法師団長、ティフォナス・ホープは息子エクリクシィ・ホープをまず
傍には置かず傍聴席に置くことにしたのだ。
警備はいるもののまず自分やスキロス、エクに親しい処刑人までもがこの今回の
天界審問会に手を出せなくなっているのだ。
無論そのため、自分やスキロスは護衛役にまわっている。
そして同様にクロヌさんもまたこれに合わせてかの解雇。
それぐらいアリス・シャルロッテ・ホープの処刑の有無が重要なのか?
「確か今回のケースは捕まえたとかではなく自首…でしたか?」
「ああ、そうだ。まったく…自首というのも気になるな。
―…アリスィア、気を付けろ。」
と真剣な眼差しでいきなり見つめるのでびっくりした自分は後ろに何か
あるのかと構えたが相手は自分のようだった。
そして耳打ちするような小さな声で話を続けた。
「今回の審問会は嫌な気がする。
行けば死ぬとほとんど決められる決断を下される場所に
どうしてアリスは自首をしたのか。
そして本当に一人なのか。
だからこそ私もアリスィアもお互いにな?」
そう話し終えるとクロヌさんはもう一杯!と注文し
自分にもさっきとは違うとても楽しんでいる様子で杯を勧めた。
自分はそれに若干苦笑しながらもええ、と呟き付き合った。