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今日、ついに天界審問会が開かれる。

一同に会するのは天界で最も有力で名門とされる者たちであった。

審問官に魔法師団長がならびそれを中心として相手を扇状に囲むのが

例によってはハーヴェスト家もいる。

クロヌはエクを護りつつ審問官とは別の席、傍聴席にいるのだが。

手出しは一切できない。だがそれをする必要はどこにもないし

どうすることもできないだろうと自分含め誰もが思っていた。

そして時計の長い方の針が12を指したその一瞬(とき)それは訪れる。

いよいよ審問会が開かれる。





「被告人は前に出よ」


審問官もとい魔法師団長がそう言うと複数の兵に拘束されたままの

その少女は遂に表舞台へと姿を現した。


「アリス・シャルロッテ・ホープで間違いないな?」


「ええ、お久しぶりですね、ティフォナス(おとうさま)♪」


そう挨拶をする青いドレスに黒いシルクハット。

シルクハットには茨のついたバラをつけその色は目が痛くなるような紅の色だった。

そして白に近い灰色の長い髪。目は綺麗なコバルトブルーの色を持っている。

ニヤッと笑うとアリス・シャルロッテ・ホープは自分たちの方を見て

ガヤガヤとする傍聴席を一瞬で静かにさせる。


「まさかあんな場所にエクを置くなんて…私がそんな恐れ多いですか?

 ティフォナス・ホープさま?」


「念のためだ。」


アリスはふぅんと鼻を鳴らすと思いついたような顔で

ニヤッと口元を三日月のように狂おしく可愛らしく曲げると

その対象は未だ自分たちから離れてないと悟る。


「しかしよくもまあ役者を揃えたものだよ。

 北条家にハーヴェスト家…有名な家名ばかりだけれど

 すべて年老いた老害どもじゃないか。

 未来ある息子娘たちは傍聴席に入れて手を出させないようにしたけれど…

 それは無意味だねぇ…処刑人の隠し持っているすべてのナイフの刃は

 折らせてもらったよ?」


とアリスはスカートをたくし上げるとその中から次々とナイフと思われる

刃の刀身がカラカラと音を立て落ちていく。

それに驚いたアリスの周囲の兵士たちは締まっていたナイフを取り出すが

そこには刃だけが綺麗になくなった柄だけが残されている。


「若い者には手を出させなくして自分たちの力を誇示したいのか?

 まあ私はそのための餌だとすれば…君たちは食中毒で倒れ死ぬだろうがな。

 さて…表上は自首であり、本当はただの呼び出しだったのに…私をどうしたいのかな?

 魔法師団長??」


「呼び出し?は!知らんな。

 お前は自分の罪に耐え切れず自首しただけのこと。

 さてさてアリス・シャルロッテよ言い残したいことはあるか?」


魔法師団長の声で進められていく光景にエクは固唾を飲む。

アリスは未だ笑いティフォナスは釈然とするアリスに憤っている。

そしてティフォナスがギロっとした目でアリスを見て呟く。


「なければこれより処刑の有無を唱え」


「ねぇねぇ~?みんなは気にならないの??どうして私が重罪人だってこと。

 どうして誰も責めることができなかった難攻不落の不思議の国はたった一日で

 消えたと思う?誰が?何のために?どうやって?

 それを私は言うために来たんだよ?ねぇ…?アリスィア・ソルド?」


「!」


自分の方向にすべての目線がかかる。

アリスはそれを見て嘲笑しそのまま続ける。


「どうしてあなたには親がいないの?

 どうしてあなたはアリスィア・ソルド・ホープという名前なの?

 …ふふふ…良い?私を殺すということは一個人の天使の過去までも消すということ。

 大切な記憶や大切な過去を消してしまうということ。

 私にとってはどうでも良い天界審問会(あんたら)にとっては大事で重要な見つけたい

 時代の裏側を全て知っているの。

 エクリクシィ・ホープ…あなたは思っているはずよ。

 どうして…自分の父がここまでして私を消したいのか。

 どうしてそれを見せつける必要があるのか

 どうして自分は手を出せなくなってしまっているのか

 どうして私はあなたに声をかけたのか…とかね♪」


アリスは自分からターゲットをエクに変えると

嘲笑するかのように傍聴席を見やる。

全ての目線が自分やエクにかかっていると思ったがそうではない。

今注目を浴びているのはアリス自身だった。

アリスはこの好機を逃さない。


「どうしてか……それは簡単♪

 私がすべての国の、天界魔界常界すべての歴史の真実を知っているから。

 消してしまいたい生物の記憶をすべて知っているから。

 どう考えるかの思考までは分からないけれど…でもあなたたちが

 今まで一体何をしてきたのか、私はすべてを暴露できるの。

 さて…と。考え直してくれるかしら?魔法師団長さ・ん♪」


アリスから発せられた言葉に固まる魔法師団長ティフォナス・ホープ。

顔は見えないが焦っているようにも取れる。

アリスはシルクハットから杖を取り出しそれを支えにシルクハットを被ると

何かを呟いているのが伺えた。

だがそれは自分にしか見えない方向だったのだが。

そしてシルクハットシルクハットから小さく自分と目を合わせると

口パクだが何かを呟いている。


(―――あなたの名前は…アリスィア・ソルディック。

 私と同じ"名前"を持つ者。)


その口パクに驚きたじろぐ自分をしり目に魔法師団長は決断する。

バッと立ち上がり来ている白く輝くマントが日照りに照らされ

アリスの目線ぴったりに入ったかと思うと

ティフォナス・ホープは魔法の詠唱を開始する。


「まさか―!!」


エクが飛び出そうとするのを自分とスキロス、

駆け付けたルーナやフォティアが止めクロヌもまた合流すると

開始された詠唱を前にアリスは驚きも動じもせずそれを見ている。

ただ呆れた感じではない。あれはもう既に分かっている理解している目だ。


「アリス・シャルロッテ・ホープ!貴様を禁固刑の刑に処す!!!

 その者を…捕らえよ!!!!!!!!!」


「―――出番よ、"ペイン"」


放たれる金色の光を前に成す術がないように思われたアリスは

そう一言呟くとアリス前にいきなりその男が現れる。

そしてその男は群青色の髪を揺らし灰色の目で魔法師団長を見ると

自身に飛んでくる黄金の光を差し伸べ出した左手で掴み一瞬にして消し去った。

その光景にその者の正体に魔法師団長は固まった。

エクやアリスィアも、それを見るすべての者が固まった。

今放たれた詠唱魔法は相手を光に還元して一生生物ではなくならせるための

ものだったはずだったのだがその者は未だ痛そうにもせずただポリポリと頭を掻いている。

虚ろな目でアリスを見ると


「遅く………なりました…アリス」


「良い登場よ、ペイン」


アリスよりも知られ恐れられる人物。

魔界を壊滅させかけそして彼を恐れ攻撃したすべての天使が

彼の自らの手によって殺された。

痛みを知らぬ者、名をコールド・ペイン。

元天使の今は堕天使。今勝機はアリスにあると

この場を見ているほとんどの者がそう思った。

アリスは固まるすべての天使を前にペインに呟く。


「呼んだのは他でもないわ。

 あのね、天界審問会は私を敵に回すそうなの。

 殺せとまではまだいかないけれど…私の代わりに黙らせてくれないかしら♪」


今までずっと見せなかった飛び切りの満面の笑みで笑うと

ペインは跪いて了解しました、と呟き立ち上がる。

その光景に傍聴席から悲鳴が上がり続いて連鎖しながら徐々に

リアルなものであると実感させられていく。

魔法師団長も逃げようとするのを見てエクは呆気に取られていた。

自分はというとそんな彼女を異様にも思ったが呆気には取られずエクを護りながら

逃げようとする。

アリスはそんな彼らを見てペインに告げた。


「"あれ"をやればみんな黙ると思うけれど?」


「でも…やったら酷い奴は……抵抗むなしく死にますよ?」


「死ぬのはった一人だから大丈夫。さあやって大人しく帰りましょう?」


じゃあ……とペインは逃げ惑う人たちに向かって左拳を突き出し



「"Struggling suffering Know your own pain."(もがき苦しみ己の痛みを知れ。)

 ペイン・ザ・ワールド」



拳から繰り出されたのは不可視の攻撃。

そして突如として上がる断末魔の叫び。

この場にいるすべての者がそれまでに負ってきた痛みを再度知る。

その効果を前にすべての者が頭を抱えたり失神したり泡を吹いて倒れていく。

アリスは満面の笑みで入ってきた扉を開けるとその先は暗闇に閉ざされていた。

ペインはけだるそうに徐々に倒れ伏していく者たちを背にアリスを護るようにして

そしてアリスは一言立ち去っていく。


「ごきげんよう♪」


残された者たちは倒れていったり怠そうにしたり疲弊して茫然したりしている。

エクも学生時代に多く受けた痛みを少なからずは感じていた。

咄嗟にアリスィアが守護結界を張らなければ

特に身体が弱いフォティアは危なかっただろう。

今は気絶しているがルーナもクロヌは何とか耐えていた。


「はぁ…はぁ…これに精神攻撃とか含まれていたら

 …うちのメンバーの面子は

 全員ヤバかったかもな……というかアリスィア

 …守護結界張れたんだな…ありがとう。」


アリスィアはそれに一言も答えなかった。

エクは疑問を感じアリスィアに近づく。

もしかして痛みが激しくてフォティアのように気絶したか?

もしくは守護結界の範囲には入らなくて気絶したか?

様々な憶測がエクの中で広がっていた。

だが考えは生きているということだけだった。

エクはアリスィアの肩を掴んだ。そして


「ぶはぁっ」


「え―」


アリスィアは大量の血をエクにぶちまけ倒れ伏した。

エクは必死に声をかけるが本人には一切聞こえない。

なぜならアリスィアの心臓は止まっていたからだった。

色のない目は虚空を見つめていた。

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