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第1話






「あーそぼ♪......ねぇ♪僕と一緒に遊ぼうよ♪」


ヒヒヒ......


ヒヒヒ......


夜な夜な聞こえる謎の声......


そんな声が聞こえるこの街で


静かに事件は起こっていた。







______とある酒場。


「......また、子供が1人行方不明だってよ」


「マジか?もう何人目だよ......5?6?」


「7人目だとよ。今回は商会の娘らしいぞ」


「え!あの噴水広場でよく歌ってた子供?」


「そうそう!それが商会の娘よ!」


「......誘拐事件か......さすがにこれは国が動くな」


「ああ。動くね。......あの最強の大賢者が......」


「人さらいか売り飛ばして奴隷かね......」


「物騒な街になっちまったな......」









⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆







ここはエメラルド王国。ルビーの街。


王都からほど近いこの街には

有名な冒険者ギルドが存在する。


紅玉ソードオブルビー


ルビーの街になぞらえられたそのギルドの名前は

この国の中でもっとも有名なギルドのひとつ。


そしてそこに、このギルドで新しく

働くことになった1人の女の姿があった。


「ではエマさん、今日からこのギルドで

受付嬢として働いて頂きます。」


「......は、はいっ!よろしくお願いしますっ!」


「私のことはアンと呼んでくださいね」


「わかりました!

あまり人付き合いが得意ではないので......

ご迷惑をおかけしたらすいません......!」


「大丈夫ですよ♪

ゆっくり慣れていってくださいね」


エマはあまりの人見知りのせいで

引きこもって薬品の作成などのアルケミストの

仕事をしていたが今回知人の紹介で

ギルドの受付として働くことになったのだ。

この人見知りの引っ込み思案を克服して、

人ともっとコミュニケーションが

取れるようになるために

彼女としては一大決心で挑むお仕事となる。


「が、頑張って接客するぞ......!」


極度のコミュ障の彼女だったが

優しい先輩やギルドスタッフ、冒険者たちにより

なんとか初日の業務を終えることになる。


「うひひ......ブツブツ......ばぶばぶ......」


「わぁ!?エマさん大丈夫ですか!?」


「うひひ、アン先輩......私この世に産まれてから

今日が1番喋った日になりまひた......」


「わぁ!お疲れ様です!......休憩してください!」


エマはフラフラとソファーに座り込んだ。


黒髪おさげに大きな丸眼鏡をかけたエマ。


見た目は文学女子。

司書とか図書館とかに居そうなタイプ。

引きこもって薬品の研究や製造をしていたので

初対面の冒険者とのあらゆる会話で

彼女の頭はパンクしかけていたようだ。


すでに冒険者たちからは

空を眺めてブツブツ独り言を言っている

変な受付嬢が来たと噂を立てられていた。


そこへ


「おう!戻ったぞ!」


ギルドにオラオラと肩で風をきって帰還した男。


このギルドのマスター。


ジーク・レオンハルトである。


真っ赤な長髪を後ろで一括りにしたムキムキの男。

着ている鎧は国から貰ったという伝説の魔法の鎧。


このギルドが有名な理由がこの男。


この世界を恐怖に陥れた魔王を倒した伝説の勇者。

それがこの天剣の勇者の異名を持つ

ジーク・レオンハルトなのである。


魔王を倒した褒美に伝説の鎧とこのギルドの

マスターという地位を手に入れている。


霊体の悪魔であった魔王には

誰も攻撃を当てることができず、

無敵と呼ばれていた魔王だったが

そんな魔王に唯一攻撃を当てれたのが

この男の剣技、天剣というスキル。

霊体すらも斬り倒したこの男は今では

伝説の勇者として

この街のギルドマスターをしている。


「マスター。こちら紹介頂いたエマさん。

今日から受付嬢として働いて頂いています」


「......マスター!よろしくお願いしますっ!」


「ガハハ!そうか!よろしくな!受付嬢!」


とんでもないムキムキマッチョな体を震わせ

ジークは豪快に笑いながらエマに握手をした。


強く握られたエマの手には

大きな手形がついてしまい

エマはひりひりと痛む手をブンブン振って

冷やそうとしている。


「おう!お前ら!今日は終わりだ!

ギルドは閉めちまえ!歓迎会をやるぞ!」


「......は?」


ジークはそう言うとエマを片手でひょいっと

持ち上げ、肩に担いでしまった。

スカートからエマの太ももが

チラチラと見えてしまっている。


「......わわわ!マスター!!......ひぇぇ!」


足をバタバタさせているエマを見て

冒険者共は大盛り上がり......!


「いいぞマスター!やれやれ!」

「新人ちゃんよく見りゃ

可愛い顔してんじゃねぇか!」

「みんなで呑もうぜぇ!ひゃっはー♪」


先輩受付嬢のアンは慌てて叫ぶ


「マスター!パワハラです〜!」


「うるせぇアン。お前もだ!」


アンは1番人気の受付嬢。

冒険者たちのファンも多い。

いつもこのマスターにいいようにされているのは

残念なことに、もうお馴染みの光景なのだ。


もう片方の肩に担がれたアン先輩は叫ぶ

「......もう!誰かなんとかしてくださぁい!」


そんなアンと、あまりの極度の興奮から

「イーヒッヒッヒ!」と奇声を発し始めたエマは

夜の酒場へと連れ去られましたとさ。






______翌日。




「もう!まったく!ほんとごめんねエマさん!

あの脳筋おバカマスターはいつもあんな感じで!

ほんとガサツでデリカシーなくて......!」


綺麗なピンク色の髪をこれまた綺麗に

ツインテールにしたアン先輩は

昨日のゲリラ飲み会の文句を言っている。


「うひひ......アン先輩は

マスターのこと好きなんですね」


「......え!......は?はぁぁぁあ!?」


「あ、つい、すいません、うひひ......」


「エマさん!勘弁してください!なんであんな

デリカシーゼロ脳筋おバカのことを......!」


あきらかに動揺しているアン。


「うひひ?」


「い、いや......私両親が冒険者でね......

魔物にやられているのよ。

だから仇を取ってくれた勇者としては

もちろん感謝もしているし、尊敬もしてはいます。

だから......

べ、別にそういうんじゃないんだからねっ!」


「うひひ......」


エマは別に恋愛感情としての好きというつもりで

言ったわけではなかったのだが......

エマは人と深い話をしすぎると

嫌われてしまうという経験があったので

それ以上の言及をするのはやめておくことにした。


そこへ来訪者が現れる。


「やっほ〜☆エマちゃんやってる〜?」


意気揚々とギルドへ入ってきたその人は

ド派手な金髪縦ロールと

正装なはずの修道服に

ジャラジャラと派手な宝石をつけまくった

風変わりなギャルスタイルの美女。


今回エマをギルドへ紹介した張本人でもある。


「うひひ......ミランダ様。こんにちわ」


「......いやぁん♡エマちゃん!受付嬢の制服

めちゃくちゃ似合ってるじゃん〜可愛い〜☆」


「......うひひ......恥ずかしいですぅ」


「あ〜たまらん☆目の保養すぎるんだけど♡」


「ミランダ様くっつきすぎです!モラハラです!」


アンとエマにくっついてスリスリしている

このド派手金髪女は何を隠そう

この国の防衛大臣であり、

史上最強の魔法使いと呼ばれている

厄災の賢者ミランダ・シャルロッテ。


「アンちゃん香水変えたのね☆恋でもしてるの?」


「......わわ!ミランダ様ぁぁ!?」


くんくんされてアンは飛び跳ねる。


「......うひひ」


「......もう!要件をお願いします!」


「エマちゃんの様子を見に来たついでに

仕事の依頼なのよぉ☆」


「......仕事の依頼の方が本題ですよね!?」


「え〜?エマちゃんのが大事♡」


「......うひひ。」


くっついて離れないミランダ。


「エマちゃんは元々前職、国とも取引してた

優秀なアルケミストよ。少し癖があるけど

仲良くしてあげてね☆パイセン♪」


癖があるのはお前だと言いそうになるのを

アンはグッとこらえて話をすすめる。


「それで、仕事の依頼はなんなんですかぁ?」


「この街で起きてる、子供誘拐事件だよ☆」


「......ああ。やはり来ましたか......」


「うん☆ジーク呼んでくれる?」


「うちのマスターが

大人しくギルド内に居るわけないでしょう?

経営も雑務も全部スタッフに丸投げで

魔物退治のクエストに出てますよ。

いつものことです......!」


「そうか〜それじゃぁ仕方ないなぁ☆

ジーク帰るまでエマちゃんと

イチャイチャしながら待っとくね♡」


「イチャイチャするために

わざとアポ無しで来ましたね!?」


「ミラなんのことかわかんな〜い☆」


「はわわ〜ミランダ様そこはおさわりダメですぅぅ」


ミランダの過剰なイチャつき攻撃に

エマがまた興奮して「イーヒッヒッヒ!」と

叫び出したところでジークが帰ってきた。


「うひひ?マスター予定より早い帰還です」


「......ち、帰ってきたのかよ」


「......ミランダ様?本音が漏れてますよ!」



マスターは冒険者を1人担いでいる。


「おい!誰か手当てをたのむ!」


一緒に同行していた冒険者が怪我をしてしまい

早めに帰ってきたようだ。


回復薬ポーションを使いベッドに運ぶ。


見ていたエマは手持ちの薬を差し出した。


「これ、良かったら使ってください......」


エマから渡された薬品を使うと

冒険者の傷はみるみる塞がり完治してしまった。


「......え!すごい!なんですかこの薬!?」


「え!まさかこれエリクサー!?」


「......うひひ。前のお仕事のツテで多少レアな薬が

手に入りますので......いくつかあるのですぅ」


「いやいや!エリクサーて

最上級回復薬ですよ!?」


一つで一般人の年収くらいする最高級の回復薬。


「たまたま貰ったものなのでお気になさらず......」


「新人受付嬢さんすまないありがとう恩に着る!」


完治した冒険者からの感謝の言葉。


「まだ皆さんのお役になかなか立てないので......

お役に立てたのなら良かったです......」


なんていい子なんだ......!

エマは人見知りで独り言も多く

笑い方も気持ち悪く変な子だったが

この短期間ですでに

根はいい子なんだと認識されだしていた。


「エマちゃん素敵〜☆」

相変らずくっついて離れないミランダを見て

「おいミラ!うちの受付嬢に手を出すんじゃねえ」


「ぁあ?ジーク?お前に任せてたら

冒険者も怪我してんじゃねぇかよ?

男どもはどうでもいいけど

女の子怪我させたらタダじゃ済まさねぇぞ?」


「あ?嫌がってんだろが?わかんねえのかババァ」


「ジーク!誰がババァだクソガキが!」


年齢不詳のミランダは年齢を言うとブチギレる。


ギルド内の時空が歪みだす。


「育ててやった恩を忘れやがって!」


ギルド内の気温が急上昇をはじめる。


「ババァはさっさと結婚でもして隠居しろ」


地響きがはじまる。


「......あたしはぁ!女の子が好きなんだぁぁあ!」


この最強のふたり。


脳筋勇者と変態賢者が睨み合うだけで


ひとつの街が崩壊しかける。


「マスター!煽らないでください!」


「ミランダ様!核融合魔法カタストロフの詠唱やめて〜!」


この国の名物でもある


この最強の2人は


一振りの剣と


一つの魔法だけで


国ごと吹き飛ばしかねない


むちゃくちゃコンビ。


実は勇者の育ての親が


この賢者なのである。







「......もう〜!

この脳筋勇者と変態賢者を

誰かなんとかしてくださぁい......!」





今日も悲痛な叫び声がギルドに響き渡る......













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