9・ルクレツィア 1
長い回想に突入ですわ。
昼休み、零華が昼ご飯を食べ終わって戻ってくると、理奈が麻美と千秋と千鶴の四人で、スマホで何かを見ていた。すると麻美が零華の姿を確認すると、理奈達に教えてクスクスと笑いだした。
「? 何を笑っているの? 僕の顔に何か付いている?」
理奈達の所に行き尋ねる零華。
「零華、あのね…」
「待て理奈!」
理奈が何かを言おうとした時、麻美が止めた。
「折角だから、ソレを零華のスマホに送ったらどうだ?」
「! そうだよ理奈。零華君に送ったら 絶対喜ぶよ?」
千秋にも言われて、理奈は少し考えた後、頷いてスマホを操作した。すると零華のスマホが鳴った。
「何? なんか僕に送ったの?」
零華はスマホを確認してみると、一枚の画像が送られていた。其れには『ルクレツィア』というタイトルが名付けられていた。
「……」
零華は嫌な予感を感じながら、その画像を開いた。すると其処にはカチューシャを付けた金髪の髪をしたメイドが写っていた。そのメイドは右目の部分を前髪で隠し、恥ずかし気な表情で目線をこちらに向けていた。
「懐かしいでしょ…ルクレツィアちゃん?」
千鶴がニヤニヤしながら言った。
「な、何でまだこんな画像を持っているんだよ!」
零華が顔を赤くしながら言った。
「え~だって、折角可愛らしい衣装を着た記念なんだから、良いじゃない?」
理奈が笑顔で言った。
「だからって…此れは…」
「そうだよね? 去年の文化祭の時の…零華だもんね」
理奈が思い出す様に言った。画像の金髪のメイド…それは女装した零華であった。
零華は一年前の事を思い出す…。
一年前…
「我が1‐A組の出し物は話し合った結果…何と、『執事&メイド喫茶』になりました!」
「うぉおお!!!」
「やったー!!!」
当時の2‐A…即ち1‐Aは、近々行われる文化祭の出し物について、放課後の発表していた。出し物が決定した事に、クラス中から歓声が上がる。
「……」
前日に遅くまで本を見ていた零華は、今にも眠りそうな顔で伏せながら、話を聞いていた。
「というわけで、チキチキ! 執事&メイドカフェの話し合いの始まり~!!!」
「いぇ~い!!!」
文化祭実行委員である、東屋 尊と中橋 美海が宣言すると、またもや歓声が上がった。
「…バラエティー番組か…」
伏せながら零華が呟いた。
「何だよ零華、お前テンション低いな? お前がこのアイディアを出したんだろ?」
隣の席の下村 疾風が声を掛ける。
「僕が出したのは、『喫茶店』とアイディアだけだ。執事とメイドは、皆が悪ノリして追加したんじゃないか」
この当時既に喫茶店でアルバイトしていた零華は、それを元に喫茶店のアイディアを出したのだが、面白がったクラスメイトが追加をしたのであった。
零華と疾風が会話する中、尊が話を続ける。
「先生からも許可を貰った後、レンタル衣装の店に連絡をして、衣装を貸してもらえる事になったんだけど…」
其処で尊は一旦話を切り、真剣な表情で再開する。
「衣装が…女子のメイド服が十六着…男子の執事服が十四着しか借りれなかった…」
尊の言葉に、クラス全体が沈黙する。
「ちょ、ちょっと待て!」
口を開いたのは、野中 来季。零華の次に成績優秀者である。
「このクラスの男子十五人、女子十五人の合計三十人だ。その分配だと誰か一人が…」
其処まで来季が言った瞬間、クラス男子全員が理解出来た。
十四人が執事服、一人がメイド服…早い話が女装である。
という事実が…。
「そうなんだ…だから今此処に、十四着分の執事服が…」
そう言いながら尊は、美海と共に十四個の紙袋を廊下から持ってきた。その瞬間…尊を除いた男子十四名が紙袋に突撃した。あっという間に紙袋の争奪戦になった。
「わぁちょっと待て! 俺だって嫌だぞ!」
尊も慌てて争奪戦に参戦する。
「「「ギャー、ワァー、アー、マー!」」」
クラスは男子の執事服争奪戦による、阿鼻叫喚に包まれた。
「……」
当然その中には零華も参加していて、零華は小柄を利用して、気付かれない様に端に転がった紙袋に近づいた。
「…年齢に対して背が低いのは気になっていたけど…こういう時に役立つな…」
そして目当ての紙袋に手を触れた時…零華が掴んだ部分とは、反対側を掴む手があった。
「! 太一!」
「零華君!?」
その手は藤本 太一。零華の次に背の低い男子生徒だ。
「これは僕が先に目を付けた紙袋だ!」
「僕だって渡したくない!」
零華は頑なに渡すのを拒否したが、太一も譲らない。その時…
「待った待った待った!!! 皆落ち着け!」
其処に修兵の大きな声が上がり、戦いは中断した。
「これじゃ何時まで経っても決まらねぇよ! 此処は公平にクジ引きで決めないか?」
そう言って修兵は、何時の間にか用意したのか、十五本の割り箸が入った筒を差し出した。
「この中に一本だけ、『女装』って書かれた箸がある。それを引いたらメイド服ってのはどうだ?」
修兵が提案する。
「…何でそんなの持っているんだ?」
零華が疑問を感じて尋ねる。
「いや実はれい…何かに使えないかなって思ってな。以前から作っておいたんだ」
「…今、『れい』って言わなかった?」
「さあ始めようぜ!」
このクラスの男子で、『れい』と付くのは自分だけだったので、その事を零華は尋ねたのだが、修兵ははぐらかした。
そのクジを引く前に、公平を期すために女子に1から15まで紙を作ってもらい、その中からランダムに選んだ数字の出席番号からスタートをすると決めたが、偶然にも『1』の番号を引き当てた為に、尊からスタートになった。
さ~て…誰が女装するのか…。
感想・ブックマーク登録・レビュー・ポイント評価・質問等ありましたら、何でもどうぞ。