地下ダンジョンに攫われて
そうこうするうちに、前日の夜になっていた。
「すごい……私達の年齢でこの大きさって、パないわね。DかEはあるんじゃないの?」
「そんなにまじまじと見ないでくださいよ。恥ずかしいです」
今は、私とクレアさんは二人で風呂に入っていた。自分でもスタイルはいいほうだなとは思っていたが、あまりジロジロ見られるのは同性でもちょっと恥ずかしい。
「私もCはあると思うんだけど、サリアには負けたわ。私も結構自信あったんだけどね」
「それ、他の女子が聞いたら殺されたって文句は言えませんよ。クレアさんだって十分すぎるくらい整ってるじゃないですか」
「ありがと。でもやっぱり胸は・・・まあ、その内大きくなるか」
「その意気です。私は不老不死ゆえに体が常にベストコンディションに維持されるんで太ったりすることは無いですけど、頑張ってくださいね!」
「むっ、煽りよって・・・こうなったら、それっ!」
「えっちょっ!うわぁ!」
突然クレアさんが飛びかかって来た。
「ちょっと!風呂の中で危ないですよ!」
「いや、サリアって頭撃っても死なないんでしょう?だからあなたをクッション代わりにしたらいいかなって思ったのよ」
そのりくつはおかしい。いくら死なないっていっても痛い物は痛いのだ。物にぶつかったり火傷しても普通に痛い。だから当然頭を打ったら痛いし、普通に気絶するのだ。
「良くないですよ!普通に痛い物は痛いですからね!」
「ごめんごめん」
「っ~!いや、いいながら胸を揉まないでくれますか!」
私に飛びついてきたクレアさんは何を思ったのか私の胸を揉みしだいてきた。
「ん~。やっぱり素晴らしい揉み心地ね。しかもこれで成長の余地があるってことだから・・・末恐ろしいわ」
「やめてください。そんなに仲良くないですし、そういう仲でもないでしょう?ほら、離れてください」
「なによ・・・釣れないわねぇ」
ちょっと不貞腐れていたが、クレアさんは大人しく離れてくれた。それでも私の隣でほぼ密着するような感じになっているが、まあそれぐらいはいいだろう。襲われるよりましだ。
「うんうん、仲が良いようで何よりだ」
そう言いながらグレースさんが入って来た。風呂の中なので、当然一糸纏わぬ姿である。
「ほら、クレアさん。あの人の方が圧倒的じゃないですか」
「グレース様はほら、別格だから・・・しょうがないのよ」
「何がとは聞かないが、褒められて悪い気はしないね」
グレースさんの裸体は…何というかスゴかった。ナイスバディの究極系といったところか。ボン・キュッ・ボンと表したほうが簡単なのかもしれない。本人も恥じることなく堂々と魅せつけるように振る舞う性格なので、これは性別に関係なく魅了されても仕方無いと簡単に受け入れてしまうような、絶対的な美しさとエロさを兼ね備えていた。
「まあ良い、明日は出かけるんだろう?ならば早いところ上がって寝たほうがいいと思うよ」
「はい、わかりました。クレアさん、行きますよ」
「はいはい、ちょっと待ちなさいよ」
グレースさんに促され、やっと随分と長風呂していたことに気づく。クレアさんの手を引っ張って風呂を出ていき、明日に備えて寝ることにした。
ここは、王都近郊、第??番ダンジョン。私達はここで既に3時間ほど迷っていた。
「それで、クレアさん」
「何も言わないで、サリア。こんなはずじゃあ無かったのよ」
クレアさんが行こうとしていたのは、王都の近くの森。ここは成り立ての冒険者が初期に利用する狩場として知られており、初めて冒険に行くにはうってつけの場所である。そこでしばらく平和に狩りをしていたところ、
「サリア、ここなんか穴開いてるわよ!入ってみない?」
と、クレアさんが地面に不自然に開いた縦穴を見つけた。
まぁこんなところに開く穴だし、対して何も起こらないだろうとたかを括っていたが、それが運の尽きだった。
「いいですよ。じゃあ、私から先に行きま「きゃああああああ」速すぎですよ!もう!」
私が行く前に飛び込んで行ったクレアさんの後を追い、私も穴に飛び込んだ。よく考えたら、クレアさんが着地手段を持ってないことに気づいたので、炎を手足から出して加速。落ちているクレアさんを目視した時点で、体勢を変更しつつ更に加速し、クレアさんに接近する。
「あら、速いじゃない!」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!早く私に捕まってください!落下死したいんですか!?」
「あっ!そういえば私着地できないじゃない!わかった!」
せっかくだからと、下に回り込んでお姫様抱っこをしてから減速していく。
合計で百メートルほど落下しただろうか。ようやく底が見えてきた。
「ちょっとまずいですね……」
「何がまずいの?」
「速度が思ったより速くて、これだと着地した時にクレアさんが死ぬか大怪我を負いますね」
これはかなりの想定外だ。このまま行くと、私は骨折か足が千切れるくらいで済むが、クレアさんの場合は良くて骨折、悪くて死亡である。
「かなり痛いけど我慢して!〘ウィンドストライク〙!」
クレアさんが魔術を発動する。すると、私達の下方に風で編まれた拳が現れた。
「もうちょっと他に方法ありませんか?」
「これが今できる最速の方法よ。他にも無い事は無いけど、勢いを殺すならこれが一番なの」
「根拠は?」
「私の目で『視た』からよ!」
そう言って拳を打ち上げる。ぶつかる寸前に私の背中を下にして、出来るだけクレアさんにかかる衝撃を最小限にとどめれるようにする。
「うぐぅっ!」
やっぱり背中への衝撃は避けられないが、このくらいの痛みなら、龍に吹き飛ばされた方がまだ痛かった。ぶつかった分、減速には成功した。落ちる速度は半分以下に下がり、これなら互いに怪我無く着地できそうだ。
「じゃあ、着地任せたわ!」
「合点承知です!」
炎を逆噴射し、勢いを殺しながらゆっくりと着地した。
地面は普通の土だが、目の前に続いている無数の足跡がこの穴に先があることを示している。
「ふう、取り敢えず着地には成功しましたが・・・どうしますか?帰るなら今ですよ」
「いいや、もちろん行くわよ。ちゃんと帰れるなら、こんなの行くしかないでしょ!」
行くことは決まったが、まずは私の背中のダメージの回復を待ってから行くことになった。私は大丈夫だと言ったのだがクレアさん的には、いくら再生すると言っても、ダメージを負ったままの仲間をそのままにして先に進むのは、自分まで危険に晒すことに繋がりそうだからお断りだと言っていて、その言葉には妙な説得力があったので、大人しく従っておくことにした。
「さて、行きましょう。戦闘時はくれぐれも私の前に出ないでください」
「わかったわ。でも、できるだけの援護はするわね」
というわけで出発である。足跡は随分と長く続いており、この場所の広さを物語っている。
「ねえ、あれってもしかしてダンジョンじゃない?」
「多分、そうでしょうね」
足跡をたどり、たどり着いたのは巨大な門とその奥に佇む、怪しげな威容を放つ古めかしい建物だった。それは一般的にダンジョンといわれる建物であり、中に入るならば命を捨てる覚悟を求められる場所でもあった。
「でも変ですね。地図にはこんな場所にダンジョンがあるなんて書かれてなかったですし、この国の冒険者が見つけていたのなら、ギルドに報告して地図に記すのが義務です。そもそも王都近郊にこんなダンジョンがあるのに地図に書かれていなかった時点でおかしいですよ。仮にこのダンジョンの入り口をこの国で初めて発見したのが私達だとしても、私達以外の新しく見える足跡があるのはどう考えても不自然です」
「つまり何が言いたいの?」
「あくまで可能性の一つですが、もしかしたら他国の人間が潜入しているのだと思います。恐らくこのダンジョンにある何かを狙って」
見るからに古そうで、あの足跡以外に人が踏み入れたことの無さそうな場所だ。他国の者まで欲しがる何かが眠っていたとしてもおかしくは無い。
「そうなのね。じゃあ、」
「ええ、ここは帰ってグレースさんに報告しましょう」
「先に進みましょう」
「「え?」」
何かおかしなことが聞こえてきた気がする。
「今、なんて言いましたか?」
「先に行こうって言ったんだけど、そっちこそなんて言ったのよ」
「帰ってグレースさんに報告しようと言いました」
「なんでよ。行きましょうよ」
「駄目ですよ。クレアさんはこの国の王女なんですから、危険な目に合わせるわけにはいきません。仮にこのダンジョンを探索するとしても一旦帰ってグレースさんかメリッサさんに報告してから、私一人で行きます。私だけなら多少無茶はできますけど、クレアさんはお留守番です」
多分、この場で私が出すことができる最適解だと思う。発見済みで内部がハッキリと解っているダンジョンならばいいんだけど、このダンジョンは何もかも不明、そしておそらく他国の部隊あたりが侵入している可能性大。こんなところに一国の王女様を放り込むわけにはいかないし、万一私が目を離した隙に誘拐されたりしたら大惨事だ。ということを踏まえて言ったのだが、なんかとても不服な表情を浮かべていた。
「いいじゃない。あなたが守ってくれるんでしょ?」
「魔物だけなら余裕ですが、罠やこの国の者じゃない何者かもいるんですよ?私はいくら罠にかかろうが大丈夫ですけど、クレアさんは即死するかもしれないんですから、今回は諦めて帰りましょう」
強制的に運ぶのは簡単だが、一応本人から帰るって言質が取れたほうが私も後腐れ無く事に移せるんだけど。
「えー、せっかくダンジョンを見つけたのに帰るなんて、もったいないじゃない」
不貞腐れた様子で言っているが、ここは心を鬼にしないと駄目だ。ちょっとその表情を可愛いとか思ったけど、やっぱり危険な目に合わせるわけにはいかない。
「いや、ぶっちゃけこんな風にクレアさんの言う事を聞かないでさっさと運んでも良いんですよ?」
「いやよ、いきましょうよー」
しょうがない、強硬手段に出よう。クレアさんは話を聞いてくれないし、だからといって彼女の言うことを聞いて私も一緒にダンジョンに潜る訳にもいかない。
「はぁ、しかたないんで、一旦連れ帰りますね」
つとめて冷静な口調でそう言って、一瞬でクレアさんの後ろに回り羽交い絞めにする。
「ちょっと、何をするのよ!」
「わがままを言わないでください!さっさと帰りますよ!!」
全力で跳び上がり、炎を全力で噴射して、穴の上を目指す。腕の中でクレアさんが暴れているが、そちらにかまっている場合ではない。
「やーめーなーさーい!聞いてるの!?」
「問答無用です」
「わかったわよ!あなただけ先に帰ってればいいじゃない。私一人で行くから!」
「駄目です。それに、落ちたら死にますよ?」
既に四分の三くらいの高度、大体高度百七十五メートルといったところだ。もう少しで地上に着く。そしたら後は離宮に向かうだけだ。
「もういいわよ、私一人で行くから!」
「なっ!」
クレアさんは何を思ったのか魔術を発動させ、彼女を拘束している私の腕めがけ、二対の氷の剣を放って来た。剣は私の真横から飛来し、思わず腕を離して当たらないように避ける。当然、拘束している腕が無くなったことでクレアさんは落下していく。
「馬鹿!何をやっているんですか!」
「たーすーけーてー!」
「ああもう! クレアさんの馬鹿ぁ!」
このままだと確実にクレアさんが落下死するので、全速でクレアさんの下に位置取る。
「きゃあああああ!」
「げぶぅ!」
地面にぶつかる前に、身を挺してクレアさんのクッションになった私の意識はそこで途絶えた。