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40 大好き

 私はびしょ濡れの身体で、とぼとぼと一人家路についていた。

 途中きっとバスにも乗ったし、歩いてきたんだろうけど、ほとんど記憶に残っていない。


 見慣れた家の玄関が視界に入ってくると、急に足の力が緩んできた。

 やっと着いた……そう思って自分の部屋にたどり着くと一気に腰が抜け座り込む。


 悲しいほどに空っぽな心で、天井を見上げていた。


 だんだんと今日一日の出来事が順番に頭の中をめぐり、ボートの中で悠真とキスをしそうになる直前でハッと我に返る。



 悠真はどういうつもりだったんだろう……?


 今更、急に海斗のことが好きなのかどうか聞いてきたり……

 聞いてどうするつもりだったのよ……?


 私の事、からかってるの……?

 そりゃ、悠真は星宮先輩とうまくやってるのかもしれないけど……


 キスしようとしたのも海斗への私の気持ちを試したのかな……?

 なんのためによ……!!


 でもただの意地悪だと思えないのは、海斗がボートに乗り込んできて揉み合いになった時、悠真は常に私のことを気にしてさり気なく守ってくれていた。


 海斗にぶつかって、池に投げ出された時も、なりふり構わず悠真は飛び込んで私を助けてくれた。



 そういうところが……

 そういうところが私の中から悠真が消えていかない理由なのよ……!



 どうして?

 私は何も返せないのよ?


 もうほっといてよ……

 これ以上悠真の優しさを貰い続けたら、私きっと壊れてしまう。


 悠真のことが好きすぎて……

 本当は、もう海斗に目を向けることなんてできないってずっとわかってた。


 でも、今日それが確信に変わって……



 もう終わりにしよう……


 どんなに恨まれても、嫌われても……

 もう自分の気持ちに嘘なんてつけなくて。


 一生一人だっていい。

 悠真が他の人と幸せになったとしても。


 もう、悠真以外の男の人を好きになることなんて、きっと私には無理だってよく分かったから……



「……クシュン!!」



 はぁ、寒い……

 気持ちの整理が付いたら、急に寒気が襲う。


 とにかくお風呂にはいってこよ……

 フラフラしながら部屋を出ようとした時、足元にあったゴミ箱に躓き、転んでしまう。


「痛たた……」

 起き上がろうとしても足に力が入らない。


 疲れたな……

 そのまま横になったら寝てしまいそうなくらいに……


 その時だった。

 隣の部屋から家に居るはずのない悠真の、自分を呼ぶ声が聞こえて必死に起き上がる。

 ガチャリと扉が開いた先には、逞しい体つきになった悠真が下着一枚で立っていた。


 ……幻覚??

 中学の頃と比べて格段に男性らしくなった悠真を、うまく直視できず動揺してしまう。


「……悠真……?? なんでここに……?」

 慌てて近づいてきた彼の顔を見たら、気持ちがまた溢れ出てしまいそうで、言葉が出せない。


 私に掛けてくれたバスタオルからは悠真の匂いがして……

 まるで悠真に包まれているかのような感覚に陥り、心の内から『好き』が零れ出そうだった。

 張り裂けそうな胸の痛みに、必死で涙を堪える。



「……ごめんね……何から何まで、私悠真に迷惑ばっかりかけて……」


 本当にごめんなさい……

 こうしていつも私を気にかけてくれる悠真が、意地悪なんて言わないこともちゃんと分かってるのに。


 きっと、わたしの海斗に心がない事を見透かして声をかけてくれたんだよね?

 結局、私が悠真を嫌いになれる理由なんて、どこを探しても見つからないんだ。



 悠真がお風呂を準備して戻ってきた。

 私を抱えるようにして支えてくれている彼から石鹸の匂いがしてキュンとした。


 ……もう限界かもしれない。

 悠真への気持ちを抑えているのが……


 ドロドロになった服を脱ぎ、シャワーを浴びる。


 池に落ちた時の汚れと一緒に、自分のモヤモヤした気持ちも一緒に流れて行くような気がした。



 湯船に浸かりながら今日一日探していた答えを導きだしていく。


 結局、私の中には悠真しかいなかった。

 こんなに遠回りをしないと確信に変えられなかった自分は、きっとこれからたくさんの罰を受けることになるだろう。

 自分を大切に思ってくれる人を傷つけて……

 最低だよ、私。


 どんなに辛い事が待っていても、覚悟はできてる。

 素直に……素直に悠真を好きでいたいんだ。


 ちょっとした優しさに感動して……

 温かい手に触れてドキドキして……

 私に向けられた笑顔にときめいて……


 ちゃんと、悠真のことを大好きでいたいんだ……


 海斗にお別れ伝えて、悠真にずっと片想いをすることが答えだった。

 

 『悠真への気持ちを殺すより、やきもちを焼いている方がずっと幸せ』

 

 それにやっと気が付いたんだ……




 お風呂を上がった瞬間目の前が真っ暗になる。


 やばい……倒れそう……


 手探りでタオルを探し、やっとの思いで体に巻き付けたが……

 そのあと目が覚めた時は、ベットの上だった……





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