05話 「お兄様」
ー宇宙空母ヴィズィオネーア 自室
薫は猛ダッシュで廊下を駆け、自室に飛び込んだ。
奇跡的に誰とも合わずに自室に入る事に成功した薫だったが、精神面はかなりのダメージを受けていた。
(はぁ...はぁ...オイルマッサージがあんな気持ちいいものだとは知らなかった...。ガイノイドはみんな綺麗だし、童貞にはこの宇宙船は危険過ぎる...。)
薫は気持ちを落ち着かせると、身体がオイル塗れな事に気付き、自室のシャワールームへと入っていった。
中にはバスタブもあり、日本人の薫は顔を綻ばせた。
薫が椅子に座りシャワーで背中についたオイルを洗い流していると、後ろのシャワールームの扉が開くのに気付く。
「あ、あの...失礼しますっ!コハクさんから薫様がシャワーを浴びていると聞いたので...。
私は薫様専属の家事能力特化型アンドロイドH2-0104-OR3です。お背中を流しに来ました!」
薫の後ろから声がしたので振り向くと、そこにはスクール水着を着用し、プラチナブロンドの髪をツインテールに結った、コハクよりも幼く、年相応の胸をした美少女が立っていた。
「わ、わぁ!ゴメンっ!」
薫は振り向いて、自分が全裸な事に気付き慌てて向き直る。
「い、いえ...私の方こそ勝手にすいません。薫様のバスケアが私の任務ですし、鍵が空いていたもので...。」
言われて薫はハッとなる。人造人間達にも役割があるのだから、余り勝手な行動は慎んだ方がいいんだと。
「僕の方こそ勝手にシャワー浴びてゴメンね。」
「いえ、とんでもありません。お背中お流ししますね!」
そう言うとスク水少女は持って来たスポンジで、薫の背中を丁寧に擦り出した。
「あの...私にもニックネームを付けてくれませんか?」
ニックネーム含む薫の情報は、ガイナスペースを通じ、艦の全ての人造人間に瞬く間に拡散されていたのであった。
(うーん、H2-0104だから...てんし...天使ちゃんマジ天使!...いやいや天使は名前としておかしいよね...確かに天使の様に可愛いけど...。)
「アンジェってのはどうかな?」
「アンジェ...!ありがとうございますっ!
あ、それと薫様の呼び方何ですけど...お兄様とお呼びしても言いですか?」
「お、お兄様っ!?な、なんでまた?」
「すいません...嫌だったらいいんですが...。
私達、人造人間は母親のお腹の中から生まれて来る訳では無く、プラントから生まれてきます。ですので同じ生産ラインのロットの近い人造人間は姉妹と言えなくは無いですが、そういった概念は希薄です。
なのでデータベースで見た、兄弟に凄く憧れてて...。」
(あぁ、なるほど...。しかし、こういう話を聞くとガイノイド何だなぁとしみじみ思う。意識しないと本当に人間にしか見えないんだよなぁ...。)
「そう言う事ならいいよ。僕で良ければだけど。」
「ありがとうございます...えっとその...お兄様!」
そう言ってアンジェは薫の背中にもたれ掛かる。
薄いスク水の生地を通して薫に体温と”膨らみかけ”の柔らかさが伝わる。
(うっ...これはかなりの破壊力が...!話をして意識を背中以外に向けよう!)
「ところでアンジェは何でそんな格好をしてるの?それも宇宙船のユニホーム?」
「これはデータベース”秋葉原”で見つけた衣装で、”血の繋がっていない兄とお風呂に入る時”に身に纏う定番衣装との検索結果だったんですが...似合っていませんか?」
アンジェはとても不安そうに聞く。
因みにコハクはデータベース”原宿”で検索し、目に付いたゴスロリ衣装をベースに衣装を作成したのだった。
「いやそんな事ないよ!寧ろ似合い過ぎてると言うか...ははは。」
薫は不安そうなアンジェを気遣って、出来るだけ優しく微笑みかける。
「えへへっ、お兄様にそう言って貰えて嬉しいですっ!」
アンジェは満面の笑みでそう答えた。
アンジェが薫の背中を流し終わると、二人でシャワールームを出て着替える。
その間も薫は出来るだけアンジェの方をなるべく見ない様にし、用意されていた衣服に着替える。
もちろん、先程の失敗を繰り返さない為だ。
「お兄様が”お姉様”みたいな人で良かったです!怖い方だったらどうしようかと思ってました。
あ、コレ私のアクセスコードです。また今回みたいに早くシャワーを浴びたくなったら、クリンゲルで連絡して下さいね!
では失礼しますっ!」
そう言うとアンジェはアクセスコードがプリントされたカードを薫に渡して、早足で部屋を駆けて行った。その際顔が赤味を帯びていた事を薫は気付かなかった。
(こ、これはアクセスコードっ!初めて”繁殖対象”のアクセスコードを手に入れた...!)
その夜、薫は手にクリンゲルを握り締め悩んでいた。
そして副艦長に説明された”繁殖活動”のルールを思い出す。
『 夜は気に入った女の子がいればアクセスコードを使って部屋に呼び出して貰って”繁殖活動”を行って下さい。』
『 アクセスコードを女の子から聞き出す事が出来れば、それは”脈アリ”と思って貰って構わない。』
『 識別コードの後についている階級がOR9以上の人造人間は駄目よ。 』
そして薫がアクセスコードを持っているノインとアンジェの階級はOR9とOR3。
ノインは駄目だが、アンジェは”繁殖OK”と言う事になる。
ならばと薫はクリンゲルに入力済みのアンジェのアクセスコードのコールボタンをタップしようとする。
が、薫はふとアンジェがアクセスコードを教えてくれた理由について考える。
『また今回みたいに早くシャワーを浴びたくなったら、クリンゲルで連絡して下さいね!』
(”シャワーを浴びたくなったら”...あぁ、そうか!そうだよね...そう言う意味じゃ無いんだ...。)
こうしてアンジェの”勇気”は空振りし、薫は地球では感じた事の無い様な極上の寝心地の”粒子ベッド”でクリンゲルを使用せず、ぐっすりと眠るのであった。
明日も投稿予定です。




