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兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~  作者: ユーリアル
第二章~魔王候補擁立編~
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075.海辺の宴

 


「塩だな。塩がいる」


「お塩?」


 戦いが終わり、戦士や街の人々が凱旋のために戻るのを見送りつつ、俺達はまだニュークにいた。

 少なからず壊れてしまった建物や施設を直す手伝いをするためだ。

 そうでなくてもまだ森には魔物がいるし、開拓には人手がいるものだ。


 そんな中、食料はわかっていたことだが、本来の目標である塩の生産場所に打撃を受けていることがわかった。

 正確には、砂地が埋まったり、穴だらけになったせいなのだ。陸地側に向かって段々に掘ったところへ海水を流し込み、最後には桶に入れて魔法でどん、と水を飛ばす。

 最初から魔法で熱するのもありだけど、量の割に熱する時間が多く必要だし、魔法を長く使うのは大変なので出来るだけ効率があげたいということのようだ。


 そんな場所が打撃を受けているので、掘りなおすといった作業が必要だ。

 他の場所から輸送するのもありだが、生活に必要な物なのでそんなに値段を高くできない。

 そうなると他の物を運べるならそれに越したことはない。というわけで自力で確保できるならそのほうが良いのだ。

 せっかくの海辺も生かしきらねば。


「おいしいご飯にお塩は大事」


『そうね……他にもやることはあるし、色々分担しましょ』


 みんな一緒にいても仕方がないので、それぞれにやれそうな仕事を手伝いに行くことになる。







「よーしよし、そこで同じぐらいじゃ」


「カーラちゃん、この辺をミィの半分ぐらいに掘るんだって」


『ガウ!』


 離れた場所にいても聞こえる大きな声で、ミィの合図に従ってカーラが砂浜を掘り返している。

 本当なら大人が何人も掘らないといけないというから便利だ。

 ざっくざっくと、掘り進むカーラの足元でミィは笑っている。

 ミィも、カーラというか竜種の事は最近勉強しているようだから、カーラが受け入れられているということが改めてうれしくて仕方ないらしい。

 俺はそんな横で何をしているかというと、石材づくりだ。


「ここがこう、んでこっちがこうじゃな」


「わかった。下がっていてくれ」


 こちらに移り住むと決めた貴重なドワーフのおっちゃんの話に従い、作業のために俺は剣を手にする。

 石材と言っても実際には貝殻だから……なんていうんだ?


 ともあれ、倒した海魔の貝の部分を使おうというわけだ。

 勿論、そのままだと色んな大きさと形なので使いにくい。

 なので、使いやすい形に加工する必要がある。ただ、腐っても海魔の素材。

 その辺の刃物では時間がかかるということで俺の出番だ。

 俺としても体と技の慣らしにちょうどいい。


(今度は、無様な戦いをするまい……)


 抜いた魔鉄剣の輝きにそんなことを思いながら、一閃。

 キンッと金属を切ったかのような音と共に、貝殻に横線が入る。


「おお、やるもんじゃのう」


「まだまだ、よっ」


 レンガのように使う予定だというので、大きさはもっと細かくしないといけない。

 それにしても、厚みが俺の指1本分ぐらいある貝殻ってすごいよな。

 ちなみに太さじゃなくて、長さのほうが厚みだ。

 これを貫いたヴァズの腕が良いというのが良くわかるものだ。

 白い欠片や粉が煙のように舞う中、俺は言われるままに剣を振るう。

 その度に貝殻は形を変え、足元に積み重なっていく。


「このぐらいじゃろう。それにしても、その剣、業物じゃのう」


「だいぶ使い込んだからな。そんじょそこらのとはわけが違うさ」


 軽く風で飛ばしてやると、綺麗な切り口の貝殻だった物が残る。

 これなら色々と使えるだろう。俺が視線を向けた先では、掘り終わったカーラが別の場所に移動していた。

 ついでに何か準備運動をするかのように動いている……何を、と思いきやカーラの力が膨らんだ。


「なんじゃありゃあ!」


「なるほど、手っ取り早いな」


 ドワーフのおっちゃんは驚いているが、俺はそのやり方に納得していた。

 そう、カーラが手加減ブレスで、掘った後に敷き詰めた諸々を軽く溶かしたのだ。

 本当なら何度も敷き詰めて丈夫にするところだけど、うっすらと表面が溶け、すぐに冷えて固まることででこぼこした面の出来上がりだ。

 ミィ自身は、どこに吹き付けるかの確認をしているようである。


「おてんと様が嫉妬でもしそうな光景じゃな」


「そんな心は狭くないだろうさ」


 笑いながらのおっちゃんの感想に、俺もそう笑って答える。

 ミィとカーラ以外もルリアだって頑張っているはずだ。

 俺は頭が良くないからわからないけど、ルリアはお金の計算とかに強いらしい。

 あるいは書類の判断も早いらしいのだ。


 あの真実の瞳は、間違った収支や誤魔化しの文面なんかもおかしく見えるらしく、見落としが全然ない、と好評だ。

 もっとも、騙そうとした結果できた物じゃなく、不慣れだったり苦手で出来てしまったものだらけというから面白い。


 港の整備も進み、近々最初の船がテイシアに向けて出ると聞いている。

 俺達もしばらくしたらまた移動になるだろうと思う。

 出来ればドワーフの大陸やエルフの土地にも顔を出してみたいが、こちらの情勢をもう少し整えてからでないと不安が残る。

 西は海魔のせいで打撃を受け、こちらにちょっかいを出そうにも余力はないだろう。


 残るは北だが……これも不気味だ。

 戦力か物資をよこせと言ってきてもいいように思う。

 それが無いということは一体北で何が起きているのか。

 一度潜り込んでみるべきか、等と思うが誰も許してくれないだろうなあとも思う。


『お兄様、将軍たちが来たわよ』


「お、早いな」


 上空で、見張りとしてあちこちに飛び回っているイアが舞い降りてくる。

 そう、今日は将軍たちとの約束を果たす日だ。

 海の幸を異種族間交流として磯焼でいただくのだ。










「ついこの間だというのに、魔族はとんでもないの」


「みんなが必死だったのさ」


 海魔の襲撃が無かったかのように復興しているニュークの海岸を見、何やら感慨深そうに頷くカヤック将軍。

 まあ、魚顔だから勝手な予想だけど。それよりも、だ。


「あんなによかったのか?」


「なあに、あのぐらいはまさに朝飯前よ」


 将軍の声に、今回付き添いとしてやってきた人型海魔たちが拳を上げたり、頷いている。

 ニュークの人みんなで食べても余りそうなほどの海産物。

 それを前に俺達が最初、どれだけ驚いたことか。入れ物として海魔の貝殻をそのまま使うところが豪快だな。


「それならいいんだが……では、海ではなかなか味わえない、火を使った料理を共に」


「良き未来のために」


 そうして、宴は始まる。ここにいるはずのヴィレルやヴァズは先に帰っている。

 参加していくように声はかけてみたが、これから何度も機会はあるだろうと辞退された。

 ちょっと、気を使われた感じだ。


 お魚だーと歓喜するミィと、黙々と食べるルリア。イアもまた、そんな2人の横で微笑んでいる。

 俺はようやく見分けられるようになったカヤック将軍の元へと向かう。


「将軍」


「うむ。これで約束は果たされた。胸のつかえがとれたぞ、少年」


 既に俺は少年という歳ではない。が、彼は約束を覚えていたのだ。

 そのことに胸のどこかが温かくなるのを感じながら、互いに飲み、食べた。

 宴の夜は過ぎていく。






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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。

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