076.妹達の特訓
「ごめんね、イアちゃん」
『何言ってるのよ。姉妹じゃないの』
軽く答えながらも、私は障壁を張る手を緩めない。
気を抜けばすぐにこの障壁にも限界が来てしまうからだ。
ミィの、魔王としての力の練習のためには必要な事。
一緒に大魔法を放ったミィの力はほぼ完全に目覚めたと言っていいわ。
だけど、まだその力を発揮するための水汲みの桶も出来合いの物だし、くみ取り方も甘いとしかいいようがないのよね。
だから、こうして訓練しないと力が安定しない。
障壁の理由は、外にそれを漏らさないため。魔法を使おうとしなければいいのだけどね。
水浴びに出かけるということで外に出てきているけど、それも万が一の際に周囲に魔力による衝撃波が飛んでいっても大丈夫なように。
怪我は無くても、せっかく立てた建物が壊れたり、あちこちの物が転がったりしたら大変だものね。
『基本的に、もうその力はミィの物だから、上手く飼いならすしかないわけよ』
「ミィに出来るかなあ? あれ以来、簡単な魔法しか使えないよ?」
うっすらと視認できるほどの魔力の膜を体にまとい、手の先に指先ほどの火柱を生み出すミィ。
確かに、魔王の力を持った者の魔法としては随分と、小さい。
でも、逆にそのほうが難しいのだということをミィは知らない。
かつての私なんか、目覚めてからは、食事のために火を使えばかまどごと燃え、飛ぼうと思い風を呼べば周囲の木々もなぎ倒してしまったぐらいだ。
大きな力を得て、手加減して使うというのはある意味、非常に難しいのだ。
その点、ミィは恐らく無意識ぐらいのところで、大規模な魔法を……怖がっている。
いえ、少し違うかしら。
『大丈夫よ。お兄様はミィを嫌いになるわけないじゃない』
「え?」
きょとんとしたミィの手の中で、集中が途切れたためか火柱が倍ほどになる。
横幅も暴れるように膨らんでいく。そう、ミィは集中していないと逆に力を大きく使ってしまうのよね。
だけど、この指摘で動揺するということは、どこかにこの考えがある。
強くなりすぎたら、自分は妹らしくない女の子になるのではないか、みたいなね。
確かに、お兄様もそうだけど、年下の家族は大体は守りたいと思う物。 この大陸に戻ってきてからの獣人や魔族の暮らしを見る限りでも、一般的な物だ。
そう考えると、魔王の力を発揮するようになったミィは、守られる存在であるか?と問われたら微妙なところだと思うの。
魔力以外はまだまだ獣人の戦士としても弱い方。
魔法だって、駆け出しよりは使えるけど威力が強いだけで駆け引きはまだまだ。
そんな状況を覆して余りあるのが、魔王の力という物。とはいえ、これは正直、考え過ぎだと思う。
なんというか……丈夫さはともかく、お兄様ってどうなってるのかしら?って感じなのよね。
『お兄様は、例が無いほど上位の神様と語り合ってるわ。かつての私も……精々声を感じる程度だったのにね』
「そうなんだ……」
ミィはあまりピンときてはいないようだけど、この事は異常も異常、とんでもないことなのよね。
魔法は祈りであり、あくまでも力を借りて行使する物。
なのに、お兄様はやりたいこと、そうしたいということにちょくちょく、神様が干渉している気配がある。中位の神様に祈ったのに、出てきたのは上位神、みたいなね。
記録が残っている、あるいはかつての私が調べた限りではそんな勇者、もっと言えば魔王も含めてほとんどいない。
かろうじてそうかもしれない、という記録の残る神話時代の有力者ぐらいなものよ。
そんな有力者は、みんな神様になっているらしいけどね。
『だから、ミィが真っ赤になって暴れても、お兄様は強いから……大丈夫よ』
「そっか……さすがお兄ちゃん。ずっと、ミィが追いかける背中、だね」
つぶやくミィの顔は、小さい頃にお兄様に甘えていた時と同じ顔。
安心して、自分のすべてをお兄様に任せた顔だ。本当は……本当は、この考えは良いとは言えない、そう思っている。
誰かに依存し、誰かにもたれかかっている考えだから。
出来ることなら、自分の手の中の力に向かい合うべきなのだけど、誰も前にいない、という孤独はひどく……寒い。
何を決めるにも、何をやるにも、全部自分の手が決める。誰も否定はせず、逆に肯定もしない。
それが出来るのは全部自分自身。まだ、ミィには早いと感じたの。
それに、そんな話をしたらお兄様には叱られたわ。
よくわからんが、その間ぐらい支えられないような兄じゃないぞ、と。
思わず笑ってしまったわ。でもそんなお兄様も、怪我をする。
そのことがわかっただけ、この戦いは私たちにとって重要な物と言えるわ。
『フロルか、パンサーケイブに戻ったら特訓よ。一緒に両手で違う魔法を撃つぐらいはできないとね』
「うん。頑張るよ、ミィ……頑張る!」
ミィの気合が狙い通りに効力を発揮し、障壁に圧力がかかるのがわかる。
今日は……そろそろ限界かしらね。
『じゃあ今日のおさらいよ。障壁の中にある魔力を自分の中に取り込んで、ぐぐっと圧縮しなさい。はい、始め』
「んんんー!」
必死に顔をしかめ、魔法未満の術を使いだすミィ。
障壁内の魔力が段々と動き始め、渦となっていく。
その中心は、ミィ自身。最初のころは全く動かせず、私がまた吸収していた魔力。
それが彼女の中に飲み込まれていく。獣人らしい耳と尻尾が、その流れに揺れるように一緒に揺れる。
時折向きを変えてるあたり、あれらで感じ取ってるのかしらね?
そうして……障壁の中の魔力は全部ミィの中に消えた。
「ふう……終わったよ、イアちゃん」
『お疲れ様、さあ、ご飯にしましょうか』
一緒にニュークへ戻りながら、一人考える。ミィは、気が付いているかしら?
体に取り込んだ魔力には、お兄様から私が吸いだした物が混じっており、段々とそれに馴染んでいることに。
何も変な考えではないのだけど、ね。近いうちに起きるであろう、再びの魔力過多による発情行動。
お兄様の魔力になじんでいればいるほど、ミィから余分な魔力をお兄様が抜きやすい。
私はもう、全く同じと言っていいぐらいの魔力の双子状態だから担当できないのは変わらないのだけども。
ミィももうすぐ成人の歳、そして背格好。
獣人は普段から、日によって魔力の増減とまでは行かなくても調子の良し悪しがある。
ミィは魔王の力のせいで、これからそれが激しくなるはず。
それを調整、何とかできるのはきっとお兄様だけになるわ。
まぁ……お兄様が、ミィの興奮した状態に我慢する羽目になるのだけど。
いい加減、我慢しなくても良いと思うのだけど、どうなのかしらね?
妹にして隣に立つ女性。私はそれを狙いたいんだけど……どうしたらいいのかしら?
「イアちゃん?」
『何でもないわ、なんでも』
ニュークに戻ったらまたやることが待っている。
それが終わって、何日も立てば……また私たちが北に戻る日がやってくる。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。




