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兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~  作者: ユーリアル
第二章~魔王候補擁立編~
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068.波、潮騒、海辺にて

あわただしくなる前のちょっとした時間。

 

 海の秘宝の1つ、トライデントを強奪したとある海魔。

 そいつの狙いは海竜を倒し、すべての海の制圧だという。

 現実味は全く無いように思えるが、神代からの武器と言われるトライデントがその鍵となってしまうかもしれない。

 倒した相手の力を得るという力で、地上の魔族を先に餌食としようとしているようだ。


 大陸の西側を襲うらしい動きはあるものの、その後は不明。

 というわけで、その後にこちらへと誘い込むため、俺達はフロルの南にある海辺の新しい土地、ニュークへとやってきていた。


 潮風を避け、近くの森の中を切り開いて建物を建てているようだ。

 防風林ってやつかな。海辺には漁に出るための桟橋と舟たち。

 海にそそぐ川もあるので、仕事には困ることはなさそうだ。

 最近他の大陸からやってきた獣人や魔族もいるのか、少し雰囲気の違う人もいた。


 そんなニュークのそばの入り江に、俺達はいる。

 今はやることがないという現実と戦うために。簡単に言って、人が集まるのを待っているのだった。ということで、海と言えば釣りである。


「いいか、ルリア。アレがピクンってなっただけだとまだ早い。しっかり中に入ってからだ」


「うん……」


 海辺ともなれば南側の土地とはいえ、まだまだ寒い。

 海に突き出た岩の上で、俺は腕の中のルリアに声をかけながら一緒に竿を握っていた。

 借りた竿は獣人のお手製で、糸もとある虫型の魔物からの物だ。

 引きに負けなきゃなんでも釣り上げるさ、と言っていた獣人の言葉が頼もしい。


 今日は比較的穏やかな潮風の中、2人の視線が海面の浮きに注がれる。

 俺の腕の中に、小柄なルリアはすっぽりと入ってしまう。

 前より肉付きの良くなってきたルリアの姿に、成長を感じてこっそりと微笑む。


「にーに、楽しい?」


「ん、釣れてないけど、ルリアとこうしてるのも楽しいぞ」


 頬が触れそうな距離で、ルリアの瞳が俺を見る。

 普段は無表情に近いけど、こうしてみていると色々とわかる。

 今は困惑と疑問が入り混じっている。釣れないまま抱き合って座ってるだけで楽しいのか?ということだな。


 ミィやイア、そしてルリアとの平和な時間は何より大切な物だ。

 出来ることなら、みんなでゴロゴロ昼寝をする日々が一番である。

 そのうち、それも大変な年齢になってくると考えると少々悲しいけども。


「……なら、良い。にーに、エルフはここから成長が遅いからずっと小さいままだよ?」


「そ、そうなのか」


 ちらっと心をよぎった、みんな小さい妹のままだったらいいのになという本気ではなく考えが顔に出ていたらしい。

 瞳の力か、女の子としてのカンか。どちらにしてもうろたえてしまった俺を隠す術はない。


「ミィちゃん、元気」


「そうだな。これで突くんだ!とは言うけど、怪我が無いといいな」


 視線を横に向けると、釣りの邪魔にならないようにという気持ちで少し離れた場所で海面を睨むミィと、その上に浮いているイア。

 なんでもついでに目を鍛えてるらしい。


 確かに、海中に海魔がいる状態だと如何に早く見つけるかとなるので無駄にはならないと思うけど……。

 ミィの手の中にある銛は中型以上のような気がする。そんな大きいのが海岸際にいるのだろうか?

 あのあたり、深くないはずだしな。


「! いたにゃあああああ!」


 久しぶりのミィの咆哮。耳をぴーんと立て、尻尾も戦闘態勢となりミィは単身、飛び込んだ。


「冷たいだろうに、よくやるなあ……大丈夫かな」


 浮きかける腰だけど、ルリアもイアも焦っている様子がないので俺もミィを信用することにする。

 見守る先で、海中に消えたミィだったが、ザバァと、飛び込んだところとは少し横から顔を出した。


「にゃー!」


 高くつき上げた銛の先には……8本足の何やらよくわからない物。

 ミィが喜んでるところからして、食べ物か。どう見てもテイシアで倒した海魔の幼体に見えるんだが……。頭が丸っこいから別種かな?


「海魔みたいだけど海魔じゃない。確か人間だとタコっていう」


「あれがそうか」


 話には聞いていたけど、動くのを見たのは初めてだな。

 テイシアの市場で干した物や、ぶつ切りにして調理したものは見た覚えがあるが……。

 頭っぽい丸い部分だけでミィの顔ぐらいある。と、浜辺に上がったところまで見守っているとタコは銛にまとわりつき、そしてそれを手にしているミィにまで絡みつこうとした。

 ミィが慌てて足元に投げ込もうとするも、既にその手を掴まれている。


『ミィ! ちょっとしびれるわよ!』


 ルリアを抱えて立ち上がった俺の視線の先で、イアが叫ぶとパチンと、雷撃。

 ビクンとミィが棒立ちになるも、タコには効果てきめんでぱらりと銛からとれ、砂地に落下する。


「船を食べるぐらいの赤いのと白いのがどこかの海にはいるんだって」


「イカのほうは確かにでかいなあ……あんなのが10や20来たら……」


 そう考えつつも、みんなを丘に上げてまとめて吹き飛ばせばいいかと気が付く。

 やはり、海魔の戦いは自分たちの有利な場所に誘い込むか、顔を出したところを仕留めるかが一番だということだ。


「ミィ! 風邪を引くから温めてから次に行くんだぞ!」


「うんっ! お兄ちゃんもルリアちゃんも頑張って!」


 イアがどこからか集めてきた木を薪にして、さっそく出来上がったたき火で暖を取るミィ。

 時折動く耳と尻尾が非常に可愛らしい。


「私も尻尾、生やす?」


「ルリアもちゃんとエルフしてて可愛いんじゃないか? 俺は好きだよ」


 実際にはルリアだからこそ、という気もしないではないが言葉にしなくても彼女には見えているだろう。だから前を向き直り、釣りに戻る。


 ちなみにカーラは広間でお昼寝中である。暖房器具となる火竜、それでいいのだろうか。

 本人的には別にいいらしいのできっといいのだろう。かつて、火竜の成体の出す熱で撤退を余儀なくされたパンサーケイブ。

 その状況からすると、如何に今の話の通じるカーラが奇跡的かよくわかろうという物だ。

 ブレスでレンガを焼く火竜なんて、世界を探してもカーラぐらいだろうしな。


「にーに」


「お、引いたな」


 ぼんやりとした時間の中、視線の先で浮きが反応する。

 だが、まだ早い。しっかり食いついたところで……。


「今だ!」


「っ!」


 合図とともにルリアが細腕で竿を上げる。

 途端にしなり始める先端。


「重い……」


「ゆっくりでいいからな、頑張って引っ張るんだ」


 このしなりからして、結構な大物であろう。

 初めての手ごたえに、目を白黒させながらも手を離さず戦うルリア。

 普段見られない姿に微笑みつつ、海に持って行かれないように腕をつかんであげる。


「よいしょ……んんんー!」


 海面に魚の影。かなりのでかさだ。


「もう少しだ」


「がんば……る!」


 力強く竿を持ち上げ、そして、大きな音を立てて海面から飛び出す魚。

 丁度俺達の高さぐらいまで魚が上がってくる。


「あ……」


 同時に、暴れて針が外れてしまったのがわかる。

 勢いのある魚はこれが怖いんだ。駄目だったと一瞬で悟り、落ち込んだ声を漏らすルリア。


(やらせん!)


 一瞬の間のその攻防に、俺は魔力を練り上げ、海面に落ちる直前に魔法を放つ。

 タコにイアがやったような雷撃だ。


『お兄様、それはちょーっとずるいんじゃない?』


「はっは、ほとんど釣り上げてたからな。網に入れるような物だ」


「浮いてる……」


 ジト目のイアから視線を外し、海面に浮いた魚をルリアと見る。

 横からミィが走り寄り、復活する前に魚を掴んで持ち上げてくれる。


「はい、ルリアちゃん! 頑張ったね!」


「うん……」


 微笑んで魚を受け取るルリア。この笑顔が見られただけで十分だ。

 妹に甘いという言葉は今日は受け付けないぞ?

 明日も受け付けないけど。



ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。

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