069.引き潮作戦、始まる
5話ぐらい硬めのが続きます。
「うん、わかった。ありがとう」
バイヤーの持つ真珠から届き、俺の手の中から伝わる言葉は朗報でもあり、悲報でもある。
なにせ、好戦的な海魔の派閥が予想通りに大陸西側を襲い、街2つほどに打撃を与えたという知らせから始まったからだ。
どうも聞くところによると、西や北西部は海魔の襲撃が俺達の知らないところで結構あったらしく、テイシアのようにほぼ無抵抗ということは無く、防備もしっかりしていたらしい。
その中には西側の有力な家であるダイヤの家系もあったという。
だけど、それでも海魔は襲い掛かってきたというのだから怖い話だ。
迎撃に出ていたダイヤ家をはじめとして有力な魔族が数名、槍の餌食になってしまったらしい。噂によればその中には魔王候補がいるとかいないとか。
実際に魔王候補だったかは別として、そう噂されるほどには力のある魔族が例のトライデントの餌食になってしまったということだ。
魔族同士で争わずに政敵がいなくなったという考えも出来なくはないけど、最終的に相手をするのは自分達だと考えると、喜んでばかりもいられない。
「襲われた相手は瀕死だが全滅ではない……か。謎は深まるな」
ニュークの中に建てられた、俺達の家。
テイシアのように港町を目指す予定ということで、海魔に注意しながらも作業は進んでいる。
俺達も魔法の練習がてら、岩だらけの場所を更地にしたり、林をばっさりと切り開いたりと結局手伝っている。
じっとしているのが苦手ってことなんだが……ま、そんなもんだよな。
目撃されていることがほとんどないように思えた竜種だったが、ここに来ていくつかは情報が入って来た。
火竜はドワーフの住む別の大陸で、雪と氷の高位竜、フェルアノークはそのままレイフィルドの北に。
風竜はエルフの大陸に現れたらしい。そして、水雷の高位竜シルドラはダンドランの北西部の海で。特にシルドラの情報はついさっきというところだ。
テイシアに逃げ込んできた魔族の商人たちからの情報で、鮮度は良い。
どうやら北西部で暴れてているシルドラから逃げるように南下してきたところでそこを海魔は襲撃して来たそうだ。
そのまま北西部では魔族とシルドラのにらみ合いが続いているというが、恐らくはやり過ごすので精いっぱいだと思う。
シルドラ自体は、どうも売られた喧嘩は買う気質らしく、手を出せば体を水上に出して正面から挑んでくる奴だ。
大体というかほぼ間違いなく、その後ブレスと肉弾戦で滅ぼされるわけだけども。
俺としても出来れば相手にしたくない竜種上位に入る。
とはいえ、今はそうも言ってられない。トライデントの効力がどこまであるかはわからないけど、強者を倒してその力を得、正面から叩こうとしているのは目に見えている脅威だ。
あるいは海魔の祖もそうして力を手に入れて頂点に立ったであろうことを考えると、名も知らないその海魔は彼らなりの歴史的には順当な流れの中にいるのかもしれない。
海魔の王となるための流れの、ね。
『あー、聞こえるかな』
「ああ、聞こえる。将軍、生きてたか」
何も冗談で言ったわけでもない。実際、街で待機しているバイヤーと違い、実際に戦場にいるカヤック将軍なのだからいざという状況が常にそばにあるはずだ。
何より、今回の相手と一番近いのは彼自身なのだから。
どうもカヤック将軍は所属する中でもほぼ最上位の戦力らしく、彼ができないなら無理であろうという扱いを受けているそうだ。
だからこそ、他がむやみに手を出さないようにしているらしい。
『聞いているとは思うが、やはり止められんかった。魔族には悪いことをしたな』
「気にしないでくれ、とも言えないが将軍が無事なら何よりだ。
どうも、事実上全滅だが命までは取られなかったらしいが……」
真珠越しに聞こえる声はややくぐもった物で、相手が遠いせいか、時折雑音も混じる。
それでもこの距離で会話ができるのだから色々とおかしいぐらいだ。
出来ればこれを10ぐらい欲しいところだけど……無理だろうな。
恐らくは魔法の道具というか、再作成には非常に費用と時間がかかる類の道具だ。
そんなものをぽんと2つ分けてくれたのだから将軍の懐の広さが良くわかるという物。
それが無くても協力したくなる人だけどな。
『そう言ってもらえると助かる。奴らの動きだが、どうも北はやはり相手がいるのでやめるようだ。
このまま南に下がってこようというのを、邪魔しつつ後退する』
「なるほど。やはりこっちを目指しているのか」
やはり、将軍は戦いの中でこそ生きる力の持ち主だ。
正面からの対決は回避し、狙いを悟られないようにしながら目的を達成しようという動きに隙は無い。
テイシアや他の沿岸部の街とも協力し、ヴィレルやヴァズにも報告は済ませた作戦。
それは例の海魔たちの本拠地からそこそこ距離がある場所まで誘い込み、地上を攻撃してくる海魔を背後から挟み込むという予定だ。
トライデント本体は俺が相手をしようと思っている。
相手は神代の武器、そうなれば俺の出番だろう。
聖剣は……万全の状態であれば抜けるだろうけど、最近使ってないからな。
今も、さっさと自分を使えば終わるのに、とどこかの空間で脈動している。
そういえば、この聖剣の収まってる場所ってイアの開発した魔法に似てる気がするな。
ともあれ、港町を目指して、としている設備もそのまま海魔との戦いに転用することを意識している。
普段の3倍以上の高さを誇る櫓であったり、風と共に水も防ぐための林であったりと様々だ。
『その点は、本当にいいのか? 確かに先兵を倒した魔族は許さん、と叫んでいたからな……。
南を進めばそちらの海岸に上陸するとは思うが……』
真珠越しでも将軍の声に心配が多く含まれているのがわかる。
もっとも、正面に立っていても魚顔なので表情は読みにくいのだが……。
将軍の言うように、今回の海魔はひどく好戦的の様で、この前の戦いで海魔側がほぼ壊滅したのを気にしているらしい。
テイシアに見向きもせずに向かってきそうだというのだからなんとも言えない突進具合だ。
「いつ来るかわからない相手を気にするより、このほうが良いとこちらの責任者も言っている。問題ないよ。将軍は命を大事にしつつ、好きな時期にきてくれ」
『いたせりつくせり、だな。よかろう、ゆっくり待っているといい』
真珠の鳴動が終わり、会話も終わったことがわかる。
ふうとため息1つ、眉間に寄ったシワをもみほぐすようにする。
まったく、俺は政治や高度な選択には向かないんだ。
「さて、戦士たちを受け入れる準備はしないとな」
速ければ2週間ぐらいすると海魔たちの先行部隊がこの辺にたどり着く。
それまでに迎撃の準備は整えないといけない。家に、戦場の調整にやることは多い。
「……やらせるものかよ」
一人、家の外に出た俺は呟く。
視線の先で建材に使うであろう丸太を運び走るミィ、それを追いかけながらも何かを運んでいるイアにルリア。
遠くには体を活かして大岩を丸ごと運んでいるカーラも見える。
彼女らとの平和な日常を、待つのではなく、勝ち取りに行く。
そこには誰かがいない未来、という物はない。
俺はそっと首元の首輪に手をやり、ヴァズたちの会話を思い出す。
勇者としての力は普通の戦いに使うのはあまりよくないという考えは俺と同じと言える。
じゃあ、普段の手加減してる状態は勇者の力ではないのか?となると悩むところだけれど、少なくとも上位魔法連打で壊滅させる、なんていうのは一方的すぎるだろうとは思う。
最初から一方的だと逃げるだろうしな……。
今回の最終目標であるトライデントはその数少ない例外でもあるが、あまり目立っても後々問題になりそうであった。
今頃ヴァズやヴィレルは領内に呼びかけ、戦士を集めているところだ。
襲撃には間に合うだろうけど……心配だな。
今日も静かな海面を睨みつつ、俺は準備を続けるのだった。
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増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。




