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兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~  作者: ユーリアル
第二章~魔王候補擁立編~
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063.商人は情報にも価値を見る

 

「ククク……ラディがいると退屈しないなあ……お前さん、その辺の神様の化身だったりしないか?」


「だったらだったで楽だけども……で、聞いてどう思った?」


 誰に聞かれるとも限らないので、人払いをしてもらっての報告後の事だ。

 最初はきょとんと、何を馬鹿なことをという顔をしていたバイヤーだったけど、こちらが冗談だと言わないことに気が付き、徐々に顔をゆがませて最後には笑い出した。

 馬鹿なことを言うな、と否定してこないのがバイヤーの面白いところだ。


「その海魔が掌握できる海域がどれぐらいかはわからんが、決まった海域だけでも安全度合いが増すというならそれはどんな財宝よりも価値が上だ。

 陸と比べ、海は逃げきれんからな。対海魔対策も逃げるよりは迎撃しかない。それも船底に回られたら終わり、だ」


 きっぱりとバイヤーが言うように、船という乗り物で移動する海の上は陸の生き物にとって危険極まりない場所に違いない。

 だからこそ、勇敢な船乗りは尊敬されるし、熟練者ともなれば名家の重鎮の様な扱いだ。


 これは人間の世界でも同じはず。

 カヤック将軍の提案が本当ならどれだけのうまみがあるか、俺でもわかるほどなのだからバイヤーにとってはもっと大きな話に感じているに違いない。


「海魔にとっては、俺達が海の中に攻め入るんじゃないか、という考えがあるそうだ。

 だからこそ、商船のような大規模な相手程襲われるらしい」


「対策しようの無い情報をありがとう。ああ、嫌みではない。

 対策が無いというのも立派な情報だからな……さて、カヤック将軍だったか?」


 俺が伝えたもう1つの情報に顔をしかめつつ、己の身に課せられた仕事をこなすべく考えを切り替えるバイヤー。

 こういうあたりはさすがに領主の1人だなと思う。

 本人は魔王には興味がないらしく、ヴィレルを支持しているのは商売の問題以上の理由はない。

 魔族至上主義の彼らが趣旨替えするとも思えないので、このあたりは安全と言えるのではないだろうか。


「人をだますのが不得意な……まあ、不器用な上司というところかな」


「詳しいことは話してからだろうが、面白そうだ。案内してくれ」


 それからの話は非常に早いものだった。

 優秀な商人の即断即決具合は、優秀な戦士の戦いでのソレとよく似る。

 そういつか聞いた言葉が目の前で証明されていた。

 部下に話せば止められるからと、少し散歩してくるとだけ言って俺と共にカヤック将軍の隠れる入江へ。

 その間、ミィ達は宿で待ってもらうことにした。






「ほおお……人型の海魔を見るのは2度目だが、体はほとんど変わらんのだな」


「お初にお目にかかる。カヤックという。はっは、足ではなく尾びれであったならと常に思うよ」


 互いの安全のため、という名目で岩場の端と端で対話が始まる。

 バイヤーからは、多少の物資の融通は構わないということ、こちらも勢力争いの最中なので現場によっては何もできないこと、勢力下であれば全力を尽くすことが語られた。というか、全力の中に俺も入ってるよね、きっと。


 まあ、何もしないってことは無いだろうけども。


 対するカヤック将軍からは、事前にもしかしたらと言っていたように、掌握海域内での地上への侵攻と海上での船への襲撃の抑えが提案された。後は可能な範囲での交流、だな。

 ただ、末端の海魔は話を聞くような生き物ではないので、稀に襲ってしまうのがいるだろうとのこと。

 確かに、あんな貝やイソギンチャクのような奴らがそばに指揮官がいなくても話を交わせるとは到底思えない。


「そいつは構わない。いや、問題ないとは言わないが、どうしようもないことはある。

 逆に全く襲われないというのもだらけるからな、そのぐらいがちょうどいいだろうさ」


「感謝する。恐らくは西側から様子を見つつ……であろうから最初に地上を襲うならここより北西部であろう」


 カヤック将軍から語られたこの際の展望は、予定通りというか想定内と言えるもの。

 先に北西を叩きつつ、南側という敵対する海域をつっきっての魔族領土への襲撃。


「別陣営を叩くという名分で動くことを考えるとこれが一番自然だ」


 湿った地図を前に、腕組みして悩んだ顔をたぶんしているカヤック将軍。

 1か所目の襲撃後、戻ってくるのか、あるいは進むのかは今のところ読めないらしい。


 まあ、確かに初戦での勝敗で変わってくるだろうな。

 力を手に入れればよし、無理なら……となるわけだから。


「なるほどな。ラディ、こっちはなんとか……まあ、交易の時に海魔に出会った、みたいなのが限度だが、警戒は促す。お前さんは東に戻りな」


「そうか。わかった。南東部の海岸に港をつくる話があるからな。報告の後でそこに様子を見に行くよ」


 話を終え、お互いに分かれるとなった時のことだ。

 カヤック将軍が2つの球体を投げ渡してくる。

 手の中にあっさりと納まったそれは、白く、予想外の輝き。

 そう、小石ほどの大きさの真珠だ。


「二人にはこれを。思念ぐらいであるが離れていても伝わる海魔の魔道具だ。

 上手く行けば頭の中で言葉が交わせるであろうよ」


 同行しているトーボの焦り様からして、海魔の中でも貴重品の1つに違いない。

 バイヤーは手の中のそれをしげしげと観察している。


「ありがたい。東にいったらどうやり取りしようと思っていたんだ」


 そうして話しているうちに夕方。

 赤く、血のように海面が染まる中、2人の海魔は水に身を躍らせる。


「次に会う時は戦場でないといいが……せめて敵対していないことを祈らせてもらおう」


「そんときは俺じゃなく、ラディが戦ってるかもな」


 上半身を海からだし、神妙な面持ち(たぶん)でいう将軍に笑いながら答えるバイヤーはひどく楽しそうだ。

 俺はそのはっきりした態度に笑いつつ、最後に一言、将軍にいうべく前に出る。


「カヤック将軍。いや、おっさん、楽しかったよ。いつか、2人で磯焼でもして食事会をしようぜ」


「……お前さん……そうか。ふむ、また会おう!」




「終わったら、聞かせろよ?」


 何も追及してこないバイヤーに頷き、2人でテイシアに歩き出す。


 何年も前、勇者時代に海魔と戦った時、横合いから割り込み、海魔側を無理やりに撤退させた厄介な海魔。

 それがカヤック将軍だった。


─少年、腹が減っては顔が笑顔にはならんぞ!


 そのころの俺は多少やさぐれており、大分乱暴な戦い方だったと思う。

 それでも将軍の幻惑の魔法ははじけるほどであったし、戦いにも負けるほどではない。

 それでも、カヤック将軍は俺の攻撃をしのぎ切って撤退したのだ。

 その時に言われたのが、今度磯焼でもしよう、だったのだ。

 海の中で火を使わない海魔からの磯焼のお誘いという何とも言えない洒落に拍子抜けしてしまった俺はそのまま見逃してしまったのだ。


「終わったら全部話すさ」


 何か言いたそうなバイヤーにそれだけ言って、押し黙る。

 ヴァズの後だけどな、と胸中でつぶやきつつ街へ。

 その日はテイシアに宿泊し、翌日、とんぼ返り同然の速さだけど、ひとまずパンサーケイブへと4人で帰路に就くのだった。


ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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