064.爆誕!?火竜女王!
土煙を上げて、街道をグイナルがひた走る。
行きと同じく、ほとんど荷物が無いというのは彼らにとっては歓迎すべきことの様だった。
まあ、誰でも荷物を持っていたくはないよな……。
『まだまだ街道の外は未開の地ね』
「ああ。探せばいつかのような遺跡があるかもしれないな」
もう慣れてきたグイナルが走る時の振動に身を任せつつ、イアと共に街道脇の森を見つめる。
時折、誰かが切り開いたのかなと思う様な森というより林になっている場所を見ることが出来るけど、それ以外は自然そのまま、だ。
獣や魔物の類がたまに横切ったり、森の中に動いてるのを見つけるのも面白い。
襲い掛かってくるような奴はグイナルの上からすぐさま対応だ。
見逃して行き交う人が襲われてもいけないからな。
どちらかというと、俺はまだ見ぬ竜種たちを警戒していた。
空を飛び、気ままに過ごす風竜に高位竜の嵐竜。霧と化して湖たちを行き来するという水竜や、大地を揺らしながら起きるという地竜。
カーラの母親である火竜もまた、各地の火山のそばなどで高位竜である溶岩竜とのにらみ合いをして過ごすという。
皆、自分が見た物以外は聞いた話であったり、神様たちの喋った内容からの推測でしかないのだけれども。
少なくとも、正面から敵対するなら俺が相手をしないと被害が出ると思う。
『私、気になることがあるのよね』
「どうした、改まって」
珍しく神妙な面持ちでつぶやくイアに、俺も驚いて思わず見つめてしまう。
イアは俺から魔力を吸う度に、どこかにため込んでいるらしく、それは魔王の秘術の1つだというから追及はしていない。
日がたつごとに、イアは段々と背格好はそのままでも女の子らしくというか、艶やかさを増している気がする。色々と我慢するのが大変だ。
本人に言えば、なんで我慢する必要があるの、とかいうだろうけれども。
『魔王時代、こんなに竜種が静かだったことってないのよ。
私が覚えてないだけかもしれないけど……大体どこかで何かが暴れてたわ』
「言われてみれば……あいつら、どこにいるんだ?」
イアの指摘に、グイナルの背の上で腕組み思案する。
たまに火竜や溶岩竜が吠えれば火山が火を噴き、年に1回や2回は風竜や嵐竜による荒天はあるはずだ。
このダンドランに来てから、火竜以外に竜の話を聞いたことがない。
目撃情報自体が無いのはどうもな……。
『まさか殺されたってことは無いだろうけど、たまたまいないと思うのはちょっと問題じゃないかなと思うのよね』
例えば、竜が嫌がるような何かが大陸にあって、逃げている。
あるいは……どこかの竜の元に集っているとか?
「イア、竜の上の竜、みたいなのに心当たりはあるか?」
『そういうのがいるんじゃないかっていう想像ぐらいね。痕跡とかは何にも見つけてなかったみたいよ』
気になって聞いてみるが、イアも聞いたことが無いらしい。
なんとなくだが、俺には予感があった。高位竜が神様未満だというなら、神様になった竜がいるのではないかというものだ。
今は考えてもしょうがない事なので視線を前に戻す。
「お、見えてきたな」
街道の先に、人工物が見えてくる。
いくらかさらに拡張されたようだけど、馴染みのあるパンサーケイブの街並みだ。
と、見ている先に大きな気配と、赤い巨体が舞い上がる。間違いなく、カーラだ。
ミィの気配をこの距離で感じ取り、我慢できなくなったのだろう。
腰の下で、グイナルに緊張が走るのがわかる。
(そりゃそうだよな、竜だもんな)
それなりの間そばで接していたとはいえ、竜が生物として上位に存在するのは間違いない。
魔物に近い力を持つグイナルにしても恐怖そのものだろう。
『グウウウウン!』
「カーラちゃぁぁーーーん!」
カーラの叫びにミィもまた、大きく叫んでグイナルの背から飛び降り、砂煙を上げて走り出したと思ったら空を飛んだ。
「カッコいいな、ミィちゃん……」
ルリアのつぶやきを耳に聞きながら、飛び上がった妹を視線で追う。
飛んできたカーラにぶつかるようにして抱き付き、そのまま上空で笑いあうミィ。
『あの子、いつの間にあんな風の魔法を……ううん、もしかしてあれ』
「ああ。単純に大きく飛び上がってるだけか」
浮いているというようには感じなかったわけである。
それでもこの高さを一気に飛ぶとは……。
「ミィにももう城壁は意味が無いな」
『そうね。攻城兵器同然じゃないかしら』
そんなことを笑いながら言いあい、人々でにぎわうパンサーケイブへと入っていく。
ヴァズに報告に行こうとする俺達だったが、カーラがぐいぐいと背中を押してくるせいでなかなかそうもいかない。連れて行きたいのは、工房らしい。
「なんだ、見せたいのがあるのか?」
『ガウ!』
そうよーという陽気な感情が伝わってくる。
前よりもなんとなく、言葉で感じるのでカーラの成長の証ともいえる。
そのうち雑談もこなせるのかもしれないな。
そんなことを考えつつ、押されるままに工房へ。
そこにはいつものおっちゃん職人たちが汗を流してハンマーを振るっていた。
そのうちの1人が俺達を見るなり、駆け寄ってくる。
「おお! 今戻ったのか。ははっ、見せたくて仕方がなかったみたいだな」
笑いながら、カーラの首元を撫でるおっちゃん。大分お互いに慣れたらしい。
「何か良いものでも出来たのか?」
「んー、見てもらった方が早いな。こっちだ」
振るうだけで中位の神様による魔法が出るような武器でも出来たんだろうか?
疑問を抱えたまま、4人で連れていかれた先は前と同じ工房。
何人もの職人が必死な表情で魔鉄を叩いている。
『お兄様、これ……すごい事よ』
半ば呆けたような声でイアが指摘するのは、彼らの使っている炉の炎。
その炎はカーラがブレスを吹き付けた魔鉄の物と同じ、どこか生き物の様な圧迫を感じるある種異様な物。
だけど、それはカーラがブレスを吹き付けなければ現れないはずのものだった。
「炉の中が既に変化しているのか……」
「その通り。アレを見てくれ」
職人に言われるがままに覗き込んだ先、そこにあったのは独特の輝きを放つ赤い、夕暮れの様な濃い赤の石。
そう、竜魔石だ。大きさは手のひらに乗るほどだけど……。
「あれはどこから?」
「カーラさ、少し前に急に口から吐き出したんだ」
(なんだって?)
思わず、建物の屋根から首を突っ込んでいるカーラを見上げると、竜だというのにわかるほど、ニコーと笑顔になった。
「よくわからないけどすごいね、カーラちゃん! え? 外に出さないようにぎゅってやってえいってやったらこれになった?」
どうやらミィの方が俺よりカーラの考えがわかるようだった。
それによると、力を放出しないようにしていた訓練の応用で自分自身の力を圧縮することに成功したらしい。
「これでカーラがここにいなくても作れる。そりゃあ、そのうち力が無くなるだろうから補充に来てくれると嬉しいが」
職人の言葉を聞きながら、俺は頭をひねる。
どうしてカーラがそんなことができたか……だ。
ただまあ、理由は1つしかない。俺やミィの魔力が食べ物として優秀すぎたのだ。
これは……親を越えて火竜の女王にカーラがなる日も遠くないかもな。
その後も一通り雑談気味に状況を聞き、ようやくヴァズの待つ屋敷へと向かうことになったのだった。
ロイヤルゼリーならぬ、ロイヤル魔力が原因のようです。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。




