045.シスターズ オン ザ ビーチ!・後
整備された道を走るいくつものグイナルと荷台。
それぞれに分乗して戦士たちが出発地点であるフロルの郊外に集まっていた。
冒険団の皆は元より、俺も初めて見る人数に少し驚いている。
街の防衛は大丈夫なのかと思うほどだった。
「ヴァズ、この人数で本当にいいのか?」
「それだけ本気ということだろうな。何、手早く片付けて終わればいいのだ」
やってきた援軍はほとんどが大人で、たまに子供というか若い子も混じっている。
彼らも物資の護衛等の役割を担っているようだった。予定人数が集まったのか、ヴァズが周囲を見渡したのち、笛を吹く。
甲高い音が響くと同時に、みんなの注目が集まる。
カーラやミィ達は何だろう?みたいな顔なのはご愛嬌だ。
「今日はこれだけの戦士が集まってくれて感謝に堪えない。聞いている通り、この先に雨季が来ない原因が恐らくある。戦いが予想されるがそれぞれの力をぜひ貸してほしい」
歓声が上がり、士気は十分であることがうかがえる。
何人かからは強力な魔力の気配を感じるので、ヴァズの言うように援軍の本気具合がわかろうという物だ。
合図を行い、進軍が始まる。目的地まではゆっくり行っても約2日。
ちなみにカーラも同行するという時にひと悶着では収まらないほど騒ぎがあったのだけど、ミィに言われるままに座ったり、物を運ぶなどの行動を見せつけた結果、今も自分と一緒に先頭を走っている。
『ガウガウ!』
どうやら遠慮なく走れるのが楽しいらしい。
こちらとしても仮にも火竜がいるということで余分な襲撃が無く、非常に楽な状態だ。
1日目が終わり、日が暮れる前に野営の準備を、と一行の速度が落ちた時のことだ。
「お兄ちゃん、あれ!」
「ん? おいおい、早くないか?」
俺がミィにそんなつぶやきで答えたのにはわけがある。
まだ先にいるはずの相手、俺の背丈ほどの貝を背負った異形が1匹、川沿いにいたのだ。
巻貝を背負い、普段の海辺なら小さく可愛さすら感じるヤドカリのような海魔だ。
確か名前はシェルブズだったかな。1つ1つ名前を付けるのが大変なので、同じ様に貝を背負ってるやつは基本的にこう呼んでいる。
ただ、こいつらは普段海岸にもおらず、海の底でうごめいている連中の1匹のはずだ。
それがこうしてこんな場所にいるとなると、ますます先が怪しくなる。
ひとまずその1匹はヴァズの手により沈黙する。貝殻に穴をあけるというやや力技だったけども。
「見張りはしっかりしないといけなそうだな」
「ああ」
予想外の敵の発見となり、ざわめきが広がりかけるが野営の準備をし始めるとそれぞれの作業を思い出したように動き出す。
そんな中、冒険団の皆は各集まりを回り、水の確認をしている。
そうして緊張の夜が過ぎていき……翌朝。俺達は目的の海岸線を視界に収めるのだった。
ただ……。
「ふわあ……よくわからない変なのがいっぱい!」
『気配が多すぎてわかりにくいわね』
「獲物、たくさん」
3人がいうように、視界に入っている景色を海魔たちが我が物顔で闊歩していた。
巻貝型、2枚貝型、イソギンチャクみたいなものや、魚に足が生えたような物までいる。
そしてひときわ大きな、蟹の姿らしい魔物。その背中には多くの二枚貝らしきものがくっついている。
(ん? 魔力の動きが……あれか)
ふと、周囲に漂うはずの魔力が一定の方向へ動いていくのを感じた。
向かう先は、貝を多く背負っている巨大ガニ。
(なるほど、あいつが肝か)
具体的にはわからないけど、あいつが雨期のための雨雲なども結果として吸い取ってしまっているのだろう。
問題は何故こいつらがここにいるか、だけども。海魔が勢力を拡大しようとしている……が一番簡単だ。
その割には代表格としての強さを持つような指揮官がいないのが気になる。
ともあれ、目の前の相手である。
「でかいのは自分とラディでやる。みんなは迎撃を。冒険団は経験を積むいい機会だ。無理せずに動くように」
ヴァズの言葉に、思わず声を張り上げてしまう面々。
それは結果として海魔に気が付かせるという物となる。
うじゃうじゃといる内、足の速そうな虫にも見えるやつが走ってくる。
大きさは別として、海岸に良くいるアレに似ている。
『ガウ!』
カーラには食べられるように見えないらしく、他の大人と一緒にべしべしと叩き落とすかのように打ち砕く。それが始まりとなり、乱戦が開始された。
海辺に踏み込みさえしなければ、丘に上がった海魔はそんなに強くはない。
大人たちは集まりごとに連携を取り、端の方から確実に撃破していく。
我らが冒険団も、いつもの特訓通りに陣形を組んで戦いに挑んでいた。
唯一例外というか考えられなかったものは、カーラだ。
「そこでふっ飛ばしちゃえ!」
『ガウ!』
そばを走るミィの声に従って、かなり太くなってきた火竜の尻尾が鈍器のように振るわれ、海魔だった物が産まれていく。
中身は恐らく即死だろうな。切られ、潰され、あるいは焼かれたりと海魔たちも散々であろう。
たまにカーラが魔物の中に口を突っ込み、何かを食いちぎっている。
それを飲み込む度、少しずつだけどカーラの力が増している気がした。
俺とヴァズはそんな戦いの間をかいくぐり、目的の相手の前にいた。
こちらを経過してか、カチカチとはさみを高鳴らし、警告の姿勢を取る巨大ガニ。
「まあ、普通に戦う必要はないからな」
ヴァズに頷き、雷の神様へと祈りを開始し、そして発動。
大きな音を立て、砂浜に蟹が沈み込む。その背中に乗ったままの貝はまだ生きているようで蓋を閉じたり開いたりと元気だ。
(こいつが……確かに周囲の色々が薄くなっている気がするな)
恐らく、汚れてしまった場所であればこいつは非常に役立つのだと思う。
だけど、今はそんなことはなく、邪魔なだけだ。
「武器だと何かあるといけないから、魔法で適当に吹き飛ばす」
「よろしく頼む」
使う魔法はミィと同じフレイムボルト。
しかし、工夫を重ねた俺のフレイムボルトは別物だ。
離れていても全身で感じるような爆発による熱。
少し砂煙を上げながら俺の魔法はその威力を問題なく発揮し、1匹のカニを焼き、その背中の貝を粉々にしていた
続けて2つ目、三つ目と同様の対処を行っていく。
その間、みんなそれぞれに海魔に襲い掛かっており、あちこちに動かない海魔が転がっている。
だが、まだ数が多い。
「む? 1匹、沖に逃げるぞ?」
「逃がすわけには!」
ヴァズの指摘に、慌ててそちらを見れば既に体の中ほどが海に入り始めている巨大ガニ。
いつぞやのように海を走るか、と考えた時だ。
「お兄ちゃん!」
『お兄様、どいて。そいつ焼き殺せない!』
焦ったようなミィの声と、ひどく物騒なイアの叫びに慌てて横に飛びのきながら後ろを見ると、カーラが口に赤い光を携えて立っていた。
─ドラゴンブレス
竜種の一番の特徴にして最大の武器。
それが今、俺の横を赤い光となって通り過ぎ、沖に出るところだった蟹を背中の貝ごと貫いた。
一瞬後、ぼんっという音と共に奥の方の海がしぶきをあげて吹き飛んだ。
カーラのブレスによって海が沸騰したのだろう。成体のそれと比べるのもどうかというぐらい細く、弱弱しいものだったが確かに竜のブレスであった。
もう撃てるようになっていたのかという驚きと、威力の調整や実験をまたしないとなという疲れ。
様々な物が入り混じった顔をしているであろう俺の視線の先で、やったーと無邪気に喜ぶミィ達。
ミィ達が喜んでるなら……まあ、いいか。
残党処理が始まり、3都市合同の作戦は大勝利で幕を閉じることになった。
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