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046.兄、海辺に思う

 


「ちゃんと貝殻は集めておけよー」


「「はーい!!」」


 戦いが終わり、海魔たちのいない海岸に子供たちの元気な声が響く。

 周囲の大人も、それぞれの海魔の死骸、特に貝殻等素材に使える部分の回収に移っている。

 この貝殻たちは砕いて細かくすると様々に使えるのだ。

 魔法薬の材料として混ぜ込んだり、畑に他の物と入れると肥料になったり。

 最近の流れでいえば鍛冶材料として一緒に熱すると素材の段階から特殊な能力が付いていたりする。


 火山のそばの鉱石が火の力を帯びるように、水の力を帯びるようになるのだ。

 だからこそ、ただ砕けた貝殻に見えてもそこそこのお金になる。

 仮にお金は無理でも何かに交換してしまえばいいのだ。

 そのため、大人たちも結構必至である。俺は、ヴァズらとともに海岸や海の警戒。

 海魔共がまた来ないとも限らないからだ……が、今のところはその様子はない。


「ヴァズ、どう見る?」


「頭となる海魔がいなかった以上、一時的に退けたに過ぎないとは思うが……。

 一地方に送り込むには海魔の数が多いように思えるなであればすぐに第二波があってもいいはずだが、気配も無いな」


 そう、海魔はその数と種類が特徴だ。

 土地ごとに若干違う見た目や性質、あるいは季節で顔ぶれが全く違うといった事すらある。

 それを率いることのできる人型の上位海魔がいるはずなのだが……。


「ひとまずは完了、か。定期的に様子を見るぐらいしか出来なさそうだな」


 腕組み、なだらかで風のあまりない沖合を睨むが特に何もいない。

 あいつらがいたころとは大違いだ。


「ラディ、潜ってみてくれないか?」


「さすがにずっとは無理だな。2刻ぐらいならなんとか」


 そのぐらいは潜れるんだ、という近くの戦士たちのつぶやきはここは敢えて触れない。

 海の下にいる神様は結構強引で、気に入った相手をそばに置こうとするから長時間の潜水は遠慮したいのである。

 俺にとってはもう回収を終え、浅瀬でばしゃばしゃと遊んでいるミィ達の方が大事だ。


 というか……カーラ元気だなあ。微妙な浅さの水辺は良い訓練になるというから、何回も来てもいいかもしれない。と、遠くを見ていた俺の視界に……雲。


「ヴァズ、あれを」


「うむ。やっとだな」


 そのうち、あの雲は北上し続け、雨期となるのだろう。

 それに思いをはせていた時のことだ。独特の声と共に、川の方から何かがやってくる。


『お兄様、海鹿よ、海鹿』


「戻って……きた」


 正体を確かめる前に、イアとルリアが急いで走って来た。

 指さす先にはどこに隠れていたのか海鹿の群れ。そして気が付けば海岸は海鹿の群れが占領していた。


「おおきい……あ、カーラちゃん、食べちゃダメだよ」


 ミィの許可が出ていないので海鹿を襲う気配のないカーラ。

 その殺気の無さを海鹿も感じているのか、あるいはこの距離なら逃げられると思っているのか。

 海岸そばの森からカーラが恨めしそうに海鹿たちを見つめている。


「お兄ちゃん、アレ、何?」


「何ってなあ……」


 無邪気にミィが聞いてくるのは……海鹿の、まあ……なんだ。


「ミィちゃん、あれは海鹿の交尾。海鹿は年に4回も子供を産める」


 俺が口ごもっている間に、冷静なルリアのつぶやきが妙にはっきりと響いた。

 イアはなんだか楽しそうだし、止めるやつがいない。


「すごいねー。どったんばったん暴れてる」


「あー、ミィ?」


 確かに迫力があるのだけど、あまりよろしいとは言えない光景である。

 だからこそ声をかけたのだけど、ミィは目の前の状況に夢中だった。なので……。


「わっ、お兄ちゃん!? なんで?」


「あんまり見るもんじゃありません! 帰るぞ!」


 じたばたと暴れるミィを抱え、俺はグイナルの元へと戻る。

 海魔由来の素材を満載した荷台の横には歩きでもいける男たちの姿。

 歩きでの移動は厳しいものがあるが、それ以上に設ける機会なのは間違いなく、皆の顔は明るい。


 いつの間にか数匹の海鹿が荷台に積まれていた。

 はぐれたやつを素早く仕留めたようだった。

 雨期も来そう、儲けもある。なるほど、笑顔になるわけだ。

 そうしてフロルにたどり着き、解散するころには空は黒い雲に一面覆われていた。






 ヴィレルに報告した頃には……街に雨が降り注いでいた。

 木を組んだ家のそばには、大きな岩と土で作られた大きな覆い。

 ただの壁と屋根と言っていいが、それがカーラの寝床だ。竜の手からは想像しにくいが、カーラも物は持てる。

 戸板を入り口に立てかけるぐらいはできるので、一人用洞窟、といったほうが適切であろうか?

 雨が続くのであればこの先しばらくは窮屈そうだが仕方がない。

 火竜と言えど、雨はめんどくさいのだろう。


 前に出会ったことのある火竜ヴァルキアは、大雨と嵐の中でも炎で雨が水蒸気となって見えなくなるほどに、強大な火力の持ち主だったが……カーラはそこまで行くかな?

 食事の準備をしているミィ達の代わりに、犬小屋ならぬ竜小屋に体を休めているカーラの前に立つ。


『ガウ?』


 なーにー?といった風にこちらを見るカーラはやはり大きくなった。

 このままいけば俺達を乗せて走るほどの大きさになるのも遠くは無いだろう。

 その分、場所も考えないといけないが。


「近いうちにカーラの炎で鉄を鍛える。頼めるか?」


『ガウ!』


 任せろ、じゃないや。任せて!と叫ぶカーラは元気いっぱいだ。

 やはり、雨に打たれるより中で過ごす方が気分的には良いようだ。

 遅れてきた雨期がどれぐらい続くかはわからないけれど、気晴らしはある程度必要だろう。

 ミィ達も連れて行ってあげるとするかな。

 そう思いながら家に戻ると、食事がもう出来上がっていた。なのだが……。


「今日は海鮮煮込みだよ!」


『匂いは大丈夫なのよね、味はどうかしら?』


「にーになら、平気」


 まずはルリアには俺がどう平気なのか聞きたいところだ。

 そして、カニっぽい足や貝の中身はともかく、煮汁の色が少々毒々しいな。

 だが、妹の作った食事を残すような兄に存在理由は無い。まずは一口……大丈夫だ。


「うん、おいしいんじゃないか……?」


 そう言いながら、違和感に首を傾げる。

 舌に残る食べたことのある味。これは……。


「食べたらー、ミィ、お勉強したいなー」


『やっぱりすべてに勝るのは実地よね』


 年に何回も繁殖するという海鹿の力が実際に宿ると言われるあの……肉。


「にーに、がんばれ」


 何を、ということは言葉に出来ず、捕まえようとしてくるミィとイアの腕を振り切り、外に飛び出した。その後のことは……多くは語らないでおこう。



海鹿はオットセイやトドみたいな海洋生物です。


ミィとお兄ちゃんのイケナイ課外授業!は始まりません!


ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。



誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします。


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