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040.兄妹、露天掘りに立つ!

 

 雲間から覗く日差しが俺達の肌を焼く。

 恨めしそうに空を見上げるが、今のところ陽光が弱まる気配は無い。

 そのうち雲に隠れるとわかっていても、暑い物は暑いのだ。

 それがまだ夏と言える時期ではないとしても、涼しいとは言い難い時期だ。

 この大陸、ダンドランには雨期があるそうだけど、それはまだ少し先の話だ。


「お兄ちゃん、暑いよぉ……」


「ったく。少しは我慢しなさいと言いたいところだが、暑いな」


「日差しは……いなくなればいい」


 グイナルの上で暑さにだれるミィ。いつもは元気な耳やしっぽもだらんとしたままだ。

 ルリアもそのそばでぐったりしている。見れば同行している他の面々も一人を除いて、だいぶ暑さに参っているようだ。

 まあ、その一人は言うまでもなく、暑さ寒さを感じないというイアなのだけども。


「ヴァズ、冷やすぞ!」


「了解した」


 警戒心が薄れ、何かあってもいけないので俺は叫んでから、永久凍土の中を寝床にするという神、雪と氷の中位神、コリューンへと祈りを捧げ、本人(本神?)にとっては不本意かもしれない弱い冷気を周囲に生み出す。

 ついでにいくつかの氷の塊を荷台などに生み出しておいた。


「はっは! こいつはいい。一家に1人、ラディだな」


「人を便利な魔道具扱いしないでもらいたいな」


 歴戦の、といった空気を感じさせる魔族の1人が笑い、俺もからかいに答えるべくわざとおちゃらけていう。


 既にフロルを出て三日。旅はやはり人同士を結び付ける。

 俺とヴァズ、そしてミィ達、同行している魔族と獣人の大人が20名ほど。

 子供はミィ達だけになったが、さすがに冒険団の皆の親が首を縦に振らなかったことと、親のいない子は俺が止めたためだ。

 ミィ達は……どうしても行くというので後方での物資護衛に限定して皆には納得してもらった。

 子供とは思えない、下手な大人より魔法を使いこなしてきてるからこそぎりぎり認められたといったところか。


(何かあれば守り切ればいい、そうだろ、ラディ)


 俺としては非常に心配なのだけど、留守番させたほうが心配よとイアに言われ、俺は頷かざるを得なかった。

 そうして向かう先には、露天掘りの鉱山があるという。いくつかの理由により繁栄していた、フロルの前身となる街。

 とある理由により、廃棄されてしまったその街、そして鉱山へと俺達は向かっている。


 山を1つ超えて、さらに進んだ先にある平地の向こう側。

 地面が草原から岩の混じる物になってきたころ、目的地である街だった場所が見えてくる。


「あれが……」


「そうだ。かつて、パンサーケイブと呼ばれた……街だ」


 まだ距離があるのにみんな足を止める。グイナルも静かに命令に従っている。

 これまでそこにいる敵対者(・・・)に気が付かれない様、ずっと風下になるように迂回してきたのだ。

 時には魔法を使ってまで、臭いを感じさせないように。

 その配慮をしなくてはいけない相手、火トカゲのことを俺はここに思い出していた。


 それは初夏の最中、ヴァズからの依頼だった。

 一緒に、放棄された街とそばの様子を見に行ってほしい、という物。

 かつては鉱山街として栄え、大陸に様々な鍛冶製品を送り出していたという。

 理由がありそこを放棄して、今のフロルを築き上げたそうだ。道理で普通に扱われている武具が妙に品質がいいわけだ。


 話によると、そこは山を掘るのではなく、地面を掘り住んでいく露天掘りという形。

 産出される鉱石は質の良い物が多く、不思議なことに魔力を帯びていた。


「それから作られる武具が強力だということで有名になってな。それはそれで騒動があったんだが、母上が止めた」


「止めた? それはつまり」


 力づくでか、との問いかけには頷きが返答だった。

 自分はその場にいなかったので伝聞だが、とヴァズは言うが見ていなくても容易に想像が出来そうではある。

 全身をその鉱石、魔鉄の装備で多い、両手には短剣を長い爪のように配置した特別な手甲を装備して武器を振り回していたとか。なるほど、魔豹なわけだ。


「その後は順調に繁栄を続け……ある日、それは崩れ去った。よりにもよって、掘った穴の中心に火竜が降りてきたのだ」


「火竜……ヴァルキア?」


 依頼を受けた俺はヴァズと共に小走りで現地に走っているところだ。

 グイナルも使えるのだけど、2人だけなら実はこの方が早い。

 というか、何気にこれだけ動けるヴァズはかなりの実力者だ。

 今さらではあるけど、領主の後継者決戦でもしたら一位なんじゃなかろうか。

 気楽に移動できるから俺としてはありがたいけども。


「恐らく別の個体だろうが、近いな。暴れるでもなく、穴に住み着いた。

 そうなれば掘ることも出来んし、近くの街もとても住める状態ではなくなった」


 淡々とヴァズが言うが、握りしめた手には力が入っている。

 それはそうだろう。火竜は空を飛ぶ火属性の竜だ。

 二本脚と尻尾で器用に立ち上がり、高さのあるブレスを放つ強敵だ。

 高位竜ではないのが救いと言えるだろう。大体の生き物はそのブレスに耐えられないので大した違いはないかもしれないが。


「母上は街の放棄を宣言し、今のフロルを作り上げた。だが、街をあきらめてはいなかったのだ。当然だな。

 ずっと露天掘りを続けてもまだいくらでも続けられそうなほどの規模だったのだ」


「いつか取り返し、鍛冶の街の復活を……か」


 山の頂上に着き、目的地の方を見るがやや灰色の地面が見えるだけでまだはっきりしない。

 一筋縄ではいかないであろうことだけはわかる。


「出来れば対話や交渉で未来を得たいのは母の気持ちでもある。

 ただ、残念ながら力なき言葉では無理なこともある……なかなかに難しい話だ」


「よくわかるさ。強い力で殴れば、より強い力が返ってくる」


 力なくつぶやくヴァズの言葉に、様々な思いを込めて俺も答え、相手の目を見る。


「ラディならそう言ってくれると思っていた。さて、ここからなら見えるな……」


 言われ、丘の上にそびえる巨木たちの1本に飛び乗る。

 遠くに見える下に掘られた大穴。その中には……小さめの影が幾つもうごめいていた。


「あれは……」


「火トカゲ。まあ、そう呼んでいるだけだが。実は火竜は何年か前に飛び立っているのだ。その後、あいつらが住み着いた。

 また戻ってくるかもしれないし、戻ってこないかもしれない。戻ってきた時のための備えはしつつ、鉱山を解放しようという狙いなのだ」


 なるほどな……まずはあいつらを倒し、場所を確保した上で職人街のように限られた人員で鉱山と作業場所としての復活を狙う訳か。


「次は有志を募って解放の作戦に動く。その時は……よろしく頼む」


「ああ……」


 それから数日、状況を観察してからフロルに戻り、有志と共に解放のための戦いに来ているというわけだ。







「ミィ達はここで待機。荷物を守っててくれ。はぐれたやつが襲ってこないとも限らない。十分注意して、いざとなったら逃げてくれよ」


「うん。気を付けて、お兄ちゃん」


「にーに、がんばれ」


 声を同時にかけてくるミィ、ルリアと違いイアはじっと鉱山の方を見て黙ったままだ。

 ひどく真剣な表情に俺は嫌な予感を感じた。


『お兄様、気を付けて。一番下、いるわ。何かが』


 イアにも何かまではわからないようだ。ただ、何かあるというのなら何かあるのだろう。この場合、厄介な相手が。


「わかった。任せたぞ、イア」


『ふふん。お兄様の妹だもの。なんとかするわよ』


 浮いたままのイアの頭をくしゃりと撫で、俺はヴァズたちの元へと向かう。

 夏よりも暑い、特別な1日が始まる。




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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。



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