039.妹、特訓し続けるの巻
「赤き力をこの手に、サラマンダーの吐息よ。フレイムボルト!」
冒険団の訓練場にミィの高らかな声が響き、私の目の前でしっかりと形作られた炎が目標に向けて飛んでいく。
(うん、威力も、速さも十分ね)
まだまだ工夫の余地はあるだろうけど、基本の一手として撃つには問題ない精度で発動に成功しているものね。
実用性としてはこれで十分でしょう。さて、こちらはと隣のルリアの様子を確認する。
こちらも詠唱を始め、魔法を発動させるところだった。
「白の吐息、氷王の溜息は全てが凍り付く。ホワイトフォッグ」
声の大きささえ魔法に乗せようというミィと比べ、ルリアのそれは正確で無駄がないともいえるわね。
別の目標に向けて魔力が白い靄のように変換され、子供達やミィが見守る中、標的の古ぼけた鎧は霜が降りたかと思うと完全に凍り付く。
こちらは今の形が一番いい、のかしらね?
ルリアはどうも改良という物が苦手な様子。きっと、瞳の力で真実を見てしまうから、魔法に対する想像という余地が少ないんだと思う。
その証拠に、やってみせてあげればそれを覚えるのは結構速いのよね。
(さてと、お兄様からもらった魔力は余裕があるし、ここはお手本を見せるところね)
お兄様もヴァズもでかけており、ロランも依頼のために外に出ている現状、しっかり訓練させるのも自分の役目よね。
「ミィ、魔力を込めるならもう少し中身を改良してからになさい。
それとルリア、決まった形は戦力としては対抗しやすいともいえるから気をつけなさいね」
そういって、私は右手と左手、どちらにも魔力を集中させる。
規模は小さめ。今回は威力が必要ってわけじゃないから……このぐらいでいいのよね。
子供たちの、特に魔法を覚え始めたあたりからどよめきが聞こえる中、私は手早く右手から魔法を放つ。
使う魔法は先ほどの2人と同じ。ただ、火の力は圧縮され、革鎧を貫くようにして突き刺さり、そこから燃え広がる。
「はっ!」
続けて左手の魔力を魔法として発動させる。
氷の力もまた、表面ではなくささった内部から凍らせていく。
対象的な結果を示す2つの革鎧を背に、私は2人に向き直る。
要は魔法に対する具体的な想像力の問題なのよね。魔法は神様への祈りによる物、だから祈りの本人がどういう物を望むかによって色々と変わってくるの。
「さ、やりましょ。続きを」
まだまだ手加減ばかりの魔法で本来の私の使う魔法と比べれば児戯もいいところだけど、それでもミィやルリア、そして子供達にはいい刺激になったんだと思う。
目に見えて訓練の必死さが変わった気がするのはきっと気のせいではない。
この体では暑さ、寒さを感じるのは難しいけれど、ミィ達の汗のかき具合を見れば世間はそろそろ夏の気配を感じている時期だ。
お兄様が子供達と一緒にとんでもない物を持ち帰ってきて早2か月。
フロルを取り囲む環境は大きな変化を迎えている。私自身もそうだけど、子供たちは一番の変化の中にいるのよね。
アーケイオンは知らない人も多いけど、知っている人は知っている、いうなれば世界の最初の神々の1柱。
人も、魔族も隔てなく、未来を祈った神。それがアーケイオン。
一説によれば、かの神の声を聞けた種族だけが知恵を授かり、他の生き物はそれ以外に分類されてしまうほどだったとか。
現在の人間や魔族、エルフやドワーフなど、実際に文明を構築して魔法を扱える種族と、そうではないオーク等の種族とは明確な差がある。
一部の人間にとっては邪魔な神様みたいだけどね。
魔族と同列に扱われるのが嫌、とかそういう理由でしょうねえ。
正直、くだらないけれど。ともあれ、そんなアーケイオンの使徒から物を授かったということは相当な衝撃を与えるものだったの。
すぐさま領主であるヴィレルは手をいくつも打ち始めた。
神託、物品確保の宣言と、自分たちの統治の正当性を主張すること。
どちらにせよ、どんな手を打とうが何かしらの影響が出るのは防げないならと出来るだけ自分たちの安全に役立つ方法をとったのよね。
確かに、単純に物品を確保したことを主張しただけでは外から奪われて……はい、おしまいだもの。
これだけ宣言してしまえば、それを奪うということはアーケイオン自身を疑うことになる。
根強い信仰を考えるとそれは悪手ってことよね。西や北には魔族至上主義というか、他の種族は下だ、なんて主張もあるみたい。
どんな根拠なのかしらね?
という訳でヴィレルの行動は魔族でもそれなりの勢力を持つ、魔族至上主義者へのある種の攻撃よね。
(おっと、いけないいけない)
考えを他所にやっていた私の前で、ミィとルリアが魔法を撃ちつづけている。
ミィも、だいぶ魔力が練れるようになってきた。
同時に少しだけど体つきも変わった気がする。顔もほっそりしたし、成長してきたのかしら。
お兄様もそろそろ覚悟を決めたほうが良い年齢に思えるけど、まだ落ち着けるのは先になりそう。
今日も、ヴァズと一緒に飛び回っている。静かに暮らしたいはずなのに、逆にそのためには忙しく働かなくてはいけないっていうのは不思議な話よね。
他の領土に、自分がこれまでやってきたような魔法の行使や剣さばきを行える魔族や獣人がいる話を聞いてから、前より嬉しそうに飛び回ってるのを見ると……なんだか可愛くなってくるわよね。
それだけ実力を隠して手加減するのが大変なんだと思うけど……。
そのくせ、私やミィ、特にルリアが寂しいなとかいえば予定を早く繰り上げて帰ってくるんだからすごい物よ。
親馬鹿ならぬ兄……という話よね。
さすがにミィがお願いしたら依頼を辞めると言い出した時には頭を少しばかりはたいたけれども。
それはそれとして、ミィ達は元より、冒険団の皆も鍛えられるだけ鍛えておかなければ。
魔王時代に経験のある最悪の事態が頭をいつもよぎるのよね。
それは魔窟の発生。大陸全体が肥沃で、自然の魔力に溢れたダンドラン。
ここでは結構な確率である物が唐突に湧き出る。それが魔窟。
入り口は私が10人ぐらい手を伸ばしたぐらいの大穴なのだけど、一番の特徴は中から湧いてくる奴ら。
人間のお偉いさんはこのことを知ってるのかしらね?
多分、知らないんだと思うのよね。魔窟は文字通り、魔物の巣窟。
大陸に満ち、流れていく魔力、マナを餌として魔物が産まれるの。
元々、いつの間にか生まれている魔物がその魔窟の中には無造作に増える。
大体は1週間もすると消えていくのだけど、稀に地脈の上に出来てしまったものがダンジョンと呼ばれるおかしな土地になる。
そうでなくても魔窟の吐き出す魔物の数は異常の一言。
素材として使える部分は普段と変わらないのが救いと言えば救いよね。
お兄様とヴァズがいれば大体大丈夫だと思うけど、規模の違う物が2つ以上できることだってないわけじゃない。
そうなれば、私たちの出番も来るってわけ。
「わかった? わかったら、走る!」
「「「はいっ!」」」
いつの間にか聞いていた子供たちが、私の声に姿勢を戻してまた走り出す。
お兄様、早く帰ってこないかしら。まあ、また妹が増えても少しばかり困るのだけど、ね。
家族が増えるのはいいことだし、私は嬉しいけど。
女の子が増える度にお兄様の理性への攻撃が増えることに、本人は気が付いているのかしら?
青空を見上げながら、私はそんなことを考えてしまう。そんな、初夏の1日。
お兄様から吸い取った魔力予備は結構な量になっているようです。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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