038.未知なる遭遇! 古代遺跡に冒険団は見た!!
遺跡の素材は土、レンガ、石と様々だった。主要な部分にはレンガが積まれ、間を土の様なものが埋めているように見える。
石で積まれて作られているのは、何かの祭壇だろうか。
残念ながら、ツルのような植物が中を通っており、多くが崩壊しているが……所々に人の手を感じる物があるあたり、全盛期には多くの祭壇や像などがあったに違いない。
それが魔族なのか、あるいは人間やエルフなのか。
全く別の古代人なのかはわからない。ただ、歴史を感じるのだけは間違いなかった。
「いいか、どんな罠があるかもしれない。こういう棒であちこちをつつきながら動くんだ。
後、何か押せそうなものがあるからって押すなよ。足元に穴が開くとかあるかもしれない」
子供たちに遺跡に潜る際の心得を伝え、自らも適当に切って確保した木の棒を手にする。
(さすがに落とし穴はないだろうけど、な)
探索されつくしているということだから大体の危ない罠は既に作動済みか、破壊されていることだろう。
現に恐る恐ると子供たちが進む先には、いくつかの大穴が開いている。
「隊長、これ何?」
「アミル、君は今死んだよ」
通路部分に落ちていた何かよくわからない塊を、不用意に手にした獣人の少女に俺は敢えて冷たく言った。
え、とそれを手にしたままこちらを見るアミル。耳もぺたーんとなって細かく震えている。
他の子達も動きを止めていた。まあ、実際にそんな危険はまずここではないと思うけど、こういうところが生き残れるかどうかの差なのだ。
俺も癒しが苦手だからだいぶ苦労した記憶がある。
「それが何かの毒の塊や罠だったらどうするんだ?
そうしたら君だけじゃない。近くにいる仲間まで巻き込んで全滅かもしれない。
変な物を見つけたら声をかけてから離れたところからつつくか、他の子を少しでも離れさせてから触るほうが無難だ」
少し厳しく言いすぎたかな?とも思ったけど、アミルや他の子も真剣な顔で頷いてくれた。
そう、こういうのは大人には難しいのだ。大体は自分の意見を曲げないからな。
危ないからついてこなくていいと言ったのに、お宝を独り占めする気だろ、と魔物の巣窟についてきた人間の冒険者の末路は言うまでもない。
子供達にはそんなことにはなってほしくない。
遺跡の探索という貴重な経験を積むべく、子供たちはそれぞれに警戒し、じっくりと建物を進んでいく。
あちこちが崩壊しかかっているが、今のところは大丈夫そうだ。
下手に大きな魔法を撃てばわからないけど、その機会はさすがに……無いと思いたい。
「すげー」
「ヴィレル様が持ってた仮面に造りが似てない? これ」
これまでに来た人は持ち出すほどの価値を感じなかったのだろう。
とある部屋にはガラクタのように物が積まれたままで、いくつかは既に壊れ、砂のように砕けていた。
そんな中、壁に描かれた絵に一人が注目する。
あちこちが剥がれ落ちているようだけど、それでも元の絵がかなりの力作だとわかる大きな物だ。
「確かに、似ているな」
「でしょー?」
俺の横に立ち、壁画を見る魔族の男の子。
こういう子が将来の文官になるんだろうな、と思いながら部屋を改めて見渡す。
年代の割に、やはり綺麗というか、丈夫そうだ。足元にはほこりが降り積もっているから、何か結界がということはないようだ。
他には特に面白い物はなさそうなのでそろって別の場所へ。
罠に注意しながら先に進むと、あることに気が付く。通路の左右にある部屋が大体同じ造りなのだ。
まるで誰かが集団生活をしていたような、そんな形。最初に見た時に感じた印象が本当であれば、ここは古代の神殿ということで祈りの場ということになる。
この辺は巡礼者の宿泊場所とか……かもしれないな。
「たいちょー、何か大きい部屋があるよ」
「ん? 何か……いそうだな」
こういう屋根のある場所であれば、蝙蝠が妥当だろうか。
顔を部屋に入れようとするその子の首を掴み、後ろへ。
片方の手に鉄剣を抜き放ち、子供たちの前に立つ。
「見えるところにいる敵は雑魚か、強敵かわからない。
ただ、見えない場所にいるやつは、厄介だ。特に頭上や背後はね。ほら来た!」
後ろで響く悲鳴。
それは部屋に立ち入った俺に覆いかぶさるようにしてきた影が俺の剣で両断されたせいだった。
一抱えほどもありそうな、巨大な蝙蝠。子供達なら下手をするとどこか大怪我をしたっておかしくない大きさだ。
逃げず、こうして襲い掛かってくるあたりが恐ろしい。入り口からこちらに来ないように、そして後ろに気を付けるようにと言って俺は数歩、部屋を進む。
奥にはわずかな木漏れ日。どこかに穴が開いているだろうけど、そこからこいつらは逃げようとしない。
ちらっと見当違いな方向に顔を向けると、音もなく死角から何かが舞い降りてくる。
羽ばたかず、音もない動きはこれまで多くの獲物を仕留めてきたのだろう。
「が、ばればれだ」
子供たちの前で無様な姿を見せるわけにもいかないので遠慮はしない。
子供たちが見えそうなぐらいの速度には手加減し、鉄剣を振るう。
そうして迎撃した数が10を超える頃、蝙蝠たちはどこかへと飛びさっていった。
「たいちょー、もういい?」
「ああ、大丈夫そうだ。素材の剥ぎ取りなんかは任せた」
わらわらと、子供たちが入り口から入ってきて作業を始める。
ちゃんと教えた通り、手に持った武器でとどめを確認するように突き刺している。
中には最後の力で襲い掛かってくる動物や魔物もいるといけない、と教えた甲斐があるという物だ。
俺はその間、この広い空間の奥にある大きな物体に目をやる。
色々と壊れてはいるけど、何かの像にも見える。下に転がっている瓦礫は像から落ちてしまった体の一部だろうか。
闇の上位神、アンリの祭壇を見つけた時もこんな独特の雰囲気があった。
まるでここだけ時間が止まったような幻想的な風景。
顔も、男女も、あるいは人型じゃないのかもわからない。
名前もわからないが、祈って損はあるまい。問題が出たら何とかすればいいだけだ。
「みんな、こっちに来てくれ。よくわからないが神様の祭壇がある。よかったら祈って行こうじゃないか」
フロルの子たちは神様に非常に好意的だ。
それは己の魔法の力の源であるからであるし、日々の糧を祈る日常でもあるからだ。
恐らく、多くの魔族や獣人もそうだと思う。
良く知られる名前の無い神様というのも意外といるので、名前を意識しての祈りというのは難しかったりもする。
ただ、こうして何かを前に祈るというのは相手に届きやすく、そしてその返事も……そのはずなのだが。
少しでもつながるように、祈りにこっそりとだが多くの魔力を込め、どこかにいる神様へと呼びかける。
すると、俺は何かにつながった感覚を得られたが、子供たちはどうだろうか。
非常につながりが細く、遠くにいながら互いに大声で声を出しているような感覚だ。
それでも祈りを続けていると、何か言葉が届いた。
「あっ、何か聞こえた」
「うん。なんだろう」
子供達もまた、それを感じたようだ。なおも祈りの時間は過ぎる。
僅かな間ではあるけど、この場所がかつての空気を取り戻したように感じた、その時だ。
像の足元に、光が集まる。それは何かの形をとったかと思うと、四つ脚の鳥となった。
大きさは俺の背丈ほどで、ぼんやりとした幻影の様な実体のない姿に思える。
その姿は、壁画に描かれていた物とどこか、似ていた。
しかし、相手から感じる圧迫というか、存在感は高位竜のそれをしのぐものだ。
子供達も俺も、神の使徒であろう相手の出現に固まっていた。
『祈り、信じる者たちよ。隣り合う異なる者とのつながりを忘れるな。汝らにアーケイオンの祝福あれ』
見知らぬ使徒、いや……アーケイオンの使徒はそう言って光となってはじけた。
後に残るのは、紋章の掘られたメダルの様な装飾品と、印。
(ははっ、神託と秘物か……これはやばいな)
「た、隊長。今のは?」
「わからない。でも、悪い事じゃなさそうだ。喜べ、きっと街に戻ったら騒ぎだぞ?」
代表してメダルと印を手に、俺は子供たちに笑いかけた。
段々と子供たちの顔も喜びがあふれてくる。それはそうだろう。
もう何もないと思われていた場所で、話に聞いただけの神様の使徒に出会い、言葉と物を授かる。
これはとんでもないことだ。
俺は子供たちの脱出を促しながら、皆を色々な物から守ってあげないとな、と決心した。
ミィ達はきっと嬉々として賛同してくれるだろうなと思いながら。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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