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セブンス エッダ  作者: りん
北の獣と黄金の林檎
47/118

9

 洞窟の中を少し歩いたり、宝飾品を見せて貰ったりしている内に夕方になり、工房で働くドヴェルグやグノーム達が起き出してきた。

 ナディルはアウルヴァングと話をして工房に入る許可をもらった。

 工房の中は真っ赤に燃え(たぎ)()が幾つもあり、外に雪が積もっているとは考えられない程暑かった。皆、湿度の高い部屋の中で汗を流しながら、顔を真っ赤にして働いている。

 カンカンと鉄を打つ音が彼方此方から響いてくる。

 ナディルはその中でも一際がたいのいい、若く逞しいドヴェルグに声を掛ける。2人は顔見知りの様で、何やら楽しそうに話した後、ライナはナディルに手招きされた。


「ライナ、剣を貸して」


 ライナは言われるままに未だ使った事の無いカッツバルゲルを渡した。

 受け取ったドヴェルグは鞘から剣を引き抜き、四方から剣を見た。


「うん、まぁ悪くはねぇ品だ。だがまだまだだな」


 目を細て剣を見ながら言う。


「だから鍛え直して貰おうと思って」

「お安い御用だ」


 ドヴェルグは歯を見せてにかっと笑った。


「じゃあついでに俺のも、メンテナンスだけお願い」


 そう言ってナディルは自分のバスターソードも手渡す。

 了解、と二つ返事で受け取った若いドヴェルグは鼻歌交じりで工房の奥へと歩いて行った。


「お嬢ちゃん、柄に細工はいらんかい?」


 いつの間にかライナの隣には白い髭を蓄えたグノームの老人が居た。


「いえ、軽い方が良いから……」


 ライナは驚きつつも答える。


「そうか……」


 老人は残念そうに落胆する。その姿が余りにも寂しそうだったので、ライナは慌てて言い直した。


「あの、重くならなければ、少しなら」


 老人は顔をぱぁっと明るくすると瞳を輝かせた。まるで子供みたいに純粋な顔だ。


「そうかそうか。わかったわかった。それなら宝石はどうするかの?」


 ーー宝石?

 そんなもの付けたら馬鹿高くならないだろうか。それに極力シンプルな方が好ましいライナは困ってナディルを見た。


「じゃあ、1つだけ選ばせて貰おうか」


 ナディルはにっこりとして言うとグノームの老人は腕がなるぞと満面の笑みを浮かべた。

 ライナは後には嫌とは言えなくなってい、仕方が無いので成り行きに任せる事にした。


 ナディルに付いて、今度は宝石の部屋へと向かう。そこでは子供の様な姿のグノームの女性達が宝石を磨いたり原石を仕分けたりしていた。

 部屋の中は明るく、壁に灯された幾つもの松明の火に照らされた宝石がキラキラと煌めいている。

 ナディルは奥の大きな虫眼鏡の前に座る髪の長いグノームに声を掛けた。


「お邪魔します。石を1つ選びたいんだけどいいかな?」

「やぁ、お前は竜妃様のとこのじゃないか。

 1つと言わず幾つでも見て行ってくれ。どんなのがいいんだい?」


 グノームは顔を上げて答える。

 ドヴェルグやグノームは非社交的だと聞いていたライナは、ナディルの歓迎されっぷりに驚く。ナディルは本当に人の心を掴むのが上手い。


「剣の柄に付けたいから小さいのでいいんだけど……ライナ、どんなのがいいとかある?」


 どんなのと言われても、ろくに宝石なんか見た事の無いライナは首を横に振る。


「じゃあ、攻撃より防御強化のタイプで」


 攻撃?防御?意味が分からず呆然としていると、ナディルが振り返る。


「ライナの属性って何?」

「……水」

「じゃあ、水と相性のいいやつね」

「はいよ、ちょっと待ってな」


 そう言ってグノームは幾つか箱を引っ張り出して中を弄る。

 やはり訳がわからないライナはナディルを見る。その視線に気がついたナディルがライナに話し掛ける。


「もしかしてライナ、宝石見るの初めて?」


 ライナは自分の無知が恥ずかしくなって黙って首を縦に振る。


「宝石ってね、装飾だけじゃなくて僅かながら厄除けや加護の役割があるんだよ。

 大した力じゃ無いんだけど、長い年月、大地のの中で星の力を宿し結晶になるんだ。宝珠の溶け出した力が宿っているとも言われているんだ。だから役割も宝石の種類によって色々あるんだよ」


 ナディルは丁寧に教えてくれた。


「ちょっとあんた、こっちおいで」


 髪の長いグノームがライナを呼ぶ。

 彼女の作業台の前まで行くと、そこには色毎に分けられた宝石の入った箱が幾つか置かれていた。


「後は相性だからね。直感だよ、直感。

 どれがいい?」


 ライナは美しい宝石達を眺める。どれもキラキラと私を選んでと訴えてくる様だ。

 その中でも、無色の透き通る朝露のような宝石を手に取った。


「へぇ〜、こいつか」


 グノームは感心するようにライナと宝石を交互に見た。


「貸しな、磨いといてやるよ」


 そう言って伸ばされた小さな手に、その雫をそっと渡した。


「出来上がりが楽しみだね」

 ナディルはにっこりと笑う。


「あの、ちょっと見てても、いいですか?」

 ライナは恐る恐る聞いた。


「勿論だよ。他の石も見ていいよ」


 グノームは雑多に置かれた石を指差した。

 磨かれる前の原石はどれも素朴で気取らない。この石達1つ1つに力が宿っているなんて。ライナは青い石や黄色い石をてに乗せてみる。


「その青いのが天の石で黄色いのが雷の石さ」


 ライナの選んだ石を丁寧に洗いながらグノームが教えてくれる。


「因みにあんたが選んだのはどの属性も持っていながら、どの属性にもならない珍しい石さ。光や闇さえも透過しちまう。

 あんたの属性は水って言うからてっきりそのアクアマリンを選ぶかと思ったんだけどね。

 こいつは誰も選びやしないからこっそり混ぜておいたんだけど、まさか手に取るとはね」


 そう言って奥の部屋へと進んで行った。ライナも慌てて後を追うと、そこには水場があり丸い金属の円盤が置かれていた。グノームは円盤の前に座ると石を研磨し始めた。キィィンと石の擦れる高音と水音がして、ものの10分程で荒削りな石は艶々した宝石へと変化した。


「ほら」


 グノームは磨き上げた宝石をライナに手渡す。

 宝石は冷んやりしている。壁の松明に翳してみると、濁り無く透き通る宝石は光を通して世界を潤ませて映し出した。


「細工の爺いに渡しといてやるよ」


 ライナは宝石を大切そうにグノームに手渡した。




「出発は明日の早朝にしようか」


 ナディルとライナは食堂に戻って珈琲を飲んでいると、眠そうな顔でハイメがやって来てライナの隣に座った。


「おはよー」


 起きてから大分経つが、ナディルはおはよう、と笑顔で返す。


「昨日は倒れてたけど大丈夫?」


 ハイメは不思議そうな顔でライナを覗き込む。


「大丈夫。ありがとう」

「そう、ならいいけど。僕そーゆーのよくわかんないし。ニンゲンって大変だね」


 心配、というより面倒くさそうに言う。


「……僕が暴走したら額を叩き割ってね」


 ハイメは同じ様な調子で恐ろしい事を言った。

 ライナは驚いて思わず彼を見た。


「僕の急所だから」


 土人形は額に真理の文字を刻まれて、その頭文字を消す事で消滅させる事ができると本で読んだことがあった。

 ハイメの額は眉上で切り揃えられた髪の毛に覆われていて、本当に文字があるのかは確認する事はできない。


「わかったよ」


 ナディルもいつもの様ににっこりとして言った。

 そんな事にならないのを願うばかりだ。




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